服も、モノも、
暮らし方も。

「回す」選択がつくる、
心地よい循環のある生活

「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という言葉を聞くと、どこか遠い国の環境政策や、企業の難しい取り組みのように感じるかもしれません。しかし、私たちのクローゼットやリビング、そしてスマートフォンの画面の中では、実はすでに新しい「循環」が始まっています。本記事では、そんな“実は身近にあるサーキュラーエコノミー”を、暮らしの目線からひもといていきます。

この記事の 3つのポイント!
POINT 01
サーキュラーエコノミー
は、暮らしを
「ラクにする」選択

サーキュラーエコノミーは、何かを我慢したり、無理をしたりするものではありません。必要なときに、必要な分だけ使うことで、出費や管理の手間が減り、毎日の暮らしが驚くほど身軽になります
POINT 02
「捨てない」だけで、
モノとの
付き合い方が変わる

使い終わったら捨てるのではなく、きれいに使って次の人へ。そんな意識を持つだけで、モノは“消耗品”から“誰かにつなぐ存在”へと変わっていきます
POINT 03
いつもの選択が、
知らない誰かの
仕事を支えている

服をきれいに保つクリーニング、修理して使える状態に戻す技術、丁寧に届ける配送。私たちが「借りる」「譲る」「回す」という選択をすることで、こうした仕事が成り立ち、モノが長く使われる仕組みが動いています

これまでの経済は、モノを作って、使って、役目を終えたら手放す、いわば「使い切り」が前提でした。サーキュラーエコノミーは、そんな当たり前を少しだけ変えて、モノの価値を次へ、さらに次へとつないでいく考え方です。

そして、それは決して、環境のために我慢することではありません。便利なサービスや新しい仕組みを取り入れることで、暮らしが軽くなり、選択肢が増えていく。そんな前向きな変化でもあるのです。

今回は、ファッション、モノの売買、住まいにまつわる3つのサービスを日常的に使っている人々に話を聞きました。そこから見えてきたのは、「環境のために頑張る」ことではなく、自分の生活を整えていった先に、自然と生まれていた“心地よい循環”の姿でした。

【ファッションの循環】
クローゼットを
「街」にひらき、
新しい自分に出会う

最初にお話を伺ったのは、大阪市内の区役所でフルタイムで働きながら、3人のお子さんを育てる逢坂さん。月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」 を5年以上利用しており、日常の中で自然にファッションの循環を取り入れてきた一人です。

写真右が、逢坂さん。
エアークローゼットで借りた服を着用

悩みを「楽しみ」に変えたプロの視点

逢坂さんの利用のきっかけは、仕事と私服のギャップでした。

「以前はカジュアルな服装で過ごすことが多かったのですが、仕事の場では落ち着いた装いが求められるようになりました。そのときしか着ない服をわざわざ買い揃えるのはもったいないし、そもそも選ぶ時間もあまりなくて」

現在は、人と向き合う場面の多い仕事に就いており、「相手が安心できるような、清潔感のある印象」を大切にしているといいます。そのため、エアークローゼットのスタイリストには、場にふさわしい雰囲気を意識したリクエストを送っているそうです。

「自分で選ぶと、どうしても無難な色や形に偏ってしまいます。でもプロが選んでくれると、自分では絶対に手に取らないような色や、トレンドのデザインが届く。それが意外と似合ったりして、周りのママ友や夫から『今日のお洋服、素敵ですね』と褒められるんです。それが嬉しくて、今ではエアークローゼットを利用すること自体が私の趣味になっています」

一着を長く、きれいに。
服を「回す」ことで広がるつながり

逢坂さんの暮らしで最も変わったのは、服を買うことへの意識です。

「本当に服を買わなくなりました。広告を見て可愛いなと思っても、『エアクロでリクエストすればいいしな』と一度立ち止まれる。クローゼットがスッキリし、衣替えの手間もほとんどありません」

ここで印象的だったのは、逢坂さんが「誰かが着た服」であることを、まったく気にしていなかった点です。

「届く服は、『本当に中古なの?』と思ってしまうくらいきれいなんです。いわゆる中古っぽさは全然感じませんでした。それは、独自の洗剤やプロの技術で、しっかり手入れされているからだと思います。みんなで服を回している感覚で、衣替えもしなくなりました。街全体が自分のクローゼットみたいだな、って思います」

