イノベーション・環境局長表彰(国際標準化奨励者表彰)池山 智之(いけやま・ともゆき)さん
横河電機株式会社 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター
標準化戦略1部 マネージャー
池山 智之(いけやま・ともゆき)さん
池山智之さんはエネルギーマネジメントの国際規格2件を提案、プロジェクトリーダーとして審議をけん引し、2023年の発行を達成しました。ひとつ目のIEC 63376(工場エネルギーマネジメントシステム : FEMS)はFEMSの機能を定義した世界初の国際規格です。もうひとつのISO/TS 50011(エネルギーマネジメントシステム―ISO 50001:2018を用いたエネルギーマネジメント評価)は、これまで公開しづらかった組織の省エネ活動を評価する項目に、日本企業の取組を取り入れて制定した国際規格になります。
さらに、池山さんは2023年11月、IEC/TC 65(工業用プロセス計測制御)/JWG 17(スマートグリッド)の共同コンビ―ナに就任。国際標準化活動での今後の活躍が期待される池山さんに受賞の喜びを伺いました。


―― エネルギーマネジメントの国際標準化の取組の背景をお話し下さい。
池山●横河電機は制御機器メーカーですが、2009年頃に工場向けに省エネのコンサルティングサービスをスタートしました。サービスを進める中で、省エネの実現には組織体制の整備とエネルギーのデータ収集・最適化を行う仕組みの両方が必要だということがわかりました。そこで、日本企業が持つ知見を生かして、組織の体制とエネルギーマネジメント方法の両方を国際標準にしていくことにしたのです。
―― 国際会議ではどんなことで苦労されましたか。
池山●2018年頃から参加し始めて、21年初めに、FEMSを規格化するIEC 63376と組織の省エネ活動を評価するISO/TS 50011のプロジェクトリーダーになりました。日本からの規格提案だったので、私がリーダーに指名されたのですが、他の国のメンバーから「英語がネイティブでない人には反対だ」と言われたのです。国際会議参加の経験が浅いのに大丈夫かということでした。私自身、英語のネイティブスピーカーにはなりようがないので、WGの議長とも相談して、カナダのメンバーにプロジェクトチームのエディターとして加わってもらい、運営することにしました。
―― ISO/TS 50011とIEC 63376では、それぞれどのような活動をされたのですか。
池山●両方とも、同じ時期に規格化を進めました。通常であればISOが年2回ほど、IECが3回ほど対面で会議して進めていくのですが、ちょうどコロナの流行時期にあたってしまいました。そのため、ISO/TC 50011はWeb会議52回と対面の会議1回、IEC 63376はWeb会議を17回開催しました。
直接会って話すこと、メンバーから信頼を得ることの大切さ
―― Web会議の開催回数が随分多いですが。
池山●Web会議は日本時間の夜9時頃から始まって終わるのが深夜12時、ないし午前1時です。会議が終わると日本の参加メンバーと1時間くらい反省会議を行いました。Web会議は開催のたびに2、3日連続で開くので、午前2時頃に寝て、朝8時半には起きて会社の仕事を始めるという状況でした。正直、寝不足で身体はきつかったのですが、在宅勤務だったことが幸いしました。
Web会議の場合、カメラをOFFにして話をする人もいますし、対面での会話と比べて割り込みがしにくいです。そこで、会議がスムーズに進むように、きちんと資料を作って、言いたいことを明確にして、会議に臨みました。
―― 標準化活動を進める上で、どんな問題がありましたか。
池山●やはり、コロナ渦の時ですね。対面での会話ができないことが大きな問題でした。ISO/TS 50011で、Web会議が紛糾して、このままでは合意できないとなったことがありました。それで1回対面で会議をしたのですが、皆で集まって話し合ったら誤解があったことが分かり、その後合意することができました。この時は「直接会って話す」ことの大切さがしみじみと分かりました。
それに加えて「人のつながり」も大切です。私はそれまで国際会議に出席していた上司が定年退職したため、急きょ参加するようになったのですが、参加し始めた頃は認識してもらえず「あなた誰?」という状態でした。だからこそ、参加してもただ座っているだけでは意味がありません。自分で手を挙げて積極的に発言して顔と名前を覚えてもらい、「自分は内容を分かった上で発言している」ことを他の国のメンバーに理解してもらい、その繰り返しで少しずつ信頼を得られるようにすることが大切です。
意欲ある人なら構えずに挑戦してほしい
―― 今後の標準化活動はどのようなことに取り組まれますか。
池山●カーボンニュートラルが重要なテーマで、現在温室効果ガスの3割ほどが工場から排出されています。それに対して、新たな規格の検討を始めており、高度なFEMSによる工場のエネルギー効率化で、カーボンニュートラルを達成していきたいと考えています。
23年11月には工場の余剰電力などの情報を共有して効率的にエネルギーを運用するIEC/TC 65/JWG 17(スマートグリッド)の共同コンビーナになりました。また国内では一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)のJEITA講座で、24年度からエネルギーマネジメントの国際標準化というテーマで講義をしています。その中で国際規格は自分たちが作るものだという意識を持つ学生や若手技術者を増やしていきたいと考えています。
―― 最後に池山さんから、これから標準化活動に携わろうとする人へのメッセージをお願いします。
池山●国際会議というと、英語がうまくないと参加できないというイメージを持つ人も多いと思います。しかし、実際には参加者はつたない英語でもきちんと聞いてくれますし、エキスパートは、英語は下手でも様々な提案を持って来る人を歓迎します。文書開発が開発段階に進んだ時など、海外のエキスパートから、「おめでとう」といわれたことがありました。苦労しただけに正直とても嬉しかったです。ですから、あまり構えずに国際会議に飛び込んでいってみてください。日本ではなかなか味わえない達成感を得ることができると思います。
2004年4月~現在 | 横河電機株式会社 |
2010年4月~2015年3月 | 同社 IA事業部 グリーンファクトリーセンター 省エネ・コンサルティングに従事 |
2015年4月~現在 | 同社 マーケティング本部 標準化戦略センター |
2015年9月~現在 | IEC/TC 65(工業用プロセス計測制御)/JWG 14(エネルギー効率)国際エキスパート |
2017年2月~現在 | IEC/TC 65/JWG 17(スマートグリッド)国際エキスパート |
2018年11月~現在 | ISO/TC 301(エネルギーマネジメント及び省エネルギー量)国際エキスパート |
2021年1月~2023年8月 | IEC 63376(工場エネルギーマネジメントシステム)プロジェクトリーダー |
2021年3月~2023年4月 | ISO/TS 50011(エネルギーマネジメントシステム―ISO 50001:2018を用いたエネルギーマネジメント評価)プロジェクトリーダー |
2023年11月~現在 | IEC/TC 65/JWG 17 共同コンビーナ |
最終更新日:2025年4月1日