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令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 菊池 正紀(きくち・まさのり)氏

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 高分子・バイオ材料研究センター バイオセラミックスグループ グループリーダー

POINT
○高品質な日本製品の海外進出には、標準化が必須であり、約20年にわたり「外科インプラント」の標準化に取り組む

○キーパーソンと直接会って話す機会を大事にする

○若手研究者の標準化活動への参加を促す仕組みづくりが必要。


高品質な日本製品の海外展開には標準化が必須

 菊池正紀氏が標準化活動に携わったきっかけは、VAMAS(注)の活動に2004年から参加したことだった。その後、2006年に外科用インプラントの評価手法などの標準化活動を進めているISO/TC 150(外科用インプラント)の国内委員会に参加。2011年からはISO/TC 150/SC 1(材料)/WG 3(セラミックス)のコンビーナ、2020年7月からはISO/TC 150の国内委員会委員長などを歴任するなど、約20年にわたり国際標準活動に取り組んできた。

 外科インプラントにはセラミックスやプラスチックなどさまざまな分野があるが、菊池氏はSC 1の材料分野に加えて、日本が幹事国を務めるISO/TC 150/SC 7(再生医療)にも取り組んできた。特に、SC 1の材料の評価基準などにおける標準化活動でマネジメントを発揮したことが今回の受賞のポイントとなっている。

 材料の領域において、「日本が製造する素材や製品は品質が高い」と菊池氏は話す。しかし、例えば材料の中でも「骨補填材」では国内市場は約80億円とそう大きくないために、大企業の参入が少なく、海外展開も進んでいない。「だからこそ、海外展開を推進していくためにも、標準化は欠かせません」と菊池氏はその意義について語る。日本にJISという国家規格があるように、アメリカやフランスなど各国にもそれぞれ独自の規格がある。それぞれの国の特徴を生かしながら、世界標準を作ることで、貿易が円滑に進められるようになる。


 

     (注)VAMAS:Versailles Project on Advanced Materials and Standards(新材料及び標準に関するベルサイユプロジェクト)とは、 
        1982年に開催されたG7ベルサイユサミットで合意され、先端技術製品の貿易や経済的交流を活性化することを目的として発足した
        先端材料の標準化に関する国際協力プロジェクトのこと。ISOやIECとリエゾンを結び、新材料に関する標準法案を提出し、国際標準
        化を促進している。(参考)VAMAS Japan  >>>  https://www.nims.go.jp/vamas/

 

2014年9月、韓国・ソウルで開催された第34回ISO/TC 150総会での集合写真(後列中央が菊池氏)
写真提供:一般社団法人日本ファインセラミックス協会
 

 「品質に対する基準がなければ、価格だけで判断されてしまいます。例えばこれだけの圧力をかけても壊れない、この動作をしても不具合が起きない、細胞や組織の侵入の善し悪し等に対する統一の試験・評価基準があることで、価格だけでなく品質での価値を認めてもらえ、それが日本の国際競争力につながります。また、この症状にはこれだけの品質が必要など、ユーザーが選択する際に価格と品質のバランスをとりやすくなります」。


キーパーソンと直接会って話す機会を大事にする

 グループを牽引する立場で各国の意見を取りまとめてきた菊池氏。「国内委員会はまとまりがよく、意思疎通に苦労することはありませんでした」と話す一方で、意見が違う国同士が話し合う国際会議の場では、プロジェクトを円滑に進めていくことに苦労したという。

 「どう考えても無理だろうと思うような手法を提案されることもあれば、日本とはまったく反対の意見が出てくることもあります。その際に相手の意見を頭ごなしに否定して、敵対してしまうことは避けなければければなりません。その場合は、コンセプトは良いのだけど、こういう方法も考えてみては? など、相手を肯定しつつも、提案を改めてもらえるようなアプローチを工夫します。そうして、全員が納得できるような落としどころを探すことが重要です」。

2015年9月、ドイツ・ベルリンで開催された第35回ISO/TC 150総会での集合写真(2列目右から2人目が菊池氏)
写真提供:一般社団法人日本ファインセラミックス協会

 
 メンバーとの仲間意識を醸成するために、各国のキーパーソンと直接会って、個別に話をすることも大事にしてきた。「日本人だけでなく、欧米のメンバーも、意外とFace to faceのやりとりが大事だと思ってくれていたようです」。

