令和3年度国際貿易救済セミナー

 

令和3年度国際貿易救済セミナー  -概要と動画ガイド-

 
経済産業省特殊関税等調査室は、WTO事務局、米国、EU、豪州、ブラジルから貿易救済措置の調査当局の幹部に登壇いただき、「令和3年度国際貿易救済セミナー」をオンラインで開催しました。
 
 
 
COVID-19やサプライチェーンの複雑化などにより貿易構造が大きく変化している中で、今年度のセミナーでは、貿易救済措置の世界的な動向を各国当局から直接掴み、日本企業の皆様にお届けすることと致しました。

モデレーターは経済産業省貿易管理部長の風木淳が務め、貿易救済措置のうち補助金相殺関税(CVD)措置の活用状況とCOVID-19の影響に焦点を当てつつ、各国の最新の発動状況や調査実務についてプレゼンテーションと意見交換を行いました。

セミナーではまず日本からの問題提起として、外国政府における産業補助金などの市場歪曲活動を是正し公平な競争条件を確保するために、CVD措置を活用することが有効ではないかと指摘しました。その上で、CVD措置の活用に向けた課題として、①外国の補助金に関する情報を得ることの難しさ、②輸出国からの報復への懸念、③企業におけるCVDの認知度の低さ、という3点を提示しました。

次にWTO事務局から、AD/CVD措置の最新の統計をもとに、実際、コロナ禍による世界経済の停滞を受けて、AD/CVD措置の調査開始件数が増加トレンドを見せていることが指摘されました。

各国調査当局からのプレゼンでは、まず米国から、AD/CVD措置の申請が急増(2020年には両措置合計で119件に到達)する中、調査手続のオンライン化と調査当局の体制強化に取り組んでいることが紹介されました。また、組立工程の第三国への切り替えなど、AD措置およびCVD措置からの迂回行為が増加しているため、迂回防止を重視(2019年以降で22件の迂回調査を開始)していることが紹介されました。

続いてEUからは、新しい動きとして第三国からの越境投資を受けた輸入品に対するCVDを発動(2020年は2件)したことが紹介されました。また、2018年にレッサー・デューティー・ルールの適用について見直しを行い、補助金を完全に相殺できるようにするなど、制度の有効性および執行力を強化する改善を行っていることが紹介されました。

このように、米国とEUでは、近年の貿易構造の変化に対応しつつ、貿易救済措置を活発に活用していることが分かりました。

次に、豪州、ブラジルといった、比較的最近になって貿易救済措置の活用が増加した国から、最近の動向についてプレゼンテーションを行いました。両国ともに、直近では新規調査事案ではなくサンセットレビュー(措置継続の是非に係る調査)の件数が増加していることが示されました。また、COVID-19の影響で申請相談・調査手続のオンライン化が求められる中で、ガイドラインの作成や申請者への支援のニーズが高まっているとの現状が紹介されました。

このように、国内企業へのアウトリーチは日本だけでなく貿易救済措置の活用を図る国々にとって共通の課題であることが明らかになりました。

質疑応答のセッションでは、めまぐるしく変化する貿易構造に対応するための迂回防止措置に関する質問が多くありました。迂回調査が企業単位ではなく、国単位で実施するのかが問われた米国からは、国単位で迂回を調査することで、調査対象となっていない他企業による迂回策の模倣への対処が可能になるとの回答がありました。また、迂回調査の活用状況を問われたブラジルからは、迂回調査だけでなく、貿易救済措置全体として、その活用に国内企業がいかに習熟していくかが課題であるとの認識が示されました。

今回のセミナーを通じて、各国において貿易救済措置の重要性が増していることや、貿易救済措置の利活用に向けて、各国が共通の課題を抱えていることが明らかになりました。今回のプレゼンテーションや質疑応答の内容に基づき、経済産業省特殊関税等調査室は、産業界の皆様が貿易救済措置をより効果的に利用できるよう、さらに努力してまいります。
 
 

