所有から価値の継承へ。
市民と企業でつくる、
循環を支える社会の仕掛け

経済産業省では、2025年9月23日〜29日に大阪・関西万博において循環経済を楽しく学べる「サーキュラーエコノミー研究所」を開催しました。会場での展示やステージイベントからの学びを記事にしてお届けします!

この記事の 3つのポイント!
POINT 01
買い方は、未来への
メッセージ。
詰め替えや再生素材、
中古品を「選ぶ」ことが、
企業の循環を
後押しする一票に
POINT 02
所有だけが豊かさの
かたちではない。
修理や保証付きの再生品、
サブスク、リユース容器──
使い方の選択肢を増やすことで、
無駄や不安を減らせる
POINT 03
分別は、モノの命を
つなぐ行動。
正しく分けることは、
モノの価値を
次へ回すための
大切な一歩

ここまで、サーキュラーエコノミー(循環経済)とは何か、そして私たち一人ひとりが実践できることを見てきました。しかし、サーキュラーエコノミーのアクションは決して「個人の努力」だけに閉じたものではありません。市民同士、そして市民と企業が手を取り合うことで、さらに循環の輪を広げることができるのです。

今回の記事では、実際の社会で企業のどんな取り組みが進んでいるのか、それが私たちの暮らしとどう結びついているのかを、見ていきましょう!

目次

あなたの「買う」が
未来を変える。
今日から始める
サーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミーの考え方は、生活者に買い物を見直すきっかけを与えるだけでなく、企業にとっても新しい選択肢を広げる力をもたらしています。

今回は、そんな私たちの「循環を促す買い方」をサポートしてくれる企業の取り組みに注目。今日からできるアクションのヒントを探っていきましょう。

【花王】「詰め替えを選ぶ」が、未来の
資源に“もっと”繋がるために

シャンプーや洗剤の定番となった「つめかえパック」。花王によると、実はつめかえ用を選ぶだけで、プラスチック使用量を約76%も削減できます。

さらに花王は、使い終わったつめかえパックを回収し、再び商品の素材に戻す「リサイクリエーション」という挑戦も進めています。これまではパックからブロックなどに生まれ変わらせる“循環の見える化”の活動を実践してきましたが、現在はさらに長く資源を使い続けられるよう、再びつめかえパックに戻す「水平リサイクル」の技術を開発しています。

つめかえパックを選ぶという馴染みあるアクションが、パックを再びパックに生まれ変わらせる新しい循環へと繋がりつつあるのです。

【ユニ・チャーム】「環境に配慮した素材」で選ぶ

こうして商品の“素材”に注目することは、循環を生むヒントになります。ユニ・チャームは、「RefF(Recycle for the Future)」を掲げ、リサイクル困難とされてきた使用済み紙おむつを、再び製品に戻す水平リサイクルに挑戦中です。

現在、鹿児島県大崎町で紙おむつの分別回収を行い、介護用おむつや猫用トイレなどに生まれ変わらせる取り組みが進んでいます。また、インドネシアでは、これまで廃棄されていたサトウキビの搾りかすをバイオ素材として期間限定商品に採用するなど、地域ごとのサステナブルな資源活用も展開中です。

こうした循環型の未来を見据えて努力する企業の商品を選ぶことは、その取り組みを応援する「投票」にもなります。

【メルカリ】「中古品を買う」という
新しい選択肢

循環を促す買い方は新品に限りません。若い世代を中心に「中古で買う」という選択が広がっています。一方で、家庭には平均約182万円分の「持ち物資産」が眠っているといわれています。まだ使えるのに使われていない価値あるモノが、こんなにも存在するのです。

フリマアプリのメルカリでは、Z世代の2人に1人が不要品を売り、そのお金で欲しいモノを買う循環を楽しんでいるそう!一度「売る」を経験すると、中古品への心理的なハードルが下がり、自らも購入しやすくなるといいます。

