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令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 永島 敬一郎(えいしま けいいちろう) 氏

東京海上日動火災保険株式会社  航空宇宙・旅行産業部  エアライン宇宙保険室  技術顧問

コンビーナとして多くの国際会議を運営

 

 人類の活動領域が急速に拡大する現在、宇宙空間の利用に関する国際的なルール策定は重要なテーマとなっている。東京海上日動火災保険株式会社 航空宇宙・旅行産業部エアライン宇宙保険室 技術顧問の永島敬一郎氏は、ISO/TC 20(航空機及び宇宙機)/SC 14(宇宙システム及び運用)の日本代表団長、及びWG 1(設計検討)のコンビーナとして、18年間にわたって各国との橋渡し役を務め、経済産業大臣表彰を受賞した。

 永島氏は多くの衛星、ロケット及び搭載機器に対するISO規格の策定にあたり、日本がWG 1活動において提案した12件の成立に貢献した。また、宇宙を利用した地上サービスに関する規格開発の重要性を認識し、当初はロケット、衛星、探査機、宇宙ステーションなどを開発・設計・製造・運用する規格等を対象として開発していたSC 14に対し、宇宙を利用した地上サービスに関する国際標準の重要性についてプレゼンテーションを行うとともに具体的な規格開発活動を進め、2022年のWG 8(宇宙利用サービス)設立に尽力した。

 標準化の必要性について永島氏は、コンビーナ就任前はあまり意識したことがなかったと振り返る。「日常生活で、世界共通の課題について考える機会は多くありません。しかし、災害発生時には事情が異なります。WG 1コンビーナ就任後に発生した東日本大震災では、広域の被害状況把握への対応が大きな課題になりました。被害状況の調査、分析を進めるにあたっては、地上システムと宇宙システムを一体化して取り組むことが求められます。宇宙を利用した地上サービスは世界規模で行われていますが、そのための国際的なルールづくりは進んでいませんでした。そこで、災害対応など私たちのQOL(生活の質)向上につながる国際標準策定をめざす方針を決定しました」。

 

 永島氏が提唱した宇宙を利用した地上サービスに関する国際標準化活動は、2023年6月に閣議決定された「宇宙基本計画」の前文にも記されている。「上空に配備された多種多様な人工衛星群等からなる宇宙システムが地上システムと一体となって、地球上の様々な課題の解決に貢献し、より豊かな経済・社会活動を実現するようになってきている。」などを現実化させる一助になるものと期待される。



 宇宙利用サービス領域の標準
宇宙を利用した地上サービスは、地球上にいる人が利用し、地上のサービスやシステムと連携するものであることから、国際標準化を進める上でも宇宙側と地上側が一体化して推進することが求められる。
出典:船技協第7回標準化セミナー 講演「ISO/TC 20/SC 14(航空機・宇宙機専門委員会/宇宙システム・運用分科委員会)への日本の取組」講演資料(2014年2月12日)


日本からの提案を成立するため賛同者の獲得に注力

 世界規模で標準化を推進するためには、関係各国との意見調整が重要なポイントとなってくる。しかし、この意見調整は一筋縄ではいかないものだったと永島氏は振り返る。
 
 「国際標準化は、最初の提案から何回も協議を重ねて行われます。その手順は非常に複雑で、投票では3分の2以上の賛成を得られないと成立しません。コンビーナとして国際会議を運営した当初はこの仕組みがわからず戸惑いました。そこで、まずは参加者の方々と会話を重ね、提案の趣旨を理解していただくことに徹しました」。

 国際会議には、世界各国の宇宙開発のエキスパートが参加する。永島氏は会議中だけでなく、コーヒーブレイクや会食の場でも積極的に話しかけるようにし、参加者とのコミュニケーション強化を図っていった。もちろん、会話はすべて英語だったため、その場で話される広範な話題にすべて対応することは難しく、意思疎通の不備を感じる部分もあったという。しかし、公式な場では聞けない話を伺うことができたため、情報交換の場として重視していったという。

 そして、提案は世界各国から行われているが、最近は特にヨーロッパおよび中国からの提案が目立つと永島氏は指摘する。「ヨーロッパの企業や研究機関は、国際標準や欧州地域標準を戦略的な武器と捉えている印象を持っています。その反面、ヨーロッパが反対する提案は成立しにくいということにもなりますので、彼らとの関係をいっそう強化する必要があると考えていました」。たとえば、宇宙を利用したい地上サービスに関する活動を開始した時はドイツ及びフランスのエキスパートに働きかけ、ドイツのエキスパートには上図(スペースセグメントと地上セグメントを連携した標準を作成する概念図)を、フランスのエキスパートには下図のイメージ図[Examples of space Based Services(Applications)]を、作成してもらい、欧州勢の賛同を得て進めた。



