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  7. 第Ⅲ部 第1章 第4節 経済連携協定の進展

第Ⅲ部 第1章 ルールベースの国際通商システム

第4節 経済連携協定の進展

1.経済連携協定(EPA/FTA)の意義

経済連携の推進は、締結国間の貿易投資を含む幅広い経済関係を強化する意義を有するところ、より具体的には、輸出企業にとっては、関税削減・撤廃等を通じた輸出競争力の強化の面で意義があり、他方で、外国に投資財産を有する企業やサービスを提供する企業にとっては、海外で事業を展開しやすい環境が整備されるという点で意義がある。輸出の面では、関税削減・撤廃によって我が国からの輸出品の競争力を高められる。例えば、タイ向け自動車部品(20%)、インドネシア向け完成車(60%)、インド向け鉄鋼製品(5%)や電気電子機器(10%)といった産品の関税が撤廃されたほか、日ASEAN包括的経済連携協定、RCEP協定、CPTPPといった広域経済連携協定によって、企業のサプライチェーンの効率化や強靱化が実現している。海外で事業を行う企業に対しては、投資財産の保護、海外事業で得た利益を我が国へ送金することの自由の確保、現地労働者の雇用等を企業へ要求することの制限・禁止、民間企業同士で交わされる技術移転契約の金額及び有効期間への政府の介入の禁止等の約束を政府同士で行うことにより、海外投資の法的安定性を高めている。また、外国でのサービス業の展開に関しては、外資の出資制限や拠点設置要求等の禁止、パブリックコメント等による手続の透明性確保等、日本企業が海外で安心して事業を行なうためのルールを定めている。

この他にも、我が国のEPAでは、締約国のビジネス環境を改善するための枠組みとして、「ビジネス環境の整備に関する委員会」の設置に係る規定を設けていることが多い。「ビジネス環境の整備に関する委員会」では、政府代表者に加え、民間企業代表者も参加して、外国に進出している日本企業が抱えるビジネス上の様々な問題点について、相手国政府関係者と直接議論することができる。これまでの「ビジネス環境の整備に関する委員会」では、貿易・投資の促進、電力・ガスの安定供給、模倣品対策の強化、関税・税務に関する事務手続の簡素化・透明化、外資規制緩和等につき議論し、ビジネス環境整備の一助となっている。

2.経済連携協定(EPA/FTA)を巡る動向

世界を見渡すと、これまでに多くの国がEPA/FTAを締結してきている。WTOへの通報件数を見ると、1948年から1994年の間にGATTに通報されたRTA(FTAや関税同盟等)は124件であったが、1995年のWTO創設以降、多くのRTAが通報されており、2022年3月28日時点でGATT/WTOに通報された発効済RTAは577件に上る5

特に、アジア太平洋地域においては、2010年3月にTPP協定交渉が開始(我が国は2013年7月に交渉に参加)、その後、米国を除く11か国での交渉を経て、2018年3月にはCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が署名、2018年12月に発効し、2021年9月から英国の加入手続が進行中。2013年3月には日中韓FTA、5月にはRCEP協定についてそれぞれ交渉が開始され、RCEP協定は2022年1月に発効した。CPTPPやRCEP等をあり得べき道筋として、APEC参加国・地域との間で、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現が目指されている。

また、2019年2月には日本とEUの間で日EU・EPAが発効するなど、各地域をつなぐ様々な経済連携協定の取組も進行している。

近年の動きとして、英国は、EU離脱によりEPAの締結を活発化させており、ブレクジットに伴い、日英をはじめ30本以上のEPAを発効。2021年12月に英豪FTA、2022年2月に英NZFTAに署名した。インドとも近く交渉入りと見られる。

中国・韓国の両国においても、例えば2022年1月に中国カンボジアFTA発効、2021年5月に韓国中米FTA署名が全ての締約国について発効など、多様な国々とEPA交渉を推進している。