一人ひとりがクローゼットに服をしまい込むのではなく、プロの手で洗われ、直されながら、いろいろな人のもとを巡っていく。そんな仕組みがあるからこそ、服は長く、気持ちよく使われ続けます。

そして実は、こうしたサービスを選ぶことが、服をきれいに保つクリーニングの技術や、丁寧に届ける物流の仕事を支えることにもつながっています。「一着をみんなで大切に使う」選択が、知らないところで人の仕事を支え、新しい経済の流れを生み出しているのです。

お子さんの七五三の様子。逢坂さんは、エアークローゼットで借りたドレスを着用

【モノの循環】
誰かの「不要」は、世界の
どこかの「必要」につながる

次にお話を伺ったのは、北海道でフリーランスとして活動するさっこさん。フリマアプリ「メルカリ」を5年以上使い、今やその活用術をSNSで発信するほど、リユースを通じた循環を楽しんでいます。

「ごみだと思っていたものに、
値段がついた日」

さっこさんの循環生活は、結婚に伴う引っ越しでの「あまりのモノの多さ」への直面から始まりました。

「自分では少ないと思っていたのに、箱に詰めても詰めても終わらない。そこで夫に勧められてメルカリを始めたのですが、最初に驚いたのは『ごみだと思っていたものに値段がつく』という衝撃でした」

さっこさんが挙げた例は、サーキュラーエコノミーの本質を突いています。

「自分にとっては捨てるしかないと思っていた、断線して聞こえなくなったイヤホンや壊れて使えなくなったドライヤー、ヒビの入った食器が売れたんです。イヤホンの断線を繋いで直して使うという方から『直りましたよ』と報告をいただいたり、お皿の修繕(金継ぎ)の練習用に購入されたりすることもあるようです。そんな需要があるのか、と驚きました」

さっこさんが出品し、実際に買い手が見つかったモノ

さっこさんのもとで「もう使えない」と思われていたモノたちは、別の人の手に渡ることで、再び役割を持ち始めています。自分には不要でも、誰かにとっては「ちょうど探していたもの」。そんな出会いを通して、これまで見過ごされてきたモノの価値が、もう一度見直されているのです。

こうした一つひとつのやり取りが積み重なることで、本来なら捨てられてしまうはずだったモノが、使われ続ける流れの中に残ります。その結果、モノが人から人へと巡り、新しい循環が自然と生まれています。

「譲る前提」で買うと、
暮らしはこんなにラクになる

さらに、さっこさんの消費行動は、メルカリを通じて「リセールバリュー(再販価値)」を意識したものへと劇的に変化しました。

「以前は穴が開くまで着倒して捨てていましたが、今は3、4回着て、まだ鮮度が高いうちに売って資金にする、という考え方にシフトしました。高額なフォーマルドレスなども、十万円近くするものがメルカリなら三万円ほどで買えたりします。自分が着て着なくなったらまた次の方にお譲りすればいい。そうやってモノを循環させる選択肢ができたことで、中古品への抵抗もなくなりました」

「使い切る」感覚から「次の人も使える状態で渡す」感覚へ。さっこさんは、相手の価値観に合わせた梱包資材を選んだり、感謝を伝えるシールを貼ったりと、次に受け取る人への配慮も欠かしません。また、地域を越えたモノのやり取りについても、こう振り返ります。

「沖縄の離島の方と取引したときのことなのですが、届くまでに十日くらいかかるのは当たり前だから『のんびり海を渡って届くのを待っています』という和やかなメッセージをいただいたんです。北海道と沖縄で距離はありましたが、安心してお渡しすることができました」

効率やスピードばかりが重視される現代の消費において、メルカリのような個人間取引は、モノを介した温かなコミュニケーションを再定義しています。モノが単なる「物体」ではなく、誰かの必要を満たし、大切に受け継がれていく。そこには、大量生産・大量消費の時代には見えにくかった、モノと人の新しい豊かな関係性が息づいています。

