経済産業大臣表彰 大芝 克幸(おおしば かつゆき)氏
30年の国際標準化活動でIEC審議の円滑化、人材育成に貢献
半導体デバイスは技術革新のスピードが極めて速く、応用分野は非常に幅広い領域に及ぶ。1994年以来、30年にわたってその国際標準化活動に携わってきたのが経済産業大臣表彰を受けた大芝国際標準事務所の大芝克幸氏だ。
大芝氏は、1990年代初頭から携帯電話のデジタル化や自動車の自動料金収受システム(ETC)に使用するマイクロ波集積回路(MMIC)の開発に従事。2016年にはIEC/TC 47(半導体デバイス)/SC 47E(個別半導体デバイス)の国際議長に就任し、規格開発期間と年次全体会議時間の大幅な短縮を果たした。その結果、審議が円滑に進んで、IS(国際規格)発行数が大幅に増加、国際標準化活動の効率化・活性化を実現した。また、TC 47国内委員長時代には、新技術分野であるSiC(炭化珪素)半導体の審議体制も構築した。EVやハイブリッド車などに使われるSiC パワー半導体は、今後の市場拡大が大いに期待されている。さらに、長年の国際標準化活動で得た知見をもとに、国内外で標準化人材育成に取り組んできた。そこで育った人材が標準化活動を主導することで、各国から高い信頼を獲得し、日本の地位向上に貢献している。


2018年10月に韓国・釜山で開催されたIEC/TC 47年次会議でSC 47Eの年間活動成果を報告する大芝氏(写真右)
写真提供:大芝克幸氏
大芝氏は「標準化は、製品の互換性確保、正確な情報伝達、安全性の確保と向上、業務・生産の効率向上、新技術の普及・市場創出、新たな社会ニーズ・社会問題への解決策の提供という6つのために必要です」と述べる。まず互換性の確保で、製品や部品点数の削減や大量生産によるコストダウン、設計の単純化が実現する。続いて正確な情報伝達で、用語・図記号で正しい意味を伝えたり、試験方法で性能を比較できるようになる。
さらに、安全性の確保と向上のために、製品の強度・耐久性などの性能、安全な製品構造、安全装置などの基準・方法が規定される必要がある。そして、部品や設計の共通化や出荷製品コストの低減で、業務・生産の効率が向上する。加えて、新技術の普及や市場創出のために、研究開発段階から用語・試験方法・安全性確保の要求事項等の標準化が求められる。さらに気候変動、サイバーセキュリティ、高齢化社会などへの対応で、新たな社会ニーズ・社会問題への解決策が提供される。
指針や手順を理解して、国際幹事の担当業務の効率を向上させる
大芝氏は、標準化活動に、専門業務用指針(ISO/IEC Directives)と実際の規格開発手順の理解、国際幹事の文書手続き業務の理解と支援という2つを重視して取り組んできたという。「プロジェクトリーダーの時代に、国際幹事のプロジェクト管理を信じて、まかせっきりにしたことが原因で、担当プロジェクトが標準管理評議会(SMB)の勧告により途中中断を余儀なくされたことがありました。この反省から、専門業務用指針を参照する機会が増え、ルールに詳しくなりました」。
国際幹事が任務を遂行してくれれば、国際議長は口を出す必要はない。しかし、前述の経験から所属するSC(分科委員会)の国際幹事の業務状況は常に注意を払うようにしており、専門業務用指針が大いに役立っている。加えて、セミナー講師のほか、国内委員会、経済産業省委託事業などで、専門業務用指針を解説する機会も多い。その上で、プロジェクトの文書登録手続きに関する国際幹事の業務を理解して、プロジェクトリーダーやコンビーナへアドバイスや指導を行った。
大芝氏が標準化活動に取り組む上で課題だと感じたのが国際幹事の担当業務の効率の低さだ。「国際幹事は、国際幹事国が指名した適格者なので、簡単には交代してもらうことができません。以前、日本と国際幹事国の二国間協議の際に改善を求めましたが、一時的なものに留まりました。その解決のために、プロジェクトリーダーやコンビーナに回付文書の表紙(Form)を作成して、文書ドラフトに添付することを指導したのです。これで国際幹事の表紙作成の手間を減らすことができ、文書登録手続きが速やかに行われるようになり、滞留が少なくなりました」。

2017年10月にロシア・ウラジオストクで開催されたIEC/TC 47/SC 47E年次会議で議長として司会進行を務める大芝氏
写真提供:大芝克幸氏
活動活発化のカギは社内の連絡会議や表彰制度を設けること
活動の中で一番困難だったのが2009年から6年間の「半導体デバイス国際標準化活動推進委員会」での仲間づくりの活動だ。そこでIEC国際標準化活動にシンガポール、マレーシア、タイを勧誘した。最も関心を示したマレーシアに注力し8回訪問したが、O-member(オブザーバー参加国)登録も実現しなかった。一方、当初腰が重かったシンガポールは、国内機運の高まりで2014年にP-member(積極参加国)に登録し、その紹介で23年にようやくマレーシアとのコンタクトを再開することができた。