UAEも、独自にEPAを締結する動きを加速し、2021年9月に輸出拡大のため、インドを含む8カ国(インド、インドネシア、トルコ、英国、イスラエル、ケニア、韓国、エチオピア)との包括的経済協定の締結目標を表明。2022年2月には、インドとのCEPAに署名し、本年4月にはイスラエルとのFTAの交渉完了を、発表した。

地域大の取組においても、CPTPPやRCEPの動向に加えて、多様な動きがみられる。2021年のASEANサミット議長声明にてASEAN+1FTAの見直し(豪州・ニュージーランド、中国、インド、韓国とASEAN)について言及され、アフリカではアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が2021年1月から運用開始された。また北米では、NAFTAの後継となるUSMCAが2020年7月1日に発効している。

近年の傾向として、包括的なEPAに加えて、分野別の協定を締結する動きも活発になっている。米伯貿易円滑化協定が2020年10月に署名され、議会承認を要さずに「行政取極」の形式で発効。デジタル分野では、シンガポール、ニュージーランド、チリの3か国によるデジタル経済パートナーシップ協定(Digital Economic Partnership Agreement)が2020年6月に署名され、2021年1月(チリは2021年11月)に発効した。同協定には、2021年10月に韓国が、11月には中国が加入申請の動きを見せている。また、このほかにも星豪DEA(2020年3月署名、12月発効)、星韓DPA(2021年12月交渉妥結)、星英DEA(2022年2月署名)、EU・星・デジタルパートナーシップ協定(2022年2月、交渉開始に合意)など、様々なデジタル経済協定(Digital Economic Agreement, DEA)やデジタルパートナーシップ協定(Digital Partnership Agreement, DPA)を締結する動きが活発化している。環境分野においても協定を形成しようとする動きが見受けられる。グリーン経済協定(Green Economy Agreement, GEA)の締結は、環境物品・サービスの貿易や投資における非関税障壁を取り除き、低排出技術の導入を加速化することを目的としている。2021年10月に星豪GEAの枠組みが発表されている。

5 WTOウェブサイトによる。https://rtais.wto.org/UI/charts.aspx外部リンク
なお、ここでいうRTAの数は、WTOへの通報要綱に基づき、物品とサービス両方を含むRTAを二つのRTAとしてカウントしたものだが、当該RTAを一つのRTAと数えた場合、2022年3月28日時点での発効済RTAは354件となる。

3.我が国の経済連携協定を巡る取組

我が国は、2022年3月現在50か国との間で21の経済連携協定を署名・発効済みである。2021年1月には、英国との間でEU離脱移行期間の終了後切れ目なく日英EPAが発効した。また2022年1月には、中国・韓国とは初のEPAとなるRCEP協定が発効された。(第Ⅲ-1-4-1図、第Ⅲ-1-4-2図)。

第Ⅲ-1-4-1図 日本のEPA交渉の歴史
日本のEPA交渉の歴史のグラフ

第Ⅲ-1-4-2図 日本の経済連携の推進状況(2022年3月現在)
日本の経済連携の推進状況(2022年3月現在)のグラフ

自由貿易の拡大、経済連携協定の推進は、我が国の通商政策の柱であり、世界に「経済連携の網」を張り巡らせることで、アジア太平洋地域の成長や大市場を取り込んでいくことが、我が国の成長にとって不可欠といえる。

2021年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021 日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」(骨太方針2021)において、「多国間主義を重視し、TPP11やRCEP協定等で推進してきた自由で公正な経済圏の拡大、ルールに基づく多角的貿易体制の維持・強化に取り組み、世界経済の発展を我が国の経済成長に取り込むとともに、望ましい経済秩序の形成に主導的役割を果たす。」と記載があるとおり、我が国はインド太平洋地域での協力等を通じ、経済連携を更に推進し、自由で公正な貿易・投資ルールの実現を牽引する。

