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令和6年度 産業標準化事業表彰 イノベーション・環境局長表彰 受賞者インタビュー

イノベーション・環境局長表彰(国際標準化奨励者表彰) 吉井 雄一(よしい・ゆういち)さん

自分の思いを国際規格に盛り込めたことで大きなやりがいを感じた
 


本田技研工業株式会社 BEV 完成車開発統括部 BEV 車両開発一部 
エクステリアUX開発課 アシスタントチーフエンジニア

吉井 雄一(よしい・ゆういち)さん
  
 自動運転に向けて自動車用のセンサーが外界からの影響で機能低下することを未然に防ぐセンサークリーニング技術の重要性が増しています。吉井さんはその分野の研究者として、社内での基礎研究の成果を基礎に、公益社団法人自動車技術会でセンサークリーニング分野の国内小委員会を立ち上げ、リーダーに就任。同時に、ISO/TC 22(自動車)/SC 35(灯火器・視認性)/WG 3(運転視界)のエキスパートとして活躍したことが評価され、奨励者表彰の受賞に至りました。吉井さんに標準化活動での取組や今後について伺いました。

 
 
目次
○自らの研究分野の知見を生かして国際標準を作成

○社内での標準化への関心の高まりをビジネスにつなげる

○一歩踏み出せば、新しい世界が広がり、やりがいもある
 
自らの研究分野の知見を生かして国際標準を作成
 

        

―― 吉井さんが標準化活動に取り組むことになった経緯をお話しください。

吉井●本田技研工業に入社後、自動車の研究開発に携わり、車に取り付けられているセンサーの汚れを防ぐセンサークリーニングの技術を研究してきました。研究も終盤に差しかかった頃、フランスがその評価手法の国際標準化を計画しているという情報をつかんだのです。ほぼ同じ時期に、自動車技術会からもこのフランスの提案内容について審議していくという話があり、自動車技術会の小委員会でリーダー、ISO/TC 22/SC 35/WG 3でエキスパートになりました。

―― WG 3ではどのような議論になったのですか。

吉井●フランス提案のドラフトを見て、クリーナーで表面の汚れをきれいにすればセンサーが使えると誤用されてしまう可能性があると感じました。センサーにもいくつもの種類があり、認識方法も可視光や赤外線など様々です。そこで、センサーごとに評価方法を変えたほうがよいと強く主張したのですが、他のWGメンバーに詳しい人がいなかったため、各国の了解を得られませんでした。そこで、ISO/DIS 24650(悪天候下での自動運転用センサー洗浄システムの評価)のスコープに「これはセンサー表面の視覚的な汚れをとるクリーナーの評価方法である」という文言を入れて、限定付けする形で規格化しました。

 
社内での標準化への関心の高まりをビジネスにつなげる
 

        

―― 標準化活動を進める上でどんな点を意識しましたか。

吉井●元々、私はISOというと、ISO 9001(品質)とかISO 14001(環境マネジメントシステム)くらいしか知らなかったのですが、自動車技術会の小委員会には国際標準化に詳しい人がたくさんいました。それで最初の頃は、ISO関連はそちらに任せて、技術的な部分の議論に力を入れました。フランスの提案は日本の部品メーカーでは不可能な評価方法などもあったことから、日本メーカーが不利益にならないようにして規格化しました。
 
 国際会議の議論では、技術的な内容を追求しても同意を得るのが難しかったり、同意されてもテストや確認の時間がないため、却下されることも多かったです。私は研究者なので、技術を突き詰めて、結果を出すところまでやろうとします。ところが、規格化は妥協しなければいけない部分もあるため、研究とは違います。実際、ある部分で日本が強く反対意見を出すと、日本が通そうとしている規格に影響してしまうこともありました。その逆のケースもありましたし、研究者としては今まで考えたことがない、政治的な判断が必要で、その切り替えが大変でした。
 

―― 吉井さんの今後の取組についてお話しください。

吉井●規格化されたISO/DIS 24650の改定作業が生じると思いますので、今後も引き続き携わっていきます。一方で、今回、私が産業標準化事業表彰を受賞したことで、当社内でも標準化に対する関心が高まっています。(標準化に対する)知識がなかった社員が多く、私自身がいろいろと質問攻めに合ったことから、部署内で社員を対象に標準化セミナーを3回ほど開きました。

 海外では新しい技術の開発と標準化をセットにして取り組んでいると聞いたので、今後は、新技術を開発してビジネスにつなげるためにも標準化の活動をしっかりやっていこうと考えています。

 
一歩踏み出せば、新しい世界が広がり、やりがいもある
 

        

―― 標準化活動に携わって、どのようなことを感じましたか。

吉井●思い切って勇気を出して取り組んで、本当によかったと思っています。国際的な規格の策定に参画したことはとてもやりがいがあり、自分の意思が入ったものが規格化されてとてもうれしかったです。最初は全く知らない世界で、国際会議で話されるTCだとかNPなど、ISOで使われる言葉も分からなかったです。けれども、ISOのホームページや資料を見て勉強したり、自動車技術会の詳しい人たちの指導を受けることで、乗り切ることができました。  

 以前は、社内でも標準化活動の認知度が高くなかったため、「吉井は何をやっているんだ」と見られたこともありました。そこで上司に、現在、国際規格の策定に携わっている、規格化されれば当社にもメリットがあることを説明し、活動を認めてもらいました。実際、今回のISO/DIS 24650はリクワイヤメントがない評価手法の規格なので、当社のセンサークリーニング技術の高い性能を、この国際的に認められた方法で客観的に示すことができます。
 

―― これから標準化活動に携わろうという人へのメッセージをお願いします。

吉井●自分が普段、会社で担当している業務からすると、標準化活動への参加はハードルが高い面があると思います。国際会議に参加しなければなりませんし、ISOの仕組みも理解しなければなりません。ただ、一歩を踏み出してしまえば、ISOでの経験が豊富な国内の専門家の力を借りることもできますし、仕事としてもとてもやりがいがあります。
 若い人たちには、機会があれば積極的に標準化活動に参加してほしいと思います。
 

【略歴】
2010年4月~現在 本田技研工業株式会社
2018年5月~2019年10月 自社内で標準化に関わる研究活動(XE8E)に従事
2023年10月~現在 本田技研工業株式会社 アシスタントチーフエンジニア任用
2021年6月~現在 公益社団法人自動車技術会 人間工学部会 運転視界分科会 特別委員
2021年9月~現在 公益社団法人自動車技術会 人間工学部会 運転視界分科会 センサークリーニング小委員会 リーダー
2021年9月~現在 ISO/TC 22(自動車)/SC 35(灯火器・視認性)/WG 3(運転視界)エキスパート

最終更新日:2025年2月17日