イノベーション・環境局長表彰(国際標準化奨励者表彰) 上野 絵理(うえの・えり)さん
ダイキン工業株式会社 CSR・地球環境センター
上野 絵理(うえの・えり)さん
冷暖房空調装置の性能評価の試験方法の標準化に取り組むISO/TC 86(冷凍技術及び空気調和技術)/SC 6(冷暖房空調装置の試験方法)にて国際幹事を務める上野絵理さん。グループにアカデミア関係者を巻き込むためのインフォーマルな会議の設定や、各ステークホルダーへの丁寧なコミュニケーションが評価され、今回の受賞に至りました。標準化活動を進めるにあたり、大変だったことや今後の目標について、上野さんにお聞きしました。


―― 今回の受賞の喜びやご感想を教えてください。
上野●まさか自分が受賞できると思っていなかったので、とても驚きました。右も左も分からない状況から標準化の活動を始めた私がこのような賞を受賞できたのは、サポートをしてくださった皆さんのおかげだと思っています。これまではベテランの方が受賞することが多かった賞を、今回、私のような中堅社員が受賞したことによって、私と同年代の社員や後輩たちにも、標準化活動を知ってもらえるきっかけになりました。
―― 上野さんが標準化活動に参加したきっかけは何だったのでしょうか?
上野●私は2010年に新卒でダイキン工業に入社し、エアコンの開発に携わった後、2020年から現在のCSR・地球環境センターに異動になりました。CSR・地球環境センターへの異動は自身の希望でした。新しい技術の開発だけでなく、ルール形成によって世の中に製品を拡散していくことに興味を持ったからです。
私が異動したタイミングで、冷暖房空調装置の性能評価の標準化に取り組む ISO/TC 86/SC 6で国際幹事をしていた同じ部署の前任の先輩が異動になり、引き継ぐ形でまずは(2020年)4月に国際幹事サポートから入り、9月に国際幹事になりました。
―― ISO/TC 86/SC 6の国際幹事として、どのような役割を遂行されたのでしょうか?
上野●まず、私たちのプロジェクトグループでは、冷暖房空調装置の性能評価の試験方法の標準化に取り組んでいます。世界的に脱炭素の要望が高まっている中で、性能評価の基準がバラバラだと、空調装置の省エネ性能などの正しい評価ができません。私たちは国際的に統一の新たな基準を作ることを目指しています。
そんなISO/TC 86/SC 6のプロジェクトにおいて、私が務める国際幹事は事務局のような役割で、議長のサポートから総会の設定、プロジェクトに紐づくそれぞれのワーキンググループのタスクの進捗確認など幅広い業務があります。私はダイキン工業の業務内としてこの活動に携わっています。
―― 活動の中で苦労したこと、大変だったのはどんなことですか?
上野●プロジェクトグループは、メーカーや認証機関の方がメインだったのですが、従来の規格を大きく改定して新たな規格を策定していくにあたって、どうしても専門家であるアカデミアの研究者の方々に参加していただきたいと考えました。最初は議長と一緒に「ISOの委員会に入ってください」とお願いしに行ったのですが、断られてしまうことが多く、アカデミアの方をどのように巻き込んでいくかは、かなり四苦八苦しました。コロナ禍でオンラインが普及していたこともあり参加しやすい環境だったにもかかわらず、最初のハードルは高かったですね。
―― どのように克服されたのでしょうか?
上野●皆さん謙虚なので、「研究内容を発表していただけませんか?」と言っても、「そんなグローバルな会議で発表するほどでも……」と断られることが多かったんです。そこで、参加のハードルを下げるために、インフォーマルな会議の場を設定しました。まずはそのインフォーマル会議で気軽に意見交換をしてもらうようにして、そこで話し合った内容を議事録にまとめてISOの委員会で共有していきました。2~3年するとインフォーマル会議に参加してくださる教授の知名度が委員会の中でも高くなり、結果的に10名くらいのアカデミアの方がそのままISOの委員会に参加していただけるようになりました。
―― さまざまな立場の方々とのコミュニケーションにおいて、意識したことはありますか?
上野●私自身、開発業務に携わっていた経験もあり、技術者の方と話すときは、技術を理解した上でコミュニケーションを取るよう心掛けています。また、意見が食い違った場合でも、まずは相手の考えを受け止めつつ、その場ですぐに結論を出さずに一度持ち帰って検討するように意識しています。
―― 上野さんの今後の目標を教えてください。
上野●今進めている新たな規格の策定はまだ推進途中で、2027年の完成を目指しています。そこまでは国際幹事として全力でサポートしていきたいと思っています。そして完成後には多くの国で使っていただきたいので、グローバルで合意を得られるように、必要に応じてステークホルダーの皆さんを巻き込みながら進めていく必要があります。そうした社会実装の過程においては、これまでとはまた違う課題も出てくると思いますが、各国に地道に説明して、より多くの国での規格の実装を目指します。
―― 最後に、これから標準化活動に携わる方へメッセージをお願いします。
上野●私自身、何もわからないところから標準化活動に参加しました。それでも何とかやっていけたのは、JSA(日本規格協会)さんの規格に関するセミナーに参加できたり、国際幹事の1年目は経験者がサポートについてくださる制度があったりと、手厚いサポートがあったおかげです。以前よりサポートは増えているので、最初のハードルは低くなっていると思います。
私は標準化活動に携わって、かなり人脈が広がりました。特に通常業務だけでは関われないような他社の社員の方と関われることで、業界動向を肌で感じられるのが、この活動の楽しさだと思います。また、20年、30年携わってこられた大先輩からこれまでの歴史や背景を聞けるのもこの活動の魅力であり、それを知ることが自分の業務の幅を広げることにつながっているのを感じます。以前に比べると20代、30代のメンバーも増えてきましたが、全体としてはまだまだ若手は少ないのが現状です。ぜひ、若手・中堅世代の方にどんどん参加していただきたいです。
2010年4月~現在 | ダイキン工業株式会社 |
2020年4月~2020年8月 | ISO/TC 86(冷凍技術及び空気調和技術)/SC 6(冷暖房空調装置の試験方法)国際幹事サポート |
2020年9月~現在 | ISO/TC 86/SC 6 国際幹事 |
最終更新日:2025年3月7日