(1)地域的な包括的経済連携協定(RCEP(アールセップ):Regional Comprehensive Economic Partnership)協定(2022年1月1日発効)

RCEP協定は、世界のGDP、貿易総額及び人口の約3割、我が国の貿易総額の約5割を占める広域経済圏を創設するものであり、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化・強靭化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備するものである。

東アジア地域では、既に高度なサプライチェーンが構築されているが、この地域内における更なる貿易・投資の自由化は、地域経済統合の拡大・深化に重要な役割を果たす。

この地域全体を覆う広域EPAの実現により、企業は最適な生産配分・立地戦略を実現した効率的な生産ネットワークを構築することが可能となり、東アジア地域における産業の国際競争力の強化につながることが期待される。また、ルールの統一化や手続の簡素化によってEPAを活用する企業の負担軽減が図られる。

2012年11月のASEAN関連首脳会議において、「RCEP交渉の基本方針及び目的」が16か国(ASEAN10か国及び日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)の首脳によって承認され、RCEPの交渉立ち上げが宣言された。

基本方針には、「現代的な、包括的な、質の高い、かつ、互恵的な経済連携協定」を達成すること、物品・サービス・投資以外に、知的財産・競争・経済技術協力・紛争解決を交渉分野とすること、が盛り込まれている。第1回RCEP交渉会合は、2013年5月にブルネイで開催され、高級実務者による全体会合に加えて物品貿易、サービス貿易及び投資に関する各作業部会が開催された。

第1回交渉会合が開催されて以降、3回の首脳会議、19回の閣僚会合及び31回の交渉会合の開催を経て、2020年11月15日の第4回RCEP首脳会議の機会に署名に至った。インドは、交渉立ち上げ宣言以来、2019年11月の第3回RCEP首脳会議に至るまで7年間にわたり、交渉に参加してきたが、その後交渉への参加を見送った。我が国を始め、各国はその戦略的重要性から、インドの復帰を働きかけたが、2020年の署名は、インドを除く15か国となった。しかしながら、RCEP協定署名の際、RCEP協定署名国は、RCEP協定がインドに対して開かれていることを明確化する「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を発出し、インドの将来的な加入円滑化や関連会合へのオブザーバー参加容認等を定めた。

署名後、各国の国内手続を経て、2022年1月1日より、日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国についてRCEP協定が発効し、続いて、韓国(同年2月1日)、マレーシア(同年3月18日)についても発効した。

第Ⅲ-1-4-3図 各国のFTA等カバー率比較
各国のFTA等カバー率比較のグラフ

(2)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)(2018年12月30日発効)

我が国は、環太平洋パートナーシップ協定(以下、TPP協定)に関し、2013年3月に参加を表明、同年7月から豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、シンガポール、ペルー、米国、ベトナムの11か国との交渉に参加した。その後の交渉を経て、2015年10月に米国アトランタで大筋合意に至り、2016年2月4日に署名がなされた。日本国内においては、2016年12月9日に、TPP協定が国会で承認されるとともに、関連法案が可決・成立した。その後、2017年1月20日、TPP協定原署名国12か国の中で最も早く国内手続完了の通報を協定の寄託国であるニュージーランドに対して行った。

一方、米国は、2017年1月30日に、TPP協定の締約国になる意図がないことを通知する書簡を協定の寄託国であるニュージーランド及びTPP協定署名各国に対して発出した。

2017年1月に米国がTPPからの離脱を参加各国に通告した後、米国以外の11か国の間で協定の早期発効を目指して協議が行われた。その結果、同年3月や5月の閣僚会合等を経て、同年11月9日ダナンでのの閣僚会合で大筋合意に至り、2018年3月8日に環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下、CPTPP)が、チリにて署名。その後、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアが国内手続を完了させ、2018年12月30日これら6か国間で発効。その後、2019年1月14日にはベトナムを加えた7か国間で、2021年9月19日にはペルーを加えた8か国間で効力を生じた。

