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令和3年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.13

経済産業大臣表彰/棚野 博之(たなの ひろゆき) 氏
国立研究開発法人建築研究所 材料研究グループ シニアフェロー

建設材料関連JISの改正を主導、コンクリート“発注強度”の合理化など

 今日の建築構造物には、石材や木材などさまざまな建築材料が使用されているが、中でも必要不可欠な材料がコンクリートだ。施工性や耐久性の高さから、活用場面は建築に限らず、道路や橋、トンネルやダムなどの土木構造物でも重宝され使用用途は幅広い。

「コンクリートは鋼材と並ぶ最も重要な建設資材。」と語るのは、国立研究開発法人建築研究所の棚野博之氏。建設分野の材料や試験方法に関連するJIS(日本産業規格)の制定や改正を精力的に主導してきた。

1998年、棚野氏は旧建設省の建築研究所に入所。同省の「総合技術開発プロジェクト」の一つである「建設事業への新素材・新材料利用技術の開発」(新素材総プロ)に参加した。「コンクリートは圧縮に強く引張に弱い。鉄筋を引張補強として使用したのが鉄筋コンクリートである。それでも長い梁や大きな床ではひび割れが生じてしまうことがある。また鉄筋が錆びて構造耐力が低下する場合もある。これらの問題を解決すべく、新たな補強材として、炭素繊維やアラミド繊維を使用した連続繊維補強材の開発を行った。」

5年間の研究期間を経て新素材総プロで開発された炭素繊維シートは、阪神・淡路大震災後に既存コンクリート構造物の耐震補強材として活用されるなど効果を発揮。これを機に、建築・土木両分野で新素材を活用したコンクリート用補強材の研究開発が活発化することになる。2000年、旧通商産業省の委託により旧日本コンクリート工学協会にてJIS及びISO(国際標準化機構)原案作成委員会が開始され、棚野氏は委員に就任した。

「コンクリートは頻繁に技術開発を行っているため、5年ごとに実施されるJISの改正作業は特に重視される。」。そのようななか、2015年、レディーミクストコンクリートの品質を定めるJIS A 5308の改正原案作成委員会に参加。14回目の改正では「高強度コンクリートの利用促進」が目標の1つに挙げられた。
※工場であらかじめ材料を混ぜて現場へ運搬する“レディーミクスト”のコンクリート

「レディーミクストコンクリートの種類には、普通、軽量、舗装、そして高強度がある。高強度コンクリートを用いると、高層ビルや大規模施設の建築が可能になる。」など建設材料の中でも特に付加価値が高い。

しかし、「高強度コンクリートを発注する際は注意しなければならない問題があった。」と棚野氏。「建築基準法では、柱や梁、基礎などの重要な部材に使用する建築材料は、JIS適合品か国土交通大臣認定品のどちらかでなくてはいけないが、高強度コンクリートの一部には実際の品質は同じだが名称が異なるダブルスタンダードの状態があった。違いを決めるのは発注する際の“呼び強度”だった。」という。
※コンクリートの設計基準強度に対して、養生中の気度や期間による補正値を加えて発注される数値のこと。

「JISでは、高強度コンクリートは、その呼び強度が45N/㎟を超え60N/㎟以下と規定されているが、従来の規定では50、55、60の5 N/㎟ごとでしか区分されておらず、この呼び強度以外の高強度コンクリートの発注ができなかった。例えば、48 N/㎟のコンクリートが必要な場合、45 N/㎟では強度が足りず、その上の50 N/㎟では値段が上がり余計なコストがかかってしまう。」ことになる。その結果、発注強度の一桁目が1から4の場合、事業者はJIS認証品ではなく、場合によっては国土交通大臣認定を取り直して発注をする必要があった。
※N/㎟:コンクリートの圧縮強度の単位

そこで、JIS認証品としても1 N/㎟単位で発注できるよう呼び強度の区分についてのJISの規定変更を提案。他にもさまざまな改正を加え、2019年にJIS A 5308の最新版が発行された。「JIS認証品の利用拡大の促進につながり、高強度コンクリートを使用する現場では発注作業や管理も容易となった。」など、発注強度の最適化によるメリットは大きい。

また、特筆すべきは、JIS改正作業と同時に国土交通省の告示改正も積極的に働きかけたことだ。「建築基準法の関連告示を改正しないと、改正されたJISの認証品の一部は建築物の重要部材には使えない。従来は、JIS改正後に告示関連の審議をしていたが、今回は原案の作成と同時進行で国交省と協議を重ねた。」という。結果、JISの改正の約1か月後に告示も変更され、ほとんどタイムラグのない普及へとつなげた。行政機関で長年の研究経験がある棚野氏だからこそできた貢献と言えるだろう。

国内の技術はスピーディーにJIS化、ISO化することが大切

 JISやISO規格の原案作成に関わり始めて25年以上の月日が経った。「原案作成の際は、生産者、使用者、学識経験者などさまざまな人の意見を適切に反映する必要があり、調整に時間を要する。同一の立場でも所属機関が異なる委員は利害が相反する場合があり、落とし所を見つけるのが困難。」と苦労をのぞかせたが、今も「次のJIS制定、改正に向け、実験や調査などの下準備中。」と意欲的に活動を続けている。

今後の活動の展望を伺うと「国内技術のスピーディーなJIS化、ISO化ならびに建築分野での普及に積極的に協力していきたい。」と力強く語る。「日本が提案、開発した技術でも、国内で早期に標準化をしなければ、先に他国の規格として取り入れられ、結果、諸外国企業の利便性が図られながらISO化されてしまう。」それを避けるためには、「規格化の早さ」が活動の肝だ。

「世界的に使用されている技術の中で、日本独自のものや、日本で技術改良されたものは非常に多い。今後、持続的に国内技術や産業を保護、育成するためには、地道ではあるが、各種技術の国際標準化作業は急務で重要である。」と語るとともに、「国際標準化作業を進めるうえで、既存技術との棲み分け・整理する力が不可欠だが、私の経験から、これらの力は国内外の規格化や標準化作業に参加することで自然と身に付いていくものだ。これからの建設分野を担う若手の方々には、ぜひ機会あるごとに積極的に参加されることを期待している。」と笑顔を見せた。

【略歴】
1988年 ~2001年 建設省建築研究所 入所
1997年 ~2001年 同 第二研究部有機材料研究室 室長
1997年 ~現在 ISO/TC 74(セメント及び石膏)国内審議委員会(一般社団法人セメント協会)委員
2000年 ~2004年 ISO/TC 71(コンクリート、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート)/SC6(コンクリートの他の補強材)国内審議委員会(公益社団法人日本コンクリート工学協会)委員
2001年〜2002年 国土交通省国土技術政策総合研究所 建築研究部材料部材基準研究室 室長
2002年 ~2009年 独立行政法人建築研究所 材料研究グループ 上席研究員
2006年 ~2006年 JIS A 5404(木質セメント板)原案作成委員会(全国木質セメント板工業組合)分科会長、他
2009年 ~2013年 国土交通省国土技術政策総合研究所建築研究部 建築品質研究官
2013年 ~2018年 日本工業標準調査会(建築技術専門委員会、土木技術専門委員会)臨時委員
2014年 ~現在 試験事業者認定委員会(独立行政法人製品評価技術基盤機構)委員
2015年 ~2018年 JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)改正原案作成委員会、
同分科会(全国生コンクリート工業組合連合会)委員
2018年〜現在 国立研究開発法人建築研究所材料研究グループ シニアフェロー

最終更新日:2023年3月30日