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令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 佐久間 正剛(さくま まさたけ)氏

株式会社東芝 技術企画部 技術管理企画室 技術管理担当/フェロー
 
POINT
○TC(専門委員会)幹事、規格開発リーダー、IEC活動推進会議委員、3つの活動を通じて相互の橋渡しに尽力

○標準化活動における日本のプレゼンス向上のため、多くの人材が国際会議に参加し経験を積んでほしい

○リモートの普及で出張せずに参加できる会議が増加。文系理系問わず、幅広い人材が標準化活動に関われる可能性がある  


バランス力とサポート、信頼構築で活動活性化に貢献


 民間企業の一員としての標準化活動にはバランス感覚が求められる。「中立的な立場を標榜しつつ、国際的なネットワークと並行して社内の技術者・国内のメンバーと信頼関係を構築することが不可欠です」と語るのは経済産業大臣表彰を受けた株式会社東芝の佐久間正剛氏だ。

 佐久間氏は委員会・会議運営、IEC上層活動のサポート等を通じて標準化に関わってきた。受賞は専門委員会であるIEC/TC 100(オーディオ・ビデオ・マルチメディアシステム及び機器)の運営、IEC/TC 57(電力システム管理及び関連する情報交換)、IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)での蓄電システムの規格開発、IEC活動推進会議(注)運営と上層部のサポートの3つの功績が評価されたものだ。

(注)IEC活動推進会議
 IECによる国際的な標準化事業に積極的に参画し、グローバルな視点での標準化を推進するため、各種支援事業、IEC上層委員会への提案、国際標準化に関する情報提供、調査・研究活動等を行う民間主導による団体(事務局:一般財団法人日本規格協会)

 

 
 IEC/TC 100では2015年から国際幹事補となり、テクニカルエリア(TA)のセクレタリー・マネージャーを歴任。TA統廃合など運営効率化に貢献し、メタバースをはじめとする新分野の規格開発をコーディネートした。

 IEC/TC 57では2010年から取り組む規格開発において、蓄電システムインターフェースの標準化に取り組み、停滞していたIEC TR 61850-90-9のプロジェクトリーダーに就任。発行までを完遂し、対応する蓄電システム情報モデルは国際規格IEC 61850-7-420 Ed.2の一部として2021年に発行された。

 また、IEC活動推進会議では企業代表委員として、IECへの対応方針の検討や日本代表委員の提案サポートを実施。2020年に運営委員会委員長を務めた後は、委員としてアフターコロナの活動維持や更なる活性化に尽力している。
 


非対面での会議運営に苦労、スムーズな議論に向けた環境整備を

 佐久間氏が国際標準化の活動に携わる中で、最も苦労をしたのが時差の壁だ。2010年代に規格開発に参加していたIEC/TC 57/WG 17のワーキンググループ活動では、規格開発会議が毎週日本時間の深夜に開催されていた。当時はTeamsやZoomなどWeb会議システムが普及しておらず、日本国内では電話会議システムで会議を行うことが一般的だった。

 さらに、電話会議の開催時間も欧州や米国の参加者に合わせるため、業務時間外での対応を行わざるを得なかった。「会議のスケジュールに極東の時間帯を考慮するよう主張しても、欧米の参加者が出席しなくなるだけなので、どうしても深夜早朝の対応が多くなっていました」。

 この電話会議で磨いた会議運営スキルと語学力により、コロナ禍以降、普及が進んだリモート会議への移行は問題なく対応できた。しかし、アフターコロナの時代となり、対面と非対面が混在するハイブリッド会議が始まるようになると、今度は新たな課題が顕在化した。

 「参加形態がリモートと対面の混在する会議の運営は、始めてみたところ様々な課題が発生しました。会議の主催者は現地で会議を進めながら、遠隔での参加者のチャットをチェックし、現地での挙手とバランスをとりつつ、画面共有をするという非常に複雑な操作を担わなければなりません。また、各種接続トラブル解消の責任をだれが負うのかという問題もあります。フルリモート若しくは対面のみに限定できれば簡単なのですが、それは現実的ではないため、ハイブリッドでの円滑な会議運営は新たな課題であると思います」。

