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令和3年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.14

経済産業大臣表彰/水流 聡子(つる さとこ) 氏
東京大学総括プロジェクト機構「QualityとHealthを基盤に置くサービスエクセレンス社会システム工学」総括寄付講座 特任教授

日本発「エクセレントサービスの設計」に関する国際標準化を主導

 ものづくり立国として優れた製品を生み出してきた日本だが、現代は良いものを作るだけでは厳しい時代だ。いまや日本のGDPの約7割を占めるのはサービス業であり、顧客のニーズと期待を理解して、基本的なサービス品質や顧客の期待を上回る新たな「価値」の提供が求められている。

2017年に設置されたISO(国際標準化機構)/TC 312(サービスエクセレンス)は、商業組織、公共サービス、非営利組織などすべての組織が、「エクセレントサービス」と「卓越した顧客体験」を創り続けるための「組織能力」にかかわる規格を開発する専門委員会だ。

改めて言葉の定義となるが、サービスエクセレンスとは、顧客に感動・喜び(デライト)を提供するサービスを一貫して提供するための組織の能力のことであり、エクセレントサービスとは、顧客に感動・喜びを提供する卓越した顧客体験を実現するサービスそのものを表す。顧客は、満足を超える感動・喜びを得ることによって、そのサービス提供組織への愛着や信頼が格段と増す。一方で、組織にとって、顧客に感動・喜びを提供するエクセレントサービスの実現は決して容易ではない。

「もともと日本文化には『おもてなし』や『塩梅』という言葉があるように、エクセレントサービスの設計に寄与する土壌がある。」と語るのは、東京大学特任教授の水流聡子氏。TC 312の国内審議委員会委員長及びエキスパートを務め、WG 2(エクセレントサービスの設計)ではコンビーナとして国内外の議論を主導してきた。

「サービスエクセレンス」という概念は元々ドイツを中心に提唱され、DIN(ドイツ規格協会)やCEN(欧州標準化委員会)で規格作りが行われていた中、2017年にISOにおいて新しい専門委員会(TC)として立ち上がった。日本としても、このTCを国内課題であるサービス生産性向上に資する重要なTCと位置付けた。本TCでは、①サービスエクセレンスの原則とモデル、②サービスエクセレンスの計測、③エクセレントサービスの設計、の3つの規格を整備することから開始することとなった。①はドイツが、②はフランスがすでに名乗りをあげていた。そのころ日本国内では、JIS(日本産業規格)の対象をサービスに展開することやサービスの生産性の向上が重要であることなどが議論され、国内でのサービスの標準化活動が進展し、民間開発規格である「JSA規格」においてもサービスの設計に関連する規格の開発が進んでいた。下地もできつつあること、国際標準化活動における人材育成への挑戦、も鑑みたとき、特に設計に関してイニシアチブをとることを目標とし、未だ名乗りがあがっていない「③エクセレントサービスの設計」の規格開発作業部会のコンビーナを獲得するというシナリオが自然と生まれてきたといえる。

 本TCができる前後で、情報収集やTCの幹事国となったドイツへの働きかけなどの努力は継続していた。しかしながら、名乗りを上げた日本に対し、欧米諸国は簡単にはコンビーナを渡してはくれなかった。「日本の若手・熟練のエキスパートの方々の真摯なご協力により、本TCの数回の総会を経て、欧米諸国の承認を得ることができ、WG 2のコンビーナのポジションを獲得した。」という経緯がある。

改めて、エクセレントサービスとはどのようなものなのか。「まず、サービス提供の観点から、組織能力を4つのレベルに分けることができる。」という水流氏。レベル1は約束したとおりの機能を提供できること、レベル2は顧客からの意見や苦情をきちんとマネジメントできること、レベル3は個別の優れたサービスを提供できること、レベル4は驚きを伴う優れたサービスを提供できることだ。

 顧客満足を形成する「基本的なサービス」はレベル1と2の組織能力によってもたらされる。顧客満足を超えた感動・喜び(カスタマーデライト)を生み出す「エクセレントサービス」はレベル1と2の組織能力を基盤としたうえで、これにレベル3と4の組織能力が付加することによってもたらされる。TC 312はこのレベル3と4を対象として、2021年6月に、ISO 23592(サービスエクセレンス‐原則及びモデル)、と、ISO/TS 24082(サービスエクセレンス‐卓越した顧客体験を達成するためのエクセレントサービスの設計)という2つの規格が発行された。規格開発後、WG 2ではサービスエクセレンスの理解と組織能力の獲得を支援できるよう、世界各国から、サービスエクセレンスの4側面9つの要素毎のベストプラティクス事例を収集・分析し、国際的なガイドラインの開発を行っている。

