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【Use Case vol.1】パナソニックHD×ストックマーク 国内最大規模の企業特化LLM「Panasonic-LLM-100b」開発──協業によって、AIによる業務効率化を推進

Use Case

2025/06/06

GENIACで採択される国産の生成AI研究開発の分野は多岐にわたります。その成果は、企業や自治体との協業・共創というかたちで、課題解決に寄与しています。

今回ご紹介する事例は、パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD)とストックマークの協業によって開発された、国内最大規模の企業に特化した大規模言語モデル(LLM)、「Panasonic-LLM-100b」。同LLMは現在、様々な部署や工場、事業所にトライアル導入され、業務効率化に貢献しています。

パナソニックHDの担当者の方は、「素晴らしいAI開発パートナー、ストックマーク社と出会えたことが成功のポイント」であり、「GENIACに採択されていることは選定の決め手になった」と振り返ります。自社グループ専用のLLM開発に踏み出した背景や目的、協業の経緯などについて、同社に伺いました。


<プロフィール/「Panasonic-LLM-100b」開発のご担当者>

九津見 洋(くつみ ひろし)
パナソニック ホールディングス株式会社、くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部 副本部長 兼 CX革新本部 AIソリューション総括担当 上席主幹。パナソニックグループにおけるAI・デジタル関連技術の幅広い事業展開を推進している。

小塚 和紀(こづか かずき)
パナソニック ホールディングス株式会社、DX・CPS本部 デジタル・AI技術センターAIソリューション部 1課 課長。基盤モデル・LLM開発を推進。「Panasonic-LLM-100b」の開発をリードする。


<プロフィール/ストックマーク株式会社>

ストックマーク株式会社について
自然言語処理に特化したAIスタートアップ。その技術を活用し、国内外の約3万5,000サイトのビジネスニュースを分類し、業務に直結する情報をAIが届ける「Anews(エーニュース)」などを提供。ミッションは「価値創造の仕組みを再発明し、人類を前進させる」。GENIACでは、ハルシネーションを大幅に抑制したLLM「Stockmark-LLM-100b」を開発。同LLMをベースに、パナソニックHD用にカスタマイズした、国内最大規模の独自日本語LLM「Panasonic-LLM-100b」を同社とともに開発。国内の企業特化LLM開発の成功例を生み出した。


企業のAI導入の妨げとなっていた「ハルシネーション」

──今回、パナソニックHDは独自のLLMをストックマークと開発しました。なぜ自社専用のLLMを開発する必要があったのでしょうか?

九津見:私たちが利用するデータは、2025年には3年前の約2倍、180ゼタ(兆の10億倍)バイトに達すると言われています。その中で、私たちが簡単に検索できるオープンデータは約20%しかありません。残り約80%は企業内などに保存されているビジネスに関連したクローズドデータです。

一般的なLLMは、その約20%のデータによって構成されているため、ビジネスユースには対応していないのが現状です。また、AI特有のもっともらしい嘘「ハルシネーション」も、ビジネス利用を妨げる大きな要因となっています。こうした状況によって「AIを導入したくてもできない」状態があります。そこでパナソニックHDでは、同社のデータを学習させた、独自LLMの開発に着手したのです。

グループ全体の、喫緊の課題だった「AI導入」

──パナソニックは、国内大手総合電機メーカーです。今回、パナソニックHDとして独自LLMの開発を進めたわけですが、これはグループ全体でAI活用を推進していくための第一歩と捉えてよいのでしょうか?

九津見:はい。パナソニックは、1918年に松下幸之助が創業後、社名・体制変更を経ながら、家電、住宅、自動車、産業、通信、エネルギーの各分野で革新的な製品やソリューションを提供してきました。2022年に事業会社制に移行。今回の取り組みは、グループ企業横断の全社プロジェクトとして、AI導入、活用を進めたかたちとなります。

小塚:パナソニックグループの特徴として、様々な分野に特化した製品やソリューションを提供しているため、事業領域が多岐にわたるという点があります。それぞれの事業領域で蓄積されたノウハウ、そして歴史があるものの、それを共有することは簡単ではありませんでした。そこでAI活用に着目したわけです。また、各部署からもAIを活用した課題解決をしたいという相談は増えており、年間で100件ほどに上るなど、AI導入はパナソニックHDにとって喫緊の課題となっていました。

