経済産業大臣表彰/夏目 智子(なつめ さとこ)氏
特定非営利法人活動ふぁみりあネット 理事長
13年にわたり、消費者の視点でJISの審議に参加
「日本工業規格※1(JIS)の審議に携わってきたことで、時代の流れを深く感じとることができた。生活する上での意識も変わった」と語るのは、静岡県袋井市を拠点に活動するふぁみりあネットの夏目智子氏。日本工業標準調査会(JISC)※1の消費者政策特別委員会、消費者生活技術専門委員会の委員を歴任し、消費者を代表する立場から、13年にわたりJIS開発に大きく寄与してきた。
※1 2019年より「日本産業規格」「日本産業標準調査会」に名称が変更。
普通の消費者としてJISマークの存在は認知していたものの、制定・改正プロセスに関心を持ったことはなかったという夏目氏が、国の審議会に初めて携わったのは2003年。当時、静岡県地域女性団体連絡協議会の会長を務めていた夏目氏は全国地域婦人団体連絡協議会(地婦連)から声がけがあり、農林水産省の独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の評価委員となった。2009年から日本農林規格(JAS)の調査委員会に参加したと同時に、地婦連の事務局長に就任し、東京勤務となる。そこで経済産業省とも関わりを持ち始めたことから、JASと同時並行で、消費者の立場からJISの審議にも携わることになった。
そもそも、標準化の議論において消費者の意見も取り入れる必要があるという意識が芽生えたのは2000年頃だ。当時の議論の場では、製造者や販売者の視点が重視されており、実際に製品を使う側の視点が欠けていた。そこで、ISO(国際標準化機構)において、消費者政策委員(COPOLCO)会が発足。日本でも必要だ、という声が挙がり、JISCにも消費者政策特別委員会が2001年に作られた。消費者、大学教授、事業者など幅広い参加者がJISを審議するこの委員会に、夏目氏は2011年から参画した。
関わった代表的な審議に洗濯用図記号(JIS L 0001「繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその表示方法」)の改正がある。繊維製品や洗剤類が国外からの輸入を通じて多様化している状況下で、衣類のタグについている取り扱い表示を国際規格と適合する必要があったのだ。
「改正の結果、記号の種類が22から41に倍増した。海外の方が見ても分かるようになった一方、従来の記号に慣れている日本の方から見たら複雑になった。施行されて約6年経つ今でも普及啓発が必要かもしれない」と苦笑する。しかし洗剤や衣類などの身近な生活環境が変わったことを考えると、規格改正は必要であったと続けた。
審議で取り扱うのは、衣類の取り扱い表示のように生活で身近なものだけではない。例えば、「子どもの安全を守るために、考え、取り組むべきこと」の指針を記したISO/IEC Guide50(安全側面-規格及びその他の仕様書における子どもの安全の指針)がJIS化された際は、その一部である子ども製品の安全規格の議論に参加している。当時、子どもがいたずらをして火災が起きるなど問題視されていた使い捨てライターに関する規格が議論の対象だった。
「煙草を吸わない身からすると、ライターは全く身近なものではなかった。しかし、審議の場で初めて、どんな変化が求められているのかを強く認識した。審議の結果、ライターにチャイルドレジスタンス機能※2がつくなど、規格が改正された。JISの変化と共に、時代そのものの変化も実感できる」このような経験が日常生活にも影響した。「地方に住んで普通の生活をしていると、社会的な課題を見つけても、それが消費者に影響してくる問題であるという捉え方はしてこなかった。消費者委員会での活動を通じて、一消費者として、鋭く課題を捉えていく必要があることを学んだ」と活動から得たものは大きいという。
※2 (Child-resistance:CR機能)51ヶ月未満の幼児によるライターの点火操作を困難にする機能。
消費者がJISを使っている事業者を応援することが大切
消費者をターゲットとした標準化の普及啓発活動にも精力的に携わった。2009年、一般財団法人日本規格協会などが事務局を務める標準化検討委員会の委員に就任。全国に47の団体がある地婦連の事務局長の立場を活かし、「標準化セミナー」の参加者を集めることに貢献した。
「セミナーの規模は100名程度で、消費者の皆様に標準化やそのメリットについて知っていただくことを目的に開催している。地婦連としては毎年同じ県での開催にならないように、幅広く、開催の募集をかけている」。標準化はJISです、と説明すると理解してもらえるが、標準化という言葉単体の認知度はまだ低い。標準化が一般消費者に浸透するまでの道のりは長いという。
「標準化やJISの大切さを理解いただいて、自分がいざ製品を買う時に、その知識を活かしてもらいたい。安いから、ブランドものだから、という観点だけでなく、JISに適合していることが見えるものを使おう、という意識を持ち、安全性もチェックポイントに入れて欲しい。それが、JISを使っている事業者の応援にもつながる」。例えば、家を建てる際、建材やコンクリートなどに対して「これはJIS製品ですか?」と消費者が聞くことは、事業者にとって大きなインパクトがある。消費者はここまで見ているのか、という印象を与えることで、事業者の意識向上のきっかけにもなるのではないか、と述べた。
標準化活動を通じて、工業会や事業者の方が一つの規格を策定・改正するためにどれほど努力をしているのか学んだという夏目氏。「SDGs目標12の『つくる責任 つかう責任』にもあるように、事業者を後押しし、育て上げるのは製品を実際に選んで購入する私たち消費者の役割なのかもしれない」と語った。
2002年〜2005年 | 静岡県地域女性団体連絡協議会会長 |
2002年〜2005年 | 全国地域婦人団体連絡協議会理事 |
2009年〜2010年 | 消費者関連の標準化検討委員会(事務局:一般財団法人日本規格協会) |
2009年〜2014年 | 全国地域婦人団体連絡協議会事務局長 |
2009年〜2017年 | 日本工業標準調査会消費生活技術専門委員 |
2010年〜2022年 | 標準化セミナーの企画運営業務に従事 |
2011年〜2015年 | 日本工業標準調査会消費者政策特別委員 |
2020年〜2022年 | 全国地域婦人団体連絡協議会事務局長 |
最終更新日:2023年3月28日