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令和6年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰 山﨑 健一(やまざき・けんいち)氏

一般財団法人電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 副部門長 副研究参事
 
POINT
○国内の意見を適切に国際的な規格作成プロセスに反映させる取組を進める

○標準化の仕事は、自分の研究結果が社会に役立つ形で目に見えるのが魅力のひとつ

○若い研究者には早くから標準化活動を体験して、将来の標準化活動を牽引してもらいたい


委員会運営を統括し、規格文書を主導した多面的な貢献

 電磁界が人体に与える影響の評価は、現代の電化社会における安全性確保の基盤である。この課題に30年以上取り組む山﨑健一氏は、電力中央研究所に所属し、研究者としての知識を活かして国内外で成果を挙げてきた。

 特に、IEC/TC 106(人体ばく露に関する評価方法)では、国内委員会委員長や同委員会傘下の低周波委員会委員長を務め、5件のIEC規格と2件の技術報告書の発行に貢献。このうち、IEC規格3件と1件の技術報告書ではコンビーナとして文書作成を主導した。またIEC規格を基に日本国内で4件のJIS規格発行を推進し、国内産業界が安全基準を活用できる環境を整えた。「国内外の専門家と協力しながら、多様な意見をまとめ上げることが重要だった」と述べるように、調整能力を発揮した。長年の活動を通じて各国の研究者との信頼関係を築き、科学的根拠と実用性を兼ね備えた国際規格は、電磁界の安全性基準として世界中で活用されている。

 「健康の基準という共通目標があり、各国の対立が少なかったことも規格化が比較的順調に進んでいる要因だと思います。標準化活動は調整が中心であり、自分の主張を控えながらより良いものを作るために議論を交わす姿勢が求められます」。

 


欧米主導の会議運営を超えた日本の研究成果と影響力

 国際標準化活動では、会議の運営や議論の進行において欧米が主導的な立場を持つ場面が多い。会議の開催時間が欧州に合わせて設定されることや、ネイティブ同士の英語での議論が中心になるため、欧米在住ではないかつ非ネイティブの専門家は一定のビハインドをもつ。「ネイティブ同士の早口な議論にはついていくのが大変なこともあります」。それでも、日本は研究成果の質の高さと専門家の努力により、こうした状況を乗り越え、議論の主導権を握る場面を増やしてきた。研究成果を反映して日本が議長やリーダーの役割を担う機会は増えており、2024年からはIEC/TC 106の国際議長が日本から選出されている。

 「日本の研究は質が高く、国際標準の議論でも十分な説得力を持っています。また、国際議長が日本人であることは大きな意味があります。議論の場で日本の存在感を高めることができますし、他国との調整を進めやすくなります」。

 山﨑氏は非ネイティブ国や他の研究者とも連携し、信頼関係を築くことで各国が積極的に発言できるよう心掛けた。これが議論の質を高め成果につながった。「必要があれば発言を止めて確認を求めるなど、確実に議論の流れを把握することを心掛けました」。また、基準の作成においては科学的妥当性と実用性を両立させなければならない。「評価基準が複雑すぎると現場で使えませんし、逆に単純化しすぎると科学的な信頼性が損なわれます」。

 山﨑氏は国内外の専門家と協力し、科学的根拠に基づいた議論を進めることで解決を図った。異なる国々のニーズを取り入れ、規格文書の作成では使いやすさを考慮しながら科学的根拠に基づく評価方法を確立した。この結果、国際的に信頼される評価基準が策定され、電磁界評価分野での安全性と公平性の向上に貢献してきた。


国内外の協力を深化、IEC/TC 106総会の3回目の日本開催を目指す

 山﨑氏は2027年に日本での開催を目指しているIEC/TC 106総会を成功させることを直近の課題として挙げる。この総会は、過去に2009年と2019年の2回、日本での開催を実現しているが、日本が電磁界評価分野での国際的な貢献や研究成果を継続的に示してきたことも背景にある。「これまでの活動で築いてきた信頼関係が日本開催の実現に繋がりました」。

