2025/11/27
2025年10月28日(火)、GENIAC基盤モデル開発事業者と利活用企業およびベンチャーキャピタルとの交流を促進する第5回マッチングイベントを開催しました。本イベントは、基盤モデル開発企業による現状と展望の報告、またその社会実装の促進と、関係者同士の意見交換などを目的としています。当日は、GENIAC第3期に採択された18社と第2期に採択された1社、招待されたユーザー企業など計35社が参加。開発事業者のプレゼンテーションと企業ブースでの意見交流や商談などを行いました。
本記事では、イベントの内容の概要を紹介します。
現場データが導く日本型AIトランスフォーメーション
イベント冒頭に、経済産業省の渡辺が、GENIACの現状と今後の方向性について説明しました。渡辺は、生成AIの普及によって「データがソフトウェアを生み出す時代」へと移行しつつあると指摘し、データ活用力こそが企業の競争力を左右する重要な要素であると述べました。
「人類史上初めて、自分たちより“賢い道具”を手に入れようとしています。AIを単なる補助ではなく、業務プロセスの中核に据え、人がそれをどのように制御するかを考える時代です」(渡辺)
第3期となるGENIACでは、基盤モデル開発のための計算資源の提供、企業の現場データ活用、ナレッジ共有という3本柱を中心に支援事業を展開しています。特に、企業内の非公開データを活用する「データスペース」の構築支援を通じて、特定領域ごとに信頼できるデータエコシステムの形成を目指していると説明しました。また、製造業の暗黙知の形式化やカスタマーサポートの効率化など、AIの社会実装をテーマとした懸賞金型コンテスト「GENIAC PRIZE」についても紹介しました。
今後は、汎用モデル開発の新たな枠組みの検討や、ASEAN・インドなど海外との連携にも注力していく方針を示し、「ユーザーもベンダーも、全員が“AI人材”になっていくことが大切です」と締めくくりました。
マッチングイベントに登壇した開発事業者一覧
本イベントでは下記の19の開発事業者がプレゼンテーションに登壇しました。本事業で採択された分野と開発の概要は次の通りです。
- 株式会社ABEJA [エージェント]
ローカル環境で動作可能な長文対応軽量言語モデルを用いたAIエージェントを開発 - 株式会社野村総合研究所 [金融]
金融状況に特化し、コンプライアンス判定や文書校正の支援を行う言語モデルを開発し、NRI社内の事業部門や関係先顧客と実証 - 楽天グループ株式会社 [言語]
独自の長期記憶メカニズムと対話型学習を合わせた700B級の言語モデルの開発 - Nishika株式会社 [バックオフィス]
要約タスクに対して出力形式への追従性を高めた軽量言語モデルを開発 - NABLAS株式会社 [報道]
報道用文書におけるファクトチェックに特化した言語モデルを開発 - AI Inside株式会社 [音声・画像・言語]
日本語最適化および画像理解も含めた軽量日本語音声対応モデルを開発 - カラクリ株式会社 [サービス]
カスタマーサポートを目的とした言語・動画像・音声に対応したモデルを開発 - 株式会社AideaLab [アニメーション]
アニメ制作や映像制作を支援する、MoEを用いた動画生成モデルを開発し、ネット上の個人ユーザーのモデルへの満足度を検証 - SDio株式会社 [言語・動画]
長尺動画のコンテクストを理解する言語・動画モデルの開発 - Degas株式会社 [衛星]
災害対応や環境監視に活用するマルチスペクトル衛星画像解析用の言語・画像モデルの開発 - 株式会社リコー [文書読み取り]
複雑な図表を含む文章読み取りに特化した言語・画像モデルの開発 - ストックマーク株式会社 [製造×文書読み取り]
製造業特化の文書読み取り用の中規模サイズ(32B)の言語・画像モデルを開発 - 株式会社プレシジョン [医療]
医療現場の入力作業や情報整理の削減を目的とした診療録校正・匿名化・DPC構造化・放射線所見整理・がん診療RAGに特化した言語モデルを開発 - アリヴェクシス株式会社 [創薬]
創薬研究開発の支援を目的とした、低分子化合物間の結合親和性スコアの予測モデルの開発 - 株式会社EQUES [言語]
薬学分野・製薬業務に特化したLLM(大規模言語モデル)の開発 - ONESTRUCTION株式会社 [建築]
建築要件の説明テキストを建築専用のデータ規格(IDS)に自動変換するモデルを開発 - 株式会社NexaScience [音声・画像・言語]
マルチエージェントによるR&Dの効率化を目的とした、個別モデルの微調整を必要としない最適入力変換アダプターモデルを開発 - Airion株式会社 [製造]
実機データを用いた製造機械の制御プログラム(PLC)の生成モデルを開発 - 株式会社Preferred Networks [言語・画像]