 こうした課題については、今後、解消・改善に向けて関係者が真剣に取り組むべきだと佐久間氏は捉えている。「運営の体制は会議の結果にも影響するため、環境整備は軽んじてはなりません。例えば、サポートのみを行う専任のデジタルマネジャーを任命するなどの対策を講じることで、状況は大きく変わるはずです。現状、ごく簡単な自衛策の一つにすぎませんが、国際会議に参加する際は、毎回モバイルWi-Fiを携行するようにしています。今はハイブリッド会議普及の過渡期であるため、今後もスムーズな議論に向けた環境整備の重要性を指摘していきたいと思います」。
 


横断的な視点の重要性が増す活動、若手は「まず体験を」

 今後の国際標準化活動について、佐久間氏は複数専門委員会の相互連携など、合同での規格開発が増加するだろうと予測する。
 「2023年12月には量子技術に関する新たなISO/IEC合同専門委員会が設立されました。これからは自分の委員会にしか興味がないという姿勢での取組は困難になり、横断的な視点が必須となるでしょう。その大きなトレンドを何とか掴みつつ、可能な限り広い視点に立って引き続き取り組みたいと考えています」。

 佐久間氏は2023年12月にIEC/TC 120の国際幹事に就任。該当する蓄電装置や蓄電池システムは、再生可能エネルギーを電力供給に一層役立てる新時代の産業と社会基盤の行方を左右する技術だ。
 「日本が幹事国である強みを活かしつつ、関連する他の委員会と一層連携し、市場のニーズを的確に捉えながら、規格開発活動の維持・発展に真摯に取り組みたいと思います」。
 

2018年5月、ベルギー・ブリュッセルで開催されたIEC/TC 100 AGS/AGM会議に参加中の佐久間氏(写真右)
出典:IEC TC 100 AGS/AGMブリュセル会議報告(一般社団法人電子情報技術産業協会)
https://www.jeita.or.jp/japanese/pickup/category/180802-05.html
 

 また、国際標準化活動に関心を持つ若手に対しては「まず体験してみることが重要」と会議への参加を呼び掛ける。
 「私が広く標準化活動に取り組むきっかけになったのは、合意形成プロセスへの興味から2014年のIEC東京大会で複数の専門委員会総会にオブザーバーとして対面参加させてもらったことです。当時はエキスパート登録を許されても、対面前提の国際会議への参加は出張予算などの面で高いハードルがありました。しかし、今はリモート会議の普及で若い人が国際規格開発の現場、エキスパート同士のやり取り、専門委員会総会運営、審議の進め方や採決の手順など、標準化会議の作法に触れるチャンスは大きく広がりました。研究者でも、文系の方でも、関心をもったら飛び込んでみることを勧めたいです」。

 
【略歴】
1996年4月 株式会社東芝 入社
2011年1月~現在 IEC/TC 57/WG 17(電力システム向けIED通信及び分散電源データモデル)国際エキスパート
2015年4月~現在 IEC/TC 100(AV・マルチメディアシステム及び機器)国内委員会・AV&IT標準化委員会委員
2015年7月~現在 IEC/TC 100(AV・マルチメディアシステム及び機器)国際幹事補
2015年7月~2019年12月  IEC/TC 100/TA 1(音声・映像・データサービス・コンテンツ用端末)TA(テクニカルエリア)セクレタリー
2017年10月~現在 IEC/SysC/Smart Energy 国際エキスパート
2018年4月~現在 IEC活動推進会議 運営委員会委員
2018年4月~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 41(IoTおよびデジタルツイン)国際エキスパート
2019年4月~現在 情報処理学会 情報規格調査会 技術委員会 委員
2020年1月~現在 IEC/TC 100/TA 1(音声・映像・データサービス・コンテンツ用端末)TA(テクニカルエリア)マネージャー
2020年4月~現在 IEC/SysC/Smart Energy 国内委員会 JWG 3 副主査
2020年4月~2020年10月 IEC/SMB/ahG 86(システムアプローチを含むデジタルトランスフォーメーションの展望)委員
2020年10月~現在 株式会社東芝 技術企画部 フェロー
2022年10月~2024年11月 IEC/TC 100/ahG 10(戦略的規格開発計画・ユースケース等)共同コンビーナ
2023年7月~2023年11月 IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)国際幹事補
2023年12月~現在 IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)国際幹事

最終更新日:2025年2月12日