経済産業大臣表彰 福場 義憲(ふくば よしのり) 氏
東芝デバイス&ストレージ株式会社
デバイス&ストレージ研究開発センターパッケージソリューション技術開発部
デバイス&ストレージ研究開発センターパッケージソリューション技術開発部
半導体の電磁波ノイズ特性と電子機器の設計工程の標準化を牽引
車載機器や医療機器は不具合が人命に関わる事故を引き起こしかねないことから、組み込まれる半導体のEMC(電磁両立性)性能が重視されるようになっている。2013年以来、その計測方法の国際規格化と、電子機器開発における設計工程の標準化に取り組んできたのが経済産業大臣表彰を受けた東芝デバイス&ストレージ社の福場義憲氏だ。
福場氏は2013年、IEC/TC 47(半導体デバイス)/SC 47A(集積回路)の国際幹事に就任、半導体のEMCノイズ特性に関する国際標準化を推進してきた。これによって、機器メーカーは開発の手戻りを減らし、適切なEMC対策を行うことで、開発コストの削減や開発期間の短縮ができるようになった。
EMC国際標準の分類
引用元:2017年度 半導体EMCセミナー 資料(2018年1月、JEITA)
一方、電子機器開発における設計工程の標準化では、JEITA(一般社団法人電子技術産業協会)の技術委員会を立ち上げ、リーダーとして提案をまとめた。そして、提案先にまずIEEE(米国電気電子学会)を選んで、プロジェクトを立ち上げて議長になり、IEEE 2401を発行した。それをIECのTC 91(電気実装技術)/WG 13(電子設計自動化)にデュアル・ロゴ(IEEEが標準化した案件について、IECが新規提案からの標準化手続きを省略し、最終投票のみで国際標準化を決めること)で提案、国際標準化(IEC 63055/IEEE 2401)を進めた。
電子機器設計のオープン&クローズ戦略(図版作成:福場義憲氏)
「かつて日本企業が高い競争力の製品を生み出してきたのは、社内の設計エコシステム(注)が垂直統合的だったからです。ところがグローバルサプライチェーンによる水平分業が進んで、設計に必要な情報が流通しなくなり、強みが発揮されず競争力が低下してしまいました。設計情報の流通に特化した国際標準によって、再びエコシステムの構築が可能になり、競争力復権の契機になると考えています。今後、さらに多くの企業が使えるような国際標準にしていきます」。
(注)設計エコシステム:LSI、パッケージ、PCBの各部あるいは全体の設計において必要な情報が設計者と部品・材料サプライヤで共
有され、設計が最適かつ迅速に行うことが可能となる開発システム
福場氏は製品の開発段階を担当してきた経験から、標準で統一化されていたほうが大きな利益が得られる部分と、競争領域で公開せずに差別化を図る部分とを区別し、組み合わせるオープン・クローズ戦略が大切だという。競争領域に深入りした標準活動をしようとしても、人が集まらず、議論が抽象的でまとまらなかったりする。その結果、仮にできたとしても、誰も使わないものになってしまう。
そう考えると、これまで自社で取り組んで来た部分でも費用対効果から共通化してしまったほうがよい部分について、標準化活動の対象にするのが望ましい。
「産業界全体で利益を出しつつ、先行者利益を得るオープン戦略とクローズ戦略で優位性を持つことです。出入口をオープン化することで、市場からクローズの部分へのアクセスがしやすくなり、差別化による利益を最大化することができます」。
階層間のやりとりの標準化から社会システムの標準化につなげる
福場氏は標準化について、究極的には社会のため、社会を構成するステークホルダーのためだという姿勢を持つことが大切だという。
一般に製品開発を進める際にはV字モデルという手法が使われることが多い。どんな製品も社会における課題解決の道具としての役割を持ち、セットと呼ばれるソリューションとして提供される。セットは複数の電子機器で構成され、電子機器は半導体や電子部品、基板やハーネスなどの電子材料で成り立っている。「それぞれに開発プロセスがあるので、いずれもV字モデルで開発されるとすると、V字モデルが積み重なった階層になります。そこでの標準化は各階層間の要求と成果がスムーズ、かつ正確に、網羅的に伝わるようにするための道具です」。
標準化はV字モデルにおける各階層間の矢印部分(要求、成果)がスムーズかつ正確に、網羅的に伝わるようにするための道具である。(図版作成:福場義憲氏)
V字モデルによる開発工程は製品によって千差万別で、ノウハウも詰まっている。そのため、開発工程の標準化は行ったとしても、あまり使われない。加えて技術変化が速くて、すぐに形骸化してしまう。
「そこで重要になるのが階層間のやり取りの標準化で、世界的に見ても、取り組みが弱いのが実情です。階層間のやり取りの標準化をさらに推進していくことで、それが社会の課題解決に必要なソリューションを提供する標準化になります」。
開発段階から標準化が当たり前という文化醸成を目指す
標準化活動における課題の解決はいかに人集めをするかに尽きる。日本人だけではなく、各国の技術者とのつながりを作り、提案先のIECやIEEEとの関係の構築、IEEE内の標準化委員会の設立、そして国際標準化へと進めていく。「日本人はなかなかリーダーをやりたがりません。そこで私がリーダーを務め、提案草案作成を仲間になってくれた技術者にやってもらいました。こうすることで、しっかりした内容の標準ができ、その標準が普及して、ステークホルダーが皆、恩恵を受けられる世界の構築に近づくことができます」。
福場氏は今後の標準化活動では専門家だけでなく、他の事業部門の人たちも集めることが大切になるという。そのためには個別の企業はもとより、産業レベルでマネジメントがトップダウンでビジョンを打ち出し、開発段階から標準化が当たり前だという文化を醸成していく必要がある。標準はただ作るだけは意味をなさず、普及してこそ価値がある。そのため、使う人が出てくるまでを標準化の工程と考えるべきだ。
「素晴らしい仲間に恵まれ、その仲間を発掘できたことが受賞につながりました。ですから、受賞の喜びを仲間の皆さんと分かち合いたいと考えています。次の世代を担う若い人たちのモチベーションになればうれしいですし、これをきっかけに各企業のマネジメントが標準化に目を向けてくれることを期待しています」。
1985年4月~現在 | 株式会社東芝入社、現在東芝デバイス&ストレージ株式会社所属 |
1997年2月~2003年4月 | 東芝アメリカ電子部品社 プロジェクトマネージャ |
2010年10月~2016年5月 | JEITA EDA技術専門委員会半導体・パッケージ・ボード相互設計技術ワークグループ長 |
2013年12月~現在 | IEC TC 47/SC 47A国際幹事 |
2013年12月~2015年2月 | IEEE-SA P2401(LSI-Package-Board相互設計)議長 |
2016年6月~現在 | JEITA 半導体&システム設計技術委員長 |
2022年4月~2023年3月 | JEITA半導体システムソリューション技術委員会委員長 |
2013年12月~現在 | IEC TC 91(電子実装技術)及びTC 40(電子機器用コンデンサ及び抵抗器)及びSC 47D(半導体パッケージング)とSC 47Aリエゾンオフィサー |
最終更新日:2024年3月13日