1. ホーム
  2. 政策について
  3. 政策一覧
  4. 経済産業
  5. 標準化・認証
  6. 普及啓発
  7. 表彰制度
  8. 令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 髙木 渉(たかぎ・わたる)氏

株式会社日立製作所 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット マネージド&プラットフォームサービス事業部 
ミドルウェア本部 システム&データアプリケーション部 主任技師

POINT
○プログラム言語COBOLの国際標準化活動に四半世紀にわたって貢献

○今回の表彰で自社内において標準化活動への理解が更に深まることを期待したい

○若手教育の充実と標準化活動の重要性の啓発が必要


COBOLの安定運用・利便性向上に向けた標準化活動

 異なるシステム間でプログラムが互換性を持って動作できる基盤を築き、長期間にわたり社会基盤の信頼性と継続性を支えるためにプログラム言語の標準化は欠かせない。その中でもCOBOLは、長年にわたって金融や行政をはじめとするさまざまな分野の基幹業務システム向けのプログラム言語として広く用いられ、社会基盤を支える存在となっている。

 日立製作所の髙木渉氏は、1995年からアメリカ国内でCOBOLの標準化を担っていた委員会X3J4に参加し、翌1996年からはISO/IEC JTC 1(情報技術)/SC 22(プログラム言語、その環境及びシステムソフトウェアインタフェース)/WG 4(COBOL)に参加し、COBOLの国際標準化活動に多大な貢献をしてきた。2009年以降は同WGのコンビーナとして活動。COBOLの国際規格ISO/IEC 1989の2002年の改訂では、日本語対応を可能にする多バイト文字仕様や当時広まりを見せていたオブジェクト指向プログラミングを可能にする機能等を導入。さらに、2014年と2023年の改訂ではプログラミングを支援する各種の仕様を取り入れるなど、時代の要請に応える成果をあげた。

 今回の受賞に対して髙木氏は「表彰をきっかけとして、標準化が外部からも評価される活動であることが社内で理解してもらえたと思います。これは標準化に携わる人々にとって大きな励みになります」と話す。これまで、標準化活動について社内で十分に認知されていないと感じる機会は多かった。「国際標準化の必要性は知られていても、その活動内容の認知度が低く、これまでは、社内の関係部門の担当者が変わるたびに基本的な点から説明する必要がありました。受賞を契機に、標準化に直接的な関わりのない職場も含めた全社的な理解が進むことを期待しています」。

 


COBOL改正作業を支える実務担当者の活動の場を創設

 COBOLの標準化活動を進めるうえで課題となったのは「過去の資産を壊さず、新しい仕様を取り入れること」であった。すでに膨大な量のプログラムが稼働中であるCOBOLにとって、規格更新における上位互換は必須となってくる。新仕様導入の際には、既存プログラムが確実に動作する互換性を維持しつつ、規格を更新する必要がある。

 そのため、何百ページも存在するプログラム言語の仕様書の体系を崩さぬよう新しい仕様を足す作業が求められた。どの改訂のときも、「標準化委員会改訂メンバーの注意深い努力が求められた」と髙木氏は振り返る。

 たとえば、2002年の規格改訂では、日本語の対応を可能にする多バイト文字仕様の導入が行われた。1,000ページ近い規格書のほぼすべてのページに影響が及ぶような、膨大な作業が必要となった。「私はコンビーナとして『nice to have(あれば便利だが必須ではない)』な提案は控え、重要な課題に対して議論を効率的に進めるよう意識しました。複数の既存仕様への影響を検討する必要性を考えると、小規模な仕様であっても簡単には追加できないからです。また、COBOLユーザーは、基幹業務システムの開発と同様、慎重に新技術を採用する傾向があり、規格に新しく導入する仕様の選定では、利用者の採用の優先度を見定めることが必要です」。

 改訂の体制が瓦解しかけたこともある。アメリカで開発されたCOBOLは従前、ANSI(米国国家規格協会)が制定した規格を、ISOが追認する形となっていた。2002年の改訂に向けて、形の上でISO/IEC規格の制定が先行する枠組みに変更したが、実際に規格文書に仕様を取り入れる作業を担ったのは、アメリカのCOBOL標準化委員会であった。しかし、2002年に規格が発行された後、次の大きな仕様候補がなくなり、アメリカのCOBOL標準化委員会は、有料で会員となる組織や個人の減少によって解散になってしまった。