しかし、セキュリティの問題、特にビジネス利用するにあたっては、情報の正確性が非常に重要になりますが、そもそも汎用LLMではパナソニックグループの商品知識が少なく、とても活用できるものではありませんでした。だからと言って、自社のみでLLMを開発するのはコストも時間も掛かり過ぎるという問題がありました。

「Panasonic-LLM-100b」開発の経緯。AI活用のためには、独自LLMの開発が必要であるものの、コストの問題に直面していた

──汎用LLMを活用した「ChatGPT」をはじめとした生成AIは非常に便利ですが、それらしい誤情報を与える(ハルシネーション)も多く、企業としては簡単に導入しづらいですね。

九津見:はい。LLMを上手に生かせれば、技術伝承といったことも可能になりますが、その情報が間違っていては意味がありません。そこで私たちは、ハルシネーションを排除するために、正しい情報だけ、業務知識だけを学習させた、小規模な言語モデル(LM)が有効ではないかという仮説を立てました。

小塚:パナソニックグループでは、“AIの考え方”として、「DAICC(Data & AI for Co-Creation)」を掲げています。直訳すると、「共創のためのAI活用」です。これは、AIに一流の技術を学習させることで、幅広い事業の「プロ」がAI活用によって、より多くのお困りごとを解決し、様々なかたちで事業に貢献していく未来を見据えたものです。しかしこの理想を叶えるレベルのLLMを単独で開発することは困難です。そこでパートナーを探し始め、ストックマークとの協業を決めました。

パナソニックグループでは、AI活用の指針として、事業貢献(環境と暮らしを含む)につながることを重視し、AI導入を進めている

第一部では基盤モデル開発者によるパネルディスカッションを実施し、採択事業者6社の代表者が「今後の生成AIの可能性と生活への影響」や「GENIACの2サイクル目を踏まえて現在進めていることとGENIACへの期待」といったテーマに沿って話しました。

協業の決め手は、高い技術力とGENIAC採択事業者であること

──ストックマークとの協業の経緯、決め手は何だったのでしょうか?

九津見:私たちがパートナーに求めたのは、LLMとしてのモデルの強さはもちろんですが、ハルシネーションが抑制されたデータを保有していることでした。加えて、前述の通り、パナソニックHDの多様な事業、現場に合わせたカスタマイズが可能な「柔軟性」の高さも重視した点でした。

ストックマークは、ハルシネーションを大幅に抑制したLLM「Stockmark-LLM-100b」を開発されており、その性能が素晴らしかった。そして、ビジネスに特化したAIサービス「Anews」を通じて蓄積してきた「日本語×ビジネスデータ」による強みをお持ちであり、かつ経済産業省のプロジェクトであるGENIACに採択されている事業者であることから高い開発力と信頼性を感じ、協業をご相談させていただきました。

小塚:一般的に国内各社が取り組む自社LLMは、70~130億パラメータの小型モデルを採用することが多くなっていますが、今回の取り組みでは、パナソニックグループの膨大な社内データを学習させた国内最大級の1000億パラメータ規模のLLM開発を行っています。それができたのは、ストックマークという素晴らしいパートナーとの出会いがあったからこそだと考えています。

前述のベースモデルを提供いただいて、かつ学習ノウハウもサポートいただきながら、パナソニックHD専用の開発は進んでいきました。自社の商品情報や技術情報を学習させ、利用する事業領域に合わせてチューニングしていく。LLMを扱うことは容易ではない中で、ストックマークが常に親身に、柔軟かつスピーディーなご対応をくださり、大変感謝しています。

パナソニックグループでは、「Anews」を以前から導入。ストックマークとの新たな取り組みとして、2024年の3月に本開発プロジェクトはスタートした

ハルシネーションを回避する、自社専用LLMの安心感

──ストックマークとの協業によって誕生したLLM「Panasonic-LLM-100b」は、すでにパナソニックHDの事業所や工場などでトライアル導入をしているそうですね。