「サービスの提供について、国際的には契約事項だけを履行するのが普通。日本のあうんの呼吸で提供する行き届いたサービスは時に過剰サービスとなり、生産性の低下にもつながりかねない。日本だけで通用してもダメだし、世界で通用しても日本が合意できなければダメ。それが世界標準を作るということだった。」と特にエクセレントサービスの設計に関する国際標準化の苦労をのぞかせる。
 
しかし、水流氏は、優秀な若手のお二人(プロジェクトリーダー:原 辰徳氏(東京大学)と事務局:遠藤 智之氏(日本規格協会))とともに建設的な姿勢で、各国とのさまざまな意見交換をもとに議論を調整し、2021年、WG発足からわずか2年という短い期間でISO/TS 24082の発行に導いた。 対人サービスにとどまらず、製造業でのコトづくりなど、すべてのサービスに適用される日本提案の国際標準。「顧客中心の考えのもと、きめ細やかで、質が高い。」日本独自の強みを活かし、世界における我が国の存在感を改めて高めたことはもちろん、今後のサービス生産性の向上や日本発のサービスが海外に進出する上でも貢献することになるだろう。

優れたサービスに重要なのは「自分が大切にされている」という顧客の実感

  「サービスの標準化」については今後も促進が期待される分野であるが、無形のものを標準化するのは簡単なことではない。
 
実は、水流氏はもともと公衆衛生から臨床まで医療分野の研究に携わっていた。「医療もサービスも、統計的な観点で品質を保証することはできる。しかし、優れたサービスに必要とする多様性を組み込んだ標準化を考えたとき、改めて標準化の難しさが生じるのだと思う。」という。
 
一方で、「重要なのは顧客にとって『自分が大切にされている』という実感だ。ISOやJISで設ける標準や基準は、品質や安全を担保する点において非常に重要であるが、そこから『大切にされている』という実感につなげることがポイントとなる。サービスの標準化は社会にとって大きな意味があると思う。」と、その言葉は力強い。
 
水流氏らの活動は、今後の標準化推進モデルとしても価値がある。また、日本の若手に活躍の場を与えるという意味で、今回のプロジェクトで4名の若手研究者(原 辰徳氏:東京大学特任准教授、安井清一氏:東京理科大学准教授、矢作尚久氏:慶應義塾大学准教授、松浦 峻氏:慶應義塾大学准教授)をエキスパートに加えたという。TC312の今後の規格開発にとって、またその他の国際会議でも、貢献・活躍してくださることが期待されている。またこのような国際規格開発にとって事務局は大変重要な意味をもつ。前述した遠藤氏の他にも意欲ある優秀な若手人材がおり、建設的な姿勢で切磋琢磨されていることを水流氏は重視している。
 
「国際規格を作るというのは、世界的な合意形成のプロセスを体験できる重要な場だ。その難しさを乗り越えて成長するとともに、人脈も築いてほしい。今後も日本の指針となるようなサービスの国際標準をぜひ作っていきたいが、後に続く若い人たちは自分たちの手でどんどん改良してほしい。」と、後進を見守る眼は温かい。
【略歴】
1985年~1996年 広島大学医学部医学科 助手(公衆衛生学講座)
1996年~2003年 広島大学医学部保健学科 助教授
2003年~2008年 東京大学大学院工学系研究科 助教授
2006年~現在 ISO/TC 176(品質管理及び品質保証)国内審議委員会委員
2006年~現在 ISO/TC 176/SC 1(概念及び用語)日本エキスパート
2008年~2021年 東京大学大学院工学系研究科 特任教授
2015年~現在 経済産業省日本産業標準調査会(JISC)総会委員
2016年~2020年 サービスのQ(品質)計画研究会主査
2017年~2018年 サービス標準化委員会委員
2018年~現在 ISO/TC 312(サービスエクセレンス)国内審議委員会委員長、ISO/TC 312日本エキスパート
2018年~2020年 JSA-S1002規格作成委員会委員、分科会主査
2019年~現在 ISO/TC 312/WG 2(エクセレントサービスの設計)コンビーナ
2020年~現在 経済産業省日本産業標準調査会適合性評価・管理システム・サービス規格専門委員会委員
2021年~現在 JIS Y 23592(サービスエクセレンス-原則及びモデル)/JIS Y 24082(サービスエクセレンス-卓越した顧客体験を実現するためのエクセレントサービスの設計)原案作成委員会委員長

最終更新日:2022年3月9日