2026/03/26
GENIACは、経済産業省とNEDOが立ち上げた、国内における生成AIの開発力強化および社会実装の加速を目的とした取り組みです。そしてGENIACコミュニティにおいてはユーザー企業が生成AIを実務に導入する際の課題やその乗り越え方に対して意見を交換する場も用意しています。
この議論の場は、GENIACコミュニティ内のユーザー企業との議論・投票を経て、”ホンネで語る!AI活用BASE”と名付けられました。BASEとは、ユーザー企業にとっての発信基地・秘密基地を表現しています。
本記事では、”ホンネで語る!AI活用BASE”について、どういった議論がなされ、どういった知見を得られたのかを説明します。そして記事の後半には、当日ご参加いただいたベネッセコーポレーションの上田様からいただいたコメントも掲載いたします。
「ホンネで語る!AI活用BASE」の目的と当日実施したプログラムの概要
「ホンネで語る!AI活用BASE」は、生成AI活用に対し抱える課題・それに対する打ち手を他社と共有し合い、自社へ活かせる学び・気付きを持ち帰っていただくことを目的として、2025年12月9日に開催しました。
当日は、これまでGENIACコミュニティに培われてきた知見や議論内容を共有することで、高い発射台から議論ができるよう、以下のような流れで議論を実施しました。
1.過去のイベントで挙がった課題に関する議論の共有
2.課題とそれに対する参加企業の取り組み事例
3.テーブルごとに自己紹介・ディスカッション
4.議論のラップアップ
上記の3.ディスカッションタイムでは、以下の4つの課題にわかれて議論を実施しました。
- ROI・モニタリング
- 生成AIを活用したことによる効果・ROIをどう可視化するか - 人材・組織
- CoE活動 (専門的な知識・ノウハウを組織全体に展開していく活動) をどう機能させるか - インフラ・データ基盤
- 生成AI活用にあたり重要な社内のデータ整備をどう進めるか - セキュリティ・リスク管理
- 生成AI活用にあたってのセキュリティ懸念・リスクにどのように対応するか
これらの課題は、過去のGENIACコミュニティにおける議論から頻出した課題をカテゴリ別に分類したものです。
これらの課題は生成AI利活用におけるグローバル先進企業が備える要素に合致しており、これら4つの課題を乗り越えていくことは、生成AI活用の実装を推し進めることにつながります。
議論から見えた生成AI活用促進のヒント
4つの課題はそれぞれ連動しており、特に生成AIの導入・活用におけるゴール設定が不可欠です。
具体的には、まず生成AI活用において何を目指すのかを明確に定め、そこから具体的なKPIを設定し、さらにKPI達成に向けた仕組みを構築していく、というゴールからの逆算したプロセスを経ることが重要です。現状の課題から検討を始めた場合、施策が部分最適に留まってしまう可能性があります。
まずは俯瞰的な視点で、企業として生成AIをどのように活用し、どのような価値を創出しようとしているのかを明確化することが、組織として生成AI活用を着実に進めていくための第一歩となります。
ここからは、当日に行われた4つの課題それぞれに対する議論内容とそこから得られた示唆をご共有します。
1.ROI・モニタリング
2.人材・組織
3.インフラ・データ基盤
4.セキュリティ・リスク管理
ROI・モニタリング
生成AIの導入に際しては、そもそもROIを測定する必要性そのものに対する疑問や、生成AIにおける純粋なROIを切り出して評価することの実務上の難しさについて、さまざまな意見が挙げられました。特に、生成AI活用の効果をどのように捉え、経営判断に結びつけていくかについては、多くの企業が共通の課題を抱えていることが明らかになりました。
挙げられた課題は大きく①経営の意思決定と②モニタリングの2つの課題に整理できます。
①経営の意思決定
生成AIの活用を進めるにあたって、経営の強い意思や十分な理解が不可欠である一方で、生成AI導入の必要性に対する経営層の理解が十分でないケースが多く、投資判断ができないまま検討に時間を要している状況が課題として挙げられました。また、生成AIを通じて何を目指すのかが明確に定まっておらず、社内での共通認識が形成されていない点も課題として挙げられました。短期・中期・長期のいずれの視点で成果を捉えるのかが曖昧なままでは、経営層間での議論が深まらず、判断が個人の見解に左右されやすくなります。
