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令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 武田 真一(たけだ しんいち) 氏

武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社 代表取締役社長

粒子特性の計測評価手法の国際標準化に貢献

 粉体は電子部品やエネルギー材料、食品から医薬品に至るまで様々な産業分野で幅広く利用されている。そのため、製品の品質管理や技術開発には粉体特性を正しく評価する方法が必要になる。その国際標準化に20年余り取り組んできたのが武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社の武田真一氏だ。

 武田氏は2002年から23年まで、粒子特性の適正な評価手法を取り扱うISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)の副コンビーナとその国内対策委員長として活躍してきた。欧米主導で制定されてきたWG 14(音響法)に対して、国内からの要請に合致した規格にすべく尽力、2009年以降、WG 2(沈降法)、WG 16(液中粒子の分散特性評価)、WG 17(ゼータ電位測定法)の各エキスパートとして、標準化作業に参画した。その後、WG 2の副コンビーナ及び国内対策委員長にも就任、10の国際規格改定や制定発行に大きく貢献した。またJIS規格改定にも尽力し、4つのJISに関わり、粒子特性評価に関する異なる装置・計測法による計測結果の相互比較を可能にした。これらの活動はナノテクノロジーなど先端分野に関する国際規格への理解を進める一助となり、技術的、経済的にも日本の競争力の強化に貢献している。

 武田氏は国際標準化の必要性について、ナノ粒子を例に説明する。「ナノ粒子は粒子の小ささ故に特異な機能が表れます。その小ささを証明する技術がなければ製品としての価値を実証することができません。日本が大変優れたナノ粒子を開発したとしても、国際標準規格に合致した機能を持つ装置で評価されなければ、国際的にもその機能が実証、保証されることになりません」。

 

また、WG 16では、ナノ粒子のような新規に開発された粒子特性について、それまで分散性と分散安定性と言うあいまいに使用されていた専門用語に定義づけを行い、その評価手法についても推奨する規格を作成した。「これは新しい概念を明確にする作業で、標準化にとっても重要な作業です。この規格を開発だけでなく、ビジネスにも活用することで、製品の品質の担保とそれを商品の価格に反映させることが可能になります」。

 

最も大変だったのが規格化に向けた専門用語の定義や整理

 TC 24で武田氏が関わってきた音響法は元々米国で製造された装置で、日本にはメーカーがなかった。そのため、規格策定では日本で製造するメーカーが出てきた時に、組み立て時に分かりやすい指標にすることを意識した。「逆に粉体特性評価装置を国内のメーカーが製造・販売している場合、そのメーカーにとって不利にならないような規格にすることに留意して日本からの提案を行いました。海外からの提案に対しては、日本のメーカーに不利になるような規格内容については交渉するなど様々な配慮をしてきました」。

 その上で、武田氏は国際会議に臨む場合、事前に国内意見をまとめておく作業を怠らないようにすることも委員を経験する中で学んだ方法のひとつだという。「さらに海外の委員との交渉を円滑に進めるために、委員会の中だけでなく、食事の時間なども利用してお互いの理解を深め、率直な意見交換や議論ができるようにしてきました」。

 武田氏は国内メーカーと海外のメーカーが競合するようなWGへの関わりは比較的少なかったので、装置規格そのものの制定に関する苦労はほとんどなかった。ただ、装置性能の背景となるコロイド科学や粉体工学に基づいた用語の定義、古くからある概念の整理や明確化の作業はなかなか手間がかかるものだった。「WG 16の“分散性”という言葉は、英語ではdispersionといい、よく使われます。ただ、粉体工学分野であれば主に微粒子化プロセスの意味で使われ、コロイド科学の分野では分散状態の意味で使われることが多いです。言葉の概念を一致させた上で、規格化していくのはとても時間がかかります。そこで私も日本国内で“分散性”をどういう分野で、どう使われてきたかを歴史的な意味合いも含めて学んで、念入りに調べて準備しました。「分散性と分散安定性」や「状態とプロセス」のような用語や意味をそれぞれ区別して使用できるように定義を定めたので、国際会議に参加して尋ねられても、曖昧さを排除して回答することができました」。

 

国際標準化活動の広報活動と成果物の公表拡大を推進

  WG 16の分散性や分散安定性という粒子特性は、産業の新たな価値や市場創出戦略に関わってくる。例えば二次電池や電子材料、半導体材料はコーティングする際に固まりがあると不良品の原因になることが多い。それを防ぐために分散性や分散安定性が非常に重要となるため、そこに国際規格化することの意味もある。

 こうした重要な意味を持つ粒子特性の国際標準化活動について、産業界でも知らない人が多いのが現実だ。そこで、武田氏は標準化セミナ―を開催すると共に、何人かの研究者と共に設立した一般社団法人日本ディスパージョンセンターを通した広報活動を行うことで、ビジネスに活かす機会を増やしていこうと考えている。その上で、学生など若い世代を中心にした人材の育成と成果物を公表する機会を拡大し、ISO/TC 229(ナノテクノロジー)などと連携しながら、具体的な適用法や実例、新規格の制定に取り組んでいく。

 「標準化活動も初めの頃は慣れておらず、戸惑うことも多くありました。ただ20年は長いようでいて、あっという間に経ってしまったという印象が強く、表彰を受けたことを本当に喜んでいます。今回の受賞をきっかけに、国際標準化の活動に対する社会的な認知がさらに広がればこれほど嬉しいことはありません」。



 
【略歴】
1986年4月~2002年12月 岡山大学工学部 助手
2002年4月~2023年3月 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 14(音響法) 副コンビーナ
2002年4月~2023年3月 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 14(音響法) 国内対策委員長
2002年12月~2007年1月 大阪大学大学院工学研究科 助手
2007年5月~現在 武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社 設立 代表取締役社長
2009年4月~現在 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 16(液中粒子の分散特性評価法) エキスパート
2009年4月~現在 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 16(液中粒子の分散特性評価法) 国内対策委員長
2009年4月~現在 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 17(ゼータ電位測定法) エキスパート
2010年4月~2016年3月 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 2(沈降法) エキスパート
2016年4月~現在 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG 2(沈降法) 副コンビーナ
2016年4月~現在 ISO/TC 24(粒子特性評価及びふるい)/SC 4(粒子特性評価)/WG2(沈降法) 国内対策委員長
2015年5月~2016年3月 JIS Z 8823-2:液相遠心沈降法による粒子径分布の測定法-第2部:光透過式遠心沈降法 原案作成委員会委員
2016年5月~2017年3月 JIS Z 8836:コロイド分散系-ゼータ電位の光学的測定法 原案作成委員会委員
2016年5月~2017年3月 JIS Z 8890:粉体の粒子特性評価-用語 原案作成委員会委員
2018年5月~2019年3月 JIS Z 8819-2:粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径及びモーメントの計算 原案作成委員会委員

最終更新日:2024年4月18日