付注1 世界経済及び貿易構造の中長期的な展望

1.中長期的な経済成長の推計

(1)概要

Phillips et al(2007)318の提唱したlog-tテストにより、一人当たりGDP(PPPベース)の収束パターン(クラブ)ごとにクラスタリングを行い、クラブごとの条件付き収束を仮定したうえで、一人当たりGDP成長率の推計を行った。また、一人当たりGDP成長率の推計結果と国連の人口推計に基づき、GDPの時系列変化の試算を行った。

318 Phillips, Peter, and Donggyu Sul (2007) "Modeling and Econometric Convergence Tests", Econometrica, Vol 75(6).

(2)分析・推計手法

1995年から2022年の期間の、172カ国の一人当たりGDPについてlog-tテストを実施し、クラブへのクラスタリングを実施したうえで、被説明変数にt期の一人当たりGDP成長率、説明変数にt-1期の一人当たりGDP水準(対数値)、t-1期の一人当たりGDP成長率、各クラブのダミー変数、t-1期の一人当たりGDPの水準及び成長率と各クラブのダミー変数の交差項、各年のダミー変数を用いて推計を実施した(推計式の作成にあたってはAcemoglu(2009)319等を参照している。)。

そして、推計された係数に基づき、将来の一人当たりGDP成長率及びその水準の試算を行った。また、GDPを一人当たりGDPと人口の積であると仮定し、推計された一人当たりGDP成長率と人口の成長率を用いて、GDPの試算を行った。なお、t期の成長率をt-1期の一人当たりGDPの水準と成長率によって推計するモデルであるため、時系列変化を試算することが可能となっている。

319 Acemoglu, Daron(2009)”Introduction to Modern Economic Growth”,Princeton University Press

(3)推計モデル・データ・推計結果

<推計モデル>

付注1 1.(3) 推計モデル 式

<変数の詳細及び使用データ>

付注1 1.(3) 変数の詳細及び使用データの表

<推計結果>

付注1 1.(3) 推計結果の表

2.世界経済の成長による貿易構造の変化

(1)概要

基本分析の結果から試算されたGDPに基づき、貿易の重力方程式の仮定を用いて二国間の貿易量(t期のi国からj国への輸出量)の推計を行った。

(2)分析・推計手法

2010年から2019年の期間の23,297の貿易ペアについて、被説明変数にt年のi国からj国への輸出額、説明変数にi国(輸出元国)のGDP及びj国(輸出先国)のGDP(いずれも購買力平価ベース・対数値)を用い、各輸出元国、各輸出先国、各貿易ペア、各年の固定効果を考慮し、クラスターロバストな標準誤差を仮定した上で、ポワソン疑似最尤推定法により、推計を行った。

そして、推計により得られた係数に2075年のGDPを代入し、2075年の各貿易ペアの貿易量の試算を行った。なお、試算に当たり、2075年の年固定効果はゼロと仮定している。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注1 2.(3) 推計モデル 式

<変数の詳細及び使用データ>

付注1 2.(3) 変数の詳細及び使用データの表

<推計結果>

付注1 2.(3) 推計結果の表

3.世界経済の成長による我が国の海外進出企業数の変化

(1)概要

2.と同様の手法を用いて、我が国の海外進出企業数の推計を行った。

(2)分析・推計手法

2012~2019年の105カ国、16業種(製造業及び卸・小売業)について、被説明変数にt期のi国j業種の日本企業の操業中の海外現地法人数(日本から各国への投資量(FDI)の代理変数)、説明変数にi国(投資先国)のGDP(購買力平価ベース・対数値)を用い、各投資先国、各業種、各投資国・各業種、各業種・各年の固定効果を考慮し、クラスターロバストな標準誤差を仮定したうえで、ポワソン疑似最尤推定法により、推計を行った。

推計により得られた係数に2075年のGDPを代入し、2075年の日本の各国各業種の海外現地法人数の試算を行った。なお、試算にあたり、2075年の年固定効果はゼロと仮定している。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注1 3.(3) 推計モデル 式

