経済産業大臣表彰/藤間 一郎(ふじま いちろう)氏
公益財団法人日本適合性認定協会 技術部 執行理事・技術部長
試験機関の信頼性を担保し、生活の安全を守る―JIS Q 17025の改正・普及に貢献
国内で製品を作る場合、その品質を確認するために、JIS(日本産業規格)などの試験規格に基づいて測定・試験が行われる。グローバルな取引が行われている現在、輸出国と輸入国とで二重の試験を避けるため、用いられる試験規格の多くはISO(国際標準化機構)規格やIEC(国際電気標準会議)規格などの国際規格と一致しているのが通常だ。
しかしそれだけでは十分でなく、試験結果の信頼性を担保するためには、試験機関の能力に信頼性がなければならない。そのため、「試験を行う機関」の能力について定めているのが、ISO/IEC 17025(試験所及び校正機関に対する要求事項)であり、その日本版がJIS Q 17025だ。
「JIS Q 17025は試験所の能力の基準を定めた不可欠な規格。私たちの生活の安全を支える上でも非常に重要だ。」とにこやかに語るのは、公益財団法人日本適合性認定協会(以下、JAB)の藤間一郎氏。JIS Q 17025をはじめ、マネジメントシステムの認定・認証に関わるJIS等の原案作成委員会委員長を歴任し、円滑なJIS化とその普及に大きな貢献を果たしてきた。
「もともとは数学者になるのが夢だった。」と語る藤間氏は、工学部の修士課程を修了後、通商産業省工業技術院(現:国立研究開発法人産業技術総合研究所)に入所。計量標準総合センターで、さまざまな計量標準に関する品質システムの整備・拡張に携わる。
ISO/IEC 17025の改訂作業をきっかけに標準化活動に関わるようになり、「数学や物理のように真理を探究するというサイエンスとは異なるが、とても面白いと感じた。どういう標準を作ることが合理的なのか、社会の合理性を関係者との合意で組み立てることのように思う。」と語る。
藤間氏は主査・委員長として適合性評価に関するISO/IECの国内委員会やJISの原案作成委員会をリード。「参加委員の方は機械、物理、化学、環境、安全といったそれぞれの専門分野の第一人者で、私も含めて技術の議論が好きな方ばかり。ひとたび議論が始まると収束が見えづらくなることもあったが、必要な妥協を織り交ぜつつ結論を出すようにした。」と笑う。
藤間氏の手腕でJIS Q 17025は2018年にスムーズに発行。しかし、活動はそこで終わらない。「試験機関が対象とする試験は多岐にわたる。例えば、水道水中の不純物や米の中のカドミウムの分析試験といった飲食品の安全に関わるもの、コンクリートや金属の引張・圧縮試験といった建築物の安全に関わるものなど、非常にさまざま。多くの試験所で活用されることから、解説書の作成に取り掛かった。」という。
解説書の編集委員はJIS原案作成委員のメンバーを中心に構成され、それぞれ専門的な立場から具体的な解説が執筆された。この解説本はJIS発行からわずか4か月で発行。今も国内の多くの試験所で活用され、JISの普及・活用に大きく貢献している。
標準化とは、合理性の追求を通じて、より良い社会を作ること
JIS Q 17025の改正という大役を務め、「ISOやJISの仕事もこれで最後だ。」と思った矢先、藤間氏にISO 19011(マネジメントシステム監査のための指針)の改訂を審議するISO/PC 302の国内委員会委員長就任の打診が入る。「それまでの経験から、時間に余裕があれば何とか務まるだろうと引き受けたが、結果的に一番大変だった。」と藤間氏。
なぜなら、内部監査の指針を定めるISO 19011は、試験所や校正機関、マネジメントシステム認証機関、製品・要員認証機関といった「適合性評価機関」のみならず、ISO 9001(品質マネジメントシステム)やISO 14001(環境マネジメントシステム)などの認証を受けた組織でも内部監査のために有用なため、社会で広く活用されている規格であるからだ。
ゆえに、参加メンバーは品質、環境、労働安全、情報セキュリティ、食品安全等のマネジメントシステムや要員認証といった分野の第一人者。「それぞれの業界の文化や考え方があり、同じ用語を使用していても各人が頭の中に描くイメージと異なることが多かった。」という。
そのような状況で、類似規格を横断した用語の使用例を一覧表にまとめるなどを事務局がサポート。逐一、議論の過程や結果を審議メモとして残し、「用語集の作成がコンセンサスにつながった。また、メモのおかげで議論の堂々巡りを起こすことなく期限内に原案作成を終了することができた。」という。
現在はJABで認定の仕事に取り組む藤間氏だが、「認定業務は標準化の価値を信頼性向上の観点から支える、とても重要なエレメントの一つ。今後は『バイオバンキング※1』など、社会が求める新たな認定のニーズにも対応できるよう、国際相互承認※2の仕組み作りにも取り組んでいるところだ。」と語る。
※1:血液や細胞などの試料を集めて、国内外の大学・製薬会社などの研究者に届ける研究のための基盤。一つ一つの研究ごとに検体を集めるのではなく、試料をバンクに集めたうえで、様々な研究プロジェクトに提供することで、試料を無駄なく、効率的に使用できる。また、試料や情報の集め方を整え、一定にすることで、より質の高い研究を行うことが可能になる。
※2:認定業務が互いに同等であることを相互に承認すること。日本は、国際認定フォーラム(IAF)及び国際試験所認定協力機構(ILAC)の地域グループである、アジア太平洋認定協力機構(APAC)において相互承認グループを結成し相互承認の活動を行っており、IAF及びILACがその地域グループにおける相互承認の結果を受け入れる形を取っている。
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国際相互承認のイメージ図
(イラスト提供:公益財団法人日本適合性認定協会)
「標準化活動の面白さは、合理性の追求を通じて、よりよい社会を作ることにつながっていくことにあると思う。」という藤間氏。若手人材を標準化に引き込むためのアドバイスをお願いしたところ、「標準化を身近に感じてもらうためにも、自身の業務に関連して、規制要求事項が法令でどのように規定されているかぜひ一度調べてみてほしい。標準化活動はキャリアの選択肢の一つ。何かしらの産業で技術職の経験がある方の活躍を応援したい。」とのことだ。
1985年~2001年 | 通商産業省工業技術院 計量研究所 |
2001年~2012年 | 独立行政法人産業技術総合研究所 国際計量室長(2007~2012) |
2004年~2006年 | ISO/CASCO(適合性評価)/WG 1 グループB(ISO/IEC 17025 JIS化対応)委員 |
2006年~2010年 | VIM(国際計量基本用語集)JIS化WG委員 |
2012年~2015年 | 独立行政法人製品評価技術基盤機構 認定センター 所長(2013~2015) |
2012年~2015年 | ISO/IEC 17021-1対応WG主査(JIS Q 17021-1原案作成委員長を含む) |
2012年~現在 | ISO/CASCO国内対応委員会委員 |
2014年~2018年 | ISO/IEC 17025対応WG主査 |
2015年~2020年 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 物理計測標準研究部門長(2018~2020) |
2016年~2017年 | ISO/IEC 17021-2対応WG主査 |
2016年~2017年 | ISO/IEC 17021-3対応WG主査 |
2016年~2018年 | ISO/PC 302(ISO 19011改訂)国内委員会委員長 |
2020年~現在 | 公益財団法人日本適合性認定協会 執行理事・技術部長 |
最終更新日:2023年3月30日