第6節 新たな多国間連携(IPEF、日米豪印、デジタル等)
1.インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework:IPEF)
米国のバイデン大統領は13、2021年10月の東アジアサミットにおいて「インド太平洋経済枠組み」構想(Indo-Pacific Economic Framework,以下「IPEF」)を発表。米国とこの地域の国々に共通する課題である①貿易円滑化、②デジタル経済と技術の標準、③サプライチェーンの強靭性、④脱炭素化とクリーン・エネルギー、⑤インフラストラクチャー、⑥労働基準、⑦その他の共通課題について、具体化をパートナー諸国と進めていくと表明した。
2021年11月には、米国のジーナ・レモンド商務長官とキャサリン・タイ通商代表部(USTR)代表が相次いで訪日し、日本メディアのインタビュー14で、同盟国などと経済的枠組みを創設したいとの意向を示した。この提案に対して、日本政府は15、米国のインド太平洋地域への積極的なコミットメントを示すものであり、米国のこうした姿勢を歓迎するとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現という観点から、この地域のあり得べき国際秩序の構築に向けて、日米で緊密に連携をして取り組んでいきたい旨を表明した。
本年1月に実施された日米首脳テレビ会談16において、両首脳は、経済面での日米協力をインド太平洋地域に拡大していくことを確認し、岸田総理大臣は、IPEFを含む米国の地域へのコミットメントを歓迎した。
本年3月、米国通商代表部(USTR)と商務省が、相次いで担当分野についてパブリックコメントを開始した。これによると、USTR17 が①公平で強靭な貿易を、商務省18が、②強靭なサプライチェーン、③インフラ、脱炭素化、クリーン・エネルギー、④税・反汚職の3分野を主導する模様。
14 2021年11月15日、日経新聞「米商務長官「TPPに代わる経済連携を」」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM159S70V11C21A1000000/
2021 年11 月18 日、NHK「米通商代表「来年にも同盟国などと新たな経済的枠組みを」」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211118/k10013353271000.html
15 2021年11月19日、松野官房長官定例記者会見 https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202111/19_a.html
16 2022年1月22日、外務省報道発表 https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/page1_001086.html
17 USTRパブリック・コメント https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/5aa278361fa86c00.html
18 商務省パブリックコメント https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/1c7d5bc123a23e9d.html
2.日米豪印会合
2021年3月、日本、米国、オーストラリア、インドの4か国は、初めての4か国首脳会合をオンラインで開催。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の共通ビジョンのもとでの4か国が結束し、実践的な協力を通じてインド太平洋地域へのコミットメントを確保することを確認した。日米豪印のもとで、「日米豪印ワクチンパートナーシップ」、「日米豪印気候作業部会」、「日米豪印重要・新興技術作業部会」が立ち上げられた。
2021年9月、日本、米国、オーストラリア、インドの4か国は、第2回首脳会合を米国で対面で開催。2021年3月の第1回首脳会合で立ち上げられた気候変動、重要・新興技術、ワクチン協力に関する作業部会について、例えば重要・新興技術に関しては、「技術の設計、開発、ガバナンス及び利用に関する日米豪印原則」声明を発表する等、前回からの成果を確認した。また、宇宙やサイバーセキュリティ等の分野で新たな作業部会を立ち上げること等を発表。
また、今後毎年、日米豪印首脳会合を開催することで一致した。次回会合は日本が主催予定。
3.デジタル通商ルール
近年、越境データ流通量は増加傾向にある。急速に発展するデジタル経済の機会を活かすためには、データの利活用が不可欠であり、これが社会課題の解決や企業価値向上に貢献すると期待されている。
2019年1月のダボス会議において、安倍総理(当時)がDFFT(Data Free Flow with Trust)を提唱し、同年6月のG20大阪サミットで、プライバシーやセキュリティ等の課題に対処することでデータの自由な流通を更に促進し、消費者およびビジネスの信頼を強化することができるとするDFFTの考え方が示された。
2021年6月の「包括的データ戦略」の国際連携政策として、デジタル庁を含む関係省庁が連携し、特に通商ルール分野では、以下に取り組んでいる。
(1)WTO電子商取引交渉
WTO電子商取引共同イニシアティブに参加する80以上の国・地域とともに、データ関連規律について、高い水準かつ商業的に意義ある成果を目指して交渉が行われており、日本は、豪州、シンガポールとともに共同議長国を務めている。2021年1月には共同議長国による閣僚声明を発出し、交渉の実質的な進捗を確認するとともに、今後の交渉の目標を示した。
【詳細は、第Ⅲ部第1章第2節5.(1)を参照。】
(2)経済連携協定における電子商取引章
CPTPP(2018年12月発効)の電子商取引章において、データ流通を促進する国際約束の先駆けとして、情報の電子的手段による国境を越える移転(いわゆる、データの自由流通の原則)が規定された。
以降、日米デジタル貿易協定(2020年1月発効)、日英EPA(2021年1月発効)においても同様の規定が盛り込まれた。
【個別の経済連携協定の状況については、第Ⅲ部第1章第4節を参照。】
(3)G7
G7貿易大臣会合(2021年3月、5月、10月)では、デジタル貿易原則に合意し、デジタル保護主義・権威主義への対抗や、DFFTの重要性、越境データ流通に対する不当な障壁への対処等について確認した。
G7デジタル技術大臣会合(2021年4月)では、DFFTを実現するため、ⅰ)データローカライゼーションの影響評価、ⅱ)越境データ移転に関する各国政策の比較分析、ⅲ)信頼性のあるガバメントアクセスのための指針策定、ⅳ)データの相互共有の促進について具体的な成果を目指し、ロードマップを策定した。また、同年11月、産官等のマルチステークホルダー参加の下、国際課題に対処するデジタル技術や、データ・技術のガバナンスの在り方等について議論する「未来技術フォーラム」を開催した。
【G7貿易大臣会合については、第Ⅲ部第1章第1節を参照。】
(4)OECD(経済協力開発機構)
デジタル経済に関する国際的な共通理解の醸成に向け、デジタル貿易に係る既存ルールや原則等を整理するOECDインベントリプロジェクトを日本からの拠出で実施。越境データ流通を促進する各国措置について一定の共通項を明らかにするとともに、異なる措置の相互運用性を達成するには補完的なアプローチが有効であることを示し、G7デジタル・技術大臣会合(2021年4月)及びG20デジタル貿易大臣会合(2021年8月)やWTO電子商取引交渉会合においても言及・紹介された。
また、民間部門が保有する個人データに対する信頼性のある政府によるアクセスに係る原則の策定についても、現在OECDで議論されている。