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令和4年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.6

経済産業大臣表彰/伊藤 日出男(いとう ひでお)氏
公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構
福島ロボットテストフィールド 技術部長

次世代を見据えた電子基板上の光伝送技術の標準化に貢献

 パソコンやスマートフォン、ルーターの内部には、マザーボードと呼ばれるメイン基板が入っていて、基板上の様々なパーツには銅やアルミの金属でできたケーブルが配置され、その中を電気信号が流れている。将来、このケーブルに光信号が流れるようになることを予測して標準化活動で活躍したのが、福島イノベーション・コースト構想推進機構の伊藤日出男氏だ。

 伊藤氏は国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の研究者として、光通信技術の研究に参加していた。基板上で取り扱う光技術の開発が始まり、JPCA(一般社団法人日本電子回路工業会)の国内規格が作成されると、それをIEC(国際電気標準会議)に提案が必要かどうか検討する動きになる。伊藤氏もこの活動に携わることになった。

 この規格では光の技術と電子基板上の技術を同時に扱う。両者を共に扱うTCがないため、「JWG 9(電子アセンブリの光学機能)」という新しいJWG※1 が2009年に日本の提案で立ち上がった。JWG 9は光ファイバーの「IEC/TC 86(ファイバオプティクス)」と、電子回路基板の「IEC/TC 91(電子実装技術)」の、2つのTCが連携して作られた。TC86を主な活動の場とする伊藤氏は、JWG 9のセクレタリとして参加し、2014年には同JWG のコンビーナになった。

※1 JWG=Joint Working Group(合同作業グループ)。複数のTCをまたぐ規格調整委員会。


 1本のファイバーで伝送できる情報量は限られる。大容量データのやりとりには、沢山のファイバーを並べたり、光信号の伝送路「光導波路(ひかりどうはろ)」を用意したりする必要がある。光導波路は光ファイバーよりも高密度化できるのがメリットだ。素材もガラスだけでなくポリマーなどを用いることで、配線の折り曲げや並べ替え、分岐も容易になる。

 だが、この光導波路の素材や結線のためのコネクタ形状、並べる間隔や順番、性能の測定方法や評価基準等が標準化されていないと、つなぎ合わせるときに支障が出てしまう。

 この分野は日本が技術的に先行していることもあり、他国からの提案は少なく、一緒に技術を盛り上げる雰囲気が強い。細部では複数の国から異なる似た技術が提案される場合もあるが、それですぐに衝突することはなく、どちらが良いか様子を見る段階だという。

「規格化に当たって、新たな技術が出てきて議論がまとまらないこともあった。そんな時は、意見を戦わせることよりも情報の整理に注力し、一番規格にしたいものはどれかを見極めながら成立に向けて努力した」と伊藤氏。

 伊藤氏の尽力によって制定されたIEC 62496-4-1※2やIEC 62496-4-214※3は、今後コネクタの製品化と普及の加速に弾みを付け、次世代の大規模データセンタやスーパーコンピュータの飛躍的な性能改善につながると期待されている。

※2  光回路板-第4-1部:インタフェース規格-列12チャネル対称PMTコネクタ(Polymer Mechanically Transferable:ポリマー導波路フィルム用コネクタ)を使用する終端導波管OCBアセンブリ
※3 光回路板―第4-214部:インタフェース規格-列32チャネル対称PMTコネクタを使用する終端導波管OCB(Optical circuit board:光回線基板)アセンブリ

 

技術開発や標準化の重視点のコンセンサスを取って進めることが大事

 伊藤氏は「WGのコンビーナと共に事務を担当するセクレタリは、コンビーナとは別の国の人になることもある。私がコンビーナの時はイギリス人にセクレタリになっていただいた。親日家で、ヨーロッパで顔の広い人だったので随分助かった。その人は、現在TC 86/SC 86B(光ファイバ接続素子と受動部品)のコンビーナになり、そのセクレタリは日本人である。」と嬉しそうに述べる。

 国際会議に参加するのはその国を代表する委員会の担当者だ。長期間担当するのが普通で、どこの国にも十年以上務める担当がいる。「今度こんなことをやるので協力してくれないか」と、お願いして引き受けてもらえる関係の構築には時間も手間も掛かった。

 最近はコロナ禍でオンライン会議が主流となり、会議の合間のコーヒーブレイクを利用したすり合わせが難しかったという。オンラインとオフラインのハイブリッド開催の際は、開催地のネットワーク環境が重要になる。TC 86では数百人が同時に接続することもあり、ホテルのネットワーク環境ではとても足りず、自分でWi-Fiルーターを持ち込んだこともあるそうだ。時差の調整や、会議の長期化など、オンライン会議に関する課題は多いと苦笑する。
 

2022年10月に米国サンフランシスコで開催されたIEC/TC 86/JWG 9の
現地参加者
(写真提供:公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構)

 他にも課題はある。国際会議の場では1国1票が与えられ、多数決のもと規格が制定される。ところが、例えばドローン業界では中国の企業が世界シェアの7~8割を握る。会議にはその企業の各国の支社から人が派遣されて国代表として投票するため、その企業が支配している技術ばかりが標準化されてしまうことになりかねない。勢いのあるところにどう対処していくか考えねばならない。

 伊藤氏は進む方向を国が定め、何を重視して科学技術の開発や標準化を進めるか、コンセンサスを作って活動していくことが鍵だと考え、次のように語る。「最初から最後まで同じ人が全部やるよりも、標準化に詳しい人、知財に詳しい人、研究に詳しい人、それらをまとめるディレクターが、チームを組んで進める体制が作れると素敵だと思う」

 標準化に必要な人材は、研究が得意な人だけではない。伊藤氏は「もしあなたが就職活動を控えた学生ならば、その会社で何を作りたいか、何をやりたいかを考える中で、人生の選択の1つとして標準化にも思いを巡らせてほしい。研究開発やモノづくりとはちょっと違う面白さがあるから」と標準化の魅力を述べた。
 
【略歴】
1984年~2001年 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所
2001年~2004年 産総研 サイバーアシスト研究センター デバイス研究チーム長
2004年~2009年  産総研 光・電子SI連携研究体 副体長
2004年~2006年  産総研 情報技術研究部門ユビキタスインタフェースグループ長
2006年~2009年  産総研 産学官連携推進部門企業・大学連携室長
2009年~2014年  IEC/TC 86(ファイバオプティクス)/TC 91(電子実装技術) JWG 9(電子アセンブリの光学機能)セクレタリ
2009年~2011年  産総研 イノベーション推進本部イノベーションコーディネータ
2014年~2017年  栃木県産業技術センター 所長
2014年~現在  IEC TC 86 /TC 91  JWG 9 コンビーナ
2018年~現在  車載イーサネットのシステム完全性に関する国際標準開発委員会 委員
2018年~2021年  産総研 東北センター所長
2021年~現在 公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構福島ロボットテストフィールド技術部長

最終更新日:2023年3月30日