 自ら立候補してワーキンググループのコンビーナになった菊池氏は、いかに建設的に議論を進めていくか、そのマネジメントについて「非常に勉強になった」と話す。当然、国際会議の議論はすべて英語だ。ネイティブではない日本人にとって言葉のハンデは大きい。「最初の時点で、英語はネイティブではないので、多少失礼な言い方になってしまうことがあるかもしれないが許してほしい、とメンバーには伝えておきました」。大事なポイントごとにきちんと仕切り、会議を的確に進めていくことで、菊池氏は各国からの信頼を獲得していった。


世界標準を作り、世の中を変えられることがやりがい

 今後、国内においても外科用インプラントの材料分野の市場は伸びていくと見られている。菊池氏は企業の新規参入や既存企業の事業拡大、さらには海外展開に期待を寄せている。それを後押しするためにも、さらに標準化を進めていくことが重要だ。

 長く標準化活動に取り組んできた菊池氏は、約20年間を振り返り「メンバーの皆さんが協力してくれ、議論を重ねてこられたからこそ、今の自分があり、今回このような賞を受賞することができました」とメンバーへの感謝を伝えた。そして今後は、「これまでと同様、材料と再生医療の両輪で標準化を推し進めていきたい」と展望を語る。

 今後の課題としては、若手メンバーが少ないことを挙げている。若手が標準化活動に消極的になってしまう理由として、「活動に対する評価やインセンティブが少ないこと」を挙げる。「政府や企業、大学がもっと標準化に取り組む人に対しての評価制度やキャリアパスを整えていくことが必要です。特に、研究分野での参加者が増えてほしい。大学教育のカリキュラムに標準化の領域を加えて、人材を育てていくことも必要だと思います」。

2024年9月、ドイツ・ベルリンで開催された第41回ISO/TC 150総会での集合写真(右から3人目が菊池氏)
写真提供:竹村博文氏(一般社団法人日本ファインセラミックス協会)

 

 外科インプラントの領域はまだ始まって50年ほどの新しい領域だ。これまでは既存のものが後からデファクトスタンダードになるパターンが多かったが、これからは「ゼロから新しい標準を生み出していくことができる」と菊池氏は話す。「新しい考え方で自ら新しい標準を作り、論文とともに世の中に出していく。それによって世界を変えていくことができます。自分が作ったものが世界中で使われていると思うと、嬉しいですよね。ぜひ、それにやりがいを感じ、熱意を持って取り組む人が増えてほしいと思います」。
 

【略歴】
1995年4月~2011年3月 科学技術庁無機材質研究所(現 国立研究開発法人 物質・材料研究機構)重点研究支援協力員、以後研究員、主任研究員、主幹研究員
2004年4月~2017年3月 VAMAS(ベルサイユサミットに基づく新材料と標準に関する国際共同研究)TWA 30(組織工学技術作業部会)委員
2006年7月~2020年7月 ISO/TC 150(外科用インプラント)国内委員会 委員
2007年7月~2020年7月 ISO/TC 150/SC 7(再生医療)幹事国業務委員会 委員
2009年5月~2010年2月 JIS T 0330(生体活性バイオセラミック)原案作成委員会委員
2011年4月~現在 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 主席研究員/北海道大学 客員教授(併任)
2011年4月~現在 ISO/TC 150/SC 1(材料)/WG 3(セラミックス)コンビーナ
2011年9月~現在 一般社団法人日本ファインセラミックス協会 標準化委員会 EC委員会 委員
2013年4月~2018年1月 ISO 19090(生体活性セラミックス多孔体への細胞侵入性の試験方法)プロジェクトリーダー
2016年4月~現在 筑波大学 グローバル教育院 教授(併任)
2017年7月~2020年2月 経済産業省委嘱「バイオセラミックスの生物学的多能性評価に関する国際標準化委員会」委員
2020年7月~現在 ISO/TC 150 国内委員会 委員長
2020年7月~現在 ISO/TC 150/SC 7 幹事国業務委員会 委員長
2020年7月~2023年2月 経済産業省委嘱「先端的バイオセラミックスの健康支援・制御に関する国際標準化委員」委員長
2021年5月~2022年3月 JIS R 16000(ファインセラミックス関連用語)原案作成委員会 委員長
2023年7月~現在 経済産業省委嘱「バイオセラミックスの造骨性評価に関する国際標準化委員会」委員長
2024年4月~現在 厚生労働省委嘱「Additive Manufacturingによる生体用構造物の特性評価方法に関する国際標準化委員会」委員長
【受賞歴】
   平成30年度産業技術環境局長表彰(国際標準化貢献者表彰)

最終更新日:2025年3月18日