中古品を楽しむことは、製造や廃棄にかかる環境負荷を減らすだけでなく、「モノがもう一度誰かのもとで生きる喜び」をも感じることかもしれません。

所有からシェアへ。
家電、家具、食器を
もっと自由に使える社会に

一方で「モノは買う」という常識が変わり、「必要なときに必要な分だけ使う」ライフスタイルも広まっています。これは「所有」から「利用」への価値観のシフトを象徴しているのです。私たちの選択肢を豊かにする企業の取り組みから、未来のモノとの付き合い方を探ってみましょう。

【パナソニック】「長く大切に使う」
「安心して中古品を選ぶ」
という選択

「愛着のある家電を、長く使い続けたい」。そんな想いに応えるのが、パナソニックの取り組みです。同社では、修理やメンテナンスで製品の寿命を延ばすと同時に、初期不良品などを修理・点検した「リファービッシュ品(再生品)」の販売にも注力。厳しい基準をクリアした中古品に1年間の保証をつけることで、「中古は少し不安」というイメージを払拭し、安心して使える家電を届けているのです。

2025年6月からは、栃木県・宇都宮工場で、リファービッシュ工程を公開。一般向けに工場見学も受け付け、地域に開かれた循環型のモノづくりをけん引しています。

パナソニックによると、リファービッシュ品を購入した人の満足度はなんと94%!「修理して使い続ける」「品質が保証された中古品を選ぶ」という選択肢がポジティブに広がりつつあります。

【CLAS】「借りる・返す・買うを自由に選ぶ」家具・家電のサブスクリプション

引っ越しやライフスタイルの変化で、家具や家電の処分に困った経験はありませんか?循環型の家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」は、そんな悩みを解決し、モノを月額制で提供し、借りる・返す・買うを自由に選べる暮らし方を提案しています。

その使い方はとてもシンプル。必要なときに家具や家電を借り、不要になったら返却するだけ。専門チームがリペアやクリーニングを行い、次の利用者へと繋いでいきます。もし使ってみて「これは自分の暮らしに合っているな」と感じたら、購入することもできるのです。

「新品でなくても、ユーザーにとって本当に良いものを」という考えのもと、買う前に、まずは試してみる。大型の家具や家電だからこそ、そんな気軽な選択肢があることで、モノやエネルギーの無駄な消費を減らすことができます。

会場で使用された机と椅子もCLASの家具レンタル

【カマン】「使い捨てない」が当たり前になる
リユース食器

私たちの日常生活にも、シェアできるものが増えています。その一つが、イベント会場やキッチンカーで使えるリユース食器です。

日本では年間769万トンもの廃プラスチックが排出され、実はそのうち46.8%が使い捨ての容器や包装。これを“使い捨てにしない”だけで、ごみの量を大きく減らすことができます。

これを事業として展開するのが、カマンのサービス「Megloo(メグルー)」。利用者は、テイクアウトなどでリユース容器を利用し、使用後はカフェやオフィスにある返却ボックスに戻すだけ。回収された容器は専門拠点で洗浄・管理され、再提供されます。

「環境に良いことだから頑張る」という義務感ではなく、「なんだか心地よいから、自然に選んでしまう」というポジティブな体験が、リユースを日常に変えていくのです。

Meglooのリユースカップ。実際に、Jリーグの試合会場では、この仕組みによってごみの量をおよそ半分に削減する成果も出ているそう。

分別は未来への投資。
新たな「資源の入り口」を
社会みんなでつくる

続いて「分ける」工程は、サーキュラーエコノミーの中でも、個人のアクションが特に大きな影響力を持つ場面です。ではその分別が、未来の資源にどう繋がっているのかを知っていますか?

