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令和4年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.10

経済産業大臣表彰/髙橋 満(たかはし みつる)氏
株式会社日立製作所 社友

デザインオートメーション技術の国際標準化を25年にわたり牽引

一般消費者の目には触れないが、私たちの生活を陰から支えるデザインオートメーション(DA)技術。この技術がどんなものか、イメージを掴むためにはテレビの天気予報を想像してみてほしい。アナウンサーがスクリーンをタップすると、画面が切り替わったり、動きが変化したりする。それは、「このアクションが来たら、こう対応するように」とシステムが裏で組まれているからだ。そのようなシステムを組み込む際、人間とコンピュータが対話する言語が必要となる。このような言語や関連する技術を規定しているのがDAの規格だ。

「あまり目立たないが、スマートフォンやパソコンなどあらゆる製品の設計開発や試験に必要不可欠な技術」と語るのは株式会社日立製作所社友の髙橋満氏。DA技術の国際標準化を約25年にわたり牽引してきた。

標準化活動に関わるきっかけとなったのは、東大の名誉教授であった高木幹雄先生からの誘いだった。「IEC(国際電気標準会議)を手伝ってほしい、とお声がけいただき二つ返事で受けた。当時、技術者として実務経験のないメンバーが多かったため、髙橋に対応を要請したと後から伺った」。1998年、IEC/TC 93(デザインオートメーション)に参画した。
 

IEC/TC 93会議の様子
(写真提供:株式会社日立製作所)

DAの分野は米国が一人勝ち状態。しかし、日本は購入したDAツールをそのまま使うのではなく、自社システムとして構築する知恵と運用実績があるため、高い技術力があると一目置かれていた。米国と日本がDA技術の標準化をリードする一方、トラブルが発生する。二国におまかせの形態となり、欧州勢がほとんど手を引いてしまったのだ。メンバーが一斉に撤退したことにより、TC 93は解散せざるを得なくなった。

「米国は国際学会のIEEE(米国電気・電子技術者協会)があるため、TC 93がなくなってもIEEEで学会規格化を進めればいい、という考え。それでは米国のツールベンダーの言いなりになってしまうため、IECの活動は絶対に継続しないといけない」。そう考えた髙橋氏は他のTCへの編入統合を模索した。そこで、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が国内審議団体となっているTC 91(電子実装技術)との調整を進め、編入を実現した。

「TC 91では10のWGが活動中であり、TC 93から6つのWGをそのまま編入するとWGの数が多くなり過ぎるため、TC 93側のWGを3つに集約した」と振り返る。髙橋氏はその中の1つであるWG 14(再利用可能部品ライブラリ)のコンビーナにも就任し、2019年まで活動。その後、一般社団法人電子情報通信学会のTC 91デザインオートメーション専門委員会の委員長に就任した。

髙橋氏の特筆すべき功績にIEEEと連携しDual Logo(デュアルロゴ)※1を実現したことが挙げられる。標準化活動を進める上で、IECとIEEEの長所と短所に目をつけた。「IECは正規の国際規格を開発する機関だが、規格化に年月がかかる。IEEEはIECのような国際標準化機関ではないが、てきぱきやれば1年でIEEE規格に結実できる。各分野に興味のある人が世界から集まり深い議論が行われることも魅力的。長所のいいとこ取りをして、2つの機関をつなげられないか。そこでDual Logoの発想が生まれた」。
 
※1 IEEE規格を、IECにおける新規提案からの手順を迅速化し最終投票のみでIEC-IEEEデュアルロゴ規格として発行すること。

早速、IECの国際会議にIEEEのキーパーソンも参加してもらえないか打診した。最初は交渉に苦労したものの、今ではIEEEの関係委員会の委員長や主査がIECの会議に同席してくれるようになった。

この連携の成功例の一つに日本から提案したソフト/ハード連動技術の規格化がある。「ハードウェアとソフトウェアのインターフェース条件を規定する規格をつくることになった。IECのWGで議論していたところ、IEEEのメンバーから興味があるので関与させてほしいと声が挙がった。IECよりも学会であるIEEEの方がその分野に強い技術者やエンジニアが集まるだろうと考え、審議をIEEEに移したところ、IEEE規格が成立。直ちにIECへ申請して、Dual LogoとしてIEC規格化※2した。両機関が協力すれば、速やかな規格化が可能となる。これからもこの体制で活動を続けていきたい」と笑顔を見せた。
 
