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キーパーソンが語る、NexaScienceが描くAIによる「科学研究の自動化」がもたらす未来

未来を創る生成AIに挑む挑戦者たち

2026/03/26

国産の生成AI研究開発に挑むGENIAC採択事業者。そのキーパーソンは何を見据え、どこに突破口を見いだしているのでしょうか。GENIAC「競争力ある生成AI基盤モデルの開発事業」第3期採択事業者で、マルチエージェントAI時代を見据えた「AIアダプター技術」の開発を推進する株式会社NexaScience。共同創業者の吉野 幸一郎氏と開発担当者の熊谷 亘氏に、AIによる科学研究の自動化を目指す動機と将来への展望を伺いました。


<プロフィール>

吉野 幸一郎(よしの こういちろう)
1985年生まれ、大阪府出身。株式会社NexaScience CSO(Chief Scientific Officer)。京都大学大学院で音声対話・自然言語処理の研究で学位を取得。大学・研究機関での活動と並行し、研究成果の社会実装に取り組む。

熊谷 亘(くまがい わたる)
1986年生まれ、岩手県出身。株式会社NexaScience 研究開発メンバー。東北大学大学院で数学・量子情報理論を研究。オムロンサイニックエックスでの活動と並行し、研究プロセスの自動化とAIエージェント技術の研究開発を担う。


「知能」への関心はどこから生まれたのか

──コンピュータやプログラミングに興味を持ったきっかけを教えてください。

吉野:自宅に父が買ったWindows 95搭載のパソコンがありまして、最初に触ったのは中学生くらいでした。その時はプログラミングに強い興味があったというより、パソコン通信で遊んでいる感覚に近かったですね。その流れでPerlやCGIを触っていた程度です。

──吉野さんは大学で文理融合型の学部に進学されたそうですが、それはなぜですか?

吉野:意外と思われるかもしれませんが、実は高校時代まで一番得意だったのは国語で、その次が物理のような理系科目でした。関心の軸は早くから「言語」や対話にあって、学部3年くらいには研究手法として自然言語処理を意識するようになりました。

京都大学大学院に進んだのは、音声対話を研究したいと思った時に、その分野で強い河原達也先生のもとで学びたいと考えたからです。修士・博士では音声対話や音声認識を中心に、言語モデルにも取り組みました。当時は今ほど大規模ではありませんでしたが、「言語モデルが振る舞いを左右する」という感覚は、その頃から持っていました。

──ロボットの研究にも関わられていましたよね。

吉野:大学院での中心はロボットというより「対話」でしたが、ポスドク時代に指導教官と石黒(浩)先生のプロジェクトに関わる機会がありました。完全自律のアンドロイドをつくる研究の中で、身体性を含む対話の難しさも実感しました。

──では、熊谷さんがコンピュータやプログラミングに興味を持ったきっかけを教えてください。

熊谷:私は中学校の頃までは、身の回りにパソコンがありませんでした。もともとは歴史が好きだったのですが、数学はパズル感覚で好きでしたし、中学生の時に友達がアインシュタインの伝記を見せてくれたことをきっかけに物理にも興味を持つようになりました。

──学部生時代は、どんな分野に引き寄せられていったのでしょうか。

熊谷:数学も好きだったので、理学部の数学科で幾何学をやっていました。物理現象は空間の中で起きますから、空間そのものを扱う幾何学を通して理解できるのではないかと考え、関心を持ちました。その後は量子情報理論にも取り組みました。相対論のような宇宙スケールも、量子力学のようなミクロなスケールも面白いと感じていましたが、共通していたのは「仕組みを分解して数学的に考える」姿勢だったと思います。

研究を社会につなぐために設立されたNexaScience

──吉野さんは研究者であり、東京科学大学と理化学研究所(理研)ではPI(研究室主宰者)として所属されていますが、NexaScienceに参画された経緯や動機を教えてください。

吉野:研究者としては今でも企業との共同研究などを通じて社会に接点をつくれますが、研究成果を実際に「使われる形」に落とし込むのは簡単ではありませんでした。そうした中で、2022年末にChatGPTが出てきて、研究と社会実装の距離が急に縮まる可能性が見えてきました。

共同創業者の牛久(祥孝)さんとは昔からSNSでつながりがあり、年齢も研究分野も近いんです。ムーンショット(科学技術振興機構の挑戦的研究開発制度)の文脈で「対話的仮説生成」といったテーマを進めていたこともあり、声をかけてもらったのがきっかけでした。

研究者の立場で外から助言する方法もありますが、会社として一緒にやろうと思った理由は、国公立大学や研究所での研究成果は最終的に社会に還元されてほしいという想いがあるからです。もちろん、そのための仕組みもいろいろありますが、実際に社会に届くまでには距離を感じていました。