こうした課題の解消に向けては、経営層が生成AIの活用に対して強い意思と十分な理解を持ったうえで、企業として目指す姿を明確に定め、経営層間で定期的に議論する場を設けることが求められます。
②モニタリング
経営の意思決定に関する課題だけではなく、生成AIによってどのような効果を期待できるのかが明確でないという点も、生成AIの活用を進めるにあたり大きな課題であると議論されました。
こうした課題の解消に向けては、業界内外のベストプラクティスや他社のベンチマーク事例を参考にすることです。自社としてどのような効果を期待し、どの水準を目指すのかを具体化することで、生成AI活用を継続的に改善していくための基盤が整います。
2.人材・組織(CoE)
人材・組織をテーマとしたグループでは、まずグループ内で、CoEの現場目線における悩みや課題を幅広く共有し合いました。そのうえで、CoE組織におけるガバナンス上の課題や、CoE担当者の人員不足、対応時間の不足といった主に実務面での課題について議論が行われました。
挙げられた課題は大きく①ガバナンスと②CoE組織の2つの課題に整理できます。
*CoE(センター・オブ・エクセレンス・・・組織横断的な取り組みを進めるために、優秀な人材やノウハウを1つの拠点に集約して組織化すること
①ガバナンス
全社最適や共通目標が十分に定義されていない点が課題として挙げられました。部門ごとに生成AI導入の影響や期待値にばらつきがあり、その結果として温度差が生じているほか、経営からのメッセージと現場の動きに一貫性がなく、全社としての方向性や連携が十分に取れていない状況が課題となっていました。
また、CoEの権威付けが不十分であり、組織としての位置づけが曖昧なため、各部門がCoE組織の方針や判断に従う必然性が弱い点も課題として挙げられました。
こうした課題の解消に向けては、まず企業として生成AIをどのように活用していくのかという目指す姿を具体化し、その方針を経営アジェンダとして明確に位置づけることが重要です。その上で、CoE組織に対して正式な権限移譲を行い、社内で十分な発言力と実行力を持たせる必要があります。
②CoE組織
実務面においては、生成AIに関する相談に対応できる人材が限られており、相談対応が特定の個人に属人化していることが大きな課題として共有されました。その結果、CoEが現場の支援窓口として十分に機能しきれていない状況について共有が行われました。
さらに、相談対応に関する標準化されたオペレーションが未整備であることや、スキル育成が個々人の努力に依存している点も課題として挙げられました。
こうした課題の解消に向けては、生成AI活用を推進するためのインセンティブ設計を人事制度と連動させ、現場の行動変容を促す仕組みを具体化していくことが重要です。実務面では、権限を持ったCoE組織が現場活用を支える仕組みを整備することが求められます。相談受付窓口やナレッジ集約基盤を整備することで、相談対応の属人化を解消し、組織的な対応を可能にします。
3.インフラ・データ基盤
データ整備・活用をテーマに議論した本テーブルでは、まず生成AI活用に向けたデータ整備の全体像と必要なステップを整理したうえで、各ステップにおける具体的な課題を明確化することに主軸を置いて議論しました。議論では、生成AI導入の目的を明確にすることや、組織全体でデータを蓄積・活用していく意識を醸成することの重要性が指摘されました。議論を通して、課題は大きく①ユースケースの選定②データ収集③データのAI Ready化の3つの観点に整理されました。
①ユースケースの選定
まず、生成AIで何を実現したいのかが十分に明確化されていない点が課題として挙げられました。AIエージェントといった概念だけが先行し、何を目的としてエージェント化するのかについての中長期的な議論が行われていないケースが多く見られました。
こうした課題の解消に向けては、まず生成AI導入の目的を明確化し、全社で共有することが重要です。その上で、日常業務に即したユースケースを紹介・共有し、学びを通じて具体的なユースケースを可視化していくことが求められます。
②データ収集
データ収集の段階では、組織文化としてデータを蓄積・活用する意識が十分に根付いていないことが課題として共有されました。データ収集を担う仕組みが整備されておらず、誰がどのデータを集めるのかといった役割分担が明確でないケースが多く見られました。
こうした課題の解消に向けては、散在しているデータを可視化し、データ管理やデータ構造に関するオペレーションを標準化するとともに、ガイドラインを整備することが必要です。権限管理については、CoE組織などのイニシアティブのもとで一元化を進めることで組織として生成AIの活用を進めていくことにつながります。
③データのAI Ready化
データをAI活用に適した状態に整備する段階では、蓄積されているデータが構造化されておらず、整備に多大な工数がかかることが大きな課題として認識されました。また、データを整備した先に現場にとってどのようなメリットがあるのかが明確に示されていないため、「業務効率化が自分たちのためになるのか、それとも単なる人員削減につながるのではないかといった心理的な抵抗が生じている」という声も挙げられました。
こうした課題の解消に向けては、構造化されていないデータを含む社内データの整備・加工を進めることで、AI Readyなデータへの標準化・構造化を図り、生成AI活用を継続的に支える基盤を構築していくことが重要であるとの認識が共有されました。
4.セキュリティ・リスク管理
セキュリティをテーマに議論したグループでは、実際に発生した情報漏洩事案や、各社における社内データ管理の現状を共有いただきながら、生成AI活用に伴う根本的なリスク要因について議論を深めました。議論を通じて、課題は大きく①全社ガバナンスの整備②現場の運用ルール整備の2つの観点に整理されました。
①全社ガバナンスの整備
まず、情報漏洩が発生した際の事後対応の仕組みが曖昧である点が課題として挙げられました。生成AIに起因する情報漏洩が発生した場合に、「誰が」「何を」「どの順番で」対応するのかが明確に定義されておらず、インシデント発生時の客観的な判断基準も十分に整備されていない状況が共有されました。また、社内データが乱雑に管理されていることにより、たとえば、データのマスキングや統合作業の過程でヒューマンエラーが発生し、個人情報の漏洩につながった事例が共有されました。
こうした課題の解消に向けては、まず全社でのガバナンス設計が重要であるとの認識が共有されました。具体的には、インシデント発生時の手順書や対応テンプレートを整備し、全社共通で一貫性のあるリスク判定を可能にすることが求められます。合わせて、乱雑に管理されている社内データの整理を進めることで、データ加工や統合作業時の工数削減やヒューマンエラーに起因する潜在的なリスクを低減することが期待されます。
②現場の運用ルール整備
現場での運用面では、BtoBとBtoCの業務において生成AIの利用規約や前提条件が異なることから、統一的な運用が難しく、部門ごとに判断基準のばらつきが生じている点が課題として共有されました。
こうした課題の解消に向けては、生成AIおよびデータ活用に関するルールを明確に定めることも不可欠です。実務レベルでの生成AI利用に関するガイドラインを作成し、禁止事項を明確化することで、現場における判断のばらつきを抑え、リスクの低減につなげていくことが重要であると整理されました。
生成AI活用はどこまで進んだのか
-「ホンネで語る!AI活用BASE」テーブルリーダーが語る実践のリアル-
今回、「ホンネで語る!AI活用BASE」にテーブルリーダーとして参加してくださったベネッセコーポレーションの上田様に、自社での取り組み、議論会に参加して得られた学びをお伺いしました。
上田様は、GENIAC事務局を支える幹事団企業として、定期的に事務局と生成AI活用を促進するためのイベント企画やGENIACコミュニティ活性化に向けた取り組みについて議論いただいています。
Q.ベネッセコーポレーションの事業概要を教えてください。
上田様)ベネッセコーポレーションは、教育を軸とした事業を展開しています。家庭向けの「進研ゼミ」、学校向けの「進研模試」、社会人向けオンライン教育「Udemy」など、0歳から大人までを対象に、BtoC・BtoBの両方で事業を展開しています。
Q.ベネッセコーポレーションでは、生成AIをどのように活用されているのでしょうか?
上田様)ベネッセコーポレーションの生成AI活用で特徴的なのは、多くの企業と同様に、「社内業務でどうAIを活用するか」とうい議論に加えて、お客様が利用されるプロダクトそのものへのAI実装に踏み込んでいる点だと思います。
社内活用としては、
- 社員向け生成AIチャットツールである「ベネッセチャット」を2023年より導入
- 他社のプラットフォームを活用し、インフラを都度構築することなく生成AIをプロダクトへ組み込める体制等を整備
といった取り組みを進めています。
Q. GENIACに幹事団としてどんな思いで参加していますか?
上田様)私は、GENIACの幹事団として、ユーザー企業と提供企業のギャップを埋める役割を意識しています。
ユーザー企業側は「生成AIの活用について、まずは自社の課題が何か分からない」という段階にあることも多いです。一方で、提供企業は高度な技術・専門性を持ち、多くの企業に活用してほしいと考えています。その間をつなぐ設計がなければ、ユースケースは生まれないと思っています。
Q. 「ホンネで語る!AI活用BASE」に参加した感想を教えてください。
上田様)議論会で特に印象的だったのは、製造業企業との共通課題の発見でした。
ベネッセコーポレーションが扱う教材は、多様なレイアウトやデータ設計、著作権など配慮すべき観点も多く、非常に複雑な構造を持つ商材です。一方、製造業では設計図や製図データ等、主に技術面において高度であったり、伝承すべき知見として守るべき情報を扱っています。
「複雑なデータをどう生成AIに読み込ませるか」「知財をどう守るか」「他社の権利を侵害しないか」という点で、業界を超えた共通論点が浮かび上がり、議論が大変盛り上がりました。
また、
- 新商品情報へのアクセス制御
- 部署別・役職別のアクセス管理
- モデル学習への情報流出リスク
といった実務レベルでの課題も共有できました。
今回の議論会で特に良かった点は、「自社が遅れているのではないか」という不安が払拭されたことです。日本を代表する企業であっても同様の悩みを抱えていることが分かり、安心感につながりました。
生成AIの課題は特別なものではなく、セキュリティや情報管理といった従来課題の延長線上にある——その整理ができたことも大きな収穫でした。
Q. GENIACのイベントでの活動を通して社内に活用できている部分はありますか?
上田様)あります。以前の議論会では「チーム構成の在り方」について大きな示唆が得られ、社内向けに資料を作成し展開しました。具体的な内容としては、「ドメイン知識を持つベテラン」、「新技術への感度が高い若手」、「技術を実装できるエンジニア」の3者がうまく連携することが、生成AI活用の鍵だというところに行き着いたのです。特に、AIという先進的なツールは興味を持つ若手にだけ活用を促すのではなく、むしろドメイン知識を持つベテランに活用してもらい、その中で若手がベテランの知見をリスペクトし、知恵を引き出し、それと同時にエンジニアが形にする構図が効果的な一つの方法だとわかりました。
Q. GENIACコミュニティを中から見て、GENIACにはどんな企業が参加すべきだと思いますか?
上田様)特に、AIをまだ本格的に活用できていない企業こそ、GENIACに参加してほしいと思っています。
生成AIの活用は関心が高い一方で、「何から始めればよいか分からない」「生成AI活用において何が課題となっているか判断できない」と感じている企業も多いのではないでしょうか。そうした企業にこそ、GENIACの場は有効だと感じています。
GENIACに参加するメリットとしては、具体的には以下のようなものを感じています。
- 国の政策動向を理解できる
- 信頼性のある枠組みで議論できる
- スピード感を持って実践につなげられる
こうした環境が整っているからこそ、自社単独では得られない視点やネットワークを得ることができます。結果として、生成AI活用に向けた具体的な一歩を踏み出す後押しになるのではないでしょうか。
GENIACトップへ最終更新日:2026年3月26日