経済産業大臣表彰/藤井 重樹(ふじい しげき)氏
株式会社日本能率協会コンサルティング プロフェッショナルアドバイザー
ライフラインの恩恵を世界中の人々が享受出来る国際規格の開発
私たちが日々の生活を送る家屋や建物には、上水、下水、都市ガスや、空調で使用するガスなどを運ぶ配管が至るところに張り巡らされている。配管はさまざまな圧力や温度の液体や気体と接触するため、用途に応じて、使用される素材も炭素鋼やステンレスなど多岐にわたる。
「配管材の中でも、施工が容易で経済的にも優れているのがプラスチック。プラスチックパイプは、現代社会において非常に重要なインフラの一つ。」と語るのは、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)の藤井重樹氏。ISO(国際標準化機構)/TC 138 (流体輸送用プラスチック管、継手及びバルブ類)の国際議長として、プラスチックパイプに関する規格策定を長年にわたり主導してきた人物だ。
2012年、藤井氏はTC 138の国際議長就任後、「世界の人々にとって信頼性が高く、環境に優しいライフラインを適正な価格で入手できること。」を使命に、上水、下水、ガスに留まらず、各種工業や農業用途に使用されるプラスチックパイプや、パイプに使用される継手の製品及び評価方法などの規格策定に着手した。
「ライフラインの整備は人々の安心安全な生活に必要不可欠であり、その重要性は計り知れない。配管に関しては、互換性の高いスペックや、安心して使用するための性能を定めた国際標準が必須となる。」と藤井氏。寸法規格や性能基準の評価方法は世界的な課題が多い中で、各国の意見を調整し、配管の分野に強い日本の総合力で多くの規格開発を推進した。
世界のライフラインを守る日本発「管路更生工法」の国際標準化を主導
その中で、藤井氏が最も力を注いだ活動に「管路更生工法」の国際標準化を積極的に推し進めたことが挙げられる。管路更生工法とは既設管が老朽化で構造的および機能的等が保持できなくなった時、既設管の内面に新管を構築する工法である。その方法としては製管工法、形成工法、及び反転工法等様々なものがある。日本初のこれらの技術の国際標準化が今後の日本に重要になる。
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管路更生工事(老朽管の内側に新管を構築)のイメージ図
(イラスト提供:日本SPR工法協会)
従来、古い下水管を新しく取り換えるには、下水を止めて道路を掘り返す工事が必要だった。しかし工事期間中に起こる交通渋滞や騒音、大量の廃棄物の発生など周囲地域に与える影響が大きく、都市部などでは物理的に不可能な場合もある。管路更生工法を用いれば、非開削で下水管を更生できるため、スムーズな管路の更生が可能となる。
(画像提供:日本SPR工法協会)
当時、TC 138内には管路更生工法のSC(分科委員会)は存在せず、同分野はWG(作業グループ)のみで取り扱っていた。「日本だけでなく、下水管の老朽化は先進国の共通課題。世界中で新技術が次々と出てくる状況で、管路更生工法を取り巻く国際競争は活発化する。更生管の性能の他、安全性、耐久性の担保のためにも、新たなSCを立ち上げ、この分野に技術力のある日本が幹事国として主導することが必要だ。」と考えた。
日本発の新ビジネスモデルの標準化で持続可能な社会の実現を!
藤井氏はTC138内に新規SC 8(配管系の更生)の設立を提案。国内業界の強力なバックアップもあり、管路更生工法分野を扱ってきたWGのSCへの昇格は歓迎された。日本以外の複数国も新規SCの幹事国に立候補する中で、イギリスをはじめ各国を説得し、協力を得られたことが日本の幹事国獲得につながった。
「新たに設立したSC8の国際議長には、WG時代からこの分野に造詣の深いイギリスの方に就任をお願いした。」と藤井氏。昨年2021年のイギリス人議長退任とともに、2022年からは後任に日本人議長が就任。名実ともに日本がこのSCのイニシアチブを取っている。 現在、日本で開発した管路更生工法をこのSC 8で国際規格に提案中である。現段階でアメリカ、フランス、ロシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム等で施工実績がある。「今後世界が直面するライフラインの更生に対して、高品質で高寿命、環境フレンドリーな技術を低コストで実現する国際規格を提案したことに意義がある。また、通常のパイプは空気を運んでいるようなもので物流費が割高となり輸出産業として成立しないが、更生工法は材料を運び現場で施工するので輸送効率が良く、国際規格になれば輸出産業としても期待できるだろう。」と藤井氏は語る。
「人生は冒険であり、チャレンジの連続。」という藤井氏は、現在は自身の経験を活かし、製品開発や生産性改善のコンサルティングに取り組んでいる。また、日本の産業界における標準化活動の重要性をさらに広めるべく、各大学や団体等で積極的に講演を実施している。「製品・原料メーカーなどから、次世代の活動を担う若手の参加者を増やしたい。」と今後の抱負を語る。
後に学生や若手へのメッセージをうかがうと、「標準化の対象はモノからサービス、社会システム、SDGs、環境などへ大きく拡大している。大量生産・大量消費の時代から、循環経済へシフトしており、リサイクルやシェアリング等のビジネスモデルが出現している。若い人たちには日本発の新しいビジネスモデルを提案し、国際標準とすることで持続可能な社会の実現にチャレンジしてほしい。」と力強い言葉をいただいた。
1977年 | 積水化学工業株式会社入社 |
2000年~2004年 | 同 滋賀栗東工場 管材製造部長、工場長 |
2005年~2006年 | 同 環境・ライフカンパニー 国際部長 |
2006年~2008年 | 積水(青島)塑膠有限公司 総経理(社長) |
2008年~2011年 | 東都積水株式会社 代表取締役社長 |
2011年~2019年 | 京都工芸繊維大学 特任教授(シニアフェロー)※ |
2012年~2016年 | 積水化学工業株式会社 執行役員 環境・ライフカンパニー技術開発センター長 |
2012年~2020年 | ISO/TC 138(流体輸送用プラスチック管、継手及びパルプ類)国際議長※ |
2015年~2016年 | 慶応義塾大学 訪問教授※ |
2015年~2020年 | 日本ノーディッグテクノロジー株式会社 代表取締役社長(4年)、特別顧問(1年) |
2020年~現在 | 株式会社日本能率協会コンサルティング プロフェッショナルアドバイザー 「ものづくりシニア人材活躍・活用 社会実証実験(https://www.jmac.co.jp/news/news/info20211111.html)」に参画中 |
※兼任で担当した社外業務
最終更新日:2023年3月30日