【生活インフラの循環】
ライフステージに合わせて「住まい」を最適化する

最後にご紹介するのは、仕事の関係で転勤が多く、現在は埼玉県で単身赴任中の影山さん。家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を利用し、暮らしを柔軟にアップデートしています。

「持たない」ことが生む、圧倒的な身軽さ

影山さんの転勤の頻度は高く、数年おきに移動が発生します。そのたびに重い冷蔵庫や洗濯機を買い替えたり、運び出したりするのは、コスト面でも労力面でも大きな負担でした。

「引っ越しのたびに家具を運ぶより、必要な場所で借り、不要になったら返す。その方が合理的だと考え、テレビ、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機などをまとめてレンタルすることにしました」

影山さんが感じているメリットは、単なる「安さ」だけではありません。

「家具や家電を所有すると、壊れた時の修理手配や、不要になった時の粗大ごみの手続きなど、とにかく『所有に伴う手間』が多い。レンタルなら、不具合があれば交換してもらえますし、返す時もスマホ一つで済みます」

試すことが、新しい「趣味」を連れてくる

影山さんの暮らしで非常に興味深いのは、循環型サービスが「新しい挑戦」のハードルを下げている点です。

「実は最近、料理にハマっているんです。きっかけはCLASで圧力鍋を借りたことでした。以前は料理が好きではなかったのですが、高機能な調理器具を試しに使ってみたら、角煮やローストビーフが驚くほど美味しくできて。友人を招いてご馳走するのも楽しみになりました」

自宅に友人を招いた食事会開催の様子

影山さんはその後、気に入った調理家電は自分で購入し、一方で「一度使ってみたかった」調理器具はレンタルで試すという、ハイブリッドな使い方をしています。

「初期費用を抑えて、自分のライフスタイルに合うかどうかを試せる。失敗しても返せばいいという安心感があるからこそ、新しい暮らしの一歩を踏み出せました。次は、来客が増えたのでソファーのレンタルも検討しています」

住空間を「固定されたもの」ではなく「変化し続けるもの」と捉え、必要な時に必要な資源を最適な形で配置する。影山さんの暮らしは、都市部で増える柔軟な働き方や住み方に、サーキュラーエコノミーがいかにフィットするかを体現しています。

無理しないのに、
ちゃんと回っている。
暮らしの中の新しい循環

今回お話を伺った3人に共通していたのは、「環境のために無理をして我慢している」という感覚がまったくなかったことです。

逢坂さんは、服を循環させることで、新しい自分に出会う楽しさを見つけていました。

さっこさんは、モノを通じて人とつながり、「これ、まだ使えるかも」と考える時間そのものを楽しんでいます。

影山さんは、必要なものを必要なときだけ使うことで、身軽で自由な暮らしを手に入れています。

それぞれの選択はバラバラに見えて、実は共通しています。モノをすぐに捨てず、できるだけ長く、気持ちよく使うこと。

その裏側では、服をきれいに保つクリーニング、安心して使えるように整える修繕、丁寧に届ける配送など、モノの価値を支えるさまざまな仕事が動いています。

私たちが「持たない」「回す」という選択をすることで、こうした仕事もまた、支えられているのです。

「全部持つ」ことにこだわらず、必要なときに使い、役目を終えたら次へつなぐ。そんな使い方が、特別なことではなく、暮らしの選択肢のひとつとして、少しずつ広がり始めています。

今日からできる、
あなたのサーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミーを実践するために、大掛かりな準備は必要ありません。

  • 何かを「買う」前に、「借りる」という選択肢がないか調べてみる
  • 「捨てる」前に、これを必要とする誰かがいないか、少しだけ想像してみる
  • 「とにかく安いもの」ではなく、「長く使えそう」「次につなげそう」なものを選んでみる

そんな小さな行動の積み重ねが、暮らしを軽くし、結果としてモノが回り続ける流れをつくっていきます。

「所有」という重荷から少し離れて、必要なときに、必要なものを、必要な分だけ使う。その心地よさを一度体験すると、「回す暮らし」が意外と楽しいことに気づくはずです。

モノが回り、想いがつながり、暮らしが少しラクになる。そんな未来は、私たちの日常の、ほんの小さな選択から、もう始まっています。

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