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令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 金子 武弘(かねこ たけひろ)氏

公益社団法人日本包装技術協会 包装技術研究所 輸送包装研究室 室長
 
POINT
○包装(パッケージング)の分野で長年にわたり標準化活動に携わる

○国際会議の成否は関係者間の調整を行うマネジメント能力がカギ

○英語力が無くても、真摯に一所懸命、相手に意見を言うことが大事


ISO/TC 122(包装)のWGで現場視点での規格作りを推進

 
 モノづくりとその流通において、製造者から消費者に届くまで、製品を安全・適切に保護するのに欠かせないのが「包装」である。その標準化に21年余り携わってきたのが日本包装技術協会の金子武弘氏だ。金子氏は自身が持つ輸送包装並びに品質保証の幅広い知識・経験を活かし、ISO/TC 122(包装)及びそのSC(分科委員会)に関わるWGのコンビーナ、事務局、エキスパートを務めた。その中で、現場視点での規格作りを推進し、国際的な課題となっている輸送・流通の変化、包装廃棄物問題を適正包装の実現による解決で貢献してきた。またプロジェクトで得た他国との交渉やWG運営等のノウハウを国内WGで次世代と共有し、国際標準化活動及び日本産業規格に役立てている。

 

 
 

2017年11月、アメリカ・アトランタで開催されたISO/TC 122総会
写真提供:金子武弘氏


 金子氏は「包装は空気や水のような存在ですが、過剰だとゴミの問題にまでつながるので、適正な包装がとても重要です。包装の標準化活動の中で、私は適切な技術を規格につなげる役割を果たしてきました」と述べる。また2009年に突然、「ISO/TC 122/SC 4(包装の環境配慮)のWGでコンビーナをやらないか」という声をかけられた時には、重要なテーマだと引き受ける傍ら、まったく経験がないので、同業他社のコンビーナ経験者に運営のノウハウを教わるとともに、当時はコンビーナとプロジェクトリーダーの両方がいた時代だったので、グローバル企業にいたアメリカ人のプロジェクトリーダーの女性と悩みを共有しながら、WGを運営することができたといいます。

 


国際会議はコーヒーブレークでの本音のやり取りが大切

 国によっては、自分の国の方針を国際標準にしたいと考えていることがあるし、企業も同じだ。ただ、それを強引に推し進めると、規格にならず、バラバラのまま終わってしまう。金子氏が最初に関わったISO/TC 122/SC 4は、アセスメントが国や企業ごとにバラバラで、消費者から見るとよくわからなかったため、消費者が横並びに比較することができるアセスメントの規格を作ろうと立ち上がったSC(分科委員会)だ。「そのときに最初に全体を標準化して、それを各国の標準に落とし込めばよいと考えました。そして、『総論賛成』の合意を得るために、簡単な資料も作りました。まず『総論賛成』を得ることが大事で、そうでないとプロジェクトは始まりません」。

各国参加メンバーから「総論賛成」を取るために金子氏が作成した資料
資料提供:金子武弘氏
 

 標準化を進める際に、日本の提案を規格化しようと努力することは大切だが、内容によっては他国のメンバーの意見の方が優れていることもある。そのときには、日本の中で意見を調整して、優れた提案をしている国の意見を取り入れるための議論をする。それによって、他国のメンバーも「日本は自分たちの意見ばかり押し通そうとしている」という見方もなくなり、和気あいあいとした建設的な議論が可能になる。

 「国際会議を丸1日行う時には、大体午前1回、午後2回、20分か30分のコーヒーブレークの時間をとります。その時間が大切で、あらかじめキーパーソンを見つけておいて、コーヒーを飲みながらお互いに本音で話し合って、提案への賛成を取り付けたりするのです」。

 金子氏は最初そのやり方がよくわからず、日本のメンバーばかりで集まって議論していた。しかし、コーヒーブレーク中に各国の代表が話し合って、会議が再開されると、今までノーといっていたメンバーがイエスと意見が変わることも経験した。それで、コーヒーブレークの時間の大切さを認識したという。またWGはエキスパート(個人)の集まりなので、個人を味方につけることの大切さを実感したという。

 他の国とのWin-Winの関係を作ることも大切だ。あるWGは、元々BtoC分野でのフードロスを減らしたいとある国が提案してきたものだった。ところがその国ではスーパーなどBtoB分野の実績はあったものの、BtoC分野での実績はなかった。そこでこの領域で豊富な経験があり、大手物流事業者も消費者向けに展開している日本の技術やノウハウを提供することで、その国主導での規格化をサポートし、かつ日本にも不利益とならない規格とすることができた。

 逆に、特定の国が自国の国家戦略の推進を狙って、規格化を進めようとすることもある。その場合、包装領域だけ見てもよくわからない。関連する情報システムなど異なるISO/TCも並べて見て、初めてその国の戦略に基づく規格化提案であることがわかる時もある。「ただ規格化の新規提案が出されると、ほとんどの場合受け入れられます。そこで全体をみて、少し危ないと判断した場合には、様々な提案をして内容を必要最小限のものだけにして、リスクを回避することもあります」。
 


