1. ホーム
  2. 政策について
  3. 政策一覧
  4. 経済産業
  5. 標準化・認証
  6. 普及啓発
  7. 表彰制度
  8. 令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 笠原 又一(かさはら またいち) 氏

日本滑り軸受標準化協議会 アドバイザー

日本提案でISO 21433(滑り軸受の取り扱い)を規格化

 

 OA機器から自動車、建機などの大型機械、ダムなどのインフラ、ビルの免震装置まで幅広い分野で利用されているのが、少量もしくは無給油で使える滑り軸受(オイルレスベアリング)である。それらを主体に滑り軸受全般の国際標準化に24年余り取り組んできたのが経産大臣表彰を受けた日本滑り軸受標準化協議会の笠原又一氏だ。

 笠原氏はISO 21433(滑り軸受の取り扱い)、ISO/CD 8838(水潤滑軸受材料)およびISO/CD 12843(滑り軸受の再利用・リサイクル及び廃棄)を日本提案の国際規格として国際会議で提起し、プロジェクトリーダーを担い、規格開発を行った。ISO 21433は製造された軸受が適切に「梱包・輸送・保管・取付け・取外し」できるように記述されており、これにより軸受の破損や腐食による機能損失防止や、本来は不必要な軸受の廃棄を回避することができた。

 その上で、現在、規格開発中のISO/CD 8838及びISO/CD 12843は地球環境保全・環境負荷低減の視点から規定されており、今後、軸受のリサイクル推進や潤滑油使用削減への貢献が期待されている。また、笠原氏はISO/TC 123(平軸受)/SC 6(用語及び共通事項)の国際議長を務め、ISO 4378シリーズ(用語・定義・分類及び記号)の内容では理解しにくい表現となっていることを明らかにした。そこで、図の追加などにより、利用価値の高い規格改定を行った結果、各国の国内規格への採用や利用を進めることができた。
 

 



2018年10月24日~26日にドイツ・ベルリンで開催されたISO/TC 123のSC 6委員会では笠原氏が議長を務めた。
(写真右側の一番奥が笠原氏)




滑り軸受は自動車産業や船舶などの輸送機械、工作機械やプラスチック成型機などの産業機械など様々な分野で利用されている
(画像は自動車用エンジンの内部で使用されている滑り軸受の例)。
出典:「すべり軸受資料集」P.2(2004年、社団法人日本トライボロジー学会編、養賢堂)



 笠原氏は「標準化活動は社会の改善に貢献します。2011年の東日本大震災の際には関西と関東の周波数の違いにより電力供給に支障が出ました。また鉄道の軌条の幅が異なるところでは電車の相互乗り入れが難しいなど、いずれも標準化されていないことの弊害と考えます。豊かで便利な社会を築いてゆくためには標準化を進めていくことが必要です」と語る。
 

アジア諸国の技術者教育に尽力、ISOへの参加を推進

 企業が持続的に発展していくには顧客の要望に応える製品をグローバルに提供することが欠かせない。「現在、自動車など日本企業の製品は世界中で使われており、どの地域でも主な機械要素である『滑り軸受』が現地で調達できなければなりません。そのためには、標準規格品の迅速な入手可能な体制が必要で、企業がシェアを拡大していくためにも標準化が必須です」。

 笠原氏が標準化に取り組んだ動機は、ISOの規格が一部の国の内容で制定され、日本の技術レベルと比較して劣っているように見えたことだった。そのままでは日本の輸出製品にも悪影響が出ると考え、日本の意向をISOに反映するための取り組みを始めた。そして、現行標準の改定・新規提案を容易にするために日本がISO/TC及びSCの幹事国になること、生産者および需要者の双方の要望を満たす標準とすること、経済産業省および日本規格協会の指導を受け、情報を得ること、経済的な支援策を確保すること、海外関係の協力を得ること、の5つに取り組んできた。「2004年にはメーカーとユーザー企業を主体とした『日本滑り軸受標準化協議会』を創設し、標準化活動をバックアップすることにしました」。
 EUは主要国が大陸で隣接していて、各国の同意を得るのも比較的容易だ。しかし、日本はアジア諸国の合意を得るにも、海外渡航が必要になり、ハンディがある。「そこで、経済産業省のアジア太平洋地域標準化体制整備事業に応募し、4年間にわたってアジア地域の技術者を招くとともに、講師を派遣して標準化教育活動を実施しました」。その結果、アジア諸国の技術者がISO/TC 123委員会に参加するようになり、国際会議では日本の提案が積極的に支持してもらえるようになった。
 「加えて、私が日本の学会で編集責任者を務めた『滑り軸受資料集』はアジアの標準化活動の仲間作りの一環として、マレーシア、タイ、フィリピン3カ国語と英語、日本語で刊行しました。その結果、多くの人たちにこの学術分野(トライボロジー)の発展に参画してもらうことができ、標準化の推進に貢献できたと考えています」。


