経済産業大臣表彰 鶴岡 勝彦(つるおか かつひこ) 氏
一般社団法人日本ゴム工業会 ISO/TC 45国内審議委員会 TC 45/SC 3総括主査
ゴム工業界の競争力強化をめざし、標準化を推進
重要な産業用素材の一つとして、幅広い分野で使われているゴム製品。一般社団法人日本ゴム工業会 ISO/TC 45国内審議委員会 TC 45/SC 3総括主査の鶴岡勝彦氏は、2000年にISO/TC 45(ゴム及びゴム製品)国内審議委員会委員就任後、2007年からSC 3(ゴム工業用原材料)国内総括主査として組織の方針・計画の策定及び運営に携わり、経済産業大臣賞表彰を受賞した。
ゴム製品は大きく分けて、天然のゴムノキを原料とする「天然ゴム」と、人工的に作られた「合成ゴム」が存在する。鶴岡氏はSC 3/WG 1(試料採取・混練・加硫)、WG 4(天然ゴム)、WG 5(合成ゴム・再生ゴム)、SC 2(試験及び分析)/WG 5(化学試験)において日本が提案した11件にエキスパートとして従事し、原料ゴムや原材料に関する多くの評価・試験方法を国際標準化して、日本の優れたゴム製品が正当な評価を受けることにより、日本の技術優位性の周知化に貢献した。
2023年10月にタイ・バンコクで開催された第71回ISO/TC 45国際会議の参加者による集合写真
標準化が求められる理由について、鶴岡氏は、ゴム製造工程の複雑さを挙げる。「伝統的なロールを使った製造には“慣れ”が必要で、ベテラン担当者の技術に頼る部分がありました。その工程を新しくする段階で、正しい方法を普及させるためには、基準となる共通言語を決める必要があります。それが標準化だと考えています」。
標準化の目的としては「すべての関係者にとって有用な規格の策定」を挙げた。ゴム製品の構造や評価基準は、企業ごと、あるいは業界、国家ごとに違いがあり、それによる混乱が生じる場面があった。また、新製品の評価も、これまでは開発した企業、研究機関が独自の基準に基づく方法で行っていたことから、世界に向けて優れた品質をアピールすることが難しい状況があったという。ゴム製品製造の歴史は長く、JIS、ISOといった基準は従来から存在するものの、新素材や製法の変化に対応するためには、時代に合った高度な標準化が求められていたと振り返る。
明確なデータを示し、根気強く説明
標準化を推進する過程では、規格の改訂や試験法の変更が必要になった際などに、思わぬ事態が発生するケースがあった。「効率的な原料配合を検討する過程で、国ごとの考え方の違いから新たな議論が生まれ、苦労したことがありました。例えば、加硫促進剤の配合量に関して、フランスから硫黄/加硫促進剤の比を一定にするようにとのコメントがあり、日本をはじめとするこれまでの加硫促進剤/原料ゴムの比を一定の考え方とは異なるものでした。イギリスやイタリアなどと意見交換して、日本が支持する考え方に支持を得たことで合意できたことなどがありました。また、理解を得ようとしても意思疎通が思うようにできず“言葉の壁“を感じましたが、データベースを明確に示しながら丁寧に説明することで、次第に相手の理解が深まり、信頼感を得ることができました。とくに策定後の部分的な規格の提案では、企業、あるいは国ごとに異なる実績や考え方があり、ときには自分たちの意見が通らない場合もあります。そこで一方的に主張するのではなく、冷静に、根気強く進めることが大切だと感じました」。日本の場合、データを根拠とした説明方法は一般的だが、世界的に見ると状況は異なり、「私たちはこうしたいから、賛成してほしい」といった漠然とした提案が行われることも珍しくないという。その後の議論では各国の主張が繰り返され、合意に時間がかかってしまう。鶴岡氏は、国際会議におけるコミュニケーション手段としての語学力強化は大切だとする一方、関係者がデータや数値を重視した提案を心がけることが、言葉の壁を乗り越えるためのきっかけになったと語る。これはゴム製品製造に限らず、分析、試験、評価といった幅広い領域における世界標準を定めるために、欠かせないポイントとなった。
標準化は自社製品の価値向上に寄与するもの
鶴岡氏は日本企業の技術的な優位性の周知に努めるとともに、毎年40件以上の国際規格原案に日本の意見を反映し、日本ゴム工業界の国際競争力強化に貢献している。そして、今後も引き続き新しい技術、製品の標準化を進めたいとの意欲を語っている。「最近はSDGsに基づいた新しい技術、製品が求められています。製造工程をはじめ、その価値や性能を積極的に評価する試験法なども含めて、さらに標準化を進めたいと思います。具体的には、再生ゴム、再生カーボンの利用に関する規格や、天然由来の素材、原料に関連する試験評価などの活動に取り組みたいです」。
環境への配慮は、ゴム工業にとっても重要なテーマだ。CO2排出、サステナビリティといった捉え方での試験方法の提案や、石油由来の原料を天然由来に置き換える動きへの対応など、新たな展開が必要になるとの見方を示した。
これから標準化に取り組む若い人たちへのメッセージとして、「標準化は“自社、自国製品の価値を高めるもの”という意識を持ってほしい」と鶴岡氏は強調する。海外企業のなかには、新製品発表時に「これが世界標準」と謳うケースも増えているという。これは、社会のさまざまな要求に応えたいという意欲から生まれた提案であり、日本企業の担当者も見習う点が多いと指摘した。
今回の受賞については、これまで策定してきた規格が、世界で使われる「役立つ標準」になってきたと感じる機会になったと鶴岡氏は語る。一企業人として初めて参加し、現在まで継続してきた標準化の歩みが、次世代を担う若い人たちの励みになってもらえればと感想を述べた。
1978年4月~2013年9月 | JSR株式会社勤務 |
1990年6月~1998年3月 | 同社四日市開発研究所主任研究員 |
1998年4月~2013年9月 | 同社製造技術第一センター主査、チームリーダー |
2000年~2013年 | 一般社団法人日本ゴム工業会 ISO/TC 45(ゴム及びゴム製品)/SC 2(試験及び分析)/WG 5(化学試験)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2000年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3(ゴム工業用原材料)/WG 1(試料採取・混練・加硫)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2007年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3/WG 2(ラテックス)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2007年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3/WG 3(カーボンブラック・シリカ・ゴム用薬品)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2000年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3/WG 4(天然ゴム)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2000年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3/WG 5(合成ゴム・再生ゴム)国内審議委員会委員及びエキスパート |
2004年~2019年 | 同工業会 ISO/TC 45/SC 3(ゴム工業用原材料)/WG 1(試料採取・混練・加硫)・WG5(合成ゴム・再生ゴム)プロジェクトリーダー |
2005年~2007年 | 同工業会 ISO/TC 45国内審議委員会SC 3/WG 1・WG 4・WG 5主査 |
2008年~2009年 | 同工業会 ISO/TC 45国内審議委員会SC 3/WG 1・WG 4・WG 5主査 |
2015年~2017年 | 同工業会 ISO/TC 45国内審議委員会SC 3/WG 1・WG 4・WG 5主査 |
2005年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45/WG 10(用語)・WG 16(環境)国内審議委員会委員 |
2007年~現在 | 同工業会 ISO/TC 45国内審議委員会/SC 3(ゴム工業用原材料)総括主査 |
最終更新日:2024年4月17日