CPTPPの発効によって、モノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、環境など、幅広い分野で21世紀型のルールを、アジア太平洋に構築し、自由で公正な巨大市場を作り出すことが期待される。

2019年1月19日には東京で第1回TPP委員会が閣僚級で開催され、新規加入に関する手続等が決定された。2019年10月7-9日には、ニュージーランド・オークランドにて、第2回TPP委員会が開催され、委員会では、①TPP委員会の手続規則、②紛争処理のパネル議長登録簿に関する決定文書が採択された。併せて、物品貿易・衛生植物検疫(SPS)・中小企業・競争力及びビジネス円滑化等の12の小委員会等が開催された。

2020年8月6 日には、テレビ会議形式で、第3回TPP委員会が開催。委員会では、コロナ危機からの経済回復が議論の焦点となる中で、CPTPPを通じた自由貿易の推進が重要であることについて確認するとともに、特にサプライチェーンの強靭化やデジタル化に向けたCPTPPの活用に関する意見交換を行った。また、物品貿易、SPS、貿易の技術的障害(TBT)など15 の小委員会等が開催され、各国専門家の間で議論がなされた。

2021年2月1日、英国が寄託国であるニュージーランドに対して加入要請を通報した。我が国は、2021年のTPP委員会の議長国として、ハイスタンダードかつバランスのとれたCPTPPの進化及び拡大に向けて議論をリードしていく旨表明している。

2021年6月2日、テレビ会議形式で第4回TPP委員会を開催し、英国の加入手続の開始及び英国の加入に関する作業部会(議長:日本、副議長:豪州及びシンガポール)の設置を決定した。

2021年7月20日、ペルーが寄託国であるニュージーランドに対し、国内手続を完了した旨を通報し、9月19日に8番目の締約国となった。

2021年9月1日、テレビ会議形式で第5回TPP委員会を開催し、電子商取引商委員会の設置が決定された。2021年9月16日に中国が、9月22日に台湾が、12月17日にエクアドルが、寄託国であるニュージーランドに対して加入要請を通報した。我が国としては、加入関心を持つエコノミーが本協定の全ての義務を遵守できるのかどうか、しっかり見極め、戦略的観点も踏まえて他のCPTPP参加国とも議論して対応する旨表明している。

2021年9月2829日以降、第1回英国加入作業部会が開催され、英国からCPTPPの義務の遵守について説明を聴取した。2022年2月18日に同加入作業部会を終了し、市場アクセス交渉を開始すべく、同加入作業部会の議長国である日本から、英国に市場アクセスオファーの提出を指示した。

(3)日 EU経済連携協定(日EU・EPA)(2019年2月1日発効)

アジア太平洋地域以外の主要国・地域との取組として、EUとのEPA交渉が挙げられる。我が国とEUは、世界人口の約1割、貿易額の約4割、GDPの約3割(発効時)を占める重要な経済的パートナーであり、日EU・EPAは、日EU間の貿易投資を拡大し、我が国の経済成長をもたらすとともに、世界の貿易・投資のルール作りの先導役を果たすものといえる。EUは、近隣諸国や旧植民地国を中心としてFTAを締結してきたが、2000年代に入り、韓国等の潜在的市場規模や貿易障壁のある国とのFTAを重視するようになった。さらに、2016年10月には先進国であるカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA:the Comprehensive Economic and Trade Agreement)に署名した。また、南米南部共同市場(メルコスール)との貿易協定(EU-Mercosur Trade Agreement)は、2019年6月28日、政治合意に至っている。

日EU・EPAについては、2013年3月に行われた日EU首脳電話会談において、日EU・EPA及び戦略的パートナーシップ協定(SPA)の交渉開始に合意し、2017年4月までに計18回の交渉会合が開催された後、同年7月に大枠合意、同年12月には、安倍内閣総理大臣とユンカー欧州委員会委員長が電話会談を実施し、交渉妥結に達したことを確認した。その後、2018年7月17日に署名、同年12月21日に日EU双方は本協定発効のための国内手続を完了した旨を相互に通告し、2019年2月1日に発効した。

