経済産業大臣表彰/平本 俊郎(ひらもと としろう)氏
国立大学法人 東京大学 生産技術研究所 教授
電子実装技術を扱うIEC/TC 91の国内委員長として活動を牽引
パソコンやスマートフォンなどの電子機器を解体すると、プリント基板と呼ばれる緑色の板が出てくる。この板に電子部品を組み込み、機器がきちんと機能を果たせるようにする技術を「電子実装技術」と呼ぶ。国立大学法人東京大学の平本氏は、半導体を専門としながらも、この実装技術を取り扱うIEC(国際電気標準会議)/ TC 91(電子実装技術)の国内委員会委員長を2012年から務め、今年で11年目になる。
「電子実装技術は電子部品、電子材料、半導体パッケージ、プリント配線板、その設計などの総合技術。ものづくりと材料に強い日本のまさに得意分野であり、このTCも日本の呼びかけにより設立したもの。東京大学の多田邦雄先生が長らく委員長を務められていたが、後任として私に白羽の矢が立った。この分野を専門とする大学教員は少ないため、専門が違えども、調整役にうまく回れそうな人を呼んだのかもしれない」と振り返る。
専門が違う立場からの参加は、規格の細部まで理解が追いつかないなど大変なこともあるが、活動全体を客観視しやすくなるなど、メリットも多い。自らを「調整型の委員長」と呼ぶ平本氏によると、国内委員長としての活動は大きく分けて2種類ある。
一つ目は、TC 91のWG(ワーキンググループ)で技術的な課題がクリアになった国際規格案について、日本としてどう対応すべきか、委員会での議論をリードすることだ。「この規格は国際の場でどのくらいアピールすべきか、他の国が似た規格を提案したらどうするのかなど、委員会ではさまざまな議論が行われる。委員長としては、誠意を以って全ての議論に向き合うことが重要。それが信頼関係の構築へとつながり、この委員会で決まったことは納得できる、という雰囲気が醸成される」。
基板実装メーカー、部品メーカー、材料メーカー、実装機メーカーなど多種多様な利害関係者が参加する中で40回を超える国内委員会の会議を調整した。日本提案の61件の規格発行、17件のNP(新業務項目提案)に貢献し、更なる日本のプレゼンス向上へとつなげた。
二つ目は、国内委員会そのものの運営だ。印象深かったのは、TC 91と旧TC 93(デザインオートメーション)の統合の際の対応だった。「TC 91の委員長になりたての時にTC 93が解散となり、TC 93のメンバーをお迎えすることとなった。新しく入ってきた彼らが早く馴染めるよう、会議では彼らが発言できる時間を多くとった。加えて、懇親会なども開催し、こちらがウェルカムであるということが伝わるよう、コミュニケーションをとった。すぐに皆打ち解けられ、統合が成功してよかった」。
平本氏がリーダーシップを発揮するTC 91。活動による社会的な影響をたずねると「電子機器の小型化への貢献に尽きる」と力強い返答があった。「実装技術が進化すれば、機器はどんどん小さくなる。小さくなればなるほど、消費電力やコストが圧倒的に減る。他にも、電子部品の鉛フリー化など、環境配慮の観点からも規格の改訂は進んでいる。消費者の生活にも、SDGsにも、良い影響を与えられるようなTC 91の活動を、日本が主導できていることは素晴らしい。しかし、この立ち位置に胡座をかかず、常に他国をリードできるよう、引き続き頑張りたい」。
コスト競争に負けない技術を持つことが必須
国内委員長を務める傍ら、計10回のTC 91総会に日本代表として参加した。多数の国から200〜300人ほどの参加メンバーがいる中で、日本への注目を集めるために工夫したのがスピーチである。
「総会の前に行われるレセプション・パーティーでは最初と最後にスピーチをする時間がある。2012年、総会が福岡で行われたので、私は最後のスピーチを任された。日本人のスピーチは英語の原稿を淡々と読むことが多いが、私は気を張らずに笑いをとりにいこうと思った。多田先生のことや、私が仕事を引き受けた経緯などを楽しく話したら、非常にウケた。日本人がやる典型的なスピーチとは異質なものだったが、そこがよかったのだと思う」と微笑んだ。
他にも、海外から参加するメンバーと積極的に会話することを心がけた。「海外メンバーは、さまざまな議論をふっかけてくるのが面白い。世界史や日本史などの知識がないと、きちんと答えられない。常日頃から本を読むなどして知識を蓄え、話題を用意しておくことを心がけるようになった」
一方、パーティーのような場では、日本人メンバーは固まってしまいがちであると課題も指摘した。「さまざまな話題についてとことん話すこと。これが、後々の標準化における合意形成にも確実に役立つ」と力説する。
前列左から3人目が平本氏。
今後の目標は、他TCとの連携強化だ。「電子実装技術は半導体分野との垣根がなくなってきており、垣根があると他国に後れを取ってしまう。海外の技術が先に進むと、追従するのはとても大変。半導体のTCと常日頃からコミュニケーションがとれるような関係性の構築を目指していきたい」。
大学教授としては、教育プログラムの中で標準化について学生たちに教える機会のない現状は改善すべきだと考える。「学生の皆さんには標準化の仕組みを若いうちから学んでもらいたい。標準化すると、参入障壁を下げることになる。すると、多くの人や企業が参入し、コスト競争になるので、差別化できる技術を持っておくことが必要不可欠。規格を策定する際は、核となる部分は隠し、それ以外のことはオープンにすると、自分たちの技術は守れるが、その周りの備品はとんでもなく安くなり利益を生みやすくなる。そのような戦略の立て方を学生に対して分かりやすく説明できる場があると良い」と語った。
1989年〜1994年 | 株式会社 日立製作所 デバイス開発センタ |
1994年〜2002年 | 東京大学 生産技術研究所 助教授 |
2002年〜現在 | 国立大学法人 東京大学 生産技術研究所 教授 |
2012年〜現在 | IEC/TC 91(電子実装技術)国内委員会 委員長 |
2012年〜現在 | IEC/TC 91 日本代表(Head of delegation) |
2016年〜2020年 | 日本産業標準調査会 標準第二部会 電子技術専門委員会 委員 |
2019年〜2021年 | 一般財団法人 日本規格協会 電子分野産業標準作成委員会 委員 |
2020年〜現在 | 日本産業標準調査会 標準第二部会 電子技術専門委員会 委員長 |
2020年〜現在 | 日本産業標準調査会 標準第二部会 委員(JISC臨時委員) |
2021年〜現在 | 一般財団法人 日本規格協会 電子分野産業標準作成委員会 委員長 |
最終更新日:2023年4月17日