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令和3年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.7

経済産業大臣表彰/末光 吾郎(すえみつ ごろう) 氏
NEC プラットフォームズ株式会社 経営企画部/カルチャー変革室/基盤技術本部
エグゼクティブエキスパート

19インチIT機器用ラックの寸法に関する国際標準化を推進

 デジタル化が加速する現代において、ITは新たなインフラとして社会に浸透し、陰ながら社会を支えている。24時間体制で情報処理するサーバー、インターネットに接続するための通信機器などが例に挙げられるが、これらのIT機器は非常に精密な構造で、転倒や落下などの衝撃に弱い。故障した場合、私たちの生活やビジネスへもたらす支障や損害は計り知れない。

そこで、必要となるのがIT機器用ラックだ。機器を積み重ねて収納できる棚型の什器で、主にデータセンターなどコンピューターを大量に扱うような場所で利用されている。機器の故障につながる衝撃の発生防止やリスク低減をはじめ、関連機器をまとめて収納することによるメンテナンスの容易化など、さまざまな使用メリットがある。

「IT機器用ラックで着目すべき点に“寸法”がある。」と語るのは、NECプラットフォームズ株式会社の末光吾郎氏。IT機器用ラック等の構造や品質に関わる標準化活動を、20年以上にわたり牽引してきた。

末光氏が初めて標準化活動に触れたのは、新卒で日本電気株式会社(NEC)に入社して約5年後。オーストラリアのエンジニアと、通信規格の共同開発に携わった。「初めて外国人と話した経験だった。国際規格が共通言語のような働きをして、エンジニア同士の話し合いは終始ワクワクしたものだった。」。その後、社内で次世代の標準化活動の継承者を探されていたのに対し、「私がやります、とすぐに手を挙げた。」という。

2000年、末光氏はIEC(国際電気標準会議)/TC 48(電気・電子機器用コネクタ及び機械的構造)/SC48D(電気電子機器の機械的構造)にて活動を開始。横幅が19インチのIT機器用ラックを主に取り扱うWG 4(筐体寸法)にエキスパートとして参加した。

「19インチは、第二次世界大戦後に米国を拠点に普及した世界的に主流なサイズ。ラックの中に収納されるIT機器も、一般的には同様のサイズが規定されている。」と末光氏。異なるメーカーの機器が収納されるデータセンターなどでは、「寸法を統一化することにより生まれる互換性」が重要視されるからだ。

しかし、活動の中で、規格化されていない寸法を発見した。「横幅19インチのラックは、高さ1U(1.75インチ)の棚が最大42段入る仕様で、1Uや2U(3.5インチ)など、ニーズに応じたサイズの棚を組み合わせる。当時NECが開発していた無線装置は1Uサイズの棚を使用していたが、ベースとなるサイズであるにも関わらず、その寸法規格がなかった。」。

2002年、末光氏はリーダーとして、最小サイズの棚の寸法を規格化すべくプロジェクトを発足。「標準化活動を始めたばかりだったため、基礎的なことが分からないまま英文のドラフトを作成した。SC48Dの事務局に大きく修正されたが、熱い意思は伝わった。」。2006年、IEC 60297-105(1Uサイズ棚の寸法と設計図)を発行した。

「初めて作成を主導した規格だったため、達成感があった。」と笑顔を見せる。「今、データセンターでは、ピザボックスと呼ばれる1Uサイズのサーバーが世界的に主流。」であることから、本規格でその棚の寸法を定めたことによって、19インチラックのさらなる市場浸透、利用拡大が期待できる。

震災後に見直された日本の耐震試験方法を、国際標準へ

末光氏は、ラックの構造や品質の安全性を査定する、試験方法の規格化にも意欲的だ。

「1995年の阪神・淡路大震災の直後、国内でラックの耐震試験方法を見直す必要性が高まった。同時に、欧州や北米の耐震規格では、日本の耐震基準を十分に満足できないことが判明した。そこで、改善された日本独自の耐震試験を国際標準化する動きを始めた。」と当時を語る。

2011年にIEC 61587-2(キャビネットやラックの耐震試験)を発行。発行直前に起きた東日本大震災では、「この試験規格を満足していれば、基本的には問題がなかった。」と裏付けを証明した。国内外の耐震試験場では、「データセンター(株式会社NTTファシリティーズ)が保管していた阪神・淡路大震災の地震波データをIEC61587-2に記載し、入手することが可能となった。これにより、世界中で、耐震評価試験ができる。」ようになり、IT機器用ラックの世界的な耐震性向上に貢献している。

「2014年に東京でSC48Dの会議が行われた際、耐震試験場(株式会社NTTファシリティーズ)をお借りして参加国(欧州、北米)のメンバーを連れて行った。国内のラックメーカ(摂津金属工業株式会社、ダイワ金属工業株式会社など)にデモの19インチラックの製作をお願いして、日本基準の耐震試験を体感してもらった。」と末光氏。「こんな地震波は見たことも、経験したこともない。」と、驚かれ、生々しい衝撃を与えた。同時に、日本規格に基づいたラックの耐震構造の実力も見せつけ「この激震に耐えられるのはすごい。」と感心された。

(左)株式会社NTTファシリティーズ耐震試験風景、(右)試験後の各国委員による確認風景
摂津金属工業、ダイワ金属工業が提供する筐体を用いて試験を行った。
(画像提供:NEC プラットフォームズ株式会社)

業界の課題として、「新たな若手の技術者がなかなか出てこない。」と語る。そんな状況を改善すべく、19インチラックにまつわる規格開発の長い歴史をテクニカルレポートとして発行する活動を日本の委員会で行っている。「何のために作ったのか、などの背景をきちんと伝え、本規格の重要性などの理解促進へとつなげる。」ことが目標だ。

標準化活動は「自分の会社の利益だけでなく、国としてどのように世界に貢献するか。世界のベースで考えるための意識改革。」が行える場であると末光氏。「エンジニアの方は英語に苦手意識のある方も多いかと思う。しかし、国際会議の場では、規格という技術的な共通言語がある。ぜひ、積極的に参加してほしい。」と後進へエールを送る。

【略歴】
1985年 ~ 2019年 日本電気株式会社 入社
2007年 〜 2015年 同 モバイルネットワーク事業本部 シニアマネージャー
2000年 ~現在 IEC/TC 48(電気・電子機器用コネクタ及び機械的構造)/ SC84D(電気電子機器の機械的構造)国内委員会 委員
2000年 ~ 現在 IEC/TC 48/SC48D/WG 2(筐体評価方法)、WG 4(筐体寸法)、WG 5(熱管理手法)エキスパート
2000年 ~ 2011年 IEC/ TC 48/SC48D/MT6(屋外筐体)エキスパート
2015年 〜 2018年 日本電気株式会社 ワイヤレスネットワーク開発本部 主席
2017年 〜 現在 IEC/TC 48/SC48D/MT1(屋外筐体)コンビーナ
2017年 〜 2019年 IEC/TC 48/SC48D 国内委員会 委員長
2018年 〜 2020年 NECプラットフォームズ株式会社 基盤技術本部長
2019年 ~ 現在 IEC/TC 48/SC48D 国際議長
2020年 ~ 現在 NECプラットフォームズ株式会社 経営企画部 エグゼクティブエキスパート

最終更新日:2024年5月21日