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令和4年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.3

経済産業大臣表彰/江口 伸(えぐち しん) 氏
富士通株式会社 ビジネス法務・知財本部 知財グローバルヘッドオフィス 
知的財産戦略室 シニア・スタンダード・エキスパート

スマートフォンからパソコン、家電まであらゆる場所で使われているUSB Type-Cの迅速な標準化に貢献

 USB Type-Cは、USBの新しい端子であり、上下の区別がなくどちら向きでも差し込め、大電力を供給できることが利点だ。スマートフォンから小型家電までさまざまな機器に使われており、我々の生活にとってなくてはならない存在である。このUSB Type-Cの国際標準化を実現したのが、富士通株式会社の江口 伸氏である。
 

USB Type-Cの端子と対応するスマートフォン
(写真提供:江口氏)

 江口氏は、富士通に入社後、磁気デバイス研究部部長や知的財産権本部 スタンダード戦略室 担当部長を経て、2015年から2019年まで、IEC (国際電気標準会議)/TC 100(オーディオ・ビデオ・マルチメディアシステム及び機器)/TA 18(マルチメディアホームシステム及びユーザネットワーク用アプリケーション)に参画。議長として発行を主導した代表的な規格の一つがIEC 63002*だ。

*ポータブルコンピューティングデバイスで使用される外部電源の識別および相互運用性方法

「IEC 63002は、電源供給とケーブル/コネクタの相互運用性に関するガイドラインであり、USB Type-Cをさまざまな機器の電力供給に使うために欠かせない。」と江口氏。Type-Cの本格的な普及のためには速やかな国際標準化が急務と考え、通常約3年かかるところを、約1年半という短期間で同規格の発行を実現した。

「一般的にはメールで時間をかけてやりとりするなどのプロセスがあるが、この時はスピードを意識して1年間で対面の国際会議を4〜5回開催した。そのうちの2回は東京で開催するなど、日本のメーカーの意見も汲みながらの推進を心がけた。」

 集中的な会議の開催は、規格発行までにかかる時間の短縮化以外にもメリットがある。「会議では専門用語が飛び交い理解が追いつかないときがある。その際は、うやむやにせずに、その場でぶっちゃけて話し合うことができ、それが国境の垣根を超えたメーカー同士の交流にもつながった。他方で、会議で他国のメーカーと議論するために日本のメーカーも一枚岩になることができた。」と笑顔を見せる。

 本規格による、電源供給を行うインターフェースの国際標準化がUSB Type-C搭載機器の普及を後押しした。ACアダプタ等の廃棄を減らすことにもつながり、環境問題への意識が特に高い欧州での市場拡大に寄与したという。

 上記の活動に加え、IEC/TC 100の国内審議を受託する一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の国内委員会幹事としても2015年より精力的に活動。そこでの功績に「海外から持ち込まれた未熟な提案の適正化」が挙げられる。

「実験室レベルの提案が特定の参加国から持ち込まれることは非常に多い。ワイヤレス給電に関連するTA(テクニカルエリア)では、給電効率の評価を行う際に受電コイルのリファレンスを、テストする側が自由に選んでよいなど規格化の意味がない提案が出された。他にも、電波法など国内の法制度が整う前に規格が成立しそうになるなど日本に支障が生じそうなケースもあった。」 

 そこで実行したのは「TCの垣根を超えて国内から協力を仰ぐ」こと。「人体ばく露を専門に扱うIEC/TC 106や妨害電波を扱うIEC/SC 77Bの委員から専門的な知見を伺い、具体的な対策案を練ることができた。それをもとに、規格内容を適正なものとすることができた。」江口氏らの努力によって、充電に時間がかかる粗悪な製品が世の中に出回ることや人体に影響を与える可能性がある製品の販売を阻止できたのだ。
 

標準化人材を育成するため、国際提案への対処プログラム資料作成や勉強会を主催

 江口氏は近年、国際標準化活動における中国や韓国の影響力が増大していることに見習う点があるという。日本からはベテランの参加が主流となる中、例えば、韓国からは、これから標準化活動に関わろうとしたり、2〜3年の経験しかない若手がベテランとペアを組んで国際会議に勉強しにきている様子を見たことを機に、人材育成にも注力するようになる。

「標準化人材育成講座を開催した際は、活動に初めて参加する議長やエキスパートが抱きそうな疑問に対して、一問一答形式の資料を準備した。最初はIEC/TC 100の国内委員会内だけでやっていたが、評判がよく、JEITAの他の委員会でも採用されるようになった。」と話す。他にも、若手のモチベーション向上を目的とした特別賞を企画するなど、今後も人材育成につながる活動を続けていく考えだ。

 民間企業の立場から標準化活動に取り組むこと約11年。どのように振り返るかとたずねると、「ビジネスに直結する規格開発に携われることに意義を感じる。しかし、気をつけなくてはいけないのは、常日頃からの人脈作り。良い技術を開発した際に、新参者として突然提案をしても絶対に通らない。普段から顔を売るなどして、『いざ』というときに弾をこめられるような準備をすることが大切」。地道な活動の重要性について、日本企業から更なる理解を求めたいという。

最後に、現状の課題を伺うと「マルチメディア関係のところでは、韓国や中国が20〜30年くらい前の日本のようにどんどん提案をしている。」と江口氏。「日本は人材リソースが昔ほど多くはないため、両国に対してやや後手に回っていると感じている状態。全ての提案を日本単独で行い通そうとするより、彼らとも連携して、日本の譲れないところはしっかり入れ込みながら呉越同舟で進めていくことができたら。」と今後の展望を語った。
 

【略歴】
1984年 富士通株式会社入社
1984年~2009年 株式会社富士通研究所 出向
2007年~2009年 同 磁気デバイス研究部 部長
2009年~2015年 富士通株式会社 知的財産権本部 スタンダード戦略室 担当部長
2010年~現在 一般社団法人電子情報技術産業協会 国際標準化戦略研究会
2015年~2018年 富士通株式会社 法務・コンプライアンス・知的財産本部 知的財産戦略統括部 エキスパート
2015年~2019年 IEC/TC 100(オーディオ・ビデオ・マルチメディアシステム及び機器)/TA 14(PC機器のためのインターフェース及び測定方法)及びTA 18(マルチメディアホームシステム及びユーザネットワーク用アプリケーション)議長
2015年~現在 一般社団法人電子情報技術産業協会 TC 100国内委員会幹事
2016年~2017年 一般財団法人日本規格協会 IEC活動推進会議(IEC-APC) 運営委員会 委員長
2018年~現在 富士通株式会社 ビジネス法務・知財本部 知財グローバルヘッドオフィス 知的財産戦略室 シニア・スタンダード・エキスパート
2020年~現在 一般財団法人日本規格協会 IEC活動推進会議 広報・人材委員会 委員長
2022年~現在 一般社団法人電子情報技術産業協会 標準化運営委員会 委員長

最終更新日:2023年3月30日