 2009年からISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4のコンビーナを務めた髙木氏は、このWG 4の傘下にアドホック(特設)グループを設立。そこにアメリカのCOBOL標準化メンバーを迎え入れることで改訂の実務を行う体制を担保した。「当時、アドホックグループへの参加資格を緩く設定することが可能でした。この形であれば、様々な理由で各国の国家機関に登録することを嫌がる人も参加できます。このときに設立した組織は、現在も規格改訂のための重要な役割を果たしています」。


社会を支える標準化、まずは飛び込んで議論を楽しんで

 今後のCOBOLの改訂について、髙木氏は「世の中の動きに合わせ進化することが必要」と語る。現在はインターネットで広く利用されているデータ記述言語であるJSON(注)をCOBOLで扱うための仕様策定が進む。「すごく挑戦的なことではないかもしれませんが、常に何らかの変化を捉え、COBOLが対応できるようにすることがスムーズな社会運営につながります」。

(注)JSON(JavaScript Object Notation)
JavaScript のオブジェクトの書き方を基にしたデータ形式。軽量なテキストベースのデータ交換用フォーマットであり、特定のプログラム言語に依存せず利用できることから、Web開発でも広く利用が進んでいる。
▼JSONの紹介(日本語版)
https://www.json.org/json-ja.html

 標準化や規格改訂は社会活動の維持に欠かせない活動である一方で、その認知度は低い傾向にある。「若い人たちは標準化活動があること自体を知らない方が多く、新人教育などで若手に標準化という活動があることを周知する機会が必要だと思いますが、まだその取組は十分に行われているとはいえません。企業に勤めるうえで多少でも経理の知識が必要であることと同様に、(プログラム言語の)設計等に取り組む人材は標準化について理解すべきです」。

 また、企業で標準化活動への理解が進まないと、その活動に対する企業内部の評価システムが整備されていかない。「標準化を明示的に謳った評価システムがあれば、取り組む人の励みにもなりますし、取組を促進するきっかけになるでしょう」。標準化に興味をもった若手に対しては「与えられた機会に対して怖がる必要はなく、とりあえず行くことです」と髙木氏は語る。

 「私も最初は先輩に頼まれ、引き継ぎもなくいきなりアメリカに出張しました。言葉はある程度話せる必要がありますが、まずは参加し、わからなければ現地で聞くというスタンスで問題ありません。特にCOBOLのような開発が落ち着いた規格の委員会は進行も劇的ではなくキャッチアップに最適です。知見を身に着けた後は、技術的に良いと思うものを議論して戦わせることを純粋に楽しんでほしいと思います」。
 

【略歴】
1987年4月~2025年1月 株式会社日立製作所
1995年9月~2001年6月 ISO/IEC JTC 1(情報技術)/SC 22(プログラム言語、その環境及びシステムソフトウェアインタフェース)/WG 4(COBOL)国内委員会 委員
1995年10月~1996年12月 アメリカ合衆国ASC(認定標準委員会)X3(情報技術)J4(COBOL)委員
1996年5月~2009年8月 ISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4(COBOL)エキスパート
1997年1月~2009年12月 アメリカ合衆国ASC INCITS(情報技術標準国際委員会)J4(COBOL)委員
2001年7月~2005年6月 ISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4 国内委員会 副委員長
2002年9月~2022年7月 ISO/IEC TR 19755(プログラム言語COBOLのオブジェクトファイナライゼーション)プロジェクトエディター
2003年4月~2004年4月 情報規格調査会 COBOL JIS改正原案作成委員会/WG 副委員長
2005年7月~2025年1月 ISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4 国内委員会 委員長
2007年12月~2025年1月 ISO/IEC JTC 1/SC 22 国内委員会 副委員長
2009年9月~2024年3月 ISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4 コンビーナ
2015年10月~2025年1月 ISO/IEC JTC 1/SC 2(符号化文字集合)国内委員会 委員
2018年11月~2019年11月 情報規格調査会 UCS(国際符号化文字集合)JIS改正原案作成委員会 委員
2021年5月~2022年10月 情報規格調査会 COBOL JIS改正原案作成委員会 委員長
2024年3月~2025年1月 ISO/IEC JTC 1/SC 22/WG 4 エキスパート

最終更新日:2025年2月19日