2021年2月にはテレビ会議形式で日EU・EPA合同委員会第2回会合が開催され、日EU・EPAのこれまでの運用状況の確認や、日EU 間の貿易を一層促進するための今後の取組等に関する議論を行った。加えて、データの自由な流通に関する規定を日EU・EPAに含める必要性を再評価すべく、予備的協議を行うことで一致した。また、2021年3月までに物品貿易や政府調達、サービス貿易、投資の自由化及び電子商取引等12分野の第2回専門委員会・作業部会を実施した。2021年7月にストックテイク会合を行い、双方の問題意識を明確にした上で、同年10月以降に各専門委員会・作業部会の議論を開催し、各分野について具体的な議論を行った。各専門委員会・作業部会での議論を踏まえて2022年3月に第3回日EU・EPA合同委員会を開催し、データの自由な流通に関する協議を継続することで一致した。

(4)日英包括的経済連携協定(日英EPA)(2021年1月1日発効)

英国のEU離脱に伴う移行期間が2020年12月31日に終了し、2021年1月から日EU・EPAが英国に適用されなくなることを踏まえ、我が国は日本企業のビジネス継続性を確保することを目的として2020年6月9日に日英EPA交渉を開始し、英国との日EU・EPAに代わる新たな経済連携の枠組みの構築を目指した。コロナウイルスによる影響により交渉の殆どがオンライン会議にて実施され、同年9月に大筋合意、同年10月23日には、茂木外務大臣(当時)とトラス国際貿易大臣(当時)により署名が行われた。その後両国国会での国内手続を終え、翌2021年1月1日に発効した。

英国にとって日英EPAは、英国のEU離脱後、主要先進国との間で締結されたEPAとなった。日英EPAでは日EU・EPAの高い水準の関税撤廃率を維持しつつ、鉄道車両・自動車部品等の一部品目において英国市場へのアクセスを改善したほか、ルール面においても電子商取引・金融サービス等の一部の分野で日EU・EPAよりも先進的かつハイレベルなルールを規定した。2021年10月以降、英国のEU離脱後の日英EPAの運用状況の確認や、日英間の貿易を一層促進するための今後の取組などに関して、日英の各専門委員会・作業部会にて意見交換・議論を行った。これらの結果を踏まえ、2022年2月に日英EPA合同委員会第1回会合を開催し、日英間で、デジタル貿易や気候変動等の分野で日英間の連携を更に強化していくことを確認した。

(5)日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定

ASEAN全加盟国とのEPAである日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定は、2004年11月の首脳間での合意に基づき2005年4月より交渉を開始し、2008年4月14日に各国持ち回りでの署名を完了し、2008年12月から締約国との間で順次発効している。2010年10月より交渉が行われていたAJCEP協定のサービス貿易・投資等に係る改正議定書については3年にわたる交渉を経てルール部分について実質合意に至り、2013年12月の日・ASEAN特別首脳会議において同成果は各国首脳に歓迎された。その後、残された技術的論点の調整等を実施した結果、2017年11月の日ASEAN非公式経済大臣会合において、AJCEP協定のサービス貿易・投資等に係る改正議定書についても、閣僚レベルの交渉終結に合意。2019年2~4月に持ち回りでの署名を実施。2020年8月1日に、既に国内手続が完了していた日本、ラオス、ミャンマー、シンガポール、タイ及びベトナムとの間で発効。次いで国内手続を完了したブルネイとの間で10月1日に、2021年に入りカンボジア、フィリピン、マレーシアとの間でも発効。2022年2月1日にインドネシアとの間で発効し、全締約国で改正議定書が発効。

(6)交渉中FTA(日中韓FTA・日コロンビアEPA・日トルコEPA)

