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小さなチームで世界にインパクトを残す。Sakana AI 株式会社の秋葉拓哉氏が語るアルゴリズムの原点と、再びモデル開発に注目する理由

未来を創る生成AIに挑む挑戦者たち

2026/03/26

国産の生成AI研究開発に挑むGENIAC採択事業者には、研究の最前線で意思決定を担うキーパーソンがいます。今回はSakana AIで研究チームを率いる秋葉 拓哉氏に、プログラミングの原点から、分散学習で主流と逆を選んだ理由、GENIACで得た手応え、そして、いま再びモデル開発に注目する背景までを伺いました。


<プロフィール>

秋葉 拓哉(あきば たくや)
1988年生まれ、東京出身。Sakana AI株式会社リサーチサイエンティスト。高校時代から競技プログラミングに取り組み、大学・大学院ではアルゴリズム分野の研究に従事。博士号取得後、国立情報学研究所(NII)で特任助教を務め、2016年にPreferred Networks(PFN)へ入社。分散深層学習フレームワーク「ChainerMN」や、分散ベイズ最適化フレームワーク「Optuna」の開発を手掛ける。Stability AIを経て、2023年にSakana AIに参画し、研究チームをリードしている。共著書に『プログラミングコンテストチャレンジブック』(マイナビ出版)がある。


プログラミングの入口は「活発なパソコン部」だった

──秋葉さんは、いつ頃からプログラミングに親しんでいたのですか。

秋葉:子どもの頃から、コンピュータが命令どおりに動くことへ強い関心があり、ずっとプログラミングをやりたいと思っていました。ただ、親も詳しくなかったので、小学生の頃は「やりたいけれど、どう始めればいいかわからない」状態でした。中学受験の際に、パソコン部が活発な学校に入りたいと考えて文化祭を見に行き、中高一貫校である麻布学園のパソコン部が特に印象に残りました。麻布中学に入学後、先輩方からプログラミングの基礎を教わったのがきっかけで、最初に触った言語はC++でした。

──当時、何がいちばん面白かったのでしょう。

秋葉:自分でもそれを理解するのに時間がかかったんです。パソコン部にはゲームが好きで、「ゲームをつくりたい」という友人が多くいました。自分も最初はそうなのかなと思ったのですが、実は違った。プログラミング言語を学ぶこと自体は面白いのに、ゲームをつくりたいわけではない。そのため、いろいろな言語を触りながら、しばらく落ち着かない時期が続きました。
そんな時に「競技プログラミング」のコンテストに出会い、モヤモヤした思いの理由が一気に腑に落ちました。自分は難しいロジックを駆使して難問を解くことや、性能の高いソフトウェアのつくり方自体に興味があるのだと気づいたんです。

──高校時代には情報オリンピックでメダルを獲得されましたが、競技プログラミングに熱中した時期はいつ頃ですか。

秋葉:出会いは高校の終わり頃で、本格的にやり始めたのは大学1年生からです。当時は競技プログラミングが今ほど一般化しておらず、高校生で取り組む人はほとんどいませんでした。そのせいか、人より少しプログラミング技術が秀でていれば勝てることもあり、それが成功体験になって熱中につながっていった面があります。

「筆算の発明」に近い面白さが、アルゴリズムの核にある

──秋葉さんは、競技プログラミングでアルゴリズムの重要性に気づかれたそうですが、その面白さとは何でしょうか。

秋葉:例えば「123×456を計算してください」と言われた時、多くの人は紙などに計算の過程を書く「筆算」を思い浮かべますよね。実は、あれこそがアルゴリズムです。「456を123回足す」方法でも計算は成立しますが、桁がもっと大きくなると、単純な足し算のプログラムでは時間がかかりすぎます。そこで、筆算の手順をプログラムとして実装すれば、大きな桁でも現実的な時間で解くことができます。
つまり、同じ目的でもアルゴリズムが違うと、同じコンピュータ、同じプログラミング言語を使っているのに、計算の効率がまったく変わります。賢い方法を選ぶだけで、もっと難しい計算ができてしまう。そこが自分には魔術のように感じられて、強く惹きつけられました。

──東京大学理学部の情報科学科では、その延長線上で研究に進まれたのですね。

秋葉:はい。大学、大学院では、競技プログラミングで熱中していたアルゴリズム分野の延長で研究していました。当時は今のAIと違って、離散数学やアルゴリズム理論に近い、数学寄りの領域でした。

