イノベーション・環境局長表彰(国際標準化奨励者表彰) 川島 早香(かわしま・さやか)さん
特定非営利活動法人 バイオ計測技術コンソーシアム 研究部 食品産業標準化室 室長
川島 早香(かわしま・さやか)さん
バイオテクノロジー分野の分析規格開発の功績によりイノベーション・環境局長表彰を受賞した川島早香さん。川島さんは特定非営利活動法人バイオ計測技術コンソーシアム(JMAC)研究部食品産業標準化室長として、バイオテクノロジー、特に食品分野における国際標準化活動でセクレタリー(ISOのWG事務局)等としてさまざまなプロジェクトに参加、数多くの功績を残しています。このインタビューでは川島さんが標準化の世界に入ったきっかけやその詳しい活動内容、標準化活動の意義などについて伺いました。


―― このたびはご受賞おめでとうございます。お若いながら大変多くのご功績を残されていますね。
川島●ありがとうございます。私が所属するJMACは、バイオテクノロジー分野の標準化を推進する団体で、幅広い領域をカバーしています。10人程度の小さな組織ながら、会員企業や外部の専門家と連携し、国際プロジェクトにも積極的に関与しています。
上司や先輩方のサポートは手厚く、標準化分野の初心者だった頃からさまざまな会議に参加し、実践を通じて多くを学ぶことができました。ルールを理解し、それに基づいてプロジェクトを進めるセクレタリー業務に集中できる環境が整っていたことも大きな要素だったと思います。
―― ISO/TC 34(食品に関する標準化)やISO/TC 276(バイオテクノロジーに関する標準化)のさまざまな分科委員会(SC)や作業部会(WG)に所属され、ご活躍分野が非常に幅広いですね。
川島●意識的に選んだというより、所属するJMACの環境が大きく影響しています。JMACは規模が小さい分、個々が多岐にわたるプロジェクトを同時に担当することが一般的です。食品やバイオテクノロジーなど、さまざまな分野で必要とされる規格開発に参加するなかで、幅広い分野に関与する形になりました。
ISOの規格開発は多くの専門性が絡み合います。特に私が担当しているDNAやRNAの分析技術、食品の成分分析などの技術的な標準化では、一つのテーマで得た知見が他分野にも活かせることが多くあります。
2020年12月、都内で開催されたISO/TC 34/WG 24国際会議の会議風景。
本会議のセクレタリー業務を川島さん(写真中央、スクリーン正面の着席)が担当しています。
写真提供:川島早香さん
また、私の役割がプロジェクトリーダーやコンビーナのサポート、いわゆるセクレタリー業務を中心にしていることも大きな要素だと思います。規格開発のルールに従い、専門家の議論を整理して最適な形に導く役割のため、分野を超えて貢献できる場面が多くあります。
もちろん、専門的な知識が必要な場面ではその分野のエキスパートに助けていただくこともあります。私の役割は専門家の知識を形にして規格に落とし込むことです。役割分担のなかで、幅広い分野に対応する力が身についたのだと思います。
―― 川島さんがセクレタリー業務でご苦労された点はどこですか。また、その点をどのようにして解決されましたか。
川島●会議の日程調整が一番大変だと感じます。規格開発に関わるメンバーは世界中から集まる専門家で、それぞれが非常に多忙な方ばかりです。たとえば、ISOのルールでは36カ月以内にプロジェクトを完了させる必要があり、スケジュールを守るためには細かい進行管理が欠かせません。そのなかで、各国の代表や専門家の予定を調整しながら会議を設定するのは、正直なところ骨の折れる作業です。
また、会議中に意見が分かれることも珍しくありません。特に、特定の国が継続的に反対意見を出してくるケースでは、どのように議論をまとめて合意を得るかが課題になります。そういう時は、賛同してくれる国を味方につけたり、論点を整理して妥協点を見つけたりと、粘り強く対応する必要があります。 言葉や文化の違いも難しさの一つです。ISOの会議は基本的に英語で行われますが、ニュアンスの違いや細かい表現が誤解を生むこともあります。そのため、文書を作成する際には、ルールに沿った正確で明確な表現を心がけています。
―― セクレタリーの役割をどう捉えていらっしゃいますか。
川島●セクレタリー業務はプロジェクト全体をスムーズに進めるための“基盤作り”を担う仕事であり、標準化プロセスにおいて重要な役割を担っています。規格開発は多国籍な専門家が集まって議論し、形にする非常に複雑なプロセスです。議論の方向性を整理し、ルールに則った文書を作成し、会議を運営するのがセクレタリーの役割です。
セクレタリーが行う会議の議題設定やスケジュール調整はプロジェクトを効率的に進めるだけでなく、他の国や専門家に対して日本の存在感を示すことにもつながります。特に、議事録や推奨事項文の作成は、議論の結論や方向性を左右するため、非常に責任の重い業務です。

2024年1月、さいたま市で開催されたISO/TC 34総会参加者の集合写真