<変数の詳細及び使用データ>

付注1 3.(3) 変数の詳細及び使用データの表

<推計結果>

付注1 3.(3) 推計結果の表

4.経済成長に影響を与える外生的要因の分析①

(1)概要

ガバナンス、イノベーション、対外開放の向上が経済成長に与える影響について、条件付き収束の影響による経済成長を考慮したうえで、検証を行った。

(2)分析・推計手法

2010年から~2019年の170カ国について、被説明変数をt期の一人当たりGDP成長率、説明変数をt-1期の一人当たりGDPの水準(対数値)、t期のガバナンス指標、貿易開放度、TFP成長率、各年のダミー変数を用い、固定効果モデルにより検証を行った。(推計モデルの作成にあたってはAcemoglu(2009)を参照している。)

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注1 4.(3) 推計モデル 式

<変数の詳細及び使用データ>

付注1 4.(3) 変数の詳細及び使用データの表

<推計結果>

付注1 4.(3) 推計結果の表

320 Squalli, Jay, and Wilson, Kenneth(2011) “A New Measure of Trade Openness”, The World Economy, vol.34

5.経済成長に影響を与える外生的要因の分析②

(1)概要

ガバナンス、イノベーション、対外開放の向上と、一人当たりGDP成長率の実際の観測値と条件付き収束モデルによる推計値の差との関係について検証を行った。

(2)分析・推計手法

まず、1980年から1999年の142か国の一人当たりGDPを用いて、1.と同様の手法により推計を実施したうえで、推計結果に基づき2000年から2019年の一人当たりGDPの予測値を算出した。

そして、2000年から2019年の142か国の一人当たりGDP成長率の観測値と上記により算出された予測値の差を被説明変数とし、説明変数にガバナンス指標、貿易開放度、TFP成長率、各年のダミー変数を用い、固定効果モデルを用いて検証を行った。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル①:2000年から2019年の一人当たりGDP成長率推計>

付注1 5.(3) 推計モデル① 式

<推計モデル②:一人当たりGDPの観測値と予測値の差と、外生的成長要因の関係の推計>

付注1 5.(3) 推計モデル② 式

<変数の詳細及び使用データ>

付注1 5.(3) 変数の詳細及び使用データの表

<推計結果①>

付注1 4.(3) 推計結果①の表

<推計結果②>

付注1 4.(3) 推計結果②の表

付注2 企業の収益と投資、成長

1.構造方程式モデリング

(1)概要

構造方程式モデリングを用いて、日本企業のある2時点間の貸借対照表上の資金の流れについて検証を行った。

(2)分析・推計手法

貸借対照表における資産の部の各項目(流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資等資産)を内生変数とし、負債・純資産の部の各項目(流動負債、固定負債、利益剰余金、その他の純資産(負債・純資産の合計値から、流動負債、固定負債、利益剰余金を引いた値))を外生変数とした。そして、2013年から2019年の期間の各項目の変化額について、2013年の資産の合計額で除することにより基準化を行ったうえで、全ての外生変数から全ての内生変数へのパスを仮定して構造方程式モデリングを行った。推計にあたっては、2019年において資本金が10億円以上かつ外資比率が3分の1以下の製造業の企業を対象とし、グローバル企業(2013年及び2019年の両時点において海外に子会社・関連会社を持つ企業)と国内企業(同時点において、海外に子会社・関連会社を持たない企業)にサンプルを分類し、それぞれについて分析を行った。なお、資産の部の変化額と負債・純資産の部の変化額の合計は一致するため、推計結果から、負債・純資産の各項目のうち、流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資等資産以外の資産へ流れた割合を推定することが可能となる。また、2時点間の差分を取ることにより、各企業の固定効果(時間不変の企業固有の影響)は制御されていると考えることができる。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注2 1.(3) 推計モデル 式

<使用データ>

全ての変数は「経済産業省企業活動基本調査」から取得した。なお、基準化後の利益剰余金の変化額または、基準化後の有形固定資産の変化額が、上位及び下位1%に該当するサンプルは外れ値として推計から除外することとした。