一方で、民間企業というかたちであれば、発展途上の技術でも社会実装してその価値を世に問うことができますし、学術研究とは予算もスピード感も違います。そうした課題意識が牛久さんと重なっていたことも、一緒に始めた理由です。

──吉野さんはCSO(Chief Scientific Officer)として、どのような業務に重きを置いていますか。

吉野:会社の方向性として「研究自動化を、実際に使える形にする」ことが最重要です。私は主に、技術の見立てや優先順位付けに関わっています。研究者としては新規性を追いたくなりますが、社会実装では「再現性」や「説明可能性」も重要になります。研究テーマとユーザーの課題をどう接続するか、どこまでをプロダクトとして保証すべきか。そうした観点で考え、バランスを取るのがCSOの役割だと思っています。

──数学を研究していた熊谷さんは、どのような経緯でNexaScienceへの参画を決めたのでしょうか。

熊谷:博士課程の頃から機械学習を独学で深め、論文も自分で書きながら研究プロセスの自動化に関心を持ってきました。東京大学や理研などでの研究活動を経て、「高機能な知能があれば、研究そのものを行うことができるのではないか」と考えるようになりました。

2024年からは私も牛久さんのいるオムロンサイニックエックス株式会社にリサーチャーとして所属しており、一緒に研究する中で「研究自動化を社会実装まで持っていきたい」という想いが強くなりました。そこで、NexaScienceにも創業初期から関わっています。

──熊谷さんは、開発のどこを主に担当されていますか。

熊谷:研究自動化のパイプライン側を担当しています。具体的には、論文探索や要点抽出、仮説生成、実験実行、結果の要約までを一つのループとして回し、そのループが改善し続けるように設計しています。現状は人が確認すべき箇所も多いので、どの工程なら自動化しても破綻しにくいか、逆に人の判断を残すべきかを切り分けているところから進めています。

──「研究の自動化」をわかりやすく言うと、どのようなイメージになりますか。

熊谷:研究を「作業」に分解するとイメージしやすいです。例えば、論文検索、論文を読む、未解決の問題を見つける、問題を定式化する。さらに計算機環境を用意してシミュレーションを回し、アルゴリズムを試して、結果を解釈して次に進む。最後は論文を書くところまで含めて、AIが実行できるようになると、人間が手を動かし続けなくても研究が進みます。すでに論文のスタイルにまとめる作業に関しては、かなり高いレベルに達しています。

もちろん、環境をゼロからつくるのは難しいですし、セキュリティや再現性の観点でも人間による設計が欠かせません。現時点では、人が要所で関与しながらAIの手数を増やしていく段階だと思っています。

──オンライン調査やデータ分析、論文としてまとめる部分はAIと相性が良さそうに思えますが、科学的な新規性も獲得できるのですか。

熊谷:端的に言えば、できます。人間の研究者も、過去の論文を大量に読んだ上で「まだ誰も解いていないから新しい」というかたちで新規性をつくることはよくあります。しかし、実際にはAIの方が人間より多くの論文を探索しているはずです。

ただ現状では、物理学より数学の方が強い傾向があり、さらに機械学習やAIの研究の方が自動化に向いている傾向があります。特に「AIの研究はAIにさせる」のが効率的になりつつあり、場合によっては性能の改善などもAI自身が行えるようになってきています。

──とはいえ最終的には人間がチェックする必要はありそうですし、論文には査読もあります。研究自動化では、結果の評価や検証をどう扱いますか。

熊谷:論文化にあたっては人間の確認も必要です。ただ、正誤の判定が明確な分野では、基本的にシステム的に判断する流れになりつつあります。また、AI自体が判定を行う場面ではその審判として「LLM as a Judge」の手法を使うこともあり、極力人間の労力を減らすことを目指しています。実は、私が研究したいもう一つのテーマが、LLM as a Judge自体を自動研究させることでもあります。

また、生成はできても検証は圧倒的に難しい。だからこそ、研究するAIと評価するAIを組み合わせ、互いに突き合わせながら品質を上げる仕組みをつくっていきたいです。最終的には人が責任を持つとしても、人が「これは駄目だ」と弾く確率を極限まで減らすことが目標です。査読の自動化も“本丸”に近いと考えていますが、すでに一部の会議では実験的に最初のレビューをAIが行う取り組みも始まっています。

──研究分野にもよりますが、AIによる自動化で研究者の役割も変わってきそうですか。

吉野:人間とのコラボレーションで行う「RLHF(人間フィードバックによる強化学習)」も、人間のフィードバックの代わりにLLM as a Judgeを用いれば「AIF(AIフィードバック)」になります。自動化によって人間の手数が減るほど、クオリティが自律的に上がっていく部分も出てくると思います。

