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令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 下田 勝二(しもだ かつじ) 氏

公益財団法人日本適合性認定協会 執行役員


医療現場を支える臨床検査をISO 15189で標準化

 

 病気の診断、治療に役立てるための血液検査をはじめ、肝機能、心電図などさまざまな項目を検査し、私たちの身体の状態を正しく把握する方法として広く行われている臨床検査。経済産業大臣賞表彰を受けた日本適合性認定協会の下田勝二氏は、医療機関で臨床検査技師として勤務する傍ら、医療サービス分野に初めて踏み込んだISO/TC 212(臨床検査及び体外診断検査システム)の国内検討委員、ISO/TC 212 WG 1(臨床検査室における品質と能力)の国内副代表、Revision of ISO15189 Project Team7エキスパートを歴任し、長年にわたって臨床検査の標準化に取り組んできた。

 下田氏は標準化の活動とともに、ISO 15189:2012(臨床検査室-品質と能力に関する要求事項)、ISO 15189:2022の2件の規格対訳版発行と、関連規格を含む15件の規格審議に参画。ISO 15189認定はその後、厚生労働省の政策に活用され、認定を取得した検査室には診療報酬における加算が認められることになり、わが国における臨床検査の標準化が加速する要因となった。現在、全国47都道府県に認定臨床検査室が存在し、その数は今後も順調に増加することが見込まれている。

 ISO 15189による標準化と適合性評価活動は、これまで医療機関や検査室ごとに独自の基準、手法で行われる傾向があった日本の臨床検査に統一性を持たせ、結果として臨床検査そのものへの信頼性を向上させる効果をもたらしている。下田氏は正確なデータに基づく「根拠ある医療」の実現に向けて今後も積極的に標準化の取組を進め、医療の進歩に貢献したいと語る。

 


規格が“絵に描いた餅”にならないよう、創意工夫を重ねる

「標準化はあらゆる産業で必要なものですが、とくに医療分野では欠かせないものだと考えています。医療の現場では、皆さんの健康を 
守るという意味でも特段の安心、安全の確保が求められますので、私も臨床検査技師として、信頼できるデータをタイムリーにお届けすることを常に心がけてきました。時代が精度管理から精度保証へと変化するなかで、国際規格を基準にして認定された臨床検査室が誕生したことは、大きな価値があると思います」。

 標準化がスタートする前、2000年代初めの臨床検査は病院、研究室単位でそれぞれ異なる独自の基準に沿って行われるケースが多かった。

「例えてみると、これまでの臨床検査室はオーダーメイドの服を着ている人だと言えます。それがいきなり既製服を着せられて、“丈が短い、ウエストがきつい”と文句を言っているような状況が、標準化に対する最初の反応でした。しかし、標準化により臨床検査の統一化とそれに伴う臨床検査の信頼性向上が図られたことで標準化がもたらすメリットが明らかになり、“それならセミオーダーで対応してみようか”と、関係者の意識が変化しつつあるのが現状だと感じます」。

 標準化に取り組むにあたり苦労したのは、どうすれば現場に浸透させられるのかという点。

「努力して理想的な国際基準ができても、現場で使ってもらえなければ結局“絵に描いた餅”になってしまいます。一人の臨床検査技師として、どうすれば現場に浸透させられるのか。そして、各臨床検査室が持つ個性を活かしつつ、世界で通用するデータを提供できるかを念頭に置いて検討を重ねてきました。着手した当初は臨床検査室の理解を得るのが大変でしたが、説明を繰り返すなかで次第に受け入れていただけるようになり、加えて関係省庁の後押しもあって道筋が開けたと思います」。

 ヨーロッパなどでは国際標準への適応を必須条件とし、基準を満たさない臨床検査室のデータを認めないといった動きも広まっている。

「最近話題になっているゲノム医療など、日進月歩で新たな技術、発見が生まれる現代医療に対応するためにも、標準化には大きな意義があると思います」。
 




世界を舞台に活躍する人材を育てたい

 独自性の強い「オーダーメイド」の臨床検査を重視する現場の理解が進まず、最近になってようやく進展を見せつつある臨床検査の標準化。下田氏は変化のきっかけとして、“ゲノム”など先進医療の進歩を挙げる。

