1. ホーム
  2. 政策について
  3. 政策一覧
  4. 経済産業
  5. 標準化・認証
  6. 普及啓発
  7. 表彰制度
  8. 令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.11

令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.11

経済産業大臣表彰/高橋 健彦(たかはし たけひこ)氏
関東学院大学 名誉教授

電気設備技術基準の国際整合化を主導

私たちの身の回りの電気設備の安全は、人体や他の電気設備に危険や損傷を与えないよう定められた電気事業法に基づき制定された「電気設備に関する技術基準を定める省令(以下「電技」という。)」を事業者が遵守することによって守られている。

1995年、WTO(世界貿易機関)によるTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)が発効され、法令の技術基準を国際規格と整合化させることが国際的公約となった。電気設備関係では、IEC(国際電気標準会議)60364(建築電気設備)を電技へ取り入れることが決定。その取り入れ作業を主導したのがIEC/TC64(電気設備及び感電保護)の国内委員会委員長を務める高橋健彦氏だ。

TC64は、住宅施設や公共施設などの低圧電気設備の施設の配線等における安全性やその関連事項についての規格を審議する委員会である。「感電保護は、IECの他のTCの審議にも関係してくる。」、いわゆるシステム規格に位置付けられている。

その中で、「IEC60364は、TC64の根幹の規格だ。」と高橋氏。この規格は、低圧電気設備の施設の安全保護や検査等を規定した7部にわたるシリーズ規格だ。電技への取り入れにあたり、高橋氏はこれらのJIS(日本産業規格)化に着手した。

「IECと電技は取り扱う低圧の電圧が異なる。日本では、交流600ボルト以下、直流750ボルト以下だが、IECでは交流1000ボルト以下、直流1500ボルト以下。これらの基準の違いを明確にし、いかに安全を担保できるか、調整に苦労した。」と高橋氏。氏の専門分野が感電保護に密接に関係するアース(接地)であったことから、特にIEC 60364規格作成及び国際整合化の取り入れ担保に尽力したという。委員会内での約4年間の議論が実を結び、1999年にJIS C 60364(低圧電気設備)シリーズとして制定。現在は電技解釈第218条(IEC60364規格の適用)に明文化されている(参考参照)。「国際規格を電技に取り入れたことにより、海外の設計事務所が日本の電気設備の設計ができるようになり、日本の電気設備企業が海外展開し易くなるなど、ボーダーレス化に貢献している。」と高橋氏は語る。

(参考)電技解釈第218条へのJIS引用

次のように高橋氏が尽力した15件のJISが引用されている。

第218条 需要場所に施設する省令第2条第1項に規定する低圧で使用する電気設備は、第3条から第217条までの規定によらず218-1表に掲げる日本工業規格又は国際電気標準会議規格の規定により施設することができる。ただし、一般送配電事業者及び特定送配電事業者の電気設備と直接に接続する場合は、これらの事業者の低圧の電気の供給に係る設備の接地工事の施設と整合がとれていること。
 


(出典:一般社団法人日本電気協会発行「電気設備の技術基準(省令及び解釈)の解説」2018年7月発行)

218-1表

規格番号
(制定年)
(規格名) (備考)
JIS C 60364-1:2010 低圧電気設備―第1部:基本的原則,一般特性の評価及び用語の定義 132.4,313.2,33.2,35を除く。
JIS C 60364-4-41:2010 低圧電気設備―第4-41部:安全保護―感電保護  
JIS C 60364-4-42:2006 建築電気設備―第4-42部:安全保護-熱の影響に対する保護 422を除く。
JIS C 60364-4-43:2011 低圧電気設備―第4-43部:安全保護―過電流保護  
JIS C 60364-4-44:2011 低圧電気設備―第4-44部:安全保護―妨害電圧及び電磁妨害に対する保護 443,444,445を除く。
JIS C 60364-5-51:2010 低圧電気設備―第5-51部:電気機器の選定及び施工― 一般事項  
JIS C 60364-5-52:2006 建築電気設備―第5-52部:電気機器の選定及び施工―配線設備 526.3を除く。
JIS C 60364-5-53:2006 建築電気設備―第5-53部:電気機器の選定及び施工―断路,開閉及び制御 534を除く。
JIS C 60364-5-54:2006 建築電気設備―第5-54部:電気機器の選定及び施工―接地設備,保護導体及び保護ボンディング  
JIS C 60364-5-55:2011 建築電気設備―第5-55部:電気機器の選定及び施工―その他の機器  
JIS C 60364-6:2010 低圧電気設備―第6部:検証  
JIS C 0364-7-701:2010 低圧電気設備―第7-701部:特殊設備又は特殊場所に関する要求事項―バス又はシャワーのある場所  
JIS C 0364-7-702:2000 建築電気設備 第7部:特殊設備又は特殊場所に関する要求事項 第702節:水泳プール及びその他の水槽  
JIS C 0364-7-703:2008 建築電気設備―第7-703部:特殊設備又は特殊場所に関する要求事項―サウナヒータのある部屋  
JIS C 0364-7-704:2009 低圧電気設備―第7-704部:特殊設備又は特殊場所に関する要求事項―建設現場及び解体現場における設備  