<推計結果>

付注2 1.(3) 推計結果の表

2.無形資産投資と労働生産性

(1)概要

製造業の企業において、無形資産投資が労働生産性に与える影響について検証を行った。

(2)分析・推計手法

2013年から2019年の期間の製造業に該当する企業について、被説明変数に労働生産性、説明変数に有形固定資産、能力開発費、研究開発投資、ソフトウェア投資、広告宣伝費(いずれも従業員一人当たり)、パートタイム従業員比率を用いて、各企業及び各年・各産業の固定効果を制御し、クラスター・ロバストな標準誤差を仮定して推計を実施した(モデルの作成にあたってはMorikawa(2019)321を参照した。)。なお、能力開発費、研究開発投資、広告宣伝費については、Morikawa(2019)と同様の耐用年数及び資本減耗率を仮定し、恒久棚卸法を用いてストックの変数を算出している。また、推計にあたっては、グローバル企業(2013年から2019年の期間において1年以上、海外に子会社・関連会社を有していた企業)及び国内企業(同期間において海外に子会社・関連会社を有していなかった企業)にサンプルを分類し、それぞれについて分析を行った。なお、Morikawa(2019)によると、ストックの変数を用いることで、一定程度、労働生産性との間の逆方向の因果関係の制御が可能であるという。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注2 2.(3) 推計モデル 式

<使用データ>

全ての変数は「経済産業省企業活動基本調査」から取得した。なお、恒久棚卸法を用いる能力開発費、研究開発費、広告宣伝費について、過去5年間、連続してデータの存在しない年は欠損値とし、また、有形固定資産、従業者数合計、付加価値額のいずれかが上位及び下位1%のデータ及び海外の子会社・関連会社数が欠損値の企業はサンプルから除外することとした。

<変数の詳細>

付注2 2.(3) 変数の詳細の表

<推計結果>

付注2 2.(3) 推計結果の表

321 MORIKAWA, Masayuki (2019)” Employer-Provided Training and Productivity: Evidence from a Panel of Japanese Firms”, RIETI Discussion Paper Series 19-E-005

3.研究開発投資・関係会社への直接投資と売上高

(1)概要

研究開発投資や国内外の関係会社への直接投資と、企業の海外現地法人を含む世界全体の売上高の関係性について検証を行った。

(2)分析・推計手法

2013年から2019年の期間の製造業に該当する企業について、被説明変数には国内及び製造業の海外現地法人の売上高の合計を、説明変数には、研究開発投資及び研究開発投資とグローバル企業であれば1となるダミー変数の交差項、または、1期前の国内外の関係会社への投融資残高及び1期前の国内外の関係会社への投融資残高とグローバル企業であれば1となるダミー変数の交差項を用いた。そして、制御変数として国内本社の労働生産性、海外現地法人の労働生産性、各企業及び各年・各産業の固定効果を用い、クラスター・ロバストな標準誤差を仮定して推計を実施した。

なお、世界全体の売上高、研究開発投資、関係会社への投融資残高については、国内及び製造業の海外現地法人の従業者数の合計で除することにより従業員一人当たりの金額とした。加えて、投資については、売上高との間に逆方向の因果関係も考えられることから、1期前の値を用いることとした。

(3)推計モデル・使用データ・推計結果

<推計モデル>

付注2 3.(3) 推計モデル 式

<使用データ>

国内の本社の変数は「経済産業省企業活動基本調査」から、海外現地法人の変数は経済産業省「海外事業活動基本調査」から取得した。なお、関係会社への投融資残高がゼロの企業については投融資残高を0.001(千円)とし、海外の関係会社への投資を行っていない企業については、海外現地法人の売上高及び海外現地法人の付加価値額を0.001(千円)、海外現地法人の従業員数を1(人)とした。

また、恒久棚卸法を用いる研究開発費については、過去5年間、連続してデータの存在しない年は欠損値とし、海外の関係会社への投融資残高が欠損値かつ、海外の子会社・関連会社数がゼロ以上のサンプル及び、海外の関係会社への投融資残高が0以上かつ、海外の子会社・関連会社数がゼロのサンプルは推計の対象から除外することとした。

<変数の詳細>

付注2 3.(3) 変数の詳細の表

<推計結果>

付注2 3.(3) 推計結果の表

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