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令和4年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.16

経済産業大臣表彰/橋本 秀一(はしもと しゅういち)氏
株式会社デンソーウェーブ 技術開発部技術管理1室

産業用ロボットの標準化で日本の存在感を高める役割果たす

ロボットは鉄腕アトムをはじめとするアニメの影響もあって、人に役立つ存在として広く日本国民に親しまれてきた。それもあって、工場で危険の多かった作業や単純繰り返し作業をロボットで自動化して作業者の負担を減らそう、作業者にはより良い仕事、人ならではの高度な作業で活躍してもらおうと、ロボットメーカー、システムインテグレーター、ロボットユーザーが一体となって自動化を目指し、またサーボモーターや減速機など日本が得意とする高性能・高品質の要素技術の強みを生かしてきた結果、産業用ロボットは、自動車や工作機械などと並んで日本が世界をリードする分野となっている。しかし、国際標準化の世界では、日本の存在は希薄な時代が長く続いていた。

株式会社デンソーウェーブの橋本秀一氏はロボットメーカーの出身として、いち早く国際標準の重要性に着目、欧米の主要メンバーとの関係強化に取り組み、産業用ロボットの安全規格「ISO 10218シリーズ(ロボット及びロボット装置)」の策定作業において、日本の存在感を大きく高めた。同時に主要ユーザーである自動車メーカーを巻き込むことで、日本のロボットメーカーが国際標準化活動に参画するきっかけを作ることにも尽力した。

産業用ロボットは空間をロボットの腕(マニピュレータ)が高速で動くため、人が不用意に近づくと危険だ。過去には不幸にも死亡事故も発生している。このため、日本では労働安全衛生規則により、産業用ロボットの安全対策や作業員に対する特別教育の実施が義務づけられている。同様の規制は各国で独自に定められており、内容はバラバラの状態が続いていた。
 

左:協働ロボットの一例、右:協働ロボットを含むシステムのイメージ
(画像提供:株式会社デンソーウェーブ)

ロボットが世界中で稼働するようになると、各国で異なる規制のままでは不都合が生じることから、国際標準化が必要との声が高まってきた。世界一律な安全基準を設ければロボットメーカー、周辺機器メーカーは、同じ製品仕様で世界中に販売できるようになる。また、ロボットユーザーにとっても世界中の工場で同じ安全基準で稼働させることができ、安全管理の効率化にもつながる。

ISO(国際標準化機構)でロボットの安全規格を検討する部会として、ISO/TC 299(ロボティクス)/WG 3(産業用ロボットの安全)が2002年に立ち上がり、橋本氏は日本代表として参加した。当初の提案は米国が自国で策定した安全規格をそのままISOで国際標準にするように求めたものだった。

「最初の会議は、私自身何の準備もしておらず、ただ座っているだけというものだった。しかし、欧米の議論を聞く中で、このまま日本が関与せずに規格が制定されてしまうと日本のロボットメーカーだけでなく、ユーザー企業にとっても問題なのでは、という思いが強くなってきた」と、受け身の姿勢を改める必要があることを痛感したという。

同じころ、トヨタ自動車株式会社はカナダが策定した工場の安全規格が必要以上に厳しいことに苦慮していた。橋本氏がISOにおける日本代表であることを聞き、トヨタの担当室長が橋本氏に声をかけ、規格策定の状況を聞いた。その話の中で両者は「日本もISOの場で意見を言わなければダメだ」という考えで一致した。それから、トヨタが株式会社安川電機などの国内ロボットメーカーを集め、そこに業界団体である一般社団法人日本ロボット工業会も参加するかたちで、国内企業による検討作業が始まった。安全柵のカバーの設置など日本の考え方を事前にまとめ、国際会議で意見表明を行うなど、活動を活発化させた。

欧米の主要メンバーは日本のこうした積極姿勢への転換を半信半疑で見ており、当初は日本の意見を聞き入れようとはしなかった。当時はまだ「日本は情報をとるだけで、規格制定には貢献しない国」と思われていたからだ。そこで橋本氏ら日本メンバーは2004年の会議を日本に誘致した。デンソー本社で会議を開催し、同時に代表団をトヨタ自動車やデンソーの工場に連れて行き、ロボットの安全性がいかに重要視されているかを、実際に見てもらい、日本が本気で取り組んでいることを説明した。さらに夜はしゃぶしゃぶパーティーを開催し、休日には京都観光に連れて行くなど、日本流の〝おもてなし〟をしたことで、「一気に関係は密接になっていった」と言う。
 

ディベート力不足を補う工夫重ねる

こうした努力を重ねることで、日本の本気度が伝わり、標準化活動における日本の存在感も高まっていくこととなった。英語のディベート力不足を補うために、実例に基づいた資料を作成したり、ビデオ映像を提供したりすることで、日本の意見の妥当性を説明することにも力を注いだ。「日本のメンバー間で説明の担当者をあらかじめ決めておき、他国から反論が出れば、すかさず担当者が対応することで、反論に対処できるようにした」。日本人が苦手とするディベートも工夫することで乗り越えられることを証明した。

橋本氏がロボットの安全に関する国際標準に関わるようになったのは、エンジニアとして開発に携わっていたモバイルロボットを検討する上で、安全性が避けて通れないと考えたからだ。メーカーの立場で国際標準化活動に参加するメリットは「製品仕様に反映すべき安全規格情報をいち早く入手し、規格にはなっていなくとも実際の製品仕様に落とし込む際の落としどころをつかむことができること。顧客にも規格への適合性について適切にアドバイスができること」と指摘する。一方で「周囲から『海外に出張していいね』と思われて国際会議に参加することの大変さを分かってもらえない」という悩みもあったと言う。

橋本氏は現在66歳で、会社の再雇用の年限を超えて、国際標準活動において、余人をもって代えがたい人材として仕事を続けている。その一方で、若手の中から業務を引き継げる人材を探し、育成にも取り組んでおり、「国際会議に出てコミュニケーションをとれるようになるには、日本の文化について、例えば漫画でもいいので、共通の話題がつくれるものを持っていることが大切」とアドバイスする。
 

【略歴】
1989年~2016年 日本電装株式会社(現株式会社デンソー)
1997年~1998年 JIS B 0134(産業用マニピュレーティングロボット−用語)改正原案作成委員会委員
1997年~現在 ISO/TC 299(ロボティクス)(旧ISO/TC 184(オートメーションシステム及びインテグレーション)/SC 2(ロボット及びロボティクスデバイス)/WG 3(産業用ロボットの安全性)国内ワーキンググループ委員
2001年~現在 株式会社デンソーウェーブ出向、後に転籍、現在は定年後の嘱託社員
2002年~現在 ISO/TC 299 /SC 2 /WG 3 日本代表、エキスパート
2017年~現在 ISO/TC 299 /WG 1(ロボット用語)エキスパート
2021年~現在 ISO/TC 299 /WG 8(協働アプリケーションの妥当性確認方法)エキスパート
                       

最終更新日:2023年3月28日