※2 IEC 63060 Ed.1 Software Hardware Interface for Multi Many Core (IEEE2804-2019) 本規格はIEC国際会議で承認後の発行手続き中のため仮番号。(2023年2月末現在)

 

求められるのは、○形ではなく△形の人材

日本、中国、韓国の三国間で共同開催する北東アジア標準協力フォーラム(NEASF)のWG35(デザインオートメーション)でもコンビーナを務め、リーダーシップを発揮している。「東アジアは欧州などに比べ、部品メーカーなどが多く、電子化も頑張っている印象。だからこそ、日中韓で規格調和を進めようという話になり、まず議題となったのが異なる製品の間でデータマッピングを行う再利用可能部品ライブラリ※3だった」

※3 異なる製品の間で何度でも使用できるよう準備した部品の技術属性データ。電子カタログとして世界中で流通しているが、技術属性の定義や分類体系が異なるためデータのアンマッチが多発し活用を阻害していた。データマッピング技術を確立して規格化したことで最適な部品選択を可能にし、部品調達や生産拠点のグローバルな展開を容易にした。

IEC/TR62699-1 Ed.1※4の原案を作成するべく、三ヶ国で集まり、髙橋氏は議論をリードした。その中でも苦労したのは各国の特色の違いだ。

※4 IEC/TR62699-1 Ed.1:異種電子部品ライブラリのマッピング規則及び交換方法-第1部:統合検索システムの構築
 

北東アジア標準協力フォーラムの様子(上)と会議参加者との写真(下)
(写真提供:株式会社日立製作所)

「韓国では工業会の活動を積極的に行っているのが小規模の会社だが、中国では政府系の研究所が中心。韓国は技術者が集まるため深い議論ができるが、スピードが遅い。中国は現場に直結していない人が対応するので深い議論が苦手であるが、スピードは早い。それぞれの事情をうまく捉えて、いいとこ取りができるよう進めた」。開発した原案は、髙橋氏がコンビーナを務めるIEC/TC 91/WG 14に提案し、2014年に発行された。

活動を振り返って苦心したことは「国際会議は企業等の立場ではなく個人として参加すると、交通費は自費となるため飲み代が消えてしまった(笑)しかし、経済産業省や周囲の方々からのサポート、活動から得られる達成感のおかげでここまで続けてこられた」と話す。標準化活動における他国と日本の違いについては「韓国では標準化活動にインセンティブがあり、大学教授などもコンビーナ就任に前向きの印象がある。日本でもより良い人材が育つような仕組みができることを期待したい」という。

後進へのメッセージをたずねると「学生の時は出来るだけ幅広で学び、見聞を広めるのが良い。標準化活動では英語だけではなく日本語の作文力も重要となる」と髙橋氏。○形(何でもほどほどに出来る)よりも△形(技術力は高く知識は広い)の人材の方が自分の為、世の為に役立ち、そのような人材が求められていると続けた。「高木先生を見習って、私も生涯現役を目指したい。感謝の心を忘れず、有意義に過ごしたい」と締め括った。
 
【略歴】
1963年~1993年 株式会社日立製作所 戸塚工場 (通信機器開発、DAシステム開発)主任技師
1993年〜2000年 同 本社 ソフト技術推進センタ 主任技師
1997年〜2012年 IEC/TC 3/SC 3D(電子部品のデータ要素)国内幹事、エキスパート
1998年〜2012年 IEC/TC 93(デザインオートメーション)/WG 6(再利用可能部品ライブラリ)エキスパート、コンビーナ
2007年~現在 NEASF(北東アジア標準協⼒フォーラム)/WG35(デザインオートメーション、CJK-SITE/AH07-2から統合) コンビーナ
2012年〜2019年 IEC/TC 91(電子実装技術)/WG 14(再利用可能部品ライブラリ)コンビーナ
2019年〜現在 IEC/TC 91/WG 12(プリント版及びアセンブリのデザイン及び電子データ記述と転送)コンビーナ
2019年〜現在 IEC/TC 91 デザインオートメーション専門委員会 委員長

最終更新日:2023年3月28日