笠原氏が編集に携わった「滑り軸受資料集」のマレーシア語版はマレーシアのマラヤ大学で参考書として採用された。
写真は2013年12月にマラヤ大学で行われた軸受資料集発刊調印式の模様(写真中央が笠原氏)。


標準化でより広い市場を獲得できるメリットを訴える

 国際標準化について、匠の技の継承という歴史がある日本は、欧米とは考え方に違いがある。技術の継承という良い点は残しつつ、標準化の利点と必要性を高校や大学の教育カリキュラムに組み入れることが重要だ。若い時から標準化の意義を考えておくことはその後の仕事の面だけでなく、実際に標準化の業務に携わった場合にも大いに役立つ。この点について笠原氏は「企業経営者の一部は独自製品にこだわり、標準化でその特性が失われることを懸念しています。それは理解しますが、製品によっては標準化によって、より広い市場を得ることができるメリットがあることを理解することが大切です」と語る。

 ほとんどの企業の技術開発ないし研究開発部門には管理部門がある。管理部門に対しても、知的財産と同様に、どのように標準化を進めれば利益の最大値を得ることができるかを計測するための教育が必要だ。研究者は発明や技術開発に全精力を投入しており、標準化には時間を割くことは難しい。それを補うために、経済産業省もしくは日本規格協会が実施する研修事業の受講を通して、スタッフを育成することも求められる。

 最後に、今回の受賞について「一緒に活動している委員会の仲間の協力によるもので、チームとしての受賞だと考えています。長年にわたる標準化活動を評価していただいたことは大変嬉しいことで、ISO/TC 123の委員会及び支援団体の協議会のメンバーにとっても、標準化活動を推進していく上での大きな力づけになります。さらに、若い時から標準化の意義を考えておくことは標準化業務だけでなく、仕事の面でも大いに役立ちます。高校生や大学生にはぜひとも標準化について学んでほしいと思います。今後は大学等で標準化講座を開設することも期待したいです」と述べて締めくくった。
 
【略歴】
1964年4月~2010年6月 オイレス工業株式会社入社
1986年4月~1987年2月 JIS K 7218「プラスチックの滑り摩耗試験方法」JIS原案作成委員会 委員
1988年4月~1989年3月 JIS E 4119「鉄道車両用ポリウレタン製ブシュ」JIS原案作成委員会 委員
1998年1月~1999年3月 JIS B 1583「すべり軸受-損傷及び外観の変化に関する用語、特徴及び原因」JIS原案作成委員会 委員
1998年12月~2001年12月 日本トライボロジー学会 第1種研究会「すべり軸受に関するISO/JIS調査研究会」委員
1999年4月~2006年3月 日本機械学会「ISO/TC 123平軸受国内委員会」幹事
1999年4月~現在 日本機械学会「ISO/TC 123平軸受国内委員会」委員
2001年12月~2004年3月 日本トライボロジー学会 第2種研究会「すべり軸受標準化規格原案検討研究会」委員
2004年10月~2008年3月 「日本滑り軸受標準化協議会」常任幹事
2008年2月~2011年8月 ISO/TC 123(平軸受)/SC 6(用語及び共通事項)国際幹事
2008年4月~2018年3月 「日本滑り軸受標準化協議会」会長
2011年9月~2019年12月 ISO/TC 123/SC 6国際議長
2016年1月~2018年10月 ISO 21433「滑り軸受の取り扱い」プロジェクトリーダー
2018年4月~現在 「日本滑り軸受標準化協議会」アドバイザー
2021年10月~現在 ISO/CD 8838「水潤滑軸受材料」プロジェクトリーダー
2022年2月~現在 ISO/CD 12843「滑り軸受の再利用・リサイクル及び廃棄」プロジェクトリーダー

最終更新日:2024年3月18日