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令和4年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.14

経済産業大臣表彰/椎名 武夫(しいな たけお)氏
国立大学法人千葉大学 大学院園芸学研究院 教授

食品の流通を下支えする温度管理包装の国際標準化を推進

製品を適切に輸送する際に重要なのが包装技術である。その中でも輸送中に腐食が進むもの、例えば食品や医薬品の包装には中の温度を管理する構造が必要不可欠だ。食品工学・流通工学を専門とする千葉大学の椎名武夫氏はそのような技術を含む包装分野の国際標準化を約16年にわたり牽引してきた。

前職では国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(通称:農研機構、在籍時の名称は(独)農業・食品産業技術総合研究機構)食品総合研究所に在籍。輸送振動で発生する食品及び包装の損傷をシミュレーションする研究などに携わっていたことから、ISO(国際標準化機構)/TC 122(包装)の国内対策委員会から声がかかる。2006年から本格的に標準化活動に携わるようになり、2015年にはTC 122の国際議長に就任した。
 

2007年の「ISO/TC122(包装)国際規格回答原案の調査作成」及び
それに関する調査研究による欧州調査時の様子
(左から公益社団法人日本包装技術協会の高山臣旦氏、
Thomas Trost氏(訪問時はSTFI-Packforsk ABに在籍)、本人)
(写真提供:国立大学法人千葉大学)

代表的な功績では、ISO 22982-1(小包輸送用の温度制御された輸送包装-一般要求事項)、22982-2(同-試験方法)の策定を推進したことが挙げられる。これは、低温宅配用の容器に求められる性能とその試験方法を定めた規格で、主に食品分野の輸送包装での活用が期待されている。

「日本では、温度管理された宅配が社会に根付いており、世界の先頭を走っていると言っても過言ではない。元々は韓国からの提案だったが、国内外のビジネスに影響することを予想して、我々からも提案を目指した」。

椎名氏は、食品流通の専門的知見があること、公益社団法人日本包装技術協会に長年関わっていることから指名を受け、韓国と共にCoプロジェクトリーダーに就任。国内対策委員会で事前対策を行う他、日本包装技術協会に参加するメンバーなどに声がけし、この分野におけるエキスパート人材の協力を仰いだ。

並行して、日本からの提案では、科学的根拠を提示することも怠らなかった。実験を通じて保冷性能を確かめるなどし、結果のデータに基づいて試験方法の検討を進めた。そのような活動を経て、2021年にISO 22982-1、22982-2の発行が完了。今後、どのような影響を与えていくか期待したいという。
 
断熱容器と蓄冷剤による保冷性能の評価試験例
(写真提供:国立大学法人千葉大学)

「この規格によって、品質の変化を生じさせない物流が可能になる。品質劣化による事故を防ぎ、より良い品質、かつ食品の場合は栄養的に優れたものが消費者の手元に届くようになる。物流業者にとっては事故による損失がなくなり、社会的に見ても食品ロスがなくなるなどメリットは幅広い。さらには、この規格の普及により低温宅配サービスの市場拡大も期待でき、世界の先頭を走っている日本企業をはじめ高品質の宅配サービスを提供している事業者のビジネス拡大にも貢献できるのではないかと考える」。

現在もTC 122の国際議長として精力的に活動中だ。日本の包装分野における技術的蓄積を引き続き活かしつつも、「特定の国のデータやビジネスに基づいて作成した規格は国際的には使われない。公平で、誰でも使えるような規格策定を今後も目指したい」と話す。


企業は特許取得だけでなく、標準化活動にも重きを

椎名氏は既存規格の改訂にも積極的に取り組んでいる。改訂を主導した規格の1つにISO 4180(包装貨物―総合性能試験の一般通則)がある。被包装品の保護を目的に、包装貨物の包装の適正さを評価するための試験やその手順を規定している規格だ。

「改訂のポイントは複数ある中で、包装の適正化は従来からの課題。中身を保護するのに必要最低限の資材を使うことは、環境負荷を減らす観点から重要。しかし、包装が不十分になると中身が損傷し廃棄が出てしまう。異なる物流条件において、最小限だが十分に中身が保護できる、条件が違っても最適包装が可能になるよう改訂を進めた」。

心がけたのは、他メンバーへの事前の連絡だ。「規格を改訂する際、最終的に投票で合意を得なくてはいけない。具体的な活動がはじまる前に、WGメンバーに説明するなど早め早めに情報共有をした。他にも、ISOでは5年に1度、規格の定期見直しの投票が行われる。改訂すべきだと考えている場合、投票前に他国に働きかけ、同調行動を得る努力が不可欠。でないと、多くのメンバーは『確認』に投票し、改訂には至れない」と力説する。

今までの活動で特に印象深かったのは、TC 122/WG 7(不規則振動試験)の会議に出席するべく「1泊4日」でアトランタまで行ったこと。会議の2日後に日本で別の会議があったため、往復便では間に合わず、逆回りのパリ経由で地球を1周して帰国した。「普通ではありえない旅も標準化ならでは」と苦笑する一方、「ドイツやイギリスなど、さまざまな国の専門家と話す機会があり、国内では得られないような交流や知見が深まる」ことが醍醐味の1つと話す。

今後の日本の標準化活動について、「知的財産は今後の日本の発展において必須。企業では特許取得が最優先されるが、当該分野をより戦略的に強化するために、標準化にも重きを置いてほしい。標準化を通じて自分たちの強みを見える化し価値を高めて市場やビジネスの拡大につなげていけるような、長期的・戦略的な取り組みが重要」。標準化活動は、新たな発見や人脈を生み、キャリアの飛躍にもつながる可能性がある。積極的な参画を期待したい、とメッセージをもらった。
 

【略歴】
1982年~1991年 農林水産省 食品総合研究所 農林水産技官・研究員
1991年~1997年 農林水産省 北海道農業試験場 研究員/主任研究員
1997年~2006年 農林水産省(2001年からは独立行政法人)食品総合研究所 食品工学部流通工学研究室長
2006年~2014年 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 流通工学ユニット長
2006年~2016年 ISO/TC 122(包装)/SC 3(包装方法、包装及びユニットロードに関する性能要求事項及び試験方法)/WG 7(不規則振動試験) 国内SWG1委員
2012年~2016年 ISO/TC 122/SC 3/WG 7 ISO 13355(包装貨物試験方法―垂直不規則振動試験)改訂プロジェクトリーダー
2013年~現在 ISO/TC 122 国内対策本委員会副委員長
2014年~現在 国立大学法人 千葉大学 大学院園芸学研究科 教授
2015年~現在 ISO/TC 122 国際議長
2016年〜現在 日本工業標準調査会(船舶・物流/標準第一) 臨時委員/日本産業標準調査会 交通・物流技術専門委員会委員長
2018年〜2021年 ISO/TC 122/WG 16(温度管理包装) エキスパート/ISO22982-1、22982-2(小包輸送用の温度制御された輸送包装一般要求事項、試験方法) Coプロジェクトリーダー
                       

最終更新日:2023年3月28日