──博士号取得後はNII(国立情報学研究所)にお勤めでしたが、2016年に民間の研究部門に移られたきっかけは何でしたか。

秋葉:自分の性格ややりたいことを総合すると、アカデミアにこだわらなくてもいいのかなと気づけたのが転機でした。アカデミアには短期の採算性に縛られず、長期で知見を積み上げられる良さがあります。一方で自分としては、社会の「今、本当に大きい問題」に取り組みたい気持ちが強かったのです。
加えて2016年頃は、ディープラーニングが社会に大きなインパクトを与え始めた時期で、その渦中にどうしても身を置きたかった。技術としての面白さに加えて、世界から優秀な人が集まり、競争的に切磋琢磨できる環境で力を試したい気持ちもありました。

主流と逆を選ぶ。分散並列学習で「同期」に賭けた判断

──Preferred Networks(PFN)へ入社してからは、分散学習で重要な技術判断をされたと伺いました。

秋葉:当時は、多数のGPUを使った分散学習でディープラーニングを高速化できるのか、という問いが研究コミュニティ全体にありました。Googleをはじめ、多くの研究チームで主流となっていたのは「非同期」方式でしたが、論文や実験結果を精査すると、自分の視点では別の方向が有望に見えたんです。
そこで、主流とは違う「同期」方式に絞って実装しました。これは賭けでもありましたが、世界で最初に1,000GPU規模の並列分散学習を成功させ、結果として同期方式がその後の主流になり、世界記録をいくつか打ち立てることもできました。

──その判断を支えたものは何だったのでしょう。

秋葉:ディープラーニングを研究していた期間は短かったのですが、アカデミアで磨いた研究の基礎力が役立ったと思います。例えば、論文をうのみにせず、前提や条件を確かめながら読むこと。複数の研究を整理して、本質を抽出することなどです。
その上で、最後は「自信」を持つことも大きいです。先端分野では「皆がやっているから正しい」とは限りません。そこに対して仮説を持って押し切るのは難しいのですが、自分の場合は競技プログラミングの経験などから、「世界レベルで戦ってきた」という自負が支えになりました。

──日本の開発コミュニティについては、どのように見ていますか。

秋葉:この分野での日本人の技術力はかなり高いと思っています。個々の技術理解、コードを書く力、実験結果を正しく読み解く力など、世界クラスと一緒に仕事をするようになった今でも負けているとは感じません。もし弱い点があるとすれば、「何をやるべきかを見極める力」や、ゴール設定の部分かもしれません。
Sakana AIに来てから特に感じるのは、現在の情勢から面白いテーマを設定することや、研究成果の効果的な見せ方などは、自分が身を置く環境によって差が出やすいということです。この点は私自身もこれまでの仕事を通じて学んできましたし、Preferred Networks時代にリーダー的な立場で挑戦できた経験は大きかったです。

小さなチームで世界に大きなインパクトを与えたい

──2023年にStability AIを経て、Sakana AIに参画された背景を教えてください。

秋葉:Stability AIに行った理由はいくつかありますが、その一つは生成AIに集中できる環境に身を置きたかったからです。生成AIを主軸にする組織であれば、生成AIのみに注力するという前提で物事が進むので学びが多いと考えました。
実際にStability AIではGPU環境で多くの実験ができ、大規模言語モデル(LLM)の学習に関する感覚を自分の中で構築できたことは大きな財産です。

──その上で、Sakana AIには初期メンバーとして参加されたそうですね。創業間もないベンチャーを選ばれた理由は何ですか。

秋葉:はい。フルタイムでは最初の入社メンバーで、入社は2023年の冬です。海外のビッグテックという選択肢もある中でベンチャーを選んだのは、自分の個性をより活かした仕事をしたいと考えたからです。Sakana AIは小さいチームで、日本を拠点にしながら世界にインパクトを残せる可能性があると感じました。また、一緒に働く同僚やリーダーのレベルが非常に高く、「小さなチームでインパクトを残すために、主流から少し外れたリスクを取る」姿勢にも共感しました。

──「小さなチーム」を重視する理由を、もう少し聞かせてください。

秋葉:研究は長期戦なので、判断の質を積み上げていく必要があります。その時、意思決定の回数が多く、議論の密度が高い環境だと学習が速くなります。自分は、その感覚を大事にしています。

──現在はどのような役割を担っていますか。

秋葉:リサーチ組織の中の1チームをリードしています。ただ、ベンチャーでCEO直下ということもあり、研究だけではなく、他のメンバーがやらない様々な仕事を担当することになります。GENIAC第1期の申請書も自分で書きましたよ。

