1. ホーム
  2. 政策について
  3. 政策一覧
  4. 経済産業
  5. 標準化・認証
  6. 普及啓発
  7. 表彰制度
  8. 令和3年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.21

令和3年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.21

経済産業大臣表彰/山内 泰樹(やまうち やすき)氏
国立大学法人山形大学大学院 理工学研究科 情報・エレクトロニクス専攻 教授

省エネルギー性に優れた有機EL照明の普及に向けて国際標準化を主導

 LED照明と並び「次世代の照明」として期待される有機EL照明(OLED)。令和3年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では照明器具の省エネ化推進のため、2030年にすべての照明器具をLEDやOLED等の高効率照明に置き換えることを目標に掲げている。

OLEDは有機物の発光体に電流を流して発光する仕組みを用いた照明だ。面光源で広範囲に均一な光を照射することができ、フレキシブルに曲げることも可能。デザインの自由度が高く、「目に優しく、軽くて薄い」のが特徴だ。

「LED照明は東日本大震災をきっかけに急速に普及が進んだが、明確な『ルール』がないまま粗悪品が出回ることもあった。OLEDの普及や用途拡大を進めるためには、国際的な『ルール』をあらかじめ整備して健全な市場を形成することが必要だ。」と語るのは、山形大学教授の山内泰樹氏。

山内氏は色覚メカニズムや照明工学を専門とし、CIE(国際照明委員会)技術委員会の国際委員長として標準化活動に従事。2012年にIEC(国際電気標準会議)でOLEDの標準化ワーキンググループ発足以来、エキスパート及びコンビ―ナとして当該分野の国際規格作りをリードしている。

「照明に関する規格を扱うIEC/TC 34(ランプ類及び関連機器)は比較的古くからある専門委員会で、独特の『お作法』のようなものがある。次にどの規格を提案したいか、事前の会議で作業文書を提出して宣言することが必要で、どのタイミングで日本からの新規提案を出すか、他国と腹の探り合いのようなところがある。」と山内氏。
例えば、IEC 62868(一般照明用有機発光ダイオード(OLED)パネル)シリーズはOLEDの安全に関する規格を定めたものだ。第2-3部は特にOLEDのフレキシブル性に着目した安全に関する日本提案の規格であり、山内氏が先頭に立って規格制定を主導した。

この提案に先んじて、山内氏はTCの作法に則り、事前の会議で「フレキシブルOLEDの安全規格を日本から提案したい。その後、性能規格にも着手する。」ことを宣言していた。しかし、次の会議で韓国が突然「フレキシブルOLEDの性能規格を韓国から提案する。」と宣言。
「前から日本が準備していたのに、という感じ。しかし韓国も国のプロジェクトで動いているので、それなら日本と韓国の共同提案にしようともちかけた。」という。実験データを提出するなど、山内氏の働きかけで、日韓共同プロジェクトとすることに成功。

ところが、新たな問題が発生する。IECではプロジェクトリーダーは1名という決まりがあり、結果として国の実績となるため、どちらがプロジェクトリーダーになるかで議論が必要だった。日本は安全規格の実績もあり、性能規格の原案もほぼ日本のアイデアだと主張したが、韓国も譲らなかった。
「お互いに不満がないよう話し合い、日本側で『ここは譲っておこう。』ということになった。国際規格作りは投票数が重要で、後々敵に回すよりは味方につけておきたい。国際的なバランスを考えた関係作りが必要だと学んだ。」と苦笑いする。

公式文書には掲載されなかったものの、山内氏は実質的な共同プロジェクトリーダーとして規格制定に尽力。IEC 63286(一般照明用フレキシブル有機EL(OLED)パネル―性能要求事項)は2022年に成立予定だ。この規格が発行されれば、フレキシブルOLEDの性能が適正に評価され、その特長や省エネのポテンシャルを生かした多様な照明が国内外で普及・拡大することが期待される。

フレキシブルOLED
(画像提供:国立大学法人山形大学大学院)

標準化に自身の研究成果が生かせる面白さを伝えたい

現在、山内氏はIEC規格をJIS(日本産業規格)化する活動にも参加している。今後の国際標準化活動については「フレキシブルOLEDは、どんな形でも曲げられるところに特徴がある。今は単純な円筒に曲げたときの発光測定をどうするかのみ規定しているが、もっと複雑な形状にした場合の測定方法について、新規提案として検討しているところだ。」とのこと。

また、「IEC 62868シリーズの第1部はOLEDの安全に関する一般要求事項と試験方法を定めたものだが、改めて見直すと要所要所で不備があり、全体像から見直す必要がある。こちらは日本から改訂の提案をする予定だ。」と規格改訂にも意欲的だ。

一方、OLEDは一般照明市場にはまだまだ浸透していないのが現状だ。「国内でも開発をする企業は減少の傾向にある。フレキシブルOLEDは薄く軽いところに特徴があり、今後さらに明るく寿命が向上すれば、例えば飛行機や新幹線の天井などで使用するメリットがある。インテリア性の高い照明としても期待できるだろう。」と語る。

標準化人材の育成についてたずねると、「学生には、規格に関わる実験データの研究などを手伝ってもらっているが、まずは標準化活動の重要性を身近にとらえてもらうことが課題。」との答えが返ってきた。

「私自身、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)や経済産業省のプロジェクトで、国際標準化活動への支援があったからこそ、ここまで活動を続けることができている。非常に恵まれた環境で研究ができることに感謝しており、学生にもその面白さを伝えていきたい。」と語ってくれた。

【略歴】
1991年~2009年 富士ゼロックス株式会社
1999年~2001年 University of Rochester, Center for Visual Science Research Associate
2009年~2012年 国立大学法人山形大学理工学研究科 准教授
2012年~現在 同 教授
2010年~現在 一般社団法人日本照明工業会OLED検討分科会(現:OLED技術分科会)委員
2011年~現在 国際照明委員会(CIE)TC 2-68幹事、2015年から2021年まで国際委員長
2012年~現在 IEC/TC 34(ランプ類及び関連機器)/SC 34A(光源類)/PT OLED (現:WG 3(OLED))エキスパート
2013年~現在 日本照明委員会第二部会TC2-68 国内委員会委員長
2014年~現在 経済産業省:省エネルギー等国際標準開発・普及基盤構築等 委託事業 代表者
2017年~現在 IEC/TC 34/SC 34A/WG 3 コンビ―ナ
2019年~現在 一般社団法人日本照明工業会 SC 34A小委員会 委員
2020年~現在 同 OLED JIS制定分科会 委員

最終更新日:2023年3月30日