自律稼働デバイスに搭載可能な10B以下の高精度な軽量言語・画像モデルを開発
開発事業者とユーザー企業が活発に意見を交換
招待制となった本イベントでは、ユーザー企業28社のほか、ベンチャーキャピタルやコミュニティ運営を支援する組織を含めて計35社が参加しました。マッチングタイムでは、事業プレゼンを終えた各開発事業者のブースで開発中のAIモデルや提供サービスのデモンストレーションが行われ、ユーザー企業の担当者から様々な質問が寄せられ、具体的な商談に進むケースも多く見られました。
開発事業者へのインタビュー
第5回マッチングイベントに参加した開発事業者のうち、NABLAS株式会社と株式会社NexaScienceのコメントを紹介します。
ファクトチェック×ディープフェイク検出で「信頼できるAI社会」の実現を目指す
NABLAS株式会社
東大発のスタートアップであるNABLASは、ディープフェイクやフェイクニュースを検出するサービスKeiganAIを提供すると共にAIやAIエージェントの開発・導入から人材育成まで包括的なサービスを提供しています。すでにマッチングイベントをきっかけとした業務提携なども進んでいて、関連企業からの相談も増えていると言います。GENIAC第2サイクルでは、食品・流通小売り業界向けの大規模視覚言語モデル(LVLM)開発に取り組みましたが、第3サイクルでは、NABLASが国内でも先行して取り組んできたディープフェイク検出の文脈で、ファクトチェックやハルシネーション対策に強い報酬モデル(FRM)とファクトチェックAIエージェントの開発を通し、「情報の信頼性」を担保する仕組みづくりに取り組んでいます。
「当社はGENIAC第2サイクルではSNS ✖︎ 小売・流通・食品領域の 特化型モデルとエージェントの開発に取り組み、現在総合商社やコンビニ大手や食品会社向けにインバウンド需要や売れ筋の分析や施策効果の測定をSNSの多言語・リアルタイム把握で支援する取り組みをしています」(鈴木氏)
一方GENIAC第3サイクルでは自社の中核サービス領域であるファクトチェックとディープフェイク検出を中核に「情報の信頼性」を担保する仕組みづくりに取り組んでいます。すでに中央省庁・報道機関向けの偽情報検出や、SNS上の言説を多言語・リアルタイムで解析する基盤を開発し、生成AI時代に人々が安心して生活するための適したインフラ技術としての社会実装を進めています。
「AIが本当に価値を発揮し社会に浸透していく鍵は“どこまで信頼できるか”にあります。真偽や信頼度を客観的に見極める技術はフェイク対策だけでなく全ての人々にとってAI時代に必須な技術だと思っているので社会実装を加速していきたいです」(鈴木氏)
GENIAC第3サイクルで開発継続中の“ファクトチェック特化型LLM”は、国内初のファクトチェックに特化したファインチューニングや強化学習を用いることで深く総合的にファクトチェックできるモデルの開発を目指すもので、さらに自社がこれまで開発したディープフェイクを検出するモデルを活用してテキスト・画像・動画・音声を横断して検証する複数のAIエージェントが自動で様々なチェックを行う「マルチAIエージェント構造」も導入し、テレビ朝日と共に最もシビアなファクトチェック技術が求められる報道現場で実証実験をし実導入していきます。
これらの技術は、省庁の災害・国際情勢分析や報道現場の真偽判定で活用が始まっており、今後もマッチングイベントなどを通じて、保険・金融の不正申請検知、eKYCの電子本人確認強化といったフェイク対策だけでなく、社内のチャットボットやAIエージェントを導入している企業の生成AIアウトプットの自動チェックエージェントとしての応用も見込んでいます。
「利便性と信頼性の両立には、多層なチェック・修正機構の設計が不可欠です」(鈴木氏)
社会実装には、評価指標・ベンチマークの整備や共同検証、政策ガイドラインの議論が欠かせません。NABLASでは検証データセットや評価基盤の公開を通じ、業界全体の品質向上にも貢献していくと述べ、GENIACを通じた連携で、PoC(概念実証)で終わらせず実運用へ橋渡しする体制づくりを支援していくと話します。
「今後のAIの信頼性は、企業の信頼性そのものに繋がります。 AIを前提に業務を再設計する“覚悟”が、AI活用の次のフェーズを開いていくと思っています」(鈴木氏)
複数のAIエージェントを連携・最適化し、業務の効率化をサポート
株式会社NexaScience
同社は、内閣府のムーンショット型研究開発制度のプログラムのスピンアウトとして2024年10月に創業。AIロボットが研究をサポートする基盤技術の開発を進めています。牛久氏が描いているのは「研究室の若手が担う役割をAIロボットに代替する」未来。AIロボットと人との共創によって、研究開発の高度化と生産性向上を目指しています。
