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令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 勅使川原 正臣(てしがわら まさおみ) 氏

学校法人中部大学 工学部建築学科 教授

世界トップレベルの耐震技術で社会に貢献

 「地震大国」と呼ばれる日本。三陸沖、南海トラフをはじめ、国内に地震多発地域を多く抱える我が国では、巨大地震発生への備えを強化する一方、激しい揺れに対応する耐震技術の開発に注力している。学校法人中部大学 工学部建築学科教授 勅使川原正臣氏は、ISO/TC 71(コンクリート、鉄筋コンクリート及びプレストレストコンクリート)のSC 4(構造コンクリートの要求性能)、SC 5(コンクリート構造物の簡易設計標準)、SC 7(コンクリート構造物の維持及び補修)において、SC日本代表、WGエキスパート、コンビーナとして多くのISO規格制定に携わり、経済産業大臣賞表彰を受賞した。

 地震による損壊を防ぐため、コンクリートを使った建物を建築する動きは世界規模で拡大している。しかし、その材料や使用方法については統一された基準がなかったことから、早期のISO規格制定が求められていた。「日本では建築、土木の分野が分かれていて、標準化の捉え方にも若干違いが見られます。そのため、両者の意見を取りまとめ、海外に日本の立場を説明する役割を担当しました」。

 標準化は当初、材料や試験方法の規格策定が中心だったが、次第に設計法や建物の維持管理なども含まれるようになり、どうすれば日本の知見を世界に発信できるかを模索したという。中でも勅使川原氏が力を入れたのが、ISO 18408(壁式コンクリート造建築物の簡易設計ガイドライン)だ。「難しい計算をしなくても耐震設計が可能になることで、世界の耐震技術向上に貢献したいという思いが強くありました」。

 中東、中南米などの途上国では、十分な耐震設計が行われていない建物の倒壊による被害が深刻化し、大きな問題になっている。日本がこれまで経験した数多くの震災を教訓に、積み重ねてきた技術を世界標準にしたいという意欲が、今回の受賞につながった。
 

 

建築研究所で培った各国研究者とのネットワークで標準化を推進

 標準化の活動で苦労した点として、勅使川原氏は以下の項目を挙げた。「耐震設計の標準化には相当の時間をかけて説明を重ねました。材料や試験方法はある意味世界共通ですが、設計は各国の文化、風土などが大きく関係するため、統一した基準を定めるのは簡単ではありませんでした」。そこで、はじめに全体的な基準策定で合意がとれるように、規格作成の目的について同じ方向を向くように心掛けた。そして、詳細については個別に交渉を進める方針を定めた。

 話し合いの過程では、各国の意向や考え方を探る部分で困難な局面があったという。「米国とは共同研究の機会も多いことから比較的スムーズに進みましたが、それ以外の国とは外力、特に地震力の扱いで認識に大きな違いがあり、調整に苦労しました」。そこで、勅使川原氏は当時所属していた国立研究開発法人建築研究所で一緒に耐震設計の研究をしてきた海外の研究者に声をかけ、TC 71で扱う規格に関して日本が提唱する標準化への理解を深めてもらうよう努めた。建築研究所にはアジアや中東、中南米ほか、いわゆる「地震国」と呼ばれる国々から多くの研修生が参加し、帰国後に標準化委員として活躍している人も多い。研究を通じて育まれた信頼関係は、標準化を推進する原動力となった。

 また、策定した規格が様々な分野に広がるにつれて、その規格を継続的に維持、管理する必要が生じる。このため、勅使川原氏は多忙な職務の合間を縫って委員会や国際会議に出席し、機会があるごとに日本の立場を表明することを心がけた。その際にも、建築研究所の仲間たちによる協力が大きな支えになったと振り返る。「研究で築いた人脈を活かし、ともによい規格を作ろうと精一杯努力しました」。

 

環境への配慮を強化し、未来に向けた活動を継続

 勅使川原氏は2012年から2016年にかけてISO/TC 71国内委員会委員長として、アジアの関連学協会とも連携しつつ、TC 71における日本およびアジアのプレゼンスを高めるための各種ISO規格策定を主導した。

 今後の計画について同氏は次のように語る。「コンクリートは私たちの生活になくてはならない素材です。しかし、コンクリートの製造には石灰石と酸素を含むセメントを必要とするため、最近は製造時のCO2排出が問題視されるなど、よいイメージを持たれていない感じがします。今後は環境への配慮を一層強化するとともに、サステナブルを意識した取組なども推進していく必要があると思います」。

 人材育成の面では、大学職員として学生たちにコンクリートの活用法を教授するほか、増加を続けているISO委員会にも、標準策定への強い意欲を持った若い人が積極的に参加してほしいと期待を寄せた。規格というのは継続的に維持、管理する必要が生じること、そして、日本の立場や立ち位置を強化、維持していくこと、これらの実現には若い人の積極的な参加が欠かせないからだ。「規格というものは人と人が話し合って決めていくものですから、まずはお互いの人柄を知り、仲良くなることが大切だと思います。そして、原理原則の基本的な合意を踏まえた上で主張すべきところはきちんと主張し、さらに交流を深めていくことが将来の成功につながると考えています」。

 今回の受賞については、研究者としての個人ではなく、ISO国内委員会全体の取組に対する評価と受け止めていると勅使川原氏は語る。今後も続く標準化活動に携わるメンバーにとって「励み」になるよう、構造や耐震設計といった自身の研究を引き続き進めるとともに、日本代表として標準化に携わる委員会の活動を支援していきたいと抱負を述べた。
 
【略歴】
1983年4月~1996年4月 建設省建築研究所(現・国立研究開発法人 建築研究所)主任研究員
1996年5月~1997年1月 同所 耐風研究室長
1997年2月~2001年3月 同所 構造研究室長
2001年4月~2002年3月 同所 上席研究員
2002年4月~2004年2月 同所 研究主幹
2004年3月~2020年3月 名古屋大学 環境学研究科 教授
2020年4月~現在 学校法人中部大学 工学部建築学科 教授
2003年4月~2020年3月 ISO/TC 71(コンクリート,鉄筋コンクリート及びプレストレストコンクリート)対応国内委員会委員
2003年4月~2020年3月 ISO/TC 71/SC 4(構造コンクリートの要求性能)SC日本代表、WGエキスパート
2003年4月~2020年3月 ISO/TC 71/SC 5(コンクリート構造物の簡易設計標準)SC日本代表、WGエキスパート
2004年4月~2020年3月 ISO/TC 71/SC 7(コンクリート構造物の維持及び補修)SC日本代表、WGエキスパート
2017年2月~2019年10月 ISO/TC 71/SC 5(コンクリート構造物の簡易設計標準)WG 8(鉄筋コンクリート壁式建物)
コンビーナ
2008年5月~2021年11月 ISO/TC 71/SC 7(コンクリート構造物の維持及び補修)WG 4(地震損害の評価と修復)コンビーナ
2008年4月~2012年3月 ISO/TC 71対応国内委員会 副委員長
2012年4月~2016年3月 ISO/TC 71対応国内委員会 委員長
2003年4月~2022年3月 ISO/TC 71対応国内委員会WG 2(コンクリート構造) 委員
2004年4月~2022年3月 ISO/TC 71対応国内委員会WG 4(コンクリート構造物の維持及び補修) 委員
2000年4月~現在 日本建築学会構造員会運営委員会主査 小委員会主査
2023年4月~現在 東京大学大学院工学系研究科上席研究員

最終更新日:2024年3月19日