 総会では、国際基準に関する議論のほか、ホスト国として日本の技術的取組や社会実装の進展を発信する機会となる。また、国内の産業界や研究機関が国際標準化の最新動向を直接把握し、連携を強化する絶好の場としての役割も期待される。そして、総会開催を通じて、これまでオンラインでは得られなかった各国専門家との直接的なコミュニケーションや協力関係が構築されることも大きな意義である。「直接会って意見を交わすことで、より深い信頼関係が生まれると思います」。

 また、日本での総会開催は、標準化活動の未来を担う若手研究者へのアピールにつながる。特に、若手研究者が早い段階で標準化活動に触れることが期待されている。「標準化活動は、研究成果を社会に直接役立てる魅力的な役割を持っています。これを知ることで、若手研究者が自分の研究がどう社会に影響を与えるかを意識するきっかけになると思います」。

 山﨑氏は、若手研究者が国際会議に参加し、議論の様子を見聞きする経験が重要だと考えている。標準化活動に関わる機会が得られたら、初めは観察から始め、国際会議に触れることで、標準化がどのように進められているかを理解してほしいという。日本で開催される総会は、若手にとって標準化活動の現場を体験する絶好の機会だ。「こうした活動に関わることで、将来的にはリーダーとして標準化を牽引する存在になってほしいですね」。
 

【略歴】
1992年4月 財団法人電力中央研究所 入所(2012年4月より一般財団法人)
2000年12月~2013年9月 IEC/TC 106(人体ばく露に関する電界、磁界及び電磁界の評価方法)WG 1(低周波水平規格作成)エキスパートメンバー
2001年4月~2007年11月 IEC/TC 106 国内委員会 低周波委員会 委員
2004年4月~2024年11月 IEC/TC 106 国内委員会 低周波委員会 電力線WG 委員
2007年12月~現在 IEC/TC 106 MT2(低周波電磁界の測定・計算に関する水平規格の改訂)エキスパートメンバー
2007年11月~現在 IEC/TC 106 国内委員会 低周波委員会 委員長
2007年11月~2023年2月 IEC/TC 106 国内委員会 幹事
2008年4月~現在 IEC/ TC 85(電磁気量計測器)国内委員会 委員
2010年1月~現在 IEC/ SC 77B(電磁両立性/高周波現象)国内委員会 委員
2010年4月~2012年3月 同所 電力技術研究所 上席研究員
2011年4月~2012年3月 電力線磁界測定法 JIS原案作成委員会委員
電力線磁界測定法 JIS原案作成委員会分科会 委員
2012年6月~2012年9月 家電機器磁界測定法 JIS原案作成委員会委員
家電機器磁界測定法 JIS原案作成委員会分科会 委員
2013年7月~2016年6月 電気学会 電磁界の人体防護に関わる評価技術動向調査専門委員会 委員長
2014年9月~現在 IEC/TC 106 MT 62226-3-1(電界による体内誘導量評価、改訂)コンビーナ
2015年1月~現在 同所 電力技術研究所 副研究参事
2015年4月~2016年3月 電磁界測定方法JIS原案作成委員会 委員
2015年7月~現在 総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波利用環境委員会 専門委員
2015年11月~現在 IEC/TC 106/WG 8(接触電流)コンビーナ
2016年4月~2017年3月 電磁界測定手順JIS原案作成委員会 委員
2016年5月~現在 IEC/TC 99(交流1kV超過・直流1.5kV超過の高電圧電気設備の絶縁協調とシステムエンジニアリング)国内委員会 システムエンジニアリング分科会 委員
2019年8月~現在 IEC ACEC(電磁両立性諮問委員会)EMF(人体ばく露に関連する電磁界の評価方法) Guide作成WG メンバー
2021年7月~現在 同所 グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 副部門長 副研究参事
2021年7月~現在 電気学会 電気規格調査会 電磁環境部会 部会長
2023年2月~現在 IEC/TC 106 国内委員会 委員長
【受賞歴】
 平成24年度産業技術環境局長表彰(国際標準化貢献者表彰)
 

最終更新日:2025年3月7日