GENIACには第3期の公募で採択され、マルチAIエージェントシステムの最適化を実現する「AIエージェントアダプター」の開発に取り組んでいます。
マルチAIエージェントシステムは、専門性を持ったAIエージェントを連携させることで、複雑なタスクを遂行します。しかし現状のAIエージェントには、課題があると言います。
「AIエージェントは、自律型と表現されますが、実際に自律している部分は、ごくわずか。実際は、まだまだ人の手が必要な状態にあります」(牛久氏)
課題の解決のためには、指示役となる上位AIによるオーケストレーションが必要です。その連携・最適化を実現するのが「AIエージェントアダプター」です。今回、マッチングイベントに初めて参加し、複数の企業と対話する中で、特に、化粧品業界のR&D部門との協業に可能性を感じたと言います。
「化粧品の開発には多大な時間とコストがかかります。データ分析などの領域で、AIを活用して研究開発の効率化を図るお手伝いなどができると感じました」(牛久氏)
“つなぐ”のが役割のため、現存するすべてのAIエージェントは、ライバルではなくパートナー。汎用性の課題などはあるものの、実現すれば、その拡張性の高さによって、大きな成果が見込まれるでしょう。
「今後はこれまで培ってきた、研究開発におけるサポートノウハウを生かし、素材系・化学系のメーカーとの協業、さらには各社の営業ノウハウを体系化したAIによるビジネスの最適化にもチャレンジしたいです」(牛久氏)
多様な企業との協業を模索する中で、今回のマッチングイベントは、まさに出会いの場だったと振り返ります。
「GENIACの採択企業であることで、私たちのような一般的には無名のベンチャーでも、企業の方たちは真摯に耳を傾けてくださる。非常にありがたい機会をいただいたと思いました」(牛久氏)
イベント参加企業へのインタビュー
第5回マッチングイベントに参加したユーザー企業から、ヤマトホールディングス株式会社のコメントを紹介します。
現場から経営まで、AI活用を通じた課題解決を推進
ヤマトホールディングス株式会社
]
ヤマトホールディングスは、物流業界のリーディングカンパニーとして、現場から経営層まで幅広い領域でデジタルイノベーションを推進しています。AI活用においては、業務効率化にとどまらず、人材育成や経営判断の迅速化など組織全体の変革を見据えた取り組みを進めています。
「私たちの部門では、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の運営と新規事業開発を業務の両軸に据えています。AIは後者の主要テーマであり、人材育成・経営課題の解決・業務改善の3つを推進しています」(田村氏)
AI活用では、現時点でオフィス業務でのデジタル化は進みつつあるものの、現場では紙資料やアナログ業務が一部残っており、アナログ業務のデジタル化とそのデータ整理や整備こそが第一歩だと言います。
「次に、 “AIを理解し、活用できる人”を育てることが重要です。そのための研修やツール環境の整備を進めています」(三枝氏)
そして、経営層においては、正確で迅速な意思決定を支える情報基盤の整備も重要な課題です。
「判断のスピードを高めるために、データに基づいた意思決定の仕組みづくりが求められています」と田村氏。
一方で、属人的な知識に依存する“属人化”も課題とされています。「Excelマクロや分析スキルに頼るケースが多く、生成AIによって知識や手順を平準化し、誰もが一定の成果を出せる環境を整えたいと考えています」と三枝氏は語ります。
初参加となったマッチングイベントでは、製造業へソリューションを提供している AI企業との交流が大きな刺激になったと言います。
「LLMだけでなく、マルチモーダルモデルなど新しい技術領域への理解も深まりました」と三枝氏。田村氏も「物流分野以外に提供されているソリューションが、物流業界の課題解決のヒントになると感じました」と振り返ります。
「今後は、配達ルートやドライブレコーダーなどの走行データや季節変動を含めた現場情報をうまく組み合わせることで、業務効率向上や新たな価値創出に向けて取り組んでいく予定です。
まずは“AIを理解し、活用できる人材”を育て、部門横断で共通の分析観点を持つことが、経営課題の解決につながると考えています」と田村氏。三枝氏は「今後もこうした場でGENIACのコミュニティと課題を共有し、社内外の知見を掛け合わせていきたいです」と締めくくりました。
第5回マッチングイベントは成功裡に終了
本イベントでは、GENIAC第3期で採択された特色ある生成AIモデルやサービスを開発する事業者とユーザー企業との間で、活発な交流が行われました。
今後も、生成AIに関心をお持ちの幅広い方々を対象に、GENIACおよび採択企業の現状や今後の展望、そしてこれまでの成果について発信してまいります。
引き続き、GENIACの活動にご注目ください。
最終更新日:2026年1月28日