「ものが壊れない、人が死なない」ための電気設備安全を実現し続けたい

また、高橋氏は、1996年から他のIEC分野のJIS原案作成委員会に参画し、TC121(低圧開閉装置及び制御装置並びにその組立品)や、TC23(電気用品)など、計7つの電気設備分野(TC64を含む。)のJIS原案作成委員長として尽力した。JIS化する上で、「日本の規格の方が、部分的に国際規格よりも優れていることがある。その場合は、JISの原案に当該部分を残す。」など、柔軟に対応することが自国の電気設備安全を守るために大切だという。

今後の課題について聞くと、「さらなるグローバル化の進展に伴い、日本独自の規格ではなく、国際規格に適合したものが求められている。」と高橋氏。その中でも、「地球温暖化の影響のため、太陽光発電や風力発電のエネルギーの『直流化』が注目されている。」という。「日本ではデータ通信の運用を行うデータセンターや、災害時に使用する蓄電池など、既に低圧の直流化技術が各所で起用されているため技術のポテンシャルが高い。日本の強みを生かして、低圧の直流化のIEC規格を作成し、次世代の電気設備技術に貢献したい。」と、今後の活動に意欲的だ。

標準化活動を目指す人へ「国際会議の場では、語学力が肝。英語が自由にこなせるよう、勉強が大切。」とアドバイスをおくる。また、「若い技術者には、先進たちが努力して作り上げたインフラ技術をさらに発展させ、グローバル時代に適応した建築電気設備を引き続き構築して欲しい。」と語った。

最後に、高橋氏の標準化の活動のモットーは「ものが壊れない、人が死なない電気設備安全を実現し続ける。」ことだという。「IECでは、低圧直流電気設備の普及のためアフリカやインドなど電気の未開発国も積極的に応援している。安全の重要さは世界共通。引き続き、世界各国の電気安全を守るため、活動に取り組みたい。」と笑顔を見せた。

【標準化活動に関する略歴】
1971年~1992年 千葉大学工学部電気工学科勤務
1992年 関東学院大学工学部建築設備工学科助教授(建築電気設備担当)
1995年~現在 IEC/ TC121 国内委員会委員長
1996年~2003年 関東学院大学工学部建築設備工学科及び同大学大学院工学研究科教授
1996年~2003年 JIS C60364シリーズ原案作成委員会委員長
1996年~現在 JIS C8300(配線器具)等 JIS改正原案作成委員会委員長
1996年~現在 JIS C8211(住宅及び類似設備用配線用遮断器)等JIS改正原案作成委員会委員長
1996年~2008年 電気設備技術基準国際化委員会電力設備小委員会 主査
1997年~現在 IEC/ TC64国内委員会委員長
1997年~現在 IEC/ TC23 国内委員会委員長
2019年 JIS C 8201(低圧開閉装置及び制御装置)原案作成委員会 委員長
2003年~2013年 関東学院大学工学部建築学科 教授
2010年~2015年 低圧電気設備技術基準国際化委員会 委員長
2013年~2018年 関東学院大学建築・環境学部建築環境学科 教授
2018年 関東学院大学 名誉教授

最終更新日:2024年5月21日