小塚:はい。Panasonic-LLM-100bがどのようなかたちで回答するかという一例を紹介します。入力欄に質問を入れると、即座に回答(モバカン)が表示されます。

しかし、質問内容がパナソニック特有のサービス名称ということもあり、汎用LLM(GPT-4o)の場合には、正確な知識がなく、それっぽい嘘の回答が表示され、ハルシネーションが起きてしまいます。また、最新情報や時事問題の回答を拒否するケースもあり、回答を得られないこともあります。

Panasonic-LLM-100bであれば、パナソニックについて多様な学習をしてるので、例示したようなハルシネーション(または回答拒否)は起きず、常に正しい情報を安心して得ることが可能です。

九津見:さらに、現在は工場の設備に関して、不具合対応のサポートを実現するLMの開発も行っています。工場に特化したLMがあれば、疑問点はすぐに解消でき、生産性の向上につながるのではないかと期待しています。

──使用例を拝見していると、自社専用にカスタマイズしたLLMでないと、安心して使えないという印象を受けました。

九津見:ただ、私たちは汎用的なLLMを否定しているわけではありません。それぞれ利用に適した範囲があると考えています。幅広く生成AIを活用するのであれば、ChatGPTなどの汎用モデルも選択肢として当然ありますし、パナソニックの事業に使うのであれば、Panasonic-LLM-100bを利用するのが適切であると位置付けています。

小塚:現在、Panasonic-LLM-100bはテキストフォーマットにしか対応していません。今後は、画像のフォーマットに対応したマルチモーダル化を進めることで、パナソニックの商品の視覚情報を自動で認識できるようにし、社内タスクのさらなる業務効率化につなげていきたいと考えています。すでに言語AIと画像AIを搭載した「HIPIE(ヒピエ)」の開発を進めており、Panasonic-LLM-100bと組み合わせることで、画像認識まで活用領域を広げていきたいと思っています。また、音声フォーマットにも対応できれば、工場内でのより便利な使い方も見えてきますし、先々まで見据えた開発を継続していく予定です。

画像AIを活用すれば、例えば冷蔵庫(製品)に入っている食材を瞬時に判別するといったことも可能になる

AIを活用しないリスクの方が大きい時代。自社専用LLM開発にぜひ挑戦を

──最後に、自社専用のLLM開発を検討している企業の方に、メッセージをお願いします。

小塚:LLMの開発は、自社単独では難しいと思いますが、素晴らしいパートナー企業と巡り会えれば、実現は可能です。それが私たちの場合はストックマークでしたし、ニーズや用途に応じて、最適なパートナー企業がきっといるはずです。まずはパートナー探しから始めるのがおすすめです。

九津見:AIの導入はコストも時間も掛かりますし、ROI(投資利益率)が見えにくいという課題もあります。一方で、ひと昔前までは、そもそもAI活用に否定的な向きもありましたが、今はそうではありません。むしろ使わないと損、使わないことで時代に取り残される危機感の方が大きくなっています。AI導入の波に乗り遅れる方が経営リスクになる可能性もあるならば、現時点で、ROIばかり追いかけるのが正しいとは言い切れない時代になっているのではないでしょうか。ぜひ日本の産業を元気にするという意味でも、多くの企業の方に自社専用のLLM開発に挑戦していただきたいと思います。

ストックマーク株式会社 代表取締役 CEO 林 達さんのコメント

「企業がLLMを活用し、新たなビジネスインパクトを生み出していくためには、保有するデータを活用し、自社ビジネス特性に特化したLLMを構築することが必要です。今回のパナソニックHDとの取り組みは、その成功例と言えるものです。今後、様々な業種、企業の方に自社独自のLLM開発にぜひともチャレンジしてほしいですね。

ストックマークでは、ビジネス領域において汎用モデルを超える知識量とハルシネーション抑制力を有したLLMを開発しています。さらに、効率的かつ、破滅的忘却を防ぐ、継続追加事前学習の技術を有しています。今回の取り組みをきっかけに、国内の企業特化LLM開発の進展に貢献していけたらうれしいです」

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最終更新日:2025年6月13日