経済産業大臣表彰/谷口 昭史(たにぐち しょうじ) 氏
パイオニア株式会社 光ストレージ事業グループ スペシャリスト
日本発祥の技術、DVD関連規格の国際標準化で世界の市場を切り拓く
映画の視聴をはじめ、映像の記録やデータ保存など、誰もが日常的に利用しているDVD。DVDはデジタルデータを記録する光ディスクの一種だが、最近はブルーレイディスク(BD)など高画質化・高音質化が進み、DVD・BDを合わせた光ディスクの再生・録画機は2人以上世帯の7割強に普及している(2021年内閣府消費動向調査より)。
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各種光ディスクの構造とビームスポットとの関係
(イラスト提供:パイオニア株式会社)
光ディスクのデータ容量はトラックピッチ(半径方向に隣接するピット間の距離)と円周方向のピット密度によって決められ、CD、DVD、BDの順で高密度となり、大容量となる。記録・再生機器はレーザ波長と対物レンズの開口数によって、各ディスクに対応するビームスポット径を生成している。
DVDはそもそもハリウッド映画界の要請で開発された。1990年代に商品化を目指して各国の企業で開発競争が繰り広げられ、最終的に日本の電機メーカーが中心となって規格を統一。1996年の発売から数年で世界中の家庭に浸透し、日本発の国際標準として大成功を収めた規格である。
パイオニア株式会社の谷口昭史氏はまさにこの時代から、光ディスクの技術開発と規格策定に携わってきた人物の1人。DVDフォーラム※では長年DVD-R/RW関連規格を審議するWG6の議長を務め、ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)の合同委員会であるJTC 1(情報技術)/SC 23(情報交換及び保存用デジタル記録再生媒体)では、国内対策委員長を経て、現在は国際議長を務めている。
※DVD関連の規格策定および普及促進を目的とする団体。日本に本拠地を置き、世界200社余りの企業会員を持つ。
DVDフォーラムのWG-6議長時代、谷口氏が策定したDVD-R/RW関連の標準は26件にも及ぶ。「WG-6には70社くらいの企業が参加しており、規格改訂の際は各社のいろいろな機器に対応するのが大変だった。従来の記録再生機に新しい規格のディスクを入れても問題ないか、各社に確認したらテスト段階でエラーが続出。企業の偉い人たちがずらっと並んで『どうしてくれるんだ。』と詰め寄られることもあった。」と当時を笑いながら振り返る谷口氏。
これらの問題はWGの親会議となるフォーラム会議でも「WG-6 Problem」として取り上げられ、「被告席のようなところに座らされて、粛々と説明することもあった。規格でどのように解決すべきか何度も練り直して、まあ、大変だったが審議は活発で面白かったね。」と語る。
もちろん、実際の市場で大きな問題になったことは一度もない。フォーラムで策定された標準は谷口氏らの尽力でJIS(日本産業規格)、ISO/IEC規格にもなり、2010年にはDVD-Rの生産枚数は50億枚に達した。谷口氏らの活躍により、日本発のデータ交換技術が世界に大きな市場を切り拓いたのだ。
時代の要請、社会課題に標準化でどのように応えるか
現在、谷口氏が国際議長を務めるSC 23は、従来CD、DVD、BDといった光ディスクの物理規格の審議を中心としてきたが、近年はユーザーや市場の要求に対応し、審議の内容も変化してきている。
「国立国会図書館などでは資料をデジタル化して長期保存したいというニーズがある。そのため、光ディスクの寿命評価や記録データの保存評価方法などを規格化してきた。最近は、BDA(Blu-ray Disc Association)からの要請で4K8K放送を記録するためにBD規格の改訂作業を行った。」とのこと。
今後対応すべき課題として「2020年に全世界で生成されたデジタルデータは約64ZB(ゼタバイト。1ZBは10億TB)。それが、2025年には約180ZBに増大すると予測され、今後爆発的に膨れ上がるデータにどのように対応すべきか考える必要がある。」ことを挙げる。
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世界で生成・保存されるデジタルデータの増加予測
(出典:IDC Global DataSphere and StorageSphere Forecasts, Mar.2021)
生成された全てのデータが保存されるわけではないが、本成長予測が示すようにその差があまりに大きくなると
深刻な問題が生ずると考えられ、早急に対策を講じる必要がある。
「光ディスクはハードディスクと比べてデータ保存に必要な消費電力が極めて少なく、長寿命で耐水性があり、災害にも強いという特徴がある。光ディスクはデータの長期保存に適しており、使用頻度によってハードディスクとの保存を切り分けるなど、持続可能な未来のために標準化で貢献できる部分はチャレンジしていきたい。」と抱負を語る。
企業人として、長年にわたり標準化に携わってきた谷口氏。後進に伝えたいのは「会社に閉じこもらず、外に出ていろいろな人と付き合い見識を広めてほしい。」ということだ。「今後は自社や自国だけで物事が動くことはまずないだろう。グローバルな視点を持って、標準化にも興味を持ってもらえるとうれしい。また、標準化会議の活動を通して、社内外の人材を問わず、スキルアップのために切磋琢磨するよう働きかけていきたい。」。
CD、DVD、BDといった光ディスクの登場は社会に大きなインパクトを与えてきた。これらの標準で時代を築いてきたことをたずねると、「関わった人たちは皆、自負のようなものが当然あるだろう。人生の中で『面白い経験だった。』と言うのでは。少なくとも私はそう信じている。」と笑顔で語ってくれた。
1985年 | パイオニア株式会社入社 |
1997年~2009年 | DVDフォーラム TG6-1, WG-6(DVD-R/RW 物理フォーマット)議長 |
2001年~2010年 | Ecmaインターナショナル TC 31(Information Storage)プロジェクトエディタ |
2004年~2012年 | パイオニア株式会社 AV開発センター 光ディスクシステム開発部長 他 |
2009年~現在 | 一般社団法人光産業技術振興協会 光ディスク標準化部会 副委員長・メディア専門部会委員長 |
2011年~2013年 | 公益社団法人日本文書マネジメント協会 BD標準化委員会・光ディスク製品認証WG委員長 |
2011年~2017年 | ISO/IEC JTC 1(情報技術)/SC 23(情報交換及び保存用ディジタル記録再生媒体) 国内対策委員長 |
2012年~2018年 | パイオニア株式会社 研究開発部 標準化・著作権センター部長 |
2013年~現在 | Blue-ray Disc Association ディレクター |
2017年~現在 | ISO/IEC JTC 1/SC 23 国際議長 |
2019年~現在 | パイオニア株式会社 光ストレージ事業グループ スペシャリスト |
最終更新日:2023年3月30日