出典:第25回TC 34総会報告(独立行政法人農林水産消費安全技術センター) http://www.famic.go.jp/iso_codex_information/iso/_doc/tc34_report25.pdf
―― 標準化の活動に若手人材が求められているとお感じになることはありますか。
川島●若手には新しい視点や柔軟な対応力が期待されていると思います。この分野ではベテランの専門家が多く活躍していますが、若手が参加することを望む声が多くあります。
標準化の世界に飛び込む障壁はさほど高くはありません。たとえば、ルールブックやガイドラインは公開されているので、最初はそれを活用しながら進めることができます。私自身、分からないことは周りの人に助けてもらいながら少しずつ覚えていきました。
―― 川島さん自身が標準化の世界に入ったきっかけや感じた良さ、やりがいについて教えてください。
川島●実は、子供が生まれた後に仕事と育児の両立ができる職場を探していて、偶然出会ったのが現在所属しているJMACでした。それまでは「標準化」という言葉に馴染みはありませんでしたが、職場が柔軟な働き方を支援してくれる環境だったこと、チームの先輩方のサポートを受けながら一つずつ学ぶ機会をもらえたことで、少しずつ標準化の仕事に魅力を感じるようになりました。
標準化の仕事は比較的柔軟な働き方が可能です。会議の日程や作業スケジュールを調整しやすく、子どもの学校行事やプライベートな予定とも両立できます。加えて、国際的な規格開発に携わることで、世界中の専門家と協力しながらプロジェクトを進める機会があり、自分の仕事が国際的に役立つという実感が得られ、大きなやりがいが感じられます。
2017年5月~現在 | 特定非営利活動法人 バイオ計測技術コンソーシアム |
2017年5月~2019年5月 | ISO/TC 34(食品)/SC 16(分子生物指標の分析に係る横断的手法)でのISO 20813(分子バイオマーカー解析-食物及び食品生産物中の動物種の検出及び同定のための解析方法(核酸塩基法)-一般要求事項及び定義)開発におけるプロジェクトリーダー/コンビーナの補佐 |
2017年5月~2020年2月 | ISO/TC 276(バイオテクノロジー)/WG 3(分析手法)でのISO 20688-1(バイオテクノロジ-核酸合成-第1部:オリゴヌクレオチド合成の生産及び品質管理の要求事項)開発におけるプロジェクトリーダーの補佐 |
2018年1月~現在 | ISO/TC 34/SC 16/WG 8(肉種判別)コンビーナサポートメンバー、エキスパート |
2018年2月~現在 | ISO/TC 34/SC 16 エキスパート |
2018年4月~現在 | ISO/TC 276/WG 3(現 ISO/TC 276/SC 1)(分析手法)エキスパート |
2018年7月~2021年8月 | ISO/TC 34/SC 16/WG 9(種子及び穀物のサブサンプリング )でのISO 22753(分子バイオマーカー分析-遺伝子組み換え種子および穀物のサブサンプリングされたグループの試験で得られた分析結果の統計的評価の方法-一般要求事項)開発におけるプロジェクトリーダー/コンビーナの補佐 |
2018年7月~現在 | ISO/TC 34/SC 16/WG 9 コンビーナサポートメンバー |
2019年4月~2022年12月 | ISO/TC 34/WG 24(qNMR; 定量的核磁気共鳴で分光法)のISO 24583(定量的核磁気共鳴分光法-食品および食品に使用される有機化合物の純度測定-1H NMR 内部標準法の一般的な要件)開発におけるプロジェクトリーダー/コンビーナの補佐 |
2019年5月~現在 | ISO/TC 34(食品)エキスパート |
2020年9月~2022年9月 | ISO/TC 34/SC 16/WG 13(マイクロアレイの検出)での、ISO 16578 Ed2(分子バイオマーカー解析-特定核酸配列のマイクロアレイ検出の要件)開発におけるプロジェクトリーダー/コンビーナの補佐 |
2020年2月~現在 | ISO/TC 34/WG 24 事務局 セクレタリー |
2020年9月~2022年9月 | ISO/TC 34/SC 16/WG 13 コンビーナサポートメンバー |
2021年11月~現在 | ISO/TC 34/CAG(議長諮問グループ)メンバー(WG 24) |
2022年6月~現在 | ISO/TC 276/WG 5(データ処理と統合)でのISO 24480(バイオテクノロジー - 塩基配列評価に用いるデータベースの検証)開発におけるプロジェクトリーダーの補佐 |
2022年8月~現在 | (JAS)食品又は農産物における相対モル感度を利用した定量法に関する一般要求事項 標準開発委員会事務局 |
2023年12月~現在 | ISO/TC 276/WG 3(現 ISO/TC 276/SC 1)でのISO 21085(バイオテクノロジー - ターゲット核酸配列の極低濃度サンプル測定のための一般要件)開発におけるプロジェクトリーダーの補佐 |
最終更新日:2025年3月7日