分別した資源がどこへ行き、どう生まれ変わるのか。今まで見えにくかった分別の先を、見える化しようとする取り組みが社会で広がっています。

【ECOMMIT】「捨てる」以外の選択肢を、
もっと身近に

「まだ使える服。捨てるのはもったいないけれど、売りに行くのは面倒……」と思い、着ない服がクローゼットに眠っていませんか?ECOMMITは、そんな不要になった衣類や雑貨を捨てずに手放せる回収ボックス「PASSTO(パスト)」を、ショッピングモールやマンションなど、全国各地に設置しています。

使い方は、買い物ついでにPASSTOのボックスに不要な服を入れるだけ。集まった服の88.3%がリユース、10.5%がリサイクルされ、社会に戻っていきます。さらに「宅配PASSTO」を利用すれば、自宅からも郵送で服をはじめ、おもちゃや食器など色々な「自分は使っていないけれど使えるもの」を回収してもらうこともできるのです。

利用者からは、「捨てる以外の選択肢を考えるようになった」「モノを買う前に一度立ち止まるようになった」という声も。リユースやリサイクルを身近にすることは、単に手放す手段を増やすだけでなく、モノとの付き合い方を見つめ直すきっかけにもなっているのです。

【サントリー】そのひと手間が、
ペットボトルを未来へ繋ぐ

一方で、すでに私たち一人ひとりが「分ける」を実践してきたことで成果が出ている資源もあります。その代表例が、ペットボトルです。

サントリーでは、2011年から使用済みペットボトルを再びペットボトルに戻す「ボトルtoボトル」水平リサイクルを推進。現在は、国内清涼飲料の全ペットボトル商品の2本に1本以上が100%リサイクル素材なのです。

この高いリサイクル率を支えているのが、私たち生活者一人ひとりの協力です。飲み終わったペットボトルは、自動販売機横のリサイクルボックスへ。このとき、最後まで飲み切って、ラベルを剥がし、キャップを外して軽く潰すことを忘れずに。この小さなひと手間が、リサイクルの効率を高めています。私たちの日々の意識が、企業の技術と結びつき、大きな資源循環を生み出しているのです。

自動販売機横にあるボックスは、実は“ごみ箱”ではなく「リサイクルボックス」

【サトー】見えない技術が「分ける」を支える

分別を支えるのは、目に見える仕組みだけではありません。食品のラベルやシールを扱う株式会社サトーは、バーコードなどを活用してモノの情報を管理し、回収された資源がどのように処理されたかを追跡できるシステムを開発しています。

こうした技術があることで、私たちが託した資源が確実に循環していることを信頼できるデータで示してくれるのです。

さらに、今後はラベルや容器にICタグを内蔵させてスマホをかざすだけで簡単に分別方法にアクセスが出来る技術開発も進められているそうです!誰もがその場で、簡単に正しい分別方法を理解できる未来がもうすぐそこまで来ています。

資源をまわす
“落とし穴”はどこにある?
「仕方ない」を変える
技術と仕組み

一人ひとりの心がけによって分別されたモノは、企業の技術によって原料になったり、化学的に分解されたり、加工されたりした後、「まわす」ことで新しい商品に生まれ変わります。

そんな「まわす」ための技術や仕組みを開発する企業から、その現在地を聞いてみましょう。

【三菱ケミカル】プラスチックの「油化」で
循環のかたちを多様化する

世界では年間4〜5億トンのプラスチックが使われていますが、ペットボトルのような単一素材ではない、複数の素材が混ざったプラスチックはリサイクルが特に困難でした。

そこで三菱ケミカルは、使い終わったプラスチックを「油」に戻す技術の開発に挑んでいます。これにより、プラスチックをもう一度プラスチックの原料レベルに戻し、新しい石油と同じように使えることを目指すのです。この「油化」によって、リサイクル素材であっても品質を保ったまま、再び製品として生まれ変わることができます。

この技術は、2025年度中に営業運転開始予定。これまで再利用が難しかった多様なプラスチックもまさに今、循環し始めているのです。

【EVERSTEEL】AIが支える、鉄のリサイクル。
最大のCO2排出産業に変革を

ビルや橋、車、家電などにも欠かせない、鉄。しかし鉄鋼業は、産業全体のCO2排出量の約40%を占めるとされ、気候変動の要因の一つとなっています。そこで重要となるのが、リサイクル。リサイクルすることで、製造時のCO2排出量を従来の4分の1まで減らせると言われているのです。