2012年にマレーシア・ペナンで開催された標準化セミナー。IEC国際標準化活動の一環で行われた。
写真提供:大芝克幸氏
標準化に取り組む前に、目標・目的の明確化、期待効果やリスクの検討、体制・仲間・ライバルの確認、推進団体・企業・機関と関係者、ルールの理解、審議プロセス、所要時間などをきちんと確認する必要がある。その上で、ルールに基づいて論理的に議論し、審議の場はコンセンサス形成の場であるとの認識を持つことが重要だ。「国や個人によって、標準化活動への取り組み姿勢やパフォーマンスが大きく異なります。国民性の違いを理解し、忍耐力と柔軟性を養うことが大事で、相手を尊重しつつ適切に対応することで、自分の考えを伝えることもできます」。
その上で、標準化活動を他人任せにせず、主体的に取り組み、特にコンビーナやプロジェクトリーダーは国際幹事に過度に依存しすぎないようにするために、専門業務用指針と実際の規格開発手順を理解すべきだ。「最近はCSO(最高標準化責任者)を置く企業が増えています。それだけでなく、企業には標準化活動に携わる社内のエキスパートと情報交換する連絡会議や、私が在職していた時のソニーのように標準化アワードなどの社内表彰制度を設けて、活動を活性化させ、認知度と理解の向上を図ることが求められています」。
1981年4月~2018年9月 | ソニー株式会社 | |
2019年4月~現在 | 大芝国際標準事務所 代表 | |
1994年3月~現在 | IEC/TC 47(半導体デバイス)/SC 47E(個別半導体デバイス)/WG 2(マイクロ波デバイス)国内委員会 委員 | |
1994年3月~1995年3月 | JEITA/半導体標準化専門委員会/個別半導体製品技術委員会/マイクロ波デバイス小委員会 委員 | |
1998年3月~1999年7月 | JEITA/半導体標準化専門委員会/個別半導体製品技術委員会/マイクロ波スイッチ PG 委員 | |
2002年4月~現在 | JEITA/半導体標準化専門委員会/個別半導体製品技術委員会(現:半導体製品技術委員会)委員 | |
2003年6月~2017年7月 | IEC/TC 47/SC 47E/WG 2 国内委員会 主査 | |
2003年6月~現在 | IEC/TC 47/SC 47E 国内委員会 委員 | |
2003年6月~現在 | IEC/TC 47/SC 47E/WG 2エキスパート | |
2003年9月~2007年8月 | IEC 60747-4:2007プロジェクトリーダー | |
2006年1月~2007年10月 | IEC 60747-16-2:2001/AMD1:2007 プロジェクトリーダー | |
2007年6月~2017年7月 | IEC/TC 47/SC 47E/WG 2コンビーナ | |
2007年6月~2016年3月 | IEC/TC 47/SC 47E国内委員会 委員長 | |
2007年6月~現在 | IEC/TC 47国内委員会 委員 | |
2007年7月~2009年3月 | IEC 60747-16-3:2002/AMD1:2009 プロジェクトリーダー | |
2007年7月~2009年3月 | IEC 60747-16-4:2004/AMD1:2009 プロジェクトリーダ | |
2008年3月~2013年6月 | IEC 60747-16-5:2013 プロジェクトリーダー | |
2009年4月~2016年3月 | IEC/TC 47国内委員会 委員長 | |
2009年4月~2015年3月 | 半導体デバイス国際標準化活動推進委員会 副委員長(経済産業省委託事業) | |
2014年7月~2017年1月 | IEC 60747-4:2007/AMD1:2017 プロジェクトリーダー | |
2014年7月~2017年2月 | IEC 60747-16-1:2001/AMD2:2017 プロジェクトリーダー | |
2015年8月~2017年8月 | IEC 60747-16-3:2002/AMD2:2017 プロジェクトリーダー | |
2015年8月~2017年8月 | IEC 60747-16-4:2004/AMD2:2017 プロジェクトリーダー | |
2016年3月~2019年6月 | IEC 60747-16-6:2019 プロジェクトリーダー | |
2016年6月~現在 | IEC/TC 47/SC 47E 国際議長 | |
2019年4月~現在 | 電子機器の放熱設計を最適化し消費電力を削減する熱設計モデルの国際標準化 委員(経済産業省委託事業) | |
2019年4月~現在 | RCES規格開発エキスパート登録(SE 00399) |
平成21年度 産業技術環境局長表彰(国際標準化貢献者表彰)
最終更新日:2025年2月28日