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令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 桃井 保子(ももい・やすこ)氏

鶴見大学 名誉教授

POINT
○歯科材料の製品表示の要件を統一し、製品の製造、販売、研究のプロセスを効率化

○歯科医療に使われる製品の国際標準化は、国境を越えて人々の安心・安全を担保する

○国際会議で論陣を張れるだけの英語力を磨くべき


歯科材料の国際規格作りに長く取り組む

 歯科医療に使われる様々な歯科材料は、国境を越えて製品の品質や安全性を確保するため国際規格制定が進んでいる。その活動に1992年から携わってきたのが鶴見大学の桃井保子氏だ。桃井氏はISO/TC 106(歯科)に長く参画し、歯科材料や技術の国際標準化に取り組み、それが日本の歯科材料の産業競争力強化につながった。また、国際規格制定においては、わが国をはじめ加盟各国の不利益につながらぬよう調整に尽力。複数の作業部会のプロジェクトリーダーやコンビーナを歴任し、ISO/TC 106/SC 7(オーラルケア用品)では国際議長を務めている。

 歯科材料器械や口腔衛生関連用品の国際標準化は、価値ある技術の普及及び環境・安全の向上を促し、国内外の歯科医療の質の担保に貢献した。加えて、日本歯科医師会の材料規格委員として、JISの制定・改正案の審議にも携わり、ISOとJISの規程内容の統合や整合を図ることで、国内における安心で安全な歯科医療提供に寄与した。これらの長年にわたる標準化活動は、社会貢献としてその波及効果は大きいものである。

 桃井氏は「これまで、ISOの活動でいくつかのプロジェクトに関わってきましたが、私が最も貢献したと考えているのは、各種の歯科材料製品に記載が求められる包装、表示、説明文書の必要事項を統一するというプロジェクトを立ち上げたことです。プロジェクトリーダーとして、利害関係者の意見を調整する忍耐強い作業が必要でした」と話す。各国のエキスパートが合意し最終的にまとまった各規格間共通の一覧表は、歯科材料の製造や国内外における販売のみならず、研究領域における業務の効率化にも貢献している。

 


歯科材料を真に評価できるのは患者さんの口腔内

 歯科分野の標準化で重視されるのは、歯科医療における安全・安心と臨床効果の担保だ。これについては、桃井氏が標準化活動を進めるにあたって、常に念頭に置いてきたことがある。「国際規格では、対象となる製品がクリアすべき各種評価試験の要求値を設定します。この要求値の設定は、規格制定作業の中でもとりわけ利害関係者間の合意形成が難しいところです」。意見が収束しない場面を幾度か経験したが、そんな場面で重視したのは、患者さんの口腔内で長期にわたり問題なく機能している製品が不合格となってしまう場合、その試験法や要求値自体を見直す必要があるという基本的な考え方だという。“歯科材料を真に評価できるのは患者さんの口腔内”という考え方は、誰もが納得するものであり、桃井氏はこれをエキスパート間で共有することで要求値決定における難所を乗り切ることができたと述べる。

 また、国際規格における試験法の設定では、試験法が複雑すぎないこと、試験の機序が理解しやすいこと、使用機器の操作はシンプルに行うことができ、試験機器の価格は高額にならないこと、といった条件をエキスパート間で共有した。国際規格で採用される試験法は、世界のどの地域においても入手できる装置を使い、簡明なプロトコールのもとで行えるべきあると桃井氏は述べる。また要求値の設定ではエキスパートの意見交換が往々にして科学的妥当性に集中しがちであるが、要求値がメーカーを圧迫しないか、その費用対効果や規格開発のタイムスケジュール厳守などの事務的事項も重要と話す。このように、桃井氏は実務に即した考え方を一貫して持ち続けてきている。


若い人たちは英語力を身に付け、国際会議で論陣を張ってほしい

 桃井氏は国内規格であるJISの制定・改正案の審議にも長く関わる中で、これからは歯科材料器械の規格もグローバリゼーションが加速すると考えている。すなわち、各国の国内規格は、国という枠組みを超えて国際規格に一本化される方向にあるとの将来展望を述べる。「私が長く国際規格作成の場に参画してきた感想から申し上げると、過去には、日本の国内規格を国際規格レベルまで引き上げようという機運の中で作業していたものが、今はその逆転現象が散見する。日本の優れた材料や技術を、国際規格に導入しようというボトムアップ的な動きです」。

 世界を俯瞰すると、歯科材料や器械のメーカーは、日本、ドイツ、米国の3カ国に集中している。このため、国際規格制定の場において、規格試験提案を予備的に実施して評価したり、その試験の対象となる製品を供給できる国はこの3カ国が中心となる。また、各国持ち回りで開催されるISO/TC 106総会に、わが国から参加するエキスパート数が、開催国に次いで多いことも珍しくない。製品を作る人、使う人、評価する人が一致して地道な努力を続けてきたことが、ISO/TC 106における今のわが国の確固たる地位を築いたといえよう。

 最近は歯科材料・器械の規格にも、AIやDXの組み入れ、またSDGsの指標の導入などが求められてきている。こうした先駆的な動きは、EUから提案されることが多い。「国際標準化に参画する次世代の方々には、時代を切り拓くこうしたトピックに意欲的に取り組み、リーダーシップを発揮するまでになってほしいと思います。そのためにも国際会議の場で論陣を張れる実践的な英語力を身につけることがまずは必要です。それと同時に、国にも、積極的にWGコンビーナやコンビーナ・サポート、またSC議長・幹事国を引き受ける環境を整備していくことが求められます」。
 

【略歴】
1976年4月~1983年3月 鶴見大学歯学部 第一歯科保存学教室 助手
1983年4月~2003年3月 同教室 講師
1991年1月~1992年12月 英国ニューキャッスル大学 研究員
1992年6月~現在 ISO/TC 106(歯科)国内委員会 委員
2000年4月~現在 日本歯科医師会 材料規格委員会 委員
2000年6月~2007年5月 ISO/TC 106/SC 3(用語)/WG 3(情報伝達および情報伝達手段)エキスパート
2003年4月~2018年3月 鶴見大学歯学部保存修復学講座 教授
2003年6月~2012年5月 ISO/TC 106/SC 1(充塡・修復材料)/WG 10(歯科合着用・ベース用・裏層用セメント)エキスパート
2005年6月~2015年5月 ISO/TC 106/SC 1/WG 11(接着試験方法)エキスパート
2007年6月~2016年5月 ISO/TC 106/SC 7(オーラルケア用品)/WG 7(歯科用漂白材)エキスパート
2008年6月~2020年5月 ISO/TC 106/SC 7/WG 8(フッ化物バーニッシュ)エキスパート
2009年6月~2016年5月 ISO/TC 106/SC 1 日本議長
2009年7月~2023年6月 日本歯科医師会 材料規格委員会 副委員長
2010年6月~2011年6月 ISO/TC 106/SC 1/WG 15(歯科用接着性レジンセメント)コンビーナ
2010年6月~2017年7月 ISO/TC 106/SC 1/WG 15 ISO/TS 16506:2017 プロジェクトリーダー
2015年6月~現在 ISO/TC 106/SC 1/WG 10 ISO 9917-1(現在DIS段階)プロジェクトリーダー
2016年1月~現在 ISO/TC 106/SC 1/WG 10 コンビーナ
2018年4月~現在 鶴見大学 名誉教授
2020年1月~現在 ISO/TC 106/SC 7 国際議長
2020年6月~現在 ISO/TC 106/SC 7 傘下のWG国内委員会委員長

最終更新日:2025年3月18日