しかし鉄スクラップの中には、ガラスや銅、アルミ、さらには爆発物も混ざっていることがあり、現在は人の目で確認し取り除いています。これが、非常に骨の折れる作業なのです。

そこで登場したのが、EVERSTEELが開発した画像認識AI。このAIは、熟練の作業員が持つ経験を学び、現場の映像をリアルタイムで分析。不純物を正確に識別し、危険を防ぎながらリサイクル効率を高めています。

【ロスゼロ】食品業界のルールを乗り越え、
おいしい循環へ

身の回りで循環が止まっているモノの一つが、「食」です。日本では、年間で約464万トンもの食べ物が捨てられています。これは、一人あたり毎日おにぎり1個分を捨てている計算になります(※)

しかも、その多くは「まだ食べられるのに」捨てられています。その原因のひとつが、日本特有の「3分の1ルール」。メーカーから小売店への納品期限と、店頭での販売期限は、製造日から賞味期限までの期間をおよそ3等分して設定することが慣習となっています。たとえば賞味期限が6か月の食品なら、お店は賞味期限の2か月前までに販売しなければなりません。それを過ぎると、返品や廃棄になってしまうのです。

これに対しロスゼロは、食品ロスを「おいしく」減らしています。形が悪いだけで売れなかったいちごや、余ったチョコレートを買い取り、新しいスイーツなどへ生まれ変わらせるのです。さらに、不定期のサブスクという柔軟な販売方法も取り入れることで、いつ・どれくらい発生するか予測できないという食品ロスの特徴に柔軟に対応しています。

※ リンク先_環境省HP「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和5年度)の公表について」を基に作成

所有することの豊かさから、
繋がることの豊かさへ

かつて豊かさの象徴だった「所有」すること。しかしサーキュラーエコノミーは、モノの「価値を継承する」ことに宿る豊かさもあるのだと教えてくれます。

修理して使い続ける、リユースを選ぶ、正しく分別する──そんな一つひとつの行動が、モノの価値を繋ぐ力になるのです。そのバトンを受け取った企業は、技術やサービスの創造を通じて、価値を新たな形で繋いでいきます。

モノとの新しい関わりを通して、誰かとの繋がりを感じる喜びと感性を取り戻すこと。それこそが、未来の資源を生み出す第一歩なのです。

クロージングセレモニーには、大阪・関西万博公式キャラクターのミャクミャク、そしてサーキュラーエコノミー研究所とコラボした「科学漫画サバイバルシリーズ」のジオも駆けつけ、四条畷学園小学校の児童へ資源循環を楽しく学べる「学習冊子とカードゲーム」を贈呈し、代表児童は「サーキュラーエコノミーへの理解と共に一生忘れられない思い出になりました」と会場に向けて語りました。

こうして幕を閉じた、大阪・関西万博のサーキュラーエコノミー研究所。しかし、この取り組みは万博で終わりではありません。2025年10月からは「サーキュラーエコノミーのがっこう」と題して、第一弾の富山を皮切りに、さらに11月29日(土)には、京都での開催が決定。その後、埼玉、東京でも開催予定です。サーキュラーエコノミー研究所で好評だった体験型展示の一部をお楽しみいただけます。

また朝日小学生新聞を通じて、全国の希望する小学校へ資源循環を楽しく学べる「学習冊子とカードゲーム」を配布することにより、サーキュラーエコノミーの学びの場を広げていきます。

このウェブサイトでは、今後のイベント予定や各地での学びの様子も随時お知らせしていきます。子どもたちがどのように「サーキュラーエコノミー」に触れ、何を感じるのか──引き続き記事にてお届けするので、お見逃しなく!

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