つたない英語でよいので国際会議に参加して意見を言う

 国際会議となると、英語を話すことができないと参加が難しいのではと考えている人も多い。金子氏は「私はいつも自慢??していますが、高校時代、英語は3年間赤点でした。ですから、いまだに職場の人たちからは『金子さんの英語は“いてまえ”英語だね』(編注:関西弁の“いてまえ”、「とにかく話してしまう、伝えてしまう」といった意味)と言われるくらいです(笑)。海外のメンバーはこちらを理解しようと思って聞いてくれるので、ともかく単語を並べて話してみることです」。
 

2019年4月、スイス・ジュネーブで開催されたISO/PC(プロジェクト委員会) 308 の会議
写真提供:金子武弘氏

 
 せっかく会議に出席しても発言しなければ、ただいるだけの人間になってしまい、相手にしてもらえない。つたない英語でも話をすれば、認めてくれる。「私も最初は『ミスターカネコ』と呼ばれていたのですが、ある時からいきなり『タケヒロ』と名前で呼ばれるようになりました。その瞬間、仲間になれたんだなという思いがしました。若い人たちには会社の事情もあるでしょうが、それを乗り越えて、業界そして海外の会議にどんどん出て行って、広い視野と知見を増やしてほしいと思います」。

 

【略歴】
1979年4月~1990年8月 日本マランツ株式会社 品質保証部
1990年9月~2014年11月 ソニー株式会社 設計技術開発部
2002年6月~2004年3月 JIS Z 0232 包装貨物-振動試験方法 改正委員会委員
2003年6月~2005年3月 JIS Z 0108 包装用語 改正委員会委員
2004年4月~2009年12月  環境配慮包装のISO規格化のためのアジアガイドラインの作成委員会委員
2009年12月~2013年3月 ISO/TC 122(包装)/SC 4(包装の環境配慮)/WG 4(マテリアルリサイクリング)ISO 18604(包装及び環境-材料のリサイクル)WG コンビーナ及び国内委員会委員
2010年3月~2012年3月 JIS Z 0108 包装用語 改正委員会委員
2011年5月~2013年3月 JIS Z 0200 包装貨物-性能試験方法一般通則 改正委員会委員
2013年8月~2015年12月 JIS Z 0105 包装貨物-包装モジュール寸法 改正委員会委員
2013年8月~2015年12月 JIS Z 0161 包装貨物-ユニットロード寸法 改正委員会委員
2013年12月~2015年12月 JIS Z 0130 原案作成委員会委員
2014年3月~2016年3月 ISO/TC 122/SC 3(包装方法、包装及びユニットロードに関する性能要求事項及び試験方法)/WG 7(ランダム振動試験) ISO 13355(包装-包装貨物試験方法-垂直不規則振動試験)改定WGコンビーナ及び国内委員会委員
2015年1月~現在 公益社団法人日本包装技術協会 包装技術研究所 輸送包装研究室 室長
2015年5月~現在 ISO/TC 122/WG 12(サプライチェーンへの物流技術の適用)エキスパート及び国内委員会委員
2017年1月~2021年6月 ISO/PC 308(加工流通過程の品質管理)ISO 22095(加工流通過程の管理-一般的な用語とモデル)エキスパート及び国内委員会委員
2017年4月~2019年12月  ISO/TC 122/SC 3/WG 10(試験計画) ISO 4180(包装-包装貨物-総合性能試験の一般通則)改定WG セクレタリー及び国内委員会事務局
2018年4月~2021年3月 ISO/TC 122/WG 16(温度管理された製品の包装) ISO 22982-1(輸送パッケージ-小包輸送用の温度制御された輸送パッケージ-第1部:一般要求事項)および ISO 22982-2(同-第2部:試験の一般仕様)エキスパート及び 国内委員会事務局
2020年2月~現在 ISO/TC 122として、ISO/TC 52(小型金属缶)及び WG 1(可燃性液化ガス容器)、WG 2(用語と分類)リエゾン並びにエキスパート
2021年2月~2023年3月 JIS Z 0200 包装貨物-性能試験方法一般通則 改正委員会委員
2021年4月~現在 ISO/TC 122/SC 3/WG 12(非危険物用FIBCs) ISO 21898(包装-非危険物のための柔軟性中間バルクコンテナ)改定WG セクレタリー及び国内委員会事務局
2021年4月~現在 ISO/TC 315(コールドチェーン物流)国内委員会委員
2021年10月~現在 ISO/TC 308(加工・流通過程の管理)エキスパート及び国内委員会委員
2022年7月~現在 ISO/TC 308/WG 2(マスバランス及びブックアンドクレーム)ISO 13662(マスバランス)エキスパート及び国内委員会委員  
2022年7月~現在 ISO/TC 308/WG 2 ISO 13659(ブックアンドクレーム)エキスパート及び国内委員会委員

最終更新日:2025年2月28日