(a)日中韓FTA

日中韓3か国は、世界における主要な経済プレイヤーであり、3か国のGDP及び貿易額は、世界全体の約2割を占める。日中韓FTAは、3か国間の貿易・投資を促進するのみならず、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現にも寄与する可能性のある重要な地域的取組の一つである。

2013年3月に交渉を開始して以降、2019年11月までに計16回の交渉会合を実施し、物品貿易、原産地規則、税関手続、貿易救済、物品ルール、サービス貿易、投資、競争、知的財産、衛生植物検疫(SPS)、貿易の技術的障害(TBT)、法的事項、電子商取引、環境、協力、政府調達、金融サービス、電気通信サービス、自然人の移動等の広範な分野について議論を行っている。

また、2019年12月の第12回日中韓経済貿易大臣会合では、地域の経済統合や持続可能な発展に貢献するために、3カ国の産業相互補完性を十分に活用し、貿易・投資の協力レベルを高めるべきであるという考えが共有され、日中韓FTA交渉を加速するよう事務方に指示があった。その後、同年同月の第8回日中韓サミットでは、その成果文書「次の10年に向けた3か国協力に関するビジョン」において、RCEP交渉に基づき、独自の価値を有する、包括的な、質の高い互恵的な協定の実現にむけて、日中韓FTA協定の交渉を加速していくことが確認された。

(b)日コロンビアEPA

コロンビアは、太平洋と大西洋に面する北米と南米の結節点に位置し、豊富なエネルギー・鉱物資源を有する。また、中南米第3位である約5,100万人の人口を有するほか、平均経済成長率は3.7%と安定(2010-2019年)。新型コロナ感染症の影響で2020年の実質GDP成長率はマイナス6.8%となったが、2021年は7.6%(予測値6)と回復する見込み。中南米地域で自由開放経済を主導する太平洋同盟のメンバーであり、米国・カナダ・EU及び韓国とのFTAも発効済である。日コロンビアEPAを通じた貿易・投資環境の改善により輸出入及び日本企業によるコロンビアへの投資の拡大が期待されている。

2012年9月に行われた日コロンビア首脳会談にて、両国はEPA交渉を開催することで一致。同年12月に第1回交渉会合が開催され、2015年8月から9月にかけて第13回交渉会合が開催された。以降,両国間で様々なやりとりが継続している。

(c)日トルコEPA

トルコは、人口8,400万人を超え(2021年末時点)、国民の平均年齢が30歳台前半と若い魅力的な国内市場を持つ。加えて、欧州及び周辺国市場への生産拠点として注目されている。日トルコEPAによって、欧州企業や韓国企業といった競合相手との競争条件の平等化が図られ、トルコへの日本企業の輸出が後押しされるとともに、トルコの投資環境関連制度の改善により、トルコへの日本企業の投資促進も図られることが期待される。

トルコと我が国は2012年7月に第1回日トルコ貿易・投資閣僚会合を開催し、日トルコEPAの共同研究を立ち上げることにつき合意した。これを受けて、同年11月に第1回、2013年2月に第2回の共同研究が開催され、同年7月に日本・トルコの両政府にEPA交渉開始を提言する共同研究報告書が発表された。

共同研究報告書を受けて、2014年1月に行われた日トルコ首脳会談にて、両国はEPA交渉を開始することで一致し、同年12月に第1回交渉会合が開催され、2019年10月までに計17回の交渉会合を開催した。特に、2019年は1月・6月には閣僚級で議論するとともに、同年中に5回の交渉会合を実施するなど交渉が加速。また、2019年7月に行われた日トルコ首脳会談において、両首脳はEPAの早期妥結に向け更に交渉を加速することを確認した。以降、両国間で様々なやりとりが継続している。

