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令和6年度 産業標準化事業表彰 内閣総理大臣表彰 受賞者インタビュー

内閣総理大臣表彰 堤 和彦(つつみ かずひこ)氏

三菱電機株式会社 開発本部 特任技術顧問
 
POINT
 
○IEC副会長としてガバナンス改革に注力、IEC/MSB(市場戦略評議会)を議長として牽引、IEC白書2冊の発行を主導

○世界市場を相手にするうえで国際標準は重要なツールとなってくる

○標準化活動は欧州が中心のため、欧州諸国の考え方や立脚点を理解することが非常に重要


IEC 副会長 としてガバナンス改革に注力、MSB(市場戦略評議会)を議長として牽引、IEC白書2冊の発行を主導

 

 

 IEC(国際電気標準会議)は、1906年に設立された電気、電子及び関連技術に対する国際規格の開発と発行を行う世界最大の非営利会員組織である。その副会長を2019年から務め、併せて、有識者を集め技術動向・市場ニーズに基づくIEC規格開発への戦略的な提言を行うIEC/MSB(市場戦略評議会)のコンビーナ・議長も務めてきたのが、内閣総理大臣表彰を受賞した三菱電機の堤和彦氏だ。

 堤氏はIEC副会長として、ガバナンス強化のための体制変更や規約類の制定・改正等に取り組んできた。その中で、IECの運営に対する加盟国からの意見反映の迅速化、IEC事務局活動の透明性向上、MSB(市場戦略評議会)のIEC内での地位向上、IECの財務・活動の内部監査力の向上等に貢献した。また、IEC/MSBでは議長として、会議の開催頻度を増やすなどして活動の活性化を図るとともに、IEC白書2冊の発行をプロジェクトリーダーとして主導し、社会課題の解決や日本が技術的優位性を持つ重要分野の国際標準化の推進に力を尽くした。



 

 


IEC/MSBで日本の技術的優位性をもとに2つの白書を発行

 堤氏の活動は、IECという組織をより強固なものにして、安定的に標準開発ができるようにするためのものだ。併せて、MSBの議長として在任していた6年の内に、2つの白書のプロジェクトを提案して、それをリーダーとしてとりまとめた。「IEC白書はMSBからの最重要成果物で、市場と技術領域のトレンドを特定するために活用されます。その中で、2つの白書は、日本が強みを持っている分野、イニシアティブをとって標準開発に貢献できる部分について提案しました」。

 白書の1つ目が「Safety in the Future(将来の安全)」である。これは日本発の「Safety 2.0」という新しい安全の概念に基づいて、ロボットと人間の協働の実現のために必要な「協調安全」の考え方と、それを実現するための安全規格のあり方についてまとめたものだ。この白書を受けて、IECでは協調安全を実現するための安全規格整備の議論が進められている。2つ目が「Power semiconductors for an energy-wise society(エネルギーワイズ社会に向けたパワー半導体)」である。パワー半導体が広汎な産業や社会全体で果たす市場志向や市場主導、市場重視の役割について、より深い理解と実践的な洞察をとりまとめられている。「三菱電機がプロジェクトを牽引し、パワー半導体のグローバルでのオールスターを結集しました。そして、応用、セクター、技術トレンドをまとめ、国際標準や認証システムの開発、調整、拡大の必要性を明らかにしています」。

 

堤氏がリーダーとして取りまとめた「Power semiconductors for an energy-wise society」(2023年10月発行)https://www.iec.ch/basecamp/power-semiconductors-energy-wise-society

 

 堤氏は「私は元々、標準開発の専門家ではなく、先輩や同僚の標準化の取組を横で見ている状態でした。そのため、標準化活動の意味も十分に分かっていないままで、副会長に立候補したのです」と述べる。IECの選挙は1国1票なので、各国のナショナルコミッティを訪問して選挙活動を行う。ただ最初の頃はよく知られておらず、「お前は誰だ」というような状況だったという。3年間ほど、国際会議に参加して議論に加わる中で、IEC活動における認知度も高まり、副会長に当選することができた。「会議は英語ですが、対面での会議であれば雰囲気も含めて大体の内容をつかむことができます。ただリモートだと雰囲気をつかむことが難しく、なかなか深い議論ができないというのが率直なところです」。
 


ヨーロッパ中心の運営を理解し、日本の主張を取り込んでもらう  

堤氏は、IECの会議は日本の企業内の会議とは議論の進め方が異なると指摘する。「(IECの会議は)参加当初は議論が長く、同じようなことを何度も話しているような印象がありました。Aさんの発言に同意すると言いながら、Bさんが違った言葉で話したりすることもあります。日本の企業内の会議しか経験していないと、このようなことは非効率だと感じてしまいます。しかし、IECのようなメンバーシップ型の組織では、民主的な議事運営が必須です。誰かの意見に賛成であるという意見表明をする権利もありますし、合意形成を得るために必要なことだということも理解しなければなりません」。



2024年4月に京都で開催されたIEC/MSB会議の参加メンバーとの記念撮影(京都・白沙村荘にて)
写真提供:堤和彦氏

 

 国際標準化活動は、組織運営も含めてヨーロッパ中心に行われている。そのため、ヨーロッパのメンバーの考え方や立脚点を理解することが重要になる。そのことを念頭に置かないと議論がかみ合わないことやすれ違いが生じてしまう。そして、IECは1国1票の組織であること、ヨーロッパは全体で30票近くあることから、ヨーロッパ諸国の同意を取り付けることが重要になる。その構造を理解した上で、日本の主張を取り込んでもらう活動をしていくことが求められる。

 また、グローバル化の流れが確実に進んでいく中で、これから日本国内だけで市場が拡大することは見込めない。「日本の製造業はグローバルマーケットを相手にしないと成り立たなくなっていますので、国際標準を手段としてグローバルマーケットで戦っていって欲しいと思います」。

 

【略歴】
1982年4月 三菱電機株式会社 入社
2008年4月~2010年3月 三菱電機株式会社 先端技術総合研究所長
2010年4月~2014年3月 三菱電機株式会社 常務執行役 開発本部長
2013年4月~2018年3月 一般社団法人 電子情報技術産業協会 標準化政策委員会 委員長
2013年5月~2020年6月 一般社団法人 日本経済団体連合会 知的財産委員会企画部会 部会長
2014年2月~2014年9月 日本工業標準調査会 委員
2014年4月~2018年3月 三菱電機株式会社 顧問
2015年2月~2019年2月 日本工業標準調査会 委員
2015年1月~2017年5月 IEC/MSB(市場戦略評議会)委員
2017年6月~2018年12月 IEC/CB(評議会)委員 ※現IB(評議会)
2018年4月~現在 三菱電機株式会社 特任技術顧問
2019年1月~2024年12月 IEC副会長
2019年1月~2021年12月 IEC/MSB コンビーナ
2020年1月~2020年3月 内閣府 イノベーション・エコシステムにおける標準戦略委員会 委員
2022年1月~2024年12月 IEC/MSB 議長

最終更新日:2025年1月24日