● アジェンダ


1. Opening remarks

2. Session1:Global trends in trade remedy
・貿易救済措置の世界的な動向について
・Covid-19の状況を踏まえたAD/CVD実施の最近の動向(申請状況・措置の施行状況などについて
・産業構造や貿易構造の変化に対応した制度や施行の課題と対応策について

3. Session 2:Q&A

4. Summary

5. Closing remarks
 

● 登壇者


・Ms. Clarisse Morgan, Director of the Rules Division of the World Trade Organization (WTO) Secretariat
・Mr. Ryan Majerus, Deputy Assistant Secretary for Policy and Negotiations, International Trade Administration, U.S. ・Department of Commerce
・Mr. Denis Redonnet, Deputy Director-General for Trade and Chief Trade Enforcement Officer, European Commission
・Dr. Bradley Armstrong, Commissioner of the Anti-Dumping Commission, Australia
・Ms. Amanda Athayde Linhares Martins Rivera, Undersecretary of Trade Remedies and Public Interest, Ministry of Economy in Brazil


 

● プレゼンサマリー

 

Opening remarks

 

 プレゼンター:日本(経済産業省貿易管理部長 風木淳)

※動画:00:02:05
テーマ:Challenges and Actions to Improve Access to Countervailing Duty Measures in Japan

CVD措置は、外国政府における産業補助金などの市場歪曲活動を是正し、公平な競争条件を確保するために不可欠なツールである。
経済産業省では、2021年上期に日本におけるCVD措置の活用に向けた課題と対応の方向性について専門家に意見を求め、産業構造審議会の特殊貿易措置小委員会が①外国の補助金に関する情報を得ることの難しさ、②輸出国からの報復への懸念、③CVDの認知度の低さ、という3つの課題について分析をし、提言を取りまとめた。今後、経済産業省は提言に基づき補助金に関するノウハウの収集、国内企業への積極的な情報提供、CVD申請に関する相談窓口等の整備を実施していく。
 

Session1:Global trends in trade remedy

 

 プレゼンター:Ms. Clarisse Morgan(WTO)

※動画:00:07:43
テーマ:Trade Remedy Statistics State of Play

AD措置の調査開始件数は、2020年に過去最高水準の349件に達した。CVD措置の調査開始件数も2020年に過去最高水準の55件に達した。近年(2016年以降)では、調査開始国としてはAD措置がインドと米国が突出して多く、CVD措置は米国が突出している。一方、調査対象国としては両措置ともに中国が突出している。対象産品としては、両措置共に鉄鋼を含む金属製品が最も多い。


 

 プレゼンター:Mr. Ryan Majerus(米国)

※動画:00:26:50
テーマ:Recent Trends in AD/CVD Implementation and the Challenges of Preventing Circumvention of AD/CVD Measures

2020年はCOVID-19の影響もあったが、AD措置及びCVD措置の活用が活発となり、調査開始件数は両措置合計で119件に達した。
反面、組立工程の第三国への切り替えなど、AD措置およびCVD措置からの迂回行為が増加していることが課題となっており、2019年以降で22件の迂回調査を開始した。迂回回避のためにモニタリングと業界の支援を行っているが、迂回スキームの変化のスピードが速いため、対応していくことが課題。


 

 プレゼンター:Mr. Denis Redonnet(EU)

※動画:00:37:20
テーマ:Countervailing measures against third countries’ subsidies

直近10年間におけるCVD措置の調査対象国の約半数が中国となっている。2020年に初めて、国境を越えた金融支援や補助金に対するCVD措置を2件発動した。関税率は高くないが、制度上、先例上の価値は大きいと考えている。また、実務上の変化を踏まえ、2018年にレッサー・デューティー・ルールの適用について見直しを行い、補助金を完全に相殺できるようにするなど制度の有効性および執行力を強化する改善を行っている。


 

 プレゼンター:Dr. Bradley Armstrong(豪州)

