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令和5年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 廣瀬 志弘(ひろせ もとひろ) 氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所 
生命工学領域 健康医工学研究部門 生体材料研究グループ 研究グループ長
 

再生医療の分野で国家プロジェクトを牽引

 技術の創出と実用化で社会課題の解決に取り組む、日本最大級の研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所。廣瀬志弘氏は7つの研究領域のうち、生命工学領域で研究を続けてきた。

 2001年に入所して以降、政府の研究開発プロジェクトに数多く参加してきた廣瀬氏。中でも再生医療評価技術で世界初となる日本発のISO規格(ISO 19090)において生体活性セラミックス(多孔質材料における細胞移動の測定方法)の制定に大きく貢献し、今後日本製品の競争力強化が期待されている。

 2010年からは経済産業省と国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)との共同事業において無菌接続装置の標準化活動などを牽引した。「再生医療等製品は無菌状態を担保して製造します。この無菌接続装置を利用することで製造環境が格段に向上するとともに、製造コストの低減が期待できます」と廣瀬氏は説明する。

 ISO/TC 150/SC 7/WG 3(⾻格組織⽤再⽣医療機器)ではコンビーナを務め、ISO/TC 198(ヘルスケア製品の滅菌)/WG 9(無菌操作)やISO/TC 276(バイオテクノロジー)ではエキスパートを務める廣瀬氏。約20年間で9つの国家プロジェクトに携わり、会議運営やチームメンバーの調整役を担ってきたことが評価され、今回の経済産業大臣賞の受賞となった。
 

 


2015年にドイツ・ベルリンで開催されたISO/TC 150/SC 7/WG 3会議の様子
写真提供:一般社団法人日本ファインセラミックス協会(JFCA)


 再生医療分野にはまだ、製品がほとんどない。製品を作る前に、例えば、評価技術、製造プロセス、周辺技術に関する標準を作っておくことで、より良い製品を生み出すことができると廣瀬氏は考えている。「私が携わる再生医療や生体材料の分野は最先端の医療技術です。規制が厳しいのですが、規制に対応するための標準が整っていませんでした。評価技術、製造プロセス、周辺技術に関する標準があれば、それを参考にして開発も審査も進めることができます。それが標準化の1つの意義です」。

 標準化のもう1つの意義は市場拡大に寄与できることだ。再生医療の技術は海外にも展開できるものであり、TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)等の国際文書の付属文書にもなっているため、標準化することで貿易を含むビジネスが展開しやすくなる。標準化することで日本製品も世界で戦いやすくなるのだ。




言語や文化の壁を超えて、1人1人と信頼関係を築く

 標準化を進める上で難しかった点として廣瀬氏は「規制の調和」を挙げた。「再生医療は新しい技術のためか、日本では医療機器、アメリカではバイオロジクス、欧州では医薬品とカテゴリーが定まっておらず、互いの議論が嚙み合いませんでした。そのため、最初から製品や細胞の標準化をするのではなく、まずは用語、評価技術や試験法といったところから標準化を進めました」。混沌とした中からスタートし、廣瀬氏も政策提言に加わり、2014年に世界に先駆けて日本で再生医療関連の法律が制定された。これを契機に標準化が加速した。

 また、チームのコミュニケーションの面での難しさもあった。TC 150/SC 7/WG 3のコアメンバーは20人ほどと少人数のため意思疎通がしやすいが、動物実験が含まれる標準案では、動物実験への賛成と反対の立場で議論がかみ合わず紛糾することもあった。メンバーは、大企業やスタートアップ、大学関係などさまざまなバックグラウンドを持ち、アメリカ、ドイツ、ブラジル、中国、サウジアラビアなど国籍もさまざまだ。

「コンビーナでは中立・公正の立場が大事。データを重視して客観的な議論を意識しました。メンバー間のコミュニケーションはすべて英語でしたが、大事なのは言語そのものではなく、時間に遅れない、きちんとレスポンスをする、といった1つ1つの行動によって信頼関係を築いていくことだと思っています」。

 そして、信頼関係を築くために廣瀬氏が大事にしたのが「意見を聞く」こと。一緒に食事をする場を設けるなどして、問題点を聞き出し次の会議がスムーズに進められるようフォローしている。「特に最近はコロナ禍の影響で、オンラインでのやりとりが多くなっています。通信速度の問題もありますが、可能な限り顔を出してもらって、表情を見ながら話すようにしています。表情で本当に納得しているのか、そうでないかが分かります」。
 



標準化活動の魅力を伝え若手人材を増やす

 今の課題は、「チームにエキスパートが集まらないこと」だという。エキスパートになるには各国の標準化委員会に登録してもらう必要があるが、まだ積極的に取り組んでいる国が少ないために専門家が集まりづらい現状がある。廣瀬氏は国際学会や論文などを通して知り合いの研究者にコンタクトを取り登録を促している。

 「双方にとってWin-Winでなければ継続していくことは難しいでしょう。標準化に取り組めば、新しい技術を健全に世界に広めることができます。また、標準化活動によって調整力や交渉力、リーダーシップなどの力が身に付き、人間力を磨くこともできると思っています。そのようなメリットをしっかり伝えるようにしています」。

 そして、既存のチームメンバーは50代以上が多数のため、若手の人材確保が急務となっている。「標準化は時間がかかり、評価制度も整っていないことが課題です。各組織での業績評価システムを最適化する等、標準化活動を正当に評価するような仕組み作りをして、若い人たちが安心して活動できる環境作りにも貢献していきたいと思っています」。

 廣瀬氏が国家プロジェクトに参画し、標準化に取り組み始めてから20年ほどが経つ。「近年のラウンドロビンテスト(インターラボラトリーテスト:測定者の技量を含めて測定方法や測定装置の信頼性を検証するために、複数の試験機関で測定を行う試験方法)では、欧米やアジア5カ国が参加してくれています。グローバルな議論ができるようになったことに、手応えを感じています」。

 そして、今回の受賞について「今回の受賞を聞いたとき、プロジェクトに関わってきたさまざまなメンバーの顔が思い浮かびました。関係者全員で受賞した賞だと思っています。日本の技術力は高く、まだ隠れている宝の技術がたくさんあります。そのような技術を発掘し、世界に先駆けて標準化していきたいと考えています」と語った。
 



【略歴】
2005年1月~2008年3月 国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究員
2006年7月~現在 ISO/TC 150(外科用インプラント)国内委員会委員
2007年5月~現在 ISO/TC 150/SC 7(再生医療機器)幹事国業務委員会委員
2007年9月~現在 ISO/TC 150/SC 7/WG 3(⾻格組織⽤再⽣医療機器)コンビーナ
2008年4月~2010年3月 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査専門員
2010年4月~2017年9月 国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員
2010年7月~現在 ISO/TC 198(ヘルスケア製品の滅菌)/WG 9(無菌操作)国内委員会委員
2010年9月~現在 ISO/TC 198(ヘルスケア製品の滅菌)/WG 9(無菌操作)エキスパート
2012年7月~2013年3月 ISO/IEC医療機器規格策定戦略研究班 委員
2013年8月~現在 ISO/TC 276(バイオテクノロジー)国内委員会委員
2013年12月~現在 ISO/TC 276(バイオテクノロジー)エキスパート
2017年10月~2020年3月 国立研究開発法人産業技術総合研究所 上級主任研究員
2020年4月~現在 国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究グループ長

最終更新日:2024年3月26日