「世界に最新の研究成果を発表するためには、国際基準を満たすデータか否かが問われる時代となりました。標準化はそのための前提条件の一つであり、決して避けて通れないものです。これが契機となって取組が加速し、全国に認定臨床検査室が生まれる結果につながりました」。
 
 今後について、次の時代を担う人材育成が重要なテーマになると下田氏は考えている。

「私が標準化活動に着手した当時、周囲の多くの方はボランタリーの形で参画していました。標準化は日本の立場を確かなものにするための必要条件なので、それを担う人たちには一層の配慮が求められると思います。また、企業の立場で参加する人たちも、標準化は業界発展に不可欠な要素ですから、自社の将来にも役立つ取組として積極的に参加してもらいたいと願っています」。

 そして、自身が大きく携わってきた臨床検査技師に対しては、「臨床検査室という限られたスペースから一歩踏み出し、臨床検査全体の仕組みを改善する気概をもって標準化活動に臨んでほしいと思います」と語る。自身が参加した国際会議で力強く自国の立場を主張する人たちを見て、下田氏自身も世界を舞台に物事を考えることの大切さ、そして、日本の代表として期待に応えたいとの意欲が高まったと述べた。

 最後に、今回の受賞について「職場、チーム全体で地道に努力してきた成果が受賞に結びついたと思います。思えば20年前に蒔いた標準化の“種”が、今ようやく花を付け始めたという段階ですが、この活動が少しでも医療の発展に貢献できるよう、これからも改善を進めていきたいと思います」と抱負を述べた。
 
【略歴】
1983年3月~2007年12月 医療法人社団時正会佐々総合病院 臨床検査科 勤務
2000年4月~2007年12月 同 臨床検査科 精度管理責任者
2005年11月~2007年12月 同 臨床検査科 科長(技師長)
2008年1月~2019年3月 公益財団法人日本適合性認定協会 勤務
2011年1月~2018年5月 同 臨床検査プログラムマネジャ
2018年6月~2019年1月 同 技術部長
2019年4月~2022年6月 株式会社LSIメディエンス 勤務
2020年11月~2021年3月 同 検査品質部長
2021年4月~2022年6月 同 検査品質管理センター長
2022年7月~2023年6月 公益財団法人日本適合性認定協会 執行役員メディカル分野管掌
2023年7月~現在 公益財団法人日本適合性認定協会 執行役員LAB認定ユニット長
2004年4月~2010年3月 一般社団法人日本臨床衛生検査技師会 理事、常務理事
2012年4月~2016年5月 一般社団法人日本臨床衛生検査技師会 常務理事
2010年4月~2016年5月 公益社団法人東京都臨床検査技師会 会長、相談役(2014~)
2008年4月~2014年3月 ISO/TC 212(臨床検査及び体外診断検査システム)国内検討委員
2014年4月~現在 ISO/TC 212/WG 1(臨床検査室における品質と能力)国内副代表
2018年4月~2022年12月 Revision of ISO 15189 Project Team7 Expert
2016年9月~2017年2月 経済産業省 平成28年度 国費委託費 政府戦略分野に係る国際標準化活動「多項目遺伝子関連検査に関する国際標準化実現可能性調査」調査検討委員
2016年9月~2017年2月 経済産業省 平成28年度 国費委託費 戦略的国際標準化加速事業「標準物質を用いた臨床検査機器の測定妥当性評価に関する国際標準化・普及基盤構築」評価委員
 
2017年9月~2020年2月 経済産業省国費委託戦略的国際標準化加速事業(政府戦略分野に係る国際標準開発活動 ゲノム解析および多項目遺伝子関連検査に関する国際標準化)国際標準開発委員
2017年12月~2020年2月 経済産業省国費委託戦略的国際標準化加速事業「遺伝子関連データベースの品質評価に関する国際標準化」評価委員
2020年9月~現在 経済産業省国費委託戦略的国際標準化加速事業「極低濃度の核酸を対象とした精確な定量を可能とするための遵守すべき要求事項」評価委員

最終更新日:2024年3月5日