2024/6/20
2024年5月15日(水)、GENIACの開発事業者とアプリケーション企業・ユーザー企業とのマッチングイベントが開催されました。本イベントは、開発事業者の基盤モデルの社会実装促進に向けた初めての試みです。当日は、開発事業者がプレゼンテーションを行い、会場内には開発事業者ごとのブースを設置。アプリケーション企業・ユーザー企業十数社が、各ブースで直接、開発事業者と意見を交わしました。本記事では、当日の内容の一部を紹介します。
競争力のある基盤モデル開発と社会実装を促進するために
はじめに、経済産業省ソフトウェア・情報サービス戦略室長 渡辺氏が、本イベントの目的やGENIAC発足からこれまでの活動内容、今後の取り組みについて説明しました。
「本日は、基盤モデルの開発企業と、それを利活用する可能性があるアプリケーションの開発企業・ユーザー企業とのマッチングイベントです。開発事業者の皆様には、顧客に対して強みをぜひアピールしていただきたいと思いますし、意見交換の中でニーズを吸い上げ、次に繋げていただくことを期待しています。一方、基盤モデルの利活用企業には、新たなソリューションを探索いただき、自社に取り込んでいただくことを期待しています。意見交換などを通じ、競争力のある基盤モデルの開発とその社会実装を促進していきたいと思います」(渡辺氏)
GENIACのNext Action
渡辺氏は、今後のGENIACの新たな取り組みについて、以下の3つを発表しました。
Next Action
データ・AIの利活用に向けた支援(データセットの構築、データホルダーとの連携、AI利活用の先行事例の創出)
「AIの開発からの利活用までには様々な課題が存在します。その課題の解決に向け、代表的なプロジェクトを実証し、その成果を広く共有していきたいと考えています。3つのカテゴリー(データセットの構築、データホルダーとの連携、A I利活用の先行事例の創出)に分けてプロジェクトを募集し、実施していく予定です」
計算資源の提供支援
「2月15日以降、計算資源の調達支援を行った7事業者による基盤モデルの開発が順次始まっています。また、5月下旬には計算資源の調達支援を行うための開発費を追加し、その開発が始まる予定です。これらの開発は8月の中旬に一旦終了する予定ですが、新たに公募と採択審査を経て、10月頃には次なる計算資源の提供支援を行っていきたいと考えています。その際には、より社会実装に重きを置いた開発を優先的に採択して支援を行う予定です。具体的な要件等につきましては、後日皆様に共有いたします」
生成AIハッカソン
「ユニークなデータを基に、産業技術総合研究所のABCIなどを活用し、AIアプリケーションの開発をハッカソン形式で実施していきたいと考えております。多くの才能ある方々が集まり、様々なAIアプリケーションが創出されることを期待しています。ユニークなAIアプリケーションが開発され、その際に生まれる新たなデータが、またAIアプリケーションに生かされるという好循環が生まれることに期待しています」
GENIAC開発事業者のご紹介
本イベントに参加したのは、以下の6開発事業者です。
マッチングイベントに参加した開発事業者
- 株式会社ABEJA
- 日本電信電話株式会社(NTT)
- ストックマーク株式会社
- 株式会社Preferred Elements
- 株式会社リコー
- 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(国立情報学研究所)
株式会社ABEJA
株式会社ABEJAでは、企業におけるDXに必要なデータの生成・収集・加工・分析、AIモデリングまで、継続的で安定的な運用を行うソフトウェア群「ABEJA Platform」を提供しています。仕組みをつくるトランスフォーメーション領域に加え、運用をサポートするオペレーション領域にも対応。社会実装に重きを置き、情報の質とコストパフォーマンスにおける課題解決に向けて、RAGとAgent機能の向上を図っています。
日本電信電話株式会社(NTT)
日本電信電話株式会社(NTT)では、パラメーターサイズ7Bの軽量で日本語に強い、自社開発の大規模言語モデル(LLM)、「tsuzumi」を提供しています。チューニングを低コストで実現できるためカスタマイズ性が高く、図表読解などの形式に対応したマルチモーダル性も備えている点も特長です。3つの利用環境(オンプレ、プライベートクラウド、パブリッククラウド)に対応し、3つのソリューションメニュー(CXソリューション、業界別EXソリューション、IT運用サポートソリューション)と組み合わせて利用することができます。
ストックマーク株式会社
企業向け情報収集・資料作成支援サービスを提供する、ストックマーク株式会社。同社では、生成AIを企業が利用する上で課題となるハルシネーションを抑止した、信頼度の高いLLMの開発に取り組んでいます。ChatGPTが正答率40%であるビジネスドメインの質問セットに対して、同社のLLMは正答率90%を達成。回答できない質問には「回答できない」と明確に出力できる、信頼性の高いLLMを提供します。
株式会社Preferred Elements
Preferred Networks(PFNグループ)では、チップ、計算基盤、生成AI・基盤モデル、ソリューション・製品まで、AI技術のバリューチェーンを垂直統合し、産業への応用を進めています。2023年9月には、研究・商用利用可能な130億パラメーターの大規模言語モデル「PLaMo-13B」を公開。現在GENIACにおいて、1000億/1兆パラメーターからなる大規模マルチモーダル基盤モデルの構築に取り組んでおり、2024年秋頃には「PLaMo-100B」を公開予定です。
株式会社リコー