※動画:00:51:27
テーマ:International Webinar on Trade Remedy Investigations

近年では、新規課税調査よりも、課税延長調査や課税見直し調査、関税額の算定調査の割合が増加している。COVID-19の影響により、現地調査をバーチャルで実施するようになったが、現地調査専用ルームを設置し、現地調査を行うチームの専門性を高めることで効率がよくなった。また、豪州では国内企業への貿易救済措置活用に向けた普及促進や申請者へのサポート強化に注力しており、ITRF(International Trade Remedies Forum)と呼ばれる産業界と直接対話する機会を年に2回設けている。


 

 プレゼンター:Ms. Amanda Athayde(ブラジル)

※動画:01:01:13
テーマ:Recent developments on Trade Remedies and Public Interest in Brazil

ブラジル国内におけるAD措置の調査開始件数は2013年から2015年のピークを越え安定している。ただし、2020年以降はサンセットレビューの調査業務がピークを迎えている。当局では、調査に係る分析のコンセプトや調査手法、調査手続き等について詳細なガイドラインを作成した。
また、9月には全ての貿易救済措置が新しい電子手続に移行した。これにより、貿易救済措置関連調査および手続きの透明性が高まり、利害関係者の調査関与を促進するものと期待している。

 

Session2:QA ダイジェスト

  ※動画:01:12:25

 ブラジル→EU

 <ブラジルによる質問>
AD調査における公益性の要件について、特にCVDのケースでの分析手法(パラメーター、レッサー・デューティー・ルールとの相違)について補足していただきたい。

 <EUによる回答>
 ADとCVDで分析の内容は全く同じである。どちらの場合も、経済的な分析で、課税が欧州連合全体の経済的利益になるかどうか、あるいは経済事業者にかかるコストが利益に比べて不釣り合いであるかどうかを判断する。
 

 豪州→米国

 <豪州による質問>
米国が迂回に関する調査で課税を賦課したケースにおいて、課税は企業ごとではなく国ごとに行うアプローチをとっているが、そのメリットについて説明していただきたい。

 <米国による回答>
特定の迂回策は他の企業に模倣される可能性がある。そこで、このような問題や状況に対処するために、私たちは生産者、輸出者、輸入者を問わず、問題となっている製品と同じ国のすべての製品に対して、国全体で判定を行っている。また判定に当たっては、迂回の認証要件を導入しており、迂回行為をしていない事業者が迂回課税からの除外を求めることもできる。
 

 EU→豪州

 <EUによる質問>
豪州の貿易救済措置調査機関の構造(産業・科学・エネルギー・資源省の傘下ではあるが独立した組織となっていること)がもたらす、調査リソース面での具体的なメリットを説明していただきたい。

 <豪州による回答>
コーポレート機能については産業・科学・エネルギー・資源省の予算・リソースを利用しつつ、貿易救済措置における判断については、仮に大臣と意見が一致しない場合でも、当局判断の独立性および優位性を保つことができる。
 

 米国→ブラジル

 <米国による質問>
 ブラジルの調査当局が抱える最大の課題と、迂回行為の問題への対処方法について説明していただきたい。

 <ブラジルによる回答>
ブラジルでの迂回防止措置の適用は2件のみであり、これは、調査開始が国内産業からの申請のみによる以上、迂回策に限らず、貿易救済措置全般において、国内企業が貿易救済措置の活用に慣れていないことを示している。
 

 日本→WTO

 <日本による質問>
 アジア新興国における貿易救済措置の件数が増加している背景について、他国の貿易構造や貿易措置との関係がるのか、ご意見を伺いたい。

 <WTOによる回答>
現状、アジアを中心とした多くの国で製造業における生産能力が拡張されている。新興国が新しい産業を開発するたびに、その国は輸出国としての利益を得ることができる。裏を返せば、輸入が増加する国もあるということ。このため、輸入国側による貿易救済措置の申請が増加していることが一因であると考えられる。



 

お問い合わせ先

貿易経済協力局 貿易管理部特殊関税等調査室
担当者:辻
電話:03-3501-3462(直通)

 

最終更新日:2025年4月10日