経済産業大臣表彰 尾崎 晴男(おざき はるお) 氏
国内委員会のリーダーとして相互理解を促進
東洋大学総合情報学部教授の尾崎晴男氏は1997年からISO/TC 204[高度道路交通システム(ITS)]に参加し、標準化活動に取り組んできた。ITSとは、最先端の情報通信技術を活用し、人、道路、車両をネットワークでつなぐことによって交通事故や渋滞などの道路交通問題を解決する新しい交通システムだ。
「道路交通に関する情報を利活用する取り組みは1960年代から見られ、コンピュータが広く使われるようになった1980年代以降は、情報通信技術の進化とともにITSの整備が大いに進みました。私は土木系の交通工学からITSの幅広い分野に関わり標準化活動に参加したので、たくさんの勉強をすることになりました」と尾崎氏は語る。
TC 204は1993年から活動開始、ISOのTCの中でも比較的規模が大きく、現在は30カ国以上のメンバーが積極的に参加している。当初は欧米諸国が多かったが、近年はアジア諸国の参加も増えてきた。そのTC 204に対応する国内委員会であるITS標準化委員会で、尾崎氏は2010年から委員長を務めている。
「ITS標準化委員会は、日本におけるITS標準化に関する審議機関で、公益社団法人自動車技術会に設置されています。日本から新たな規格を戦略的に提案して、世界でそれが採用されるように促します。また、半年に1回開催されるTC 204総会の準備と結果に関する審議、TC 204を構成する作業グループと合わせると50名にものぼる国際会議参加の専門家のフォローなども行います。今回の受賞は、日本国内でこれまでにITSに関わった多くの人たちの成果を、私が代表して受け取る形だと理解しています」。
2019年4月、アメリカ・フロリダで開催されたISO/TC 204総会で登壇中の尾崎氏
尾崎氏が委員長を務めるITS標準化委員会には30人ほどの委員が所属する。製造者、消費者、中立者として、さまざまなバックグラウンドの民・官・学の委員で構成される。尾崎氏は委員会の関連活動を通じて、内外の利害関係者の相互理解と連携促進に尽力し、56件の新規提案と36件の技術報告書等の日本発規格類発行に貢献してきた。
標準化ができていなければ、1つの製品を導入すると、他のメーカーの製品との互換性もなく、製品の変更がしづらくなる。標準化することでリプレイスが容易になるため、コストダウンにもつながる。これが標準化の大きなメリットだ。
「製造する側にとっても、標準があれば、製品やサービスを作りやすくなります。標準に沿って仕様のベースを確保した上で、創意工夫によって魅力あるものを作っていくことができるのです」。
アジアでシンポジウムを開催、参加国を増やす
尾崎氏が初めてTC 204の標準化活動に参加したのは27年前、先輩に頼まれたのがきっかけだった。「ITSのアーキテクチャがテーマの作業グループで、最初はかなり戸惑いました。当時の作業項目は、幅広いITSの基本的なサービスのリスト、そしてこれらITSサービスを実現する論理アーキテクチャのUMLによる記述、などでした。システム構造の記述方法とITSのさまざまなサービスの論理的実現方法から考える必要があり、知識の習得からの出発でした。でもいま振り返ると、当時としては新しい分野でしたし、機能などの物理的な配置を変えるとシステムのイノベーションにもつながる訳で、30代だった私にとってとても良い学びの機会となりましたね」。2010年からITS標準化委員長とTC 204日本代表団長を務めるようになってからは、関係者との調整も増えることになった。技術的な進捗度合いや文化的な経緯もあって、日本の提案が他の国で受け入れられにくいこともあれば、他の国からの提案が日本にはそぐわないこともある。
2012年7月に中国・北京で開催されたISO/TC 204シンポジウムで講演中の尾崎氏
最新の自動運転の標準化から若手を呼び込む
「活動開始から30年、TC 204も参加者の高齢化が進み、世代交代が課題となっています」と話す尾崎氏。国際標準化の活動を通じて技術者が大いに育成されるとの経験から、若手の参加者を増やしていくため、さまざまな企業にも働きかけているところだ。人材獲得の突破口となり得るのが、TC 204で最も力を入れている自動運転に関する標準化活動だという。AIやビッグデータなど最新の技術を活用することになり、関連する作業グループもTC 204で新たに誕生している。
「自動運転はまだ市場普及には至っていませんが、どんな機能を持たせるか、その機能を確認するためにどんな試験をすればよいのかといった基本標準の開発を今まさに積み重ねているところです。自動運転で参照する地図や刻々と変化する周辺の人や車の位置情報、遵守すべき交通規制の情報など、情報のデジタル化において標準化しておくべきものは多数あります。さらに、自動運転車を活用するさまざまなサービスの要件整備へ拡がっています。さらに自動運転から始まる社会の変革にもつながります。複雑かつ面白い分野なのです」。
TC 204には現在13の作業グループがあり、そのうち自動運転にはなくてはならない走行制御とデジタル地図分野の2つのグループでコンビーナを日本が務めている。「最先端技術の活用と関連分野の拡がりは、若い人たちの興味を引くものだと期待しています」と尾崎氏。ITS標準化委員会では活動を知ってもらうため「ITS標準化フォーラム」を毎年開催して、活動の意義と最新状況をITSの普及に関心を持つすべての人に対して発信している。
「人間と人間が議論し、調整しながら合意を作っていく。産業標準化は、とても面白い分野です。これからの若い人たちにも、きっと魅力を感じてもらえると思います」。
1997年3月~2006年3月 | ISO/TC 204[高度道路交通システム(ITS)]国内委員会/WG1(アーキテクチャ)国内分科会 委員 |
1997年3月~現在 | ISO/TC 204/WG 1 エキスパート |
1997年4月~2000年3月 | 道路・交通・車両インテリジェント推進協議会(現ITS Japan)海外システムアーキテクチャ開発動向動向調査分科会 団長 |
1997年4月~2004年3月 | 東洋大学 工学部 助教授 |
2004年10月~2007年3月 | ISO/TC 204/WG 1 プロジェクトリーダー(ISO/TR 24098) |
2004年4月~2009年3月 | 東洋大学 工学部 教授 |
2006年4月~2010年3月 | ISO/TC 204国内委員会/WG 1国内分科会 会長 |
2009年4月~現在 | 東洋大学 総合情報学部 教授 |
2010年4月~現在 | ISO/TC 204国内委員会 委員長 |
2010年4月~現在 | ISO/TC 204日本代表団長(Head of Delegation) |
最終更新日:2024年3月26日