深層学習登場以前からAI開発に取り組んできた株式会社リコーでは、2022年に60億パラメーターの日本語のLLMを開発。さらに、「語彙置換継続事前学習(トークナイザの改良)」と「カリキュラム学習」を行うことで、日本語に強い130億パラメーターのモデル開発にも成功しています。コピー機の保守サービスを提供する同社では、実際にサービスエンジニア向けの修復の問い合わせなどの回答に、保守業務にドメイン適用させたカスタムLLMを活用しています。
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(国立情報学研究所)
国立情報学研究所は今回、ブースの出展で参加しました。同研究所では、LLMの透明性・信頼性を確保するための研究開発を行っています。1,000名以上の研究者が登録している「LLM勉強会(LLM-jp)」での活動を通じ、オープンかつ日本語に強いLLMの構築、原理解明に取り組んでいます。「創発的能力」の獲得が報告されているレベルである1,750億パラメーター規模のLLMを開発し、理解・生成の両面で高い日本語性能を持つことや、安全性等のさまざまな観点での評価・検証を行いつつ、モデルを公開する予定です。
マッチングタイムでは、開発事業者と企業が絶えず意見を交換
開発事業者のプレゼンテーションの後には、1時間ほどマッチングタイムが行われました。それぞれのブースには、参加した参加企業が途切れることなく訪れ、積極的に意見交換を行っていました。
GENIAC開発事業者とご参加いただいた企業からのコメント
最後に、社会実装へ向けた第一歩となるマッチングイベントに参加した開発事業者とご参加いただいた企業のコメントを紹介します。
GENIAC開発事業者コメント
ストックマーク株式会社
「ホワイトカラーの業務の65%が、情報収集や資料作成に割り当てられていると言われています。1日あたり労務費3,000億円、ひと月にすると6兆円、それだけ莫大な労力をかけているのに、まだまだ生成AIの活用が進んでいないのが実情です。その原因は、ハルシネーションの部分にあると思っています。私たちはハルシネーションを抑止した精度の高いAIをつくることを目指していますが、その先の社会実装には産官学で『使うと本当に便利だよね』というキラーユースケースをつくっていくことが必要です。今回のイベントは、その第一歩になると期待して参加しました」(有馬氏)
株式会社Preferred Elements
「今回のイベントで、AIを実際に利用している、もしくはAIを使ってサービスを開発している企業の方と深いところまでお話ができました。PFEが自社で一から開発して競争力のあるモデルをつくっている点を評価いただき、『実際に試してみたい』という声も多く、手応えを感じました。実際の業務の中で具体的にどのように使っていくかは、各社試行錯誤をされている印象だったため、PFNグループとして基盤モデル提供だけでなく、実際のユースケースの創出についても力を入れていきたいです」(岡野原氏)
イベントにご参加いただいた企業
株式会社メルカリ
個人間で商品の売買ができるフリマアプリを提供する、株式会社メルカリ。同社では、これまでもユーザー向け、社内向けにLLMを活用してきました。石川氏は、今回のマッチングイベントに参加した理由と、実際に開発事業者とお話をした感想について、次のように話しています。
「弊社ではオープンソースのモデルをチューニングして使う事例が既にあり、国産の基盤モデルをつくる企業さんのお話を聞きながら、次の機会に活用したいと思い参加しました。アメリカの方が進んでいる部分もあるとは思いますが、経済産業省が支援をされて、LLMそのものをつくろうとしている多くの企業さんがいることに、大きな期待を寄せています。まだ始まったばかりかとは思いますが、こういった取り組みが1回で終わらず、繰り返し継続されることで、日本におけるAI領域がより盛り上がってくるのではないかと期待しています」(石川氏)
AGC株式会社
2023年6月に、社内向け対話型AI「ChatAGC」の運用を開始するなど、全社的に生成A Iの利活用を推進しているAGC株式会社。オフィス業務での生成AI活用だけではなく、今後は製造分野での活用もさらに促進していきたいと言います。
江面氏は、今回のイベントに参加した感想を次のように述べました。
「今、全社的に生成AIの活用を推進していることもあり、そこで使えるサービスや言語モデルがあればと思い、参加させていただきました。率直な感想としては、期待していた以上の成果が得られたと思っています。基盤モデルの分野で、最先端の企業が今どのような動きをしているかを把握できる、とても良い機会でした。GENIACコミュニティにも、ユーザー企業として参加させていただける機会があれば、ぜひ積極的に関わっていきたいです」(江面氏)
石原氏は、同社のものづくり分野においても生成A Iの活用に期待ができると話します。
「生成AIは、製造や素材開発特有のデータの活用や意思決定といった部分にも使えると思っています。テキストだけでなく、画像など様々なデータを幅広く扱えるようになってきているため、活躍の場はまだまだ広がりそうです。我々の場合は製造業ですが、業界にフォーカスした使い方をしていくとなると、そこに合わせた生成AIのカスタマイズが必要です。今日、いくつか面白いお話を伺うこともできましたし、具体的に検討したいことも見つかりました。我々が抱えている課題に対するソリューションを、皆様が考えていることも把握できました。今後もお付き合いさせていただけると、我々の課題を一緒に解決していけるのではないかと思っています」(石原氏)
GENIAC初の試みとなったマッチングイベントでしたが、開発事業者とアプリケーション企業・ユーザー企業の双方にとって、社会実装へ向けた有意義な時間になりました。実際に、開発事業者の基盤モデルが利活用されたサービスやソリューションを目にする日も、そう遠くないはずです。今後のGENIACの活動にも、引き続きご注目ください。
GENIACトップへ最終更新日:2024年6月20日