6 IMF "World Economic Outlook Database"
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2021/October外部リンク

(7)EPAの利用や見直し

グローバルに展開するビジネスの要請に応えるには、上述の新たな協定締結に向けた取組に加えて、EPA/FTAの利用の促進、既存EPAの見直し等も重要である。

CPTPP、日EU・EPA日米貿易協定及び日英EPAに加え、RCEP協定が発効に至り、以前にも増して、EPA等の利活用が重要な段階にある。そこで、経済連携協定等を最大限に活用するとともに、新型コロナウイルス感染症の下で生じた社会経済活動の変化や明らかになった課題へ対応するため、2020年12月に「総合的なTPP等関連政策大綱」が改訂され、中堅・中小企業等の新市場開拓のための総合的支援体制を強化し、原産地証明書等のデジタル化を含む貿易に係るビジネス環境の整備に取り組む旨が明記された。こうした背景も踏まえつつ、経済産業省としては、JETROや関係省庁と協力しつつ、EPAの利活用促進を目的として、①原産地証明書の電子化等を通じた貿易関連の国際手続のデジタル化、②EPA関連の国内手続のデジタル化、③きめ細やかな中小企業支援等に取り組んでいる。

① 貿易関連の国際手続きのデジタル化

まず、海外と連携して取り組んでいる課題として、原産地証明書(以下、CO)の電子化が挙げられる。これまでCOは紙でやりとりされることが多く、事務コストが高いこと、COの紛失・遅延等のリスクがあることから、EPA等を利用する事業者からは、貿易円滑化の観点から電子化のニーズが高まっている。このため、前述の「総合的なTPP等関連政策大綱」においても、COのデジタル化について政府一丸となって取り組むこととされている。日本国税関では、既にCOのPDFファイル等による提出を認めているが、日本で発給するCOについても、2022年1月より、日タイEPA及びRCEP協定を対象に、原則としてPDFファイルでの発給を開始した。なお、日豪EPAでは、2016年11月から、紙を原本としつつPDFファイルもCOの写しとして発給している。また、当局間で直接やりとりを行うCOのデータ交換は、取引コストをさらに引下げることが期待されており、こうした仕組の構築に向けて、タイ、インドネシア、ASEANとの間で協議が進められている。

② EPA関連の国内手続きのデジタル化

国内における取組として、2021年8月、JETROが原産地証明書の申請書類作成を支援するソフト(通称、「原産地証明書ナビ」)を公表し、同ツールの無償提供を開始した。これにより、輸出に当たってEPAを利用/検討している企業(特に中小企業)が、CPTPPを含むEPAの原産地証明書を簡易かつ効率的に作成できるようになった。また、令和3年度補正において、中堅・中小企業が簡易かつ低コストでEPAを利用するためのデジタルプラットフォームを整備するための実証を実施している。当該実証を通じて、①輸出品及び原材料に対応するHSコードの検索、②各EPAの関税率・PSRの比較による最適なEPAの選択、③原産性の証明に必要な書類の準備、④原産性の証明に必要なサプライヤーからの情報提供等のプロセスをワンストップでサポートするプラットフォームを開発する。

③ きめ細やかな中小企業支援等

中堅・中小企業等の新市場開拓のための総合的支援体制の強化に取り組んでいる。具体的には、TPP等を活用した中堅・中小企業等の市場開拓のための新輸出コンソーシアムの活用、RCEP協定・CPTPP・日英EPA・日EU・EPA・日米貿易協定等のEPAを利用するに関するセミナーの実施、相談窓口の充実、解説書等の作成・配布等の取組を通じて、EPA/FTAの利活用支援・海外展開支援を行っている。

また、中小企業を含めた我が国企業によるEPA利活用をきめ細かく支援するために、経済産業省と業界団体と連携した取組も進めている。例えば自動車業界においては、業界団体が主導して原産地証明関連のシステムを開発し、関連する手続の円滑化や、輸出者とサプライヤーとの連携に取り組む事例が見られる。経済産業省の「自動車産業適正取引ガイドライン」においても、こうした業界団体の取組を、EPA/FTAの利用の促進のためのベストプラクティスとして推奨している。

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