AIによる自動化で研究者の役割がなくなるというより、役割の中心が移っていくと考えています。ただし、そのためにはAI自体の改善だけでなく、AIにどこまで任せ、どこで人間が責任を持つかを含めて設計する必要があります。論文の世界でも、AIを使った場合は「どこにAIの貢献があるか」を明示し、内容について著者が責任を持つ方向に動いています。その意味で研究者は、「思考」だけでなく「設計と判断」まで含めた営みにシフトしていくと見ています。

GENIACで取り組む「AIアダプター」で目指すもの

──GENIAC第3期で提案された「AIアダプター技術」について教えてください。MCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent2Agent)と何が違うのでしょうか。

吉野:MCPやA2Aは、複数のエージェントがあるときに、あるエージェントが出した情報を次のエージェントに渡す際の通信プロトコルを共通化するための規格です。それはそれで重要ですが、前段の出力をそのまま次の入力にすると、情報が多すぎたり要点がぼけたりして、結果的に性能が落ちることがよくあります。

人間であれば「相手が理解しやすい形」に言い換えたり、説明する順番を入れ替えたり、不要な情報を省いたりしますよね。開発中のAIアダプターは、その「言い換え」と「情報整理」を担当します。次のエージェントが処理しやすい形に整えて渡すことで、全体の成果を底上げできるかをGENIACで検証しています。

熊谷:私の側では、研究自動化のシステムにAIアダプターを組み込んだときに、どれだけ効果があるのかを見ています。マルチエージェントでの検証は試行回数が多くなるので、APIだけで回すとコストが跳ね上がってしまいます。

GENIACのGPU環境であれば検証を反復でき、改善ループを回しやすいです。AIアダプターが、人間が手作業でやっていた調整を代替することで、場合によっては人間以上に良い「渡し方」を見つける可能性もあります。

──GENIACに参加して感じた、ビジネス面と技術面のメリットをそれぞれ教えていただけますか。

吉野:事業の観点では、研究開発に腰を据えて取り組める点が大きいと感じています。GENIAC自体は以前から知っていましたし、2024年に創業したNexaScienceが応募するのは自然な選択肢でした。ただ、採択倍率が高いとも聞いていたので、特に弊社のようなアーリーステージの会社が選ばれたのは、正直驚きもありました。

熊谷:技術面では、他の採択事業者とのコミュニケーションが想像以上に活発でした。普通なら聞けないような細かな話も共有され、議論の中で自分たちの立ち位置が見えてきます。さらに、「組織の中でAIをどう浸透させれば良いか」といった実務的な議論がなされていたのも印象的で、学びが大きいです

「24時間回る研究」と人に残された役割

──生成AIが5年後、10年後に科学や社会をどう変えると見ていますか。

熊谷:少なくとも研究の進み方は大きく変わると思います。人間は起きている時間しか研究できませんが、システムは24時間動けます。朝起きたら「自分でゼロから考える」ではなく、「夜の間に出てきたドラフトや結果をチェックする」ことから始められる状態にしていきたいです。

これは会社のミッションではなく個人としての考えですが、AIによって科学研究はさらにスピードを上げられるのではないかとも感じています。どの研究にも時間がかかりますが、改善できる手数は多いはずで、そこにAIで選択肢を増やせるのではないかと考えています。

吉野:もっと先を見据えると、計算機上だけで完結しない研究も自動化の対象になります。例えば有機合成のように、粉をつくったり液体を混ぜたりといった物理的作業が入る研究では、ロボットが研究ループの一部として組み込まれていく可能性があります。

その際、フィジカルな工程がAIエージェント化され、止まらずに研究が進む環境ができれば、研究の風景は変わるはずです。ただし、研究者や開発者に求められる能力には、時代によって変わりにくいものがあります。

実際に、私が担当している学生には、研究にAIを積極的に使うことを勧めていますが、AIが出すものを「それっぽいから正しい」と受け取るのではなく、文章を過不足なく読み取り、ロジックを自分で組み立てられる力が重要だと伝えています。基礎を磨きつつ、最新の知識をキャッチアップし続けることが大切で、AIとの組み合わせによって能力が伸びていくと思います。

熊谷:AIが強くなるほど、人間の役割は相対的に小さく見えるかもしれません。しかし、問いを立て、責任を持つ部分は残ります。研究でも開発でも、何を面白い問題として設定し、どんな条件で検証するのかは重要です。AIと協働する時代だからこそ、その核を磨いてほしいです。

吉野:研究者というのは、仕事というよりはある種のライフスタイルだと思っているんです。基本的には自分の知的好奇心に駆動されていて、AIがどれだけ賢くなっても、まずは自分の知的好奇心を満たすためにAIを使っていく部分があると思うんです。

その意味では人間の研究者は多ければ多いほど良いとも考えていて、それぞれの目的や知りたいことが違うことで人類全体の知を大きくしていく方向に進んでいけると思います。そのためにも、自動化できる部分はAIの力を最大限活用した方が良いと考えています。


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最終更新日:2026年3月26日