GENIACで得た手応えと、今「モデル層」に戻る理由

──GENIAC第1期に応募されたきっかけや動機を教えてください。

秋葉:たまたま制度を知って、応募しました。特に第1期はGPU資源を直接提供する仕組みで、まったく新しい制度だと感じました。当時は「お金があってもGPUが手に入らない」時期だったので、GPU環境が提供されたのはありがたかったです。
私たちは独自モデルを開発するのではなく、新しい技術の確立のために計算資源を使わせてほしいと申請したのですが、結果的に3つのプロジェクトのどれもが科学的に優れた方法であることがわかり、副産物としてエージェントネイティブな試作モデルをつくることもできました。
その後のAIエージェント開発の盛り上がりを見れば、当時の取り組みが間違っていなかったことが示されていますし、その方向性がわかっていたことは自慢したいですね(笑)。
あと、参加してみて想像以上だったのは世間からの注目度です。取材も多く、成果報告会も盛り上がっていて、他の事業者の熱量も高い。YouTubeに公開されたプレゼンはコンスタントに再生されていて、研究成果を多くの方が理解しようとしてくれているのは、良い取り組みだと思いました。

──成果報告会で新規モデル賞も受賞されましたね。

秋葉:多くの事業者の中から選んでいただいたのは、素直にうれしかったです。社内の海外メンバーにとっても、日本のコミュニティに受け入れられている実感につながりました。GENIACでもう一つ印象的だったのは、事業者同士の距離の近さです。ビジネス的には競合関係にありながらも、トレーニングや実験の話で意気投合する場面があるなど、温かい空気がある。あれは本当に良いコミュニティだと思います。

──第2期から参加されなくなった理由もお伺いできますか。

秋葉:支援の枠組みがより広い領域に変わったこともありますが、当時の私たちのチームの研究がモデル層からエージェント層へ移っていたことが挙げられます。その場合は、GPU資源というよりも、OpenAIなどのフロンティアモデルをAPI経由で使いながらどう難問を解くか、という側面が強くなります。
これは技術トレンドの変化なんですよね。GENIAC第1期の頃は、オープンウェイトモデルを用いたファインチューニングの全盛期で、Metaの「Llama」やフランスの「Mistral AI」、アリババの「Qwen」などが切磋琢磨していて、そこにファインチューニングで自分たちの専用モデルがつくれるという期待がすごく高まっていました。
ところが、その後はOpenAIやGoogleのフロンティアモデルをAPIで使った方が性能も高く、ファインチューニングはコストに見合いにくくなるなど、「ファインチューニング冬の時代」が訪れたと思っています。そうした背景もあり、私自身もファインチューニングから、エージェントレイヤーの研究に関心が移っていました。
例えば、2025年に我らのチームが出した研究成果は、OpenAIのモデルとGoogleのモデルを協力させて難しい問題を解く、といったもので、その開発ノウハウを蓄積していたんです。
しかし最近は、「DeepSeek R1」やOpenAIの「o1」などのリーズニング(推論)モデルが強化学習というパラダイムを切り拓き、それに続きエージェンティックな強化学習というパラダイムが台頭し、エージェント用途に向けた性能を効率的に上げられることが分かってきています。
さらに、オープンウェイトモデル自体の進歩も速く、「DeepSeek」や「GLM」や「Kimi」、さらには「GPT-OSS」などの登場で状況が変わってきました。このような元の性能が高いオープンウェイトモデルにエージェンティックなポストトレーニングを施すことで、特定業務への特化もしやすくなります。
例えば、Sakana AIで金融に特化したエージェントをつくると仮定した際、私たちは金融分野のツールの動きを自分たちのエージェントに、良い意味で「過学習」させることができます。すると、汎用的なOpenAIのモデルの性能を超えるかもしれないんですね。実際に、コーディングエージェントの分野では同様のアプローチでうまくいっている例も出始めています。

──すると、再び計算資源の支援プログラムの重要性が高まってきているのでしょうか。

秋葉:はい。私たちは2025年にエージェントレイヤーを、かなり極めた感触を持っていますので、今度はそれを生かして、エージェントと密結合したモデルの開発ができると考えています。言い換えれば、この数年でやりたかったことが、ついに具現化できるタイミングが訪れたので、GENIAC第4期に申請したいと思っています。

──最後に、学生や若手エンジニアへメッセージをお願いします。

秋葉:基礎力を大事にするのが、最終的にはいちばん良いと思っています。将来を正確に予想するのは難しいので、変化に適応できる力を身につける方が、長期的に役立つと。これは私自身の性格によるものですが、自分にとって新しい変化は常にチャンスで、早くキャッチアップして使いこなすことでインパクトを出してきた感覚があります。
その適応力の土台が何かと言えば、私の場合はコンピュータサイエンスや数学などの基礎力、そして、論文を読み解いて本質をつかむ力なども含めた「研究力」だったと思います。そうした基礎があると、どのような変化があっても対応できるようになるので、そこを大事にしてほしいです。


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最終更新日:2026年3月26日