宇宙を利用した地上サービスの例(応用例)
出典:船技協第7回標準化セミナー 講演「ISO/TC 20/SC 14(航空機・宇宙機専門委員会/宇宙システム・運用分科委員会)への日本の取組」講演資料(2014年2月12日)


 標準化を推進する目的の一つに貿易促進や市場の拡大というテーマがある。地球規模で利用する技術である宇宙関連技術も例外なく国際競争力の強化が求められている。日本からの提案を国際標準化として進めていくためには、世界各国、特に欧州からの賛同者を増やすことが欠かせない。永島氏のこれまでの功績は自身が積み重ねてきた尽力の結果ともいえる。



2009年5月にドイツ・ベルリンで開催されたISO/TC 20/SC 14総会で講演中の永島氏(写真中央)
出典:船技協第7回標準化セミナー 講演「ISO/TC 20/SC 14(航空機・宇宙機専門委員会/宇宙システム・運用分科委員会)への日本の取組」講演資料(2014年2月12日)
 

心・技・体の合一による「日本流の道」で拓く

 これまでの活動により策定された標準の活用に向けて、永島氏は次のように語る。「標準とは品質向上、信頼性向上を実現するものであり、さらに作業効率ノウハウの宝庫だと認識しています。産業基盤強化の一環として今後も活発な活動を継続し、各機関、企業での活用を推進する計画です」。

 将来の活動を担う若い人たちへのメッセージとして、標準化の現場になれること、そして「日本流の道」を歩んでほしいという。標準化の国際会議に出席する各国の参加者はその道のエキスパートばかりである。英語によるコミュニケーションも大事ではあるが、まずは相手となる専門家たちに自分自身の考えや想いを理解してもらうことが求められる。そのためにも英語によるコミュニケーションが困難な場合には、身振り手振りおよび手書き等で自分の熱意を現場に臆することなく積極的に発言して慣れることが大切だ。

 「標準化に関する教育や英語力は大切ですが、それ以上に標準化の現場に慣れることが重要です。簡単な質問をするだけでも良いので、積極的に話し合いに参加するよう心がけていれば、自然に自分の意見を主張できるようになるはずです。その上で活動のバックグラウンドとなる知識や技術を養い、“心・技・体”が一致した日本流の取り組みを進めてほしいと願っています」。さらに、今後継続的に議論すべきエキスパートが会議の場で見出せた場合は、日本にしかない物を次の会議の時に手土産として手渡すのも本音ベースで議論を行う一助になるという。

 一方、国際標準化に関わる人材の立場向上と育成対策として、永島氏はESA(欧州宇宙機関)、NASA(アメリカ航空宇宙局)の標準化専門組織と同等の組織を国内の企業、研究機関内部に構築すべきであると提案している。これにより組織内の標準と外部標準を一致させ、将来の国際化に向けた道筋がより明確化すると指摘した。国際標準により品質や信頼性を確保しつつ高いレベルでのフェアな競争を促進することが、世界の人々のQOL向上に寄与すると永島氏は考えている。そして、これからも高度な衛星技術を利用した地上サービスでますます社会に貢献していきたいとの抱負を語った。


 
【略歴】
1974年4月~2012年3月 三菱電機株式会社 鎌倉製作所 入社
2000年10月~2007年3月 同上 所長室 技師長
2007年4月~2012年3月 同上 技術顧問
2003年4月~2021年12月 ISO/TC 20(航空機及び宇宙機)/SC 14(宇宙システム及び運用)/WG 1(設計及び製造)コンビーナ
2003年4月~2022年3月 ISO/TC 20(航空機及び宇宙機)/SC 14(宇宙システム及び運用)/国内対応委員会委員長(日本代表委員)
2012年4月~2023年4月 東京海上日動火災保険株式会社 航空宇宙・旅行産業部 エアライン宇宙保険室 技術顧問
2022年4月~現在 ISO/TC 20(航空機及び宇宙機)/SC 14(宇宙システム及び運用)/WG1(設計検討)委員
2022年11月~現在 ISO/TC 20(航空機及び宇宙機)/SC 14(宇宙システム及び運用)/WG8(宇宙利用サービス)委員

最終更新日:2024年4月24日