経済産業大臣表彰/三澤 眞(みさわ まこと)氏
一般社団法人日本ゴム工業会
ISO/TC 45 国内審議委員会 副委員長 ISO/TC 45/SC 2総括主査

ゴム産業の共通言語となる試験法の国際標準化に多大な功績をあげる
ゴムは、ゴムの木から作られる天然ゴムと、主に石油から作られる合成ゴムがあるが、どちらも私たちの生活になくてはならないものだ。自動車や自転車などのタイヤをはじめ、手袋や輪ゴムなど、身の回りのさまざまな製品でゴムが使われているだけでなく、コンベアベルトなど製造現場などでもゴムは活躍している。そのゴムの試験法や試験機に関する国際標準化において多大な功績をあげ、日本のゴム業界の海外事業拡大にも貢献したのが、一般社団法人日本ゴム工業会の三澤眞氏である。
三澤氏は、横浜ゴム株式会社に勤めながら、2003年からISO(国際標準化機構)/TC 45(ゴム及びゴム製品)の国内委員会委員に就任、2017年からはSC 2(試験及び分析)の国内総括主査として、さらに2019年より副委員長も兼任し、組織の方針・計画の策定及び運営に携わっている。ISOにおいては、プロジェクトリーダーとして日本提案のゴム試験関連規格17件の制定・改訂を主導した。
SC 2の中でも特に、WG 1(物理特性)、WG 2(粘弾性)、WG 3(劣化試験)に深くコミットし、それらのWGにおけるISO規格の開発に尽力した。「ゴムの原料でも製品でもその性能の良し悪しを判断するには、共通の試験法が必要になる。各社が独自の試験法で試験していたら、横並びで比較できない。そういう意味で試験法の規格化は、共通言語の役割を果たすので、非常に重要だ」。関わったWGの中でも近年重要になってきたのが、WG 2の粘弾性である。石油ショック以降、タイヤにおいても低燃費競争が盛んになり、転がり抵抗の小さいタイヤが要求されるようになった。その転がり抵抗を左右するのが粘弾性なのだ。
三澤氏は、日本独自のゴム試験法や試験機を数多く国際標準化してきた。「日本の試験機メーカーとタイヤメーカーが共同で新しい試験機、例えば摩耗試験機や疲労試験機などを開発して、それをISO化した例もいくつかある」と語る。
日本は、ゴムの消費量が世界第5位であるゴム消費大国の一つだが、ゴム製品のメーカーも多く、世界でもトップクラスの優れた性能のゴム製品を生産している。三澤氏は、ISOの規格化を通じて、そうした日本のゴム産業の発展や高品質な日本のゴムの差別化にも貢献してきた。その一つがSBR(スチレン・ブタジエンゴム)という合成ゴムの性能計測法の規格化だ。
「SBRを作るには、乳化重合と溶液重合という2つの方法がある。コスト的には乳化重合が有利で、以前のタイヤは乳化重合SBRが使われてきたが、低燃費競争になり、性能の優れた溶液重合SBRの需要が高まってきた。日本の合成ゴムメーカーは溶液重合SBRを生産しているが、その性能を表す試験法が定まっていなかった。そこでその試験法を規格化したことで、日本の溶液重合SBRの性能の高さをアピールできるようになり、日本製品の国際競争力の向上に繋がった」。
一番苦労した点は言語の問題だという。規格に使われる英語は、日本人が学校で習うものとはかなり異なり、文章も特殊である。「議論では、能動態や曖昧な表現が多いが、規格の文章では受動態が多く、後置修飾の形容詞句も多くなるなど全然違うので、慣れるまで大変だった」とその苦労を語った。
JIS(日本産業規格)の制定・改正とISO規格の制定・改訂は、歩調を合わせて行うことが多い。TC 45に関しては、以前は先にJISを制定し、それをISOに持ち込むことが多かったが、ISO規格の改訂議論の中で、より良い案に変更となる場合もあり、その場合は元のJISをもう一度見直さなければならなかった。最近はISOの改訂タイミングにあわせて、日本からの提案を行い、それに基づいてISO規格が改訂されてから、JISを改正することが増えているとのことだ。その代表的な成果が、耐オゾン性を評価するISO 1431-1※の改訂だ。
「ISO 1431-1は、従来はオゾン濃度と温度しか評価時の条件として規定されていなかった。しかし湿度が変わると、サンプルの耐オゾン性の優劣が逆転することもあるということがわかり、国際会議でそのことをプレゼンして評価時の条件に湿度も加える改訂への承認を得た。そのままだと試験法の規格としてとても不完全なものになるところだった」と胸を張る。
石油に頼らない合成ゴムの生産方法を見つけることが業界の課題
ゴム業界の最大の課題は、石油を使わない合成ゴムの生産方法の確立である。日本も含め、世界中のゴムメーカーが脱石油を目指して模索している状態だ。「バイオマスなど、石油に頼らない合成ゴムの生産方法を確立すべく努力している。それに伴う新しい試験法も求められており、数年前、ゴム製品に含まれるバイオベースの素材の割合を求める試験法規格を日本から提案し、ISOで制定された。今後も、CO2削減や温暖化防止に繋がるような規格を作っていく必要がある」という。
長年企業のエンジニアという立場で、標準化活動に貢献してきた三澤氏は、エンジニアが標準化活動に携わる意義や標準化活動の魅力を次のように語った。「製造業のエンジニアは製品開発が仕事であり、新しい製品を作るには、新しい視点での性能評価が必要な場合が多い。しかし新しい性能評価は共通言語化しないと他の企業やユーザーに伝わらない。そのためにも標準化活動への参加は重要だ。技術者、科学者の仕事は事実をつかむことであり、試験法はその手段となる。技術の進歩とともに規格も成長する必要がある。『標準』も変化し続けるもので、ゴールがない。それが魅力でもある」。
1977年~2011年 | 横浜ゴム株式会社 |
2003年~2007年 | ISO/TC 45(ゴム及びゴム製品)国内審議委員会物理試験分科会 委員 |
2007年~2009年 | ISO/TC 45国内審議委員会物理試験分科会 主査 |
2007年~2009年 | ISO/TC 45/WG 10(用語)及びWG 16(環境)国内審議委員会 委員 |
2007年~2009年 | ISO/TC 45/SC 2(試験及び分析)/ WG 1(物理特性)、WG 2(粘弾性)、WG 3(劣化試験)各プロジェクトリーダー及びWG 4(統計手法)、WG 6(試験室間試験)各WGエキスパート |
2011年~2021年 | 横浜ゴム株式会社 定年退職及び再雇用 |
2014年~2017年 | ISO/TC 45国内審議委員会物理試験分科会 主査 |
2014年~現在 | ISO/TC 45/SC 2/WG 1、WG 2、WG 3各プロジェクトリーダー兼WGエキスパート及びWG 4、WG 5(化学分析)、WG 6(試験室間試験)各WGエキスパート |
2014年~現在 | ISO/TC 45/WG 10及びWG 16(環境)国内審議委員会 委員 |
2017年~現在 | ISO/TC 45国内審議委員会/SC 2 総括主査 |
2019年~現在 | ISO/TC 45国内審議委員会 副委員長 |
2019年~現在 | ISO/TC 45/SC 2 及びSC 3(ゴム工業用原材料)各WGエキスパート |
2019年~現在 | JIS原案作成委員会 副委員長 |
最終更新日:2023年3月28日