第3節 APEC
2020年はマレーシアがAPECの議長を務め、全体テーマ「共有された繁栄の強靭な未来に向けた、人間の潜在能力の最適化:方向修正・優先付け・進歩(Optimising Human Potential Towards a Resilient Future of Shared Prosperity:Pivot. Prioritise. Progress)」の下、(1)貿易・投資の意義の説明(ナラティブ)の改善(Improving the Narrative of Trade and Investment)、(2)デジタル経済と技術を通じた包摂的な経済参画(Inclusive Economic Participation through Digital Economy and Technology)、(3)革新的な持続可能性の推進(Driving Innovative Sustainability)の三つの優先課題を掲げ、各種取組を行った。
同年7月25日のAPEC貿易担当大臣会合(テレビ会議)には、梶山経済産業大臣及び若宮外務副大臣が参加した。本会合では、新型コロナウイルス感染症への対応としてAPECが行う取組や経済回復のための道筋について議論が行われ、声明を採択するとともに、「必要不可欠な物品の流れの円滑化に関する宣言」が発出された(第Ⅲ-1-3-1図)。
第Ⅲ-1-3-1図 APEC貿易担当大臣会合
また、同年11月20日のAPEC首脳会議では、世界経済の道筋、新型コロナウイルス感染症への各エコノミーの対応、ボゴール目標4の次のAPECのビジョン及びコロナショックへの対応について議論が行われ、2040年に向けたAPECの新たなビジョンとして「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」及びAPECが行う取組を付記した首脳宣言が3年ぶりに採択された。「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」の実現に向け、(1)貿易・投資(Trade and Investment)、(2)イノベーションとデジタル化(Innovation and Digitalisation)、(3)力強く、均衡ある、安全で、持続可能かつ包摂的な成長(Strong, Balanced, Secure, Sustainable and Inclusive Growth)の三つの推進力により、全ての人々と未来世代の繁栄のために、2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靭かつ平和なアジア太平洋共同体とすることに取り組むこととなった。
2021年のAPECは、ニュージーランドが議長を務め、全体テーマ「共に参加し、共に取り組み、共に成長する(Join, Work, Grow. Together.)」の下、(1)回復を強化する経済・貿易政策(Economic and Trade Policies that Strengthen Recovery)、(2)回復に向けた包摂性・持続可能性の向上(Increasing Inclusion and Sustainability for Recovery)、(3)イノベーションとデジタルに対応した回復の追求(Pursuing Innovation and a Digitally-Enabled Recovery)の三つの優先課題に取り組んでいる。
日本としては、2010年の「横浜ビジョン」を基礎とした議論の流れを着実に引き継ぐとの方針に基づき、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を始めとするアジア太平洋地域の経済統合の実現、質の高いインフラ開発・投資の促進、持続可能かつ包摂的な経済成長の実現及び女性による経済活動への一層の参画を促進するための取組の実施などを通じ、この地域の力強い成長力を取り込みつつ、我が国経済に豊かさと活力をもたらすことを目指す。また、WTO発足時には貿易投資ルールの対象として想定されていなかったデジタル貿易・電子商取引分野に関する具体的な取組を進め、市場歪曲措置の是正やレベル・プレイング・フィールドの確保にも取り組む。
4 1994年にインドネシアのボゴールで決定され、2020年までに自